上 下
126 / 225
建築家の陰謀事件

第126話 いつも依頼人がいる気がする

しおりを挟む
 シャーロットの家に遊びに行くと、いつも依頼人がいる気がする。
 いや、実際はそんなことはないのだけれど、依頼人がいるということは事件があるということ。
 事件があるということは、シャーロットがそれに関わって、私も参加して冒険するということだから……。

 どうしても、印象が強くなるだけだろうか?
 今日も、シャーロットの家には依頼人が来ていた。

 汗だくの若者だ。

「た、助けて下さい!」

「事件ですわね。それにしても尋常な様子ではありませんわね。詳しく事情をお話くださいな」

「は、はい! 僕たちは、はめられたんです!! 先日、父が家を改修したのですが、その時に知己の建築家に設計と作業を依頼して……。しばらくしたら、その建築家が亡くなったのです。彼が住んでいた家が燃えてしまい、焼死体が発見され……」

「なるほど。その死体は建築家の方のもので間違いないと?」

「はい。憲兵隊はそう判断したみたいです。そして焼け残った金属製の家具から遺書が見つかりまして。建築家の遺産を全て、父へ譲渡すると……」

「ふむふむ!」

 シャーロットが前のめりになった。
 事件の香りを感じたらしい。
 これで、彼女はこの事件に絶対に関わることになるだろう。

「父は遺産目的で建築家を殺した疑いを掛けられて、逮捕されてしまいました! ああ、なんということだ! これは汚名です! 父はそんな事をするような人ではありません!」

 若者もヒートアップしている。
 ここは紅茶でも飲んで落ち着いたほうがいいのでは?

 私はそう思って、勝手知ったるシャーロットの家でお湯を沸かし始めた。
 いい香りのする新しい茶葉を見つけたので、これの封を切ってティーポットにそそいでいると……。
 シャーロットがそれに気付いて、「あっ」という顔をした。

 ふふふ、私に任せたのがいけないのだよ。
 その代わり、美味しい紅茶を淹れてあげる。
 私だって日々、修行をしているのだ。

 ちょうどお湯もいい加減。
 ティーポットの中で、茶葉を蒸らしている頃である。

 扉が激しくノックされた。
 窓から一階を見下ろしたシャーロット。

「あら、デストレード」

「シャーロット。容疑者がお宅に入っていったという目撃情報があるんです。ゼンニーン家の人々は全員容疑者です。タクランダー氏殺害の関与が疑われています」

 大人しく、ゼンニーン家の若者を差し出せ、とデストレードは告げた。
 彼女は有能な憲兵だが、融通が利かない。

「せめて、紅茶を飲み終わるくらいの間は?」

「……それくらいならいいでしょう」

 ということで、デストレードと憲兵たちもやって来て、みんなで紅茶を飲んだ。
 お菓子も食べた。

 デストレードの雰囲気は、ピリピリしていなかったので、私は「おやっ?」と思う。
 彼女はもしかして、この若者を犯人だと思っていないのではないだろうか?

 その後、若者は憲兵たちに連れて行かれてしまった。 
 憲兵所に確保して、尋問するのだとか。

「彼は何も知らないでしょうね」

 シャーロットの言葉に、ここに残ったデストレードが肩をすくめた。

「でしょうねえ。ですが、これが私たちの仕事なものでね。しっかりとやっておかねば、明日にでも犯罪を犯そうとする者たちへの睨みを効かせられないのです。案外、こういう抑止力となる演出が大事なのですよ」

「やっぱりデストレードも、この事件の犯人はゼンニーン家の人たちじゃないと思っているの?」

「彼らの評判はこちらにも届いていますからね。ごく普通の、善良な家族です。ですが憲兵は、その善良な人々を絞り上げねばなりません。焼死体は炭化していて、身につけたものでタクランダー氏だと判断する他ありませんでしたからね。遺書が見つかった以上は、順当と思われる業務を行うだけです」

 ここでデストレードが、分かってるな、という目でシャーロットを見た。
 シャーロットがにっこり笑う。

「ではわたくしも、依頼された仕事を独自に片付けていくだけですわ。もしかしたら、意外な真相が明らかになってしまうかも」

「そりゃあ参りましたね。憲兵の仕事がまた増えてしまう。それじゃあ、私はこれで」

 デストレードはそう告げると去っていった。

「ねえシャーロット。これってあからさまに、デストレードからも依頼されたみたいなものよね」

「ええ。事件解決の暁には、憲兵隊から豪華なランチ代くらいはいただきましょうね」

「賛成!」

 そういうことになって、早速私たちは動き出すのだった。
 さあ、そうなれば調査の準備!

