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踊れ人形事件
第133話 通信機越しトップ会談
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オーシレイと、エルド教の地域トップらしき人との交渉が始まってしまった。
シャーロットはこれをニコニコしながら眺めつつ、新たに紅茶を淹れている。
「全然シャーロットの出番にならないけど、いいわけ?」
「構いませんのよ。現に事件はこうして、解決に向かっているではありませんの」
「言われてみればそうだけど」
エルド教の人は紅茶どころではないらしく、通信機越しにトップ会談をするオーシレイを不安げに見つめている。
クビド氏など生きた心地がしないだろう。
だが、連絡しあうトップ同士は気楽なものだ。
「ふむ、やはりエルド教にはそこまで厳密な教義で、信者の住まいや技術の持ち出しについての制約がないと。利益優先? ほほう……。ならばこちらは、法の上ではエルド教を外に追い出してしまえるわけだが。ふむ、ふむふむ」
政治的な話をしている。
最近ではすっかり賢者なオーシレイだが、出会ったばかりの頃はちょっと政治的な話をしてたなあと思い出す。
「埒が明かんな。お前をこちらに招く。旅費と滞在費は出そう。なんならば、俺の許可で王都の見学も許す。来い」
それだけ言って、オーシレイは通信を切ってしまった。
「この地区のトップを呼びつけるんですか」
私が聞くと、オーシレイは頷いた。
「そういうことだ。エルド教は利益で動く。その実態は、ゼニシュタイン商会を超越した超国家規模の商業集団だ。我が国の信仰を明け渡すわけにはいかんが、奴らは情報も売り物にしている。この機会にツテを作っておいても悪くはないだろう」
「政治家の顔をしてる」
「王族とは政治家なのだ。恋愛にうつつを抜かしていた誰かと一緒にするな」
「はいはい。じゃあ、この件はお任せしていいわけですか? バスカーのお友達は守られる?」
「もちろん。バスカーは俺にとっても友だからな」
オーシレイの声が聞こえたようで、階下からバスカーが鼻息も荒く上がってきた。
そして、わしっとオーシレイに抱きつく。
「うわー!」
ガルムに押し倒されてペロペロ舐められる王子!
なかなか見られない絵面だなあ。
結局この事件は、シャーロットがほとんど推理もしないままに終わった。
彼女は終始ニコニコしたままで事件の推移を見つめるばかり。
後日、エルフェンバイン担当の司祭、カレンがやって来てオーシレイと会談を行った。
会場は法律上、王都の中を使えないということで門の前に特別性のテーブルを置き、そこで行われたのだ。
後に正門会談と呼ばれることになるこの話し合いで、エルフェンバイン王国はエルド教と商業的な交遊を持つことが決定された。
そしてこれこそが、次期国王オーシレイ最初の仕事ということになる。
王都の外に、エルド教の領事館みたいなものが作られることになり、正門近くはまるで王都中心のような大賑わいに。
市民権を得られず、王都に住めない者たちも、領事館の完成を喜んだ。
なんだか、これは時代の転換点じゃないのかと私は思うのだ。
「もしかしてシャーロットさ。今回の話は推理をしてないんじゃなくて……もう推理が終わってたりした?」
「あら、それはどうしてですの?」
築かれていく領事館を見上げながら、正門前で私とシャーロット。
バスカーは門扉の近くで遊んでいて、彼の背中の上でくるくる踊っているのは、人形のエルピーだ。
オーシレイとカレンの会談によって、エルド教の人間は正門近くに滞在できることになった。
エルド教であることが判明したクビド氏は、王都に住むことはできなくなった。
だが、領事館の管理人職を得たらしく、今は精力的に王都内の各所に顔を出して挨拶回りに勤しんでいる。
忙しいクビド氏に代わり、バスカーがエルピーのお世話を引き受けているわけだ。
「あの場にオーシレイを連れて行ったらこうなるって、先に読んでたんじゃないかなーって」
「ああ、そのことですの? ふふふ、終わったことを後から解説することほど、無粋なものはありませんわ。推理は状況を終わらせるために開陳するから楽しいんですわよ? 物事はもう片付いて、新しい局面に向かって動いているではありませんの。それが全てですわ」
はぐらかした!
