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建築家の陰謀事件
第127話 増築屋敷を眺めてみれば
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ゼンニーン家の評判はとても良かった。
もう、本当に一家揃って善人としか言いようがないくらい。
捕まったゼンニーン家のご当主に関しても、「あれはなにかの間違いだ」と近所の人々が声を揃えて言うくらい。
聖人かな?
「ただねえ、あそこの主人が唯一気にしてたことがあってねえ」
おしゃべり好きのおばあさんから聞き込みをしていたら、何やら重要な情報を口にし始めた。
「気にしていた? その人も、何か悪いことをやってしまったのかしら」
「あたしからすりゃ、そんなことよくあるよと思うけれどね! だけどほら、若い頃に恋の鞘当てをやってね。その結果、今の奥さんを勝ち取ったんだけど、恋に破れた相手のことをずっと気にしていたねえ」
「優しすぎる」
とても辺境では生きていけない。
だけどどうやらお人好しというわけではなく、相手の嘘を嘘と見抜く目も持っていたのだそうだ。
だから、彼が騙されることはなかったと。
辺境でも生きていけるかも知れない。
「これは確かに、捕まるような人じゃないなあ」
私は唸った。
バスカーが『わふわふ!』と鳴いて私に相槌を入れてくる。
おばあさんは不思議そうにバスカーを見て、それから私を見て。
「ところでお嬢ちゃん、そんな上等な着物を着て、ゼニシュタイン商会の偉い人なのかい?」
「ああ、私は縁があって事件を調べてるだけで、本職は貴族なの。ほら、ワトサップ辺境伯の領主代理で……」
「ヒ、ヒェー! ジャネット様!!」
おばあちゃんは目を丸くした後、なむなむと私を拝み始めてしまった。
なんだなんだ。
戸惑っていたら、近くの婦人会らしき女性たちが集まってきた。
「本物のジャネット様だよ!」
「ひええ、噂は凄いのに本人は可愛らしいんだねえ!」
「だけど見てよ、あの大きな犬! あんな大きい犬を従えてるんだ。間違いなくジャネット様だよ」
なんだなんだ!
妙な空気になってきた。
私は慌てて、その場を退散することにした。
シャーロットがニヤニヤしながらこっちを見ている。
「大人気ですわねえ」
「解せぬ」
「ジャネット様は可愛らしいお姿ですし、様々な事件に関わって解決に手を貸していますもの。わたくしのこれは新たなお仕事を呼ぶための評判ですけれど、特にお仕事でもなく事件に首を突っ込むジャネット様は、まさしく武勇伝ですわよ」
「な、なんだってー!」
知らなかった。
そう言えば、すっかり事件に関わって解決のために奔走するのが趣味になっている気がする。
まあ、楽しいからいいんじゃないか……?
「私のことはいいから。シャーロットは何か分かったの?」
「ええ、よく分かりましたわ。増築された部分が、元々の母屋を取り巻くように存在していますわね。ここでくっきりと、建物が作られた年代が分かれていますわ」
シャーロットが壁を指差す。
確かに、建材の新しさがぜんぜん違う。
「露骨に違うねえ」
「でしょう? 元の建材の色に合わせる努力が感じられませんわ。では中に入ってみましょう」
シャーロットが我が家であるかの如く、ゼンニーン家の扉を開けた。
「あー! いいの!?」
「さっき、憲兵の方々が入って行かれましたもの。構いませんわ」
それは構わない理由になるんだろうか?
