推理令嬢シャーロットの事件簿~謎解きは婚約破棄のあとで~

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
130 / 225
踊れ人形事件

第130話 バスカーのお友達

しおりを挟む
 オーシレイがピーターを連れてきたので、バスカーはカーバンクルの彼を頭に乗せて散歩に出かけることになった。
 私とオーシレイは馬車の中で、横をバスカーが歩いていく。
 頭上のピーターはご機嫌で、『ちゅっちゅっちゅー』と鳴いている。

 途中、とある家の前でバスカーが立ち止まる。

「どうしたんだ?」

 オーシレイが不思議そうに、窓に身を寄せてきた。
 つまり私が座っている方だ。
 近いなー。

「最近、バスカーと散歩をする時はいつもこのルートを通るんです。というのも、バスカーに新しい友達ができたので」

「ほう! ジャネットの飼っているガルムは本当に社交的だな……。俺が知るガルムの常識を大きく逸脱している」

 オーシレイ曰く、ガルムは少数でのグループを作り、そのチームで狩りをして暮らしているモンスターらしい。
 排他的で、チーム外の存在が近寄ることを許さない。

 だが、バスカーは大変社交的で、色々な友達を作っている。
 下町遊撃隊の子どもたちも、バスカーにとっては友達なのだ。

 そんな社交的ガルムが見つけた新しい友達は……。

『わふ!』

『ちゅっちゅ?』

『わふわふ、わふ!』

 ピーターの疑問にバスカーが答えてるのかな?
 そして、呼びかけに応えて屋敷の中から姿を表すのは……。

 窓際に、小さな人影。
 とても小さい。
 多分、両手のひらに乗ってしまうくらい。

 寸詰まりな人間の形をしていて、両手には旗を持っていた。
 服装は、道化師のような派手なもので、顔にもメイクがされている。
 人形だ。

 それも、自ら動く人形。
 ゴーレムの一種だとは思う。

 ゴーレムは、旗をパタパタ振りながら、くるくる回って踊る。

「小型のゴーレムか。確かに珍しいだろうが、あれは自由意志を持っているわけではないのではないか?」

「それが、持ってるんです」

 バスカーが呼びかけると、ゴーレムはそれに合わせてくるくる回る。
 そしてしゃがみ込み、眼下のバスカーをじーっと見つめるのだ。

「本当だ……。発声はできないようだが、あれは意思疎通ができるのだな」

「ええ。この家の人、昔はそれなりに有名な魔術師だったらしくて。遺跡から発掘した技術で人形を作ったんだそうです」

「作ったのか!? 新しく作り上げるなんて、エルド教の上級司祭でもなければ出来ないと思っていたが……」

「実は私、バスカーと一緒に一度この家にお呼ばれしてて」

「なにっ。それは俺も話をつけに行かねばならん」

「一国の王子が庶民の家に上がり込むのはどうかと思うんですけど」

「……それもそうか」

 何を冷静さを失っているのか、この人は。
 
「お嬢、何やら様子がおかしいようですぜ」

「?」

 ナイツの呼びかけがあって、私は改めて外に意識を向けた。
 こちらを上から覗き込んでいる人形が、両手の旗をパタパタ動かしている。
 何かを私たちに伝えたいみたいだ。

「ちょっと降りますね。バスカー! 行くよ!」

『わふん!』

『ちゅー!』

「ああ、待つんだ! いきなり飛び出すのは危険だ!」

 オーシレイも慌ててついてくる。
 私たちは敷地の中へと飛び込むと、家の扉をノックした。

 返事はない。
 鍵は……掛かっている。

 だけど……。

『ちゅちゅーい!』

 飛び跳ねたピーターの、額にある宝石が輝いた。
 すると、びゅうっと風が吹いて横合いの植木が大きく揺らされた。
 その足元にキラリと光るものがある。

「あ、鍵……? そこに予備の鍵を隠してあったのかな?」

 偶然にも鍵を発見した私は、それを使って扉を開けた。

「やはり、カーバンクルが幸運を呼び込む力は強大だ。悪用されないようにせねばならんな」

『ちゅっちゅ』

「なに、悪用されないようにするから、おやつにチーズが欲しい? 食べ過ぎは太るぞ」

『ちゅー』

 何をピーターと仲良くお喋りしているのか。
 いやまあ、聞いててほっこりするけれど。

 だけど今は、そんなことよりお屋敷のこと。
 この家の主人は、元魔術師のクビド氏。

 もう老齢だったし、彼に何かあったのでは、と心配だ。
 バスカーが真っ先に、屋敷の中に飛び込んだ。

 そして迷うこと無く家の中の、応接間を目指す。
 私とバスカーがお茶をご馳走になった場所で、家の中でも最も広い部屋だ。

 そこで、クビド氏が倒れていた。

『わふー!』

 バスカーが大きく吠える。
 すると、窓際にいた人形が既にやって来ていて、クビド氏をピコピコ叩いていた。

「そっか、これを伝えたかったのね。分かった。すぐにお医者を連れてくるから」

 私の言葉に、人形が顔をあげ、かくんと首を傾げた。

「本当に意思があるのか。驚いたな……」

 オーシレイが呻いた。

「意思のある小型ゴーレムを作り出せるほどの魔術師が、無名のまま城下町で暮らしていたなんて……。これは国家にとっての損失だぞ」

「そういうのはいいですから! 行くよバスカー!」

『わふー!』

 外に飛び出した私は、ナイツにお医者様を連れてくるように指示する。
 彼は猛スピードで馬を走らせ、すぐに医者を連れてきた。

 幸い、クビド氏は気絶していただけで、命に別状はなし。
 ただ、目を覚ました彼はひどく怯えていた。

「やつが……やつが来る……!」

 そんな事を言うのだった。

「クビドさん。詳しい話を効かせてくれる? 大抵のことは解決できる心強い友人が私にはいるから」

 これは、シャーロット案件だ。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません

片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。 皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。 もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。

処理中です...