 一旦ナイツの馬車で家まで戻り、ナイツとバスカーをチェンジ!
 バスカーはお散歩に出られると思ったのか、尻尾を振りながら走ってきた。

「バスカーの鼻が頼りなのよー」

『わふー?』

 理由がどうであれ、外で走れるのが嬉しいバスカー。
 彼を連れて、私とシャーロットは、まずはゼンニーン家へ向かうのだった。

 私は基本的に、貴族街と商店街と下町ばかり行っているから、それ以外の街区とは馴染みが薄い。
 ゼンニーン家は貴族でもなんでもなく、ゼニシュタイン商会に勤める真面目な商人の一家なのだった。

 それでも、到着したゼンニーン家を見て、私は感心してしまった。

「きちんとした家が建ってるじゃない。さすがはゼニシュタイン商会ねえ」

「ええ。ゼンニーン氏の実直な性格と、重要な仕事を達成する能力から、商会では重用されていたようですわね。さあ、聞き込みと参りましょうか!」

 いざ、事件の渦中へ。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

外れスキル「両替」が使えないとスラムに追い出された俺が、異世界召喚少女とボーイミーツガールして世界を広げながら強くなる話

あけちともあき
ファンタジー
「あたしの能力は運命の女。関わった者に世界を変えられる運命と宿命を授けるの」 能力者養成孤児院から、両替スキルはダメだと追い出され、スラム暮らしをする少年ウーサー。 冴えない彼の元に、異世界召喚された少女ミスティが現れる。 彼女は追っ手に追われており、彼女を助けたウーサーはミスティと行動をともにすることになる。 ミスティを巡って巻き起こる騒動、事件、戦争。 彼女は深く関わった人間に、世界の運命を変えるほどの力を与えると言われている能力者だったのだ。 それはそれとして、ウーサーとミスティの楽しい日常。 近づく心の距離と、スラムでは知れなかった世の中の姿と仕組み。 楽しい毎日の中、ミスティの助けを受けて成長を始めるウーサーの両替スキル。 やがて超絶強くなるが、今はミスティを守りながら、日々を楽しく過ごすことが最も大事なのだ。 いつか、運命も宿命もぶっ飛ばせるようになる。 そういう前向きな物語。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

最弱職テイマーに転生したけど、規格外なのはお約束だよね?

ノデミチ
ファンタジー
ゲームをしていたと思われる者達が数十名変死を遂げ、そのゲームは運営諸共消滅する。 彼等は、そのゲーム世界に召喚或いは転生していた。 ゲームの中でもトップ級の実力を持つ騎団『地上の星』。 勇者マーズ。 盾騎士プルート。 魔法戦士ジュピター。 義賊マーキュリー。 大賢者サターン。 精霊使いガイア。 聖女ビーナス。 何者かに勇者召喚の形で、パーティ毎ベルン王国に転送される筈だった。 だが、何か違和感を感じたジュピターは召喚を拒み転生を選択する。 ゲーム内で最弱となっていたテイマー。 魔物が戦う事もあって自身のステータスは転職後軒並みダウンする不遇の存在。 ジュピターはロディと名乗り敢えてテイマーに転職して転生する。最弱職となったロディが連れていたのは、愛玩用と言っても良い魔物=ピクシー。 冒険者ギルドでも嘲笑され、パーティも組めないロディ。その彼がクエストをこなしていく事をギルドは訝しむ。 ロディには秘密がある。 転生者というだけでは無く…。 テイマー物第2弾。 ファンタジーカップ参加の為の新作。 応募に間に合いませんでしたが…。 今迄の作品と似た様な名前や同じ名前がありますが、根本的に違う世界の物語です。 カクヨムでも公開しました。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます

水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか? 私は、逃げます! えっ?途中退場はなし? 無理です!私には務まりません! 悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。 一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。

引きこもりが乙女ゲームに転生したら

おもち
ファンタジー
小中学校で信頼していた人々に裏切られ すっかり引きこもりになってしまった 女子高生マナ ある日目が覚めると大好きだった乙女ゲームの世界に転生していて⁉︎ 心機一転「こんどこそ明るい人生を!」と意気込むものの‥ 転生したキャラが思いもよらぬ人物で-- 「前世であったことに比べればなんとかなる!」前世で培った強すぎるメンタルで 男装して乙女ゲームの物語無視して突き進む これは人を信じることを諦めた少女 の突飛な行動でまわりを巻き込み愛されていく物語

処理中です...