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踊れ人形事件
第132話 襲撃? エルド教の人!
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詳しいお話をクビド氏から聞いた。
エルド教の人が窓の外、ちょうど私たちの背後を通りかかり、凄い顔をして踊る人形のエルピーを見ていたそうだ。
首から下げていた聖印で、相手の素性が分かったクビド氏は、卒倒してしまったというわけなのだ。
「王都の中に異教徒が……? そんなことがあるのね」
「あるぞ。各宗教の使節は正式に王都に入ることができる。それ以外では、まさにエルド教が例外だな。彼らは技術という外交手段を持っていて、事前の連絡さえあれば、各国の首都を訪れることができるのだ」
「さすが殿下、やっぱり王族だったんですね」
「最近では陛下に言われて、国政に関わってきてもいるからな……。いよいよ逃げられなくなってきた」
逃げるってなんだ。
趣味の遺跡学についての話だろうか。
「エルド教は技術の流出を許さないと言うからな。出奔したクビドが怯える理由も分かる。だが棄教した訳ではあるまい」
「はい、わしはまだエルド教を信じております」
クビド氏は頷いた。
人形のエルピーが、彼の肩の上でくるくる踊る。
そして、ぴょんと飛び跳ねたエルピー。
階段を転がるように降りて行ったと思ったら、下でバスカーの『わふわふ!』という声が聞こえてきた。
遊び始めたみたいだ。完全に意思があるよねえ。
「では、エルド教の方々が、あなたを取り戻しに来ると考えてよろしくて? ご安心なさいな。そう言うこともあるかと思って、下町遊撃隊を調査に行かせてありますの。具体的には、この周辺のエルド教の方が滞在している場所を」
仕事が早い!
「我が家にずっといていただくというわけには行きませんものね」
「それはそうだ」
シャーロットの言葉に、オーシレイが頷いた。
年頃の女性の家に、恋人でもない男がいるというのはよろしくないものね。
シャーロットは、速攻で解決するつもりだ。
『ちゅちゅっ!』
おや?
一階でピーターが何か訴えている。
階段を降りてみると、ピーターとバスカーとエルピーが並んで、じーっと扉を見ていた。
ナイツもいるのだが、彼はのんきに椅子の上で居眠りしている。
ということは、そこまで危険は無いな。
「はい」
私が扉を開けると、そこには作業服姿の男性が立っていた。
首からは特徴的な、糸が絡み合って歯車を作るような聖印が下がっている。
エルド教だ。
噂をしたらもう来た!
これは、向こうの電撃的な襲撃……になるのかな?
「はじめまして。エルド教の方から来ました」
向こうから名乗った。
「あ、こちらこそ。私はワトサップ辺境伯名代、ジャネットよ」
対外的には、正しい立場を名乗っておく。
すると、エルド教の男性は目を丸くした。
そしてちょっとかしこまった風になる。
「そ、そんな立場の人がどうしていきなり」
「こう見えて、この家がラムズ侯爵令嬢の家だからよ」
「ええ……」
引いてる引いてる。
私は横目でナイツを見た。
寝てる。
ということは全く危険がないということだろう。
「立ち話も何だし、入って。あの人形のことでお話があるんでしょ?」
「ああ、はい。お話が早くて助かります」
私は彼を招き入れた。
家主の許可をもらったわけではないが、シャーロットがどういう判断をするかくらいはよく分かっている。
案の定、現れたエルド教の人を見て、シャーロットが嬉しそうに笑った。
ほらね。
クビド氏は「ヒェー」と悲鳴をあげていたが、多分怖がる必要はないと思う。
「エルド教は、神が成された奇跡が、教えの外に流れ出すことを許しません」
エルド教の人が、厳かな口調で告げる。