まあいいか。
私は考えるのをやめた。
シャーロットに続いて家の中へ。
なるほど、貴族の屋敷を見慣れていると、こじんまりした作りだと感じる。
以前に、『箱の中の指先事件』で訪れたおばさんの家よりは随分広いけど。
借家と持ち家の違いだろうな。
家の中を歩くと、あちこちで憲兵が書類やら凶器やらを探している。
基本的に彼らは、一番その可能性が高そうな事件原因を調査する。
それで、らしい証拠が出てきたらそれで事件はおしまい。
だから、シャーロットと関わる前は、私の憲兵に対する印象はよろしくなかった。
真実を知ったのは、シャーロットとデストレードと付き合いができてからである。
憲兵たちも、できることなら真犯人を捕まえたいのだ。
だが、こういうちょっと入り組んだ感じの陰謀がありそうな事件は、憲兵たちととても相性が悪い。
彼らは捕まえる人であって、推理する人ではないのだ。
だから、彼らは私たちがキョロキョロしながら家の中を歩き回るのを、見てみないふりをしていた。
自分たちは気付いていないから、好きに調査して推理して下さい、という気持ちなのかも知れない。
それじゃあ、厚意に甘えましょう。
床板が、新しいものと古いものが組み合わさっている場所に出る。
新しい板の先が、増築された場所なのだろう。
見た感じ、子供部屋が新しく作られているようだけど。
上の階は書斎が増えているらしい。
二部屋増築か。
私は子供部屋に入ってみる。
すると、そこは思っていたよりもこじんまりした空間だった。
「……?」
なんとも言えない違和感を覚える。
あれ?
そこまで大きくない部屋だ。
いつの間にか二階に行っていたシャーロットも、階段を下ってくる。
「書斎は可愛らしい大きさのお部屋でしたわね。子供部屋もそうでしょう?」
「うん、あまり大きくなかった。だけどなんでだろう。違和感があるんだよね」
「でしょう? それはつまり……外見は大きく増築されている家なのに、中に入ればそこまで広くなったように感じない、ということですわよ」
「えっ!? 言われてみれば……!」
私は慌てて、外に飛び出して家を眺める。
それから屋内に入って、子供部屋を確認した。
「これ、この窓からすぐに壁になるけれど……この壁の奥にも増築された場所があるはずなんだけど」
「まさしく!」
シャーロットが、我が意を得たりと微笑んだ。
「ここからが、バスカーの出番ですわよ!」
もう、本当に一家揃って善人としか言いようがないくらい。
捕まったゼンニーン家のご当主に関しても、「あれはなにかの間違いだ」と近所の人々が声を揃えて言うくらい。
聖人かな?
「ただねえ、あそこの主人が唯一気にしてたことがあってねえ」
おしゃべり好きのおばあさんから聞き込みをしていたら、何やら重要な情報を口にし始めた。
「気にしていた? その人も、何か悪いことをやってしまったのかしら」
「あたしからすりゃ、そんなことよくあるよと思うけれどね! だけどほら、若い頃に恋の鞘当てをやってね。その結果、今の奥さんを勝ち取ったんだけど、恋に破れた相手のことをずっと気にしていたねえ」
「優しすぎる」
とても辺境では生きていけない。
だけどどうやらお人好しというわけではなく、相手の嘘を嘘と見抜く目も持っていたのだそうだ。
だから、彼が騙されることはなかったと。
辺境でも生きていけるかも知れない。
「これは確かに、捕まるような人じゃないなあ」
私は唸った。
バスカーが『わふわふ!』と鳴いて私に相槌を入れてくる。
おばあさんは不思議そうにバスカーを見て、それから私を見て。
「ところでお嬢ちゃん、そんな上等な着物を着て、ゼニシュタイン商会の偉い人なのかい?」
「ああ、私は縁があって事件を調べてるだけで、本職は貴族なの。ほら、ワトサップ辺境伯の領主代理で……」
「ヒ、ヒェー! ジャネット様!!」
おばあちゃんは目を丸くした後、なむなむと私を拝み始めてしまった。
なんだなんだ。
戸惑っていたら、近くの婦人会らしき女性たちが集まってきた。
「本物のジャネット様だよ!」
「ひええ、噂は凄いのに本人は可愛らしいんだねえ!」
「だけど見てよ、あの大きな犬! あんな大きい犬を従えてるんだ。間違いなくジャネット様だよ」
なんだなんだ!