「これで少しは、殿下も釣り合いが取れるようになると思いますわねー」
何の釣り合いだ。
『わふ! わふわふ!』
バスカーがやって来て、私の腕に顔を擦り付けてきた。
「どうしたの? 王都の中に戻りたいの?」
『わふー!』
バスカーが大きな声を出した。
すると、領事館を作っている大工がみんなでこっちを見る。
「ジャネット様がいらしてるぜ」
「未来の旦那の初仕事だからな。見守りに来たんだろうぜ」
「あの方もすげえ女傑だもんなあ」
「殿下も追いつかねえとな!」
「おいおい、不敬だぜ!」
わっはっは、と大工が笑いあった。
領事館の建設は順調。
あと半月もすれば、この歴史的な建造物は完成することだろう。
そこからが、きっとエルフェンバインの新しい歴史の始まりなのだ。
ふとバスカーを見下ろすと、彼の頭の上によじ登ったエルピーが、ご機嫌で踊っているのだった。
シャーロットはこれをニコニコしながら眺めつつ、新たに紅茶を淹れている。
「全然シャーロットの出番にならないけど、いいわけ?」
「構いませんのよ。現に事件はこうして、解決に向かっているではありませんの」
「言われてみればそうだけど」
エルド教の人は紅茶どころではないらしく、通信機越しにトップ会談をするオーシレイを不安げに見つめている。
クビド氏など生きた心地がしないだろう。
だが、連絡しあうトップ同士は気楽なものだ。
「ふむ、やはりエルド教にはそこまで厳密な教義で、信者の住まいや技術の持ち出しについての制約がないと。利益優先? ほほう……。ならばこちらは、法の上ではエルド教を外に追い出してしまえるわけだが。ふむ、ふむふむ」
政治的な話をしている。
最近ではすっかり賢者なオーシレイだが、出会ったばかりの頃はちょっと政治的な話をしてたなあと思い出す。
「埒が明かんな。お前をこちらに招く。旅費と滞在費は出そう。なんならば、俺の許可で王都の見学も許す。来い」
それだけ言って、オーシレイは通信を切ってしまった。
「この地区のトップを呼びつけるんですか」
私が聞くと、オーシレイは頷いた。
「そういうことだ。エルド教は利益で動く。その実態は、ゼニシュタイン商会を超越した超国家規模の商業集団だ。我が国の信仰を明け渡すわけにはいかんが、奴らは情報も売り物にしている。この機会にツテを作っておいても悪くはないだろう」
「政治家の顔をしてる」
「王族とは政治家なのだ。恋愛にうつつを抜かしていた誰かと一緒にするな」
「はいはい。じゃあ、この件はお任せしていいわけですか? バスカーのお友達は守られる?」
「もちろん。バスカーは俺にとっても友だからな」
オーシレイの声が聞こえたようで、階下からバスカーが鼻息も荒く上がってきた。
そして、わしっとオーシレイに抱きつく。
「うわー!」
ガルムに押し倒されてペロペロ舐められる王子!
なかなか見られない絵面だなあ。
結局この事件は、シャーロットがほとんど推理もしないままに終わった。
彼女は終始ニコニコしたままで事件の推移を見つめるばかり。
後日、エルフェンバイン担当の司祭、カレンがやって来てオーシレイと会談を行った。
会場は法律上、王都の中を使えないということで門の前に特別性のテーブルを置き、そこで行われたのだ。
後に正門会談と呼ばれることになるこの話し合いで、エルフェンバイン王国はエルド教と商業的な交遊を持つことが決定された。
そしてこれこそが、次期国王オーシレイ最初の仕事ということになる。
王都の外に、エルド教の領事館みたいなものが作られることになり、正門近くはまるで王都中心のような大賑わいに。
市民権を得られず、王都に住めない者たちも、領事館の完成を喜んだ。
なんだか、これは時代の転換点じゃないのかと私は思うのだ。
「もしかしてシャーロットさ。今回の話は推理をしてないんじゃなくて……もう推理が終わってたりした?」
「あら、それはどうしてですの?」
築かれていく領事館を見上げながら、正門前で私とシャーロット。
バスカーは門扉の近くで遊んでいて、彼の背中の上でくるくる踊っているのは、人形のエルピーだ。
オーシレイとカレンの会談によって、エルド教の人間は正門近くに滞在できることになった。
エルド教であることが判明したクビド氏は、王都に住むことはできなくなった。
だが、領事館の管理人職を得たらしく、今は精力的に王都内の各所に顔を出して挨拶回りに勤しんでいる。
忙しいクビド氏に代わり、バスカーがエルピーのお世話を引き受けているわけだ。
「あの場にオーシレイを連れて行ったらこうなるって、先に読んでたんじゃないかなーって」
「ああ、そのことですの? ふふふ、終わったことを後から解説することほど、無粋なものはありませんわ。推理は状況を終わらせるために開陳するから楽しいんですわよ? 物事はもう片付いて、新しい局面に向かって動いているではありませんの。それが全てですわ」
はぐらかした!
「これで少しは、殿下も釣り合いが取れるようになると思いますわねー」
何の釣り合いだ。
『わふ! わふわふ!』
バスカーがやって来て、私の腕に顔を擦り付けてきた。
「どうしたの? 王都の中に戻りたいの?」
『わふー!』
バスカーが大きな声を出した。
すると、領事館を作っている大工がみんなでこっちを見る。
「ジャネット様がいらしてるぜ」
「未来の旦那の初仕事だからな。見守りに来たんだろうぜ」
「あの方もすげえ女傑だもんなあ」
「殿下も追いつかねえとな!」
「おいおい、不敬だぜ!」
わっはっは、と大工が笑いあった。
領事館の建設は順調。
あと半月もすれば、この歴史的な建造物は完成することだろう。
そこからが、きっとエルフェンバインの新しい歴史の始まりなのだ。
ふとバスカーを見下ろすと、彼の頭の上によじ登ったエルピーが、ご機嫌で踊っているのだった。
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