「一階にあったあれは、奇跡の新たなる形でしょう。命ある人形。エルドの奇跡がなければ成し得ぬものです。それが、エルドの奇跡なきエルフェンバインの都にあることが重大な問題となるのです」
そうかなあ。
なんというか、ああいう感じのとんでもないことは、王都ではよく起こってる気がするけれど。
「わ、わしは信仰を捨てていない。だが、閉じたエルド教の地ではあの子に教えられる事が少ないと思ったのだ。だからエルフェンバインにやって来た……」
「あれは既に、エルド教の中にあっても命を得ていたと? さらに問題です。司祭へ報告せねば」
「はい、質問」
私は挙手する。
「なんでしょう」
エルド教の人、この状況で話に入ってくるのかよ、という顔をしている。
入ってくるんだよ。
「クビド氏がいつから王都にいるかは分からないけれど、別に王都ではエルド教の奇跡? みたいなのが広まっているわけではないし、彼もそれを人に伝えたりしていなかったんだけど。どうしても上に連絡しないといけないものなの?」
「いけないものなのです。組織とはそういうものなので。ほうれんそうをきちんとやることが、教主のスタンスなのです」
わお、官僚組織みたい。
「いいでしょう。では、わたくしがあなたの上司をお話をしますわ。この場で連絡を取れる手段があるのでしょう?」
シャーロットが話を継いだ。
エルド教の人、驚いた目でこっちを見た後、「ちょ……ちょっと待ってください。こちらの権限では判断できないので」と、懐から何か小さな箱のようなものを取り出した。
箱から、金属線を上下に伸ばす。
線の先には、丸い金属板が貼り付けられていた。
「こちら、端末番号2908です。近隣の巡礼長以上の職位の方おられますか」
彼が板に話しかけてからしばらくして、応答があった。
『はいはい。こちらは巡礼長のカレンですネー。奇跡を持ち出した棄教者を発見した情報ですか?』
「いや、実は状況が込み入ってまして。この地の辺境伯名代だという方と、侯爵令嬢だという方がお話を……」
「第二王子もいるぞ」
『は!?』
クビド氏とエルピーの未来は、ここからのオハナシに掛かっている……!
エルド教の人が窓の外、ちょうど私たちの背後を通りかかり、凄い顔をして踊る人形のエルピーを見ていたそうだ。
首から下げていた聖印で、相手の素性が分かったクビド氏は、卒倒してしまったというわけなのだ。
「王都の中に異教徒が……? そんなことがあるのね」
「あるぞ。各宗教の使節は正式に王都に入ることができる。それ以外では、まさにエルド教が例外だな。彼らは技術という外交手段を持っていて、事前の連絡さえあれば、各国の首都を訪れることができるのだ」
「さすが殿下、やっぱり王族だったんですね」
「最近では陛下に言われて、国政に関わってきてもいるからな……。いよいよ逃げられなくなってきた」
逃げるってなんだ。
趣味の遺跡学についての話だろうか。
「エルド教は技術の流出を許さないと言うからな。出奔したクビドが怯える理由も分かる。だが棄教した訳ではあるまい」
「はい、わしはまだエルド教を信じております」
クビド氏は頷いた。
人形のエルピーが、彼の肩の上でくるくる踊る。
そして、ぴょんと飛び跳ねたエルピー。
階段を転がるように降りて行ったと思ったら、下でバスカーの『わふわふ!』という声が聞こえてきた。
遊び始めたみたいだ。完全に意思があるよねえ。
「では、エルド教の方々が、あなたを取り戻しに来ると考えてよろしくて? ご安心なさいな。そう言うこともあるかと思って、下町遊撃隊を調査に行かせてありますの。具体的には、この周辺のエルド教の方が滞在している場所を」
仕事が早い!
「我が家にずっといていただくというわけには行きませんものね」
「それはそうだ」
シャーロットの言葉に、オーシレイが頷いた。
年頃の女性の家に、恋人でもない男がいるというのはよろしくないものね。
シャーロットは、速攻で解決するつもりだ。
『ちゅちゅっ!』
おや?