妙な空気になってきた。
私は慌てて、その場を退散することにした。
シャーロットがニヤニヤしながらこっちを見ている。
「大人気ですわねえ」
「解せぬ」
「ジャネット様は可愛らしいお姿ですし、様々な事件に関わって解決に手を貸していますもの。わたくしのこれは新たなお仕事を呼ぶための評判ですけれど、特にお仕事でもなく事件に首を突っ込むジャネット様は、まさしく武勇伝ですわよ」
「な、なんだってー!」
知らなかった。
そう言えば、すっかり事件に関わって解決のために奔走するのが趣味になっている気がする。
まあ、楽しいからいいんじゃないか……?
「私のことはいいから。シャーロットは何か分かったの?」
「ええ、よく分かりましたわ。増築された部分が、元々の母屋を取り巻くように存在していますわね。ここでくっきりと、建物が作られた年代が分かれていますわ」
シャーロットが壁を指差す。
確かに、建材の新しさがぜんぜん違う。
「露骨に違うねえ」
「でしょう? 元の建材の色に合わせる努力が感じられませんわ。では中に入ってみましょう」
シャーロットが我が家であるかの如く、ゼンニーン家の扉を開けた。
「あー! いいの!?」
「さっき、憲兵の方々が入って行かれましたもの。構いませんわ」
それは構わない理由になるんだろうか?
まあいいか。
私は考えるのをやめた。
シャーロットに続いて家の中へ。
なるほど、貴族の屋敷を見慣れていると、こじんまりした作りだと感じる。
以前に、『箱の中の指先事件』で訪れたおばさんの家よりは随分広いけど。
借家と持ち家の違いだろうな。
家の中を歩くと、あちこちで憲兵が書類やら凶器やらを探している。
基本的に彼らは、一番その可能性が高そうな事件原因を調査する。
それで、らしい証拠が出てきたらそれで事件はおしまい。
だから、シャーロットと関わる前は、私の憲兵に対する印象はよろしくなかった。
真実を知ったのは、シャーロットとデストレードと付き合いができてからである。
憲兵たちも、できることなら真犯人を捕まえたいのだ。
だが、こういうちょっと入り組んだ感じの陰謀がありそうな事件は、憲兵たちととても相性が悪い。
彼らは捕まえる人であって、推理する人ではないのだ。
だから、彼らは私たちがキョロキョロしながら家の中を歩き回るのを、見てみないふりをしていた。
自分たちは気付いていないから、好きに調査して推理して下さい、という気持ちなのかも知れない。
それじゃあ、厚意に甘えましょう。
床板が、新しいものと古いものが組み合わさっている場所に出る。
新しい板の先が、増築された場所なのだろう。
見た感じ、子供部屋が新しく作られているようだけど。
上の階は書斎が増えているらしい。
二部屋増築か。
私は子供部屋に入ってみる。
すると、そこは思っていたよりもこじんまりした空間だった。
「……?」
なんとも言えない違和感を覚える。
あれ?
そこまで大きくない部屋だ。
いつの間にか二階に行っていたシャーロットも、階段を下ってくる。
「書斎は可愛らしい大きさのお部屋でしたわね。子供部屋もそうでしょう?」
「うん、あまり大きくなかった。だけどなんでだろう。違和感があるんだよね」
「でしょう? それはつまり……外見は大きく増築されている家なのに、中に入ればそこまで広くなったように感じない、ということですわよ」
「えっ!? 言われてみれば……!」
私は慌てて、外に飛び出して家を眺める。
それから屋内に入って、子供部屋を確認した。
「これ、この窓からすぐに壁になるけれど……この壁の奥にも増築された場所があるはずなんだけど」
「まさしく!」
シャーロットが、我が意を得たりと微笑んだ。
「ここからが、バスカーの出番ですわよ!」
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