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建築家の陰謀事件
第126話 いつも依頼人がいる気がする
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シャーロットの家に遊びに行くと、いつも依頼人がいる気がする。
いや、実際はそんなことはないのだけれど、依頼人がいるということは事件があるということ。
事件があるということは、シャーロットがそれに関わって、私も参加して冒険するということだから……。
どうしても、印象が強くなるだけだろうか?
今日も、シャーロットの家には依頼人が来ていた。
汗だくの若者だ。
「た、助けて下さい!」
「事件ですわね。それにしても尋常な様子ではありませんわね。詳しく事情をお話くださいな」
「は、はい! 僕たちは、はめられたんです!! 先日、父が家を改修したのですが、その時に知己の建築家に設計と作業を依頼して……。しばらくしたら、その建築家が亡くなったのです。彼が住んでいた家が燃えてしまい、焼死体が発見され……」
「なるほど。その死体は建築家の方のもので間違いないと?」
「はい。憲兵隊はそう判断したみたいです。そして焼け残った金属製の家具から遺書が見つかりまして。建築家の遺産を全て、父へ譲渡すると……」
「ふむふむ!」
シャーロットが前のめりになった。
事件の香りを感じたらしい。
これで、彼女はこの事件に絶対に関わることになるだろう。
「父は遺産目的で建築家を殺した疑いを掛けられて、逮捕されてしまいました! ああ、なんということだ! これは汚名です! 父はそんな事をするような人ではありません!」
若者もヒートアップしている。
ここは紅茶でも飲んで落ち着いたほうがいいのでは?
私はそう思って、勝手知ったるシャーロットの家でお湯を沸かし始めた。
いい香りのする新しい茶葉を見つけたので、これの封を切ってティーポットにそそいでいると……。
シャーロットがそれに気付いて、「あっ」という顔をした。
ふふふ、私に任せたのがいけないのだよ。
その代わり、美味しい紅茶を淹れてあげる。
私だって日々、修行をしているのだ。
ちょうどお湯もいい加減。
ティーポットの中で、茶葉を蒸らしている頃である。
扉が激しくノックされた。
窓から一階を見下ろしたシャーロット。
「あら、デストレード」
「シャーロット。容疑者がお宅に入っていったという目撃情報があるんです。ゼンニーン家の人々は全員容疑者です。タクランダー氏殺害の関与が疑われています」
大人しく、ゼンニーン家の若者を差し出せ、とデストレードは告げた。
彼女は有能な憲兵だが、融通が利かない。
「せめて、紅茶を飲み終わるくらいの間は?」
「……それくらいならいいでしょう」
ということで、デストレードと憲兵たちもやって来て、みんなで紅茶を飲んだ。
お菓子も食べた。
デストレードの雰囲気は、ピリピリしていなかったので、私は「おやっ?」と思う。
彼女はもしかして、この若者を犯人だと思っていないのではないだろうか?
その後、若者は憲兵たちに連れて行かれてしまった。
憲兵所に確保して、尋問するのだとか。
「彼は何も知らないでしょうね」
シャーロットの言葉に、ここに残ったデストレードが肩をすくめた。
「でしょうねえ。ですが、これが私たちの仕事なものでね。しっかりとやっておかねば、明日にでも犯罪を犯そうとする者たちへの睨みを効かせられないのです。案外、こういう抑止力となる演出が大事なのですよ」
「やっぱりデストレードも、この事件の犯人はゼンニーン家の人たちじゃないと思っているの?」
「彼らの評判はこちらにも届いていますからね。ごく普通の、善良な家族です。ですが憲兵は、その善良な人々を絞り上げねばなりません。焼死体は炭化していて、身につけたものでタクランダー氏だと判断する他ありませんでしたからね。遺書が見つかった以上は、順当と思われる業務を行うだけです」
ここでデストレードが、分かってるな、という目でシャーロットを見た。
シャーロットがにっこり笑う。
「ではわたくしも、依頼された仕事を独自に片付けていくだけですわ。もしかしたら、意外な真相が明らかになってしまうかも」
「そりゃあ参りましたね。憲兵の仕事がまた増えてしまう。それじゃあ、私はこれで」
デストレードはそう告げると去っていった。
「ねえシャーロット。これってあからさまに、デストレードからも依頼されたみたいなものよね」
「ええ。事件解決の暁には、憲兵隊から豪華なランチ代くらいはいただきましょうね」
「賛成!」
そういうことになって、早速私たちは動き出すのだった。
さあ、そうなれば調査の準備!
一旦ナイツの馬車で家まで戻り、ナイツとバスカーをチェンジ!
バスカーはお散歩に出られると思ったのか、尻尾を振りながら走ってきた。
「バスカーの鼻が頼りなのよー」
『わふー?』
理由がどうであれ、外で走れるのが嬉しいバスカー。
彼を連れて、私とシャーロットは、まずはゼンニーン家へ向かうのだった。
私は基本的に、貴族街と商店街と下町ばかり行っているから、それ以外の街区とは馴染みが薄い。
ゼンニーン家は貴族でもなんでもなく、ゼニシュタイン商会に勤める真面目な商人の一家なのだった。
それでも、到着したゼンニーン家を見て、私は感心してしまった。
「きちんとした家が建ってるじゃない。さすがはゼニシュタイン商会ねえ」
「ええ。ゼンニーン氏の実直な性格と、重要な仕事を達成する能力から、商会では重用されていたようですわね。さあ、聞き込みと参りましょうか!」
いざ、事件の渦中へ。
いや、実際はそんなことはないのだけれど、依頼人がいるということは事件があるということ。
事件があるということは、シャーロットがそれに関わって、私も参加して冒険するということだから……。
どうしても、印象が強くなるだけだろうか?
今日も、シャーロットの家には依頼人が来ていた。
汗だくの若者だ。
「た、助けて下さい!」
「事件ですわね。それにしても尋常な様子ではありませんわね。詳しく事情をお話くださいな」
「は、はい! 僕たちは、はめられたんです!! 先日、父が家を改修したのですが、その時に知己の建築家に設計と作業を依頼して……。しばらくしたら、その建築家が亡くなったのです。彼が住んでいた家が燃えてしまい、焼死体が発見され……」
「なるほど。その死体は建築家の方のもので間違いないと?」
「はい。憲兵隊はそう判断したみたいです。そして焼け残った金属製の家具から遺書が見つかりまして。建築家の遺産を全て、父へ譲渡すると……」
「ふむふむ!」
シャーロットが前のめりになった。
事件の香りを感じたらしい。
これで、彼女はこの事件に絶対に関わることになるだろう。
「父は遺産目的で建築家を殺した疑いを掛けられて、逮捕されてしまいました! ああ、なんということだ! これは汚名です! 父はそんな事