一階でピーターが何か訴えている。
階段を降りてみると、ピーターとバスカーとエルピーが並んで、じーっと扉を見ていた。
ナイツもいるのだが、彼はのんきに椅子の上で居眠りしている。
ということは、そこまで危険は無いな。
「はい」
私が扉を開けると、そこには作業服姿の男性が立っていた。
首からは特徴的な、糸が絡み合って歯車を作るような聖印が下がっている。
エルド教だ。
噂をしたらもう来た!
これは、向こうの電撃的な襲撃……になるのかな?
「はじめまして。エルド教の方から来ました」
向こうから名乗った。
「あ、こちらこそ。私はワトサップ辺境伯名代、ジャネットよ」
対外的には、正しい立場を名乗っておく。
すると、エルド教の男性は目を丸くした。
そしてちょっとかしこまった風になる。
「そ、そんな立場の人がどうしていきなり」
「こう見えて、この家がラムズ侯爵令嬢の家だからよ」
「ええ……」
引いてる引いてる。
私は横目でナイツを見た。
寝てる。
ということは全く危険がないということだろう。
「立ち話も何だし、入って。あの人形のことでお話があるんでしょ?」
「ああ、はい。お話が早くて助かります」
私は彼を招き入れた。
家主の許可をもらったわけではないが、シャーロットがどういう判断をするかくらいはよく分かっている。
案の定、現れたエルド教の人を見て、シャーロットが嬉しそうに笑った。
ほらね。
クビド氏は「ヒェー」と悲鳴をあげていたが、多分怖がる必要はないと思う。
「エルド教は、神が成された奇跡が、教えの外に流れ出すことを許しません」
エルド教の人が、厳かな口調で告げる。
「一階にあったあれは、奇跡の新たなる形でしょう。命ある人形。エルドの奇跡がなければ成し得ぬものです。それが、エルドの奇跡なきエルフェンバインの都にあることが重大な問題となるのです」
そうかなあ。
なんというか、ああいう感じのとんでもないことは、王都ではよく起こってる気がするけれど。
「わ、わしは信仰を捨てていない。だが、閉じたエルド教の地ではあの子に教えられる事が少ないと思ったのだ。だからエルフェンバインにやって来た……」
「あれは既に、エルド教の中にあっても命を得ていたと? さらに問題です。司祭へ報告せねば」
「はい、質問」
私は挙手する。
「なんでしょう」
エルド教の人、この状況で話に入ってくるのかよ、という顔をしている。
入ってくるんだよ。
「クビド氏がいつから王都にいるかは分からないけれど、別に王都ではエルド教の奇跡? みたいなのが広まっているわけではないし、彼もそれを人に伝えたりしていなかったんだけど。どうしても上に連絡しないといけないものなの?」
「いけないものなのです。組織とはそういうものなので。ほうれんそうをきちんとやることが、教主のスタンスなのです」
わお、官僚組織みたい。
「いいでしょう。では、わたくしがあなたの上司をお話をしますわ。この場で連絡を取れる手段があるのでしょう?」
シャーロットが話を継いだ。
エルド教の人、驚いた目でこっちを見た後、「ちょ……ちょっと待ってください。こちらの権限では判断できないので」と、懐から何か小さな箱のようなものを取り出した。
箱から、金属線を上下に伸ばす。
線の先には、丸い金属板が貼り付けられていた。
「こちら、端末番号2908です。近隣の巡礼長以上の職位の方おられますか」
彼が板に話しかけてからしばらくして、応答があった。
『はいはい。こちらは巡礼長のカレンですネー。奇跡を持ち出した棄教者を発見した情報ですか?』
「いや、実は状況が込み入ってまして。この地の辺境伯名代だという方と、侯爵令嬢だという方がお話を……」
「第二王子もいるぞ」
『は!?』
クビド氏とエルピーの未来は、ここからのオハナシに掛かっている……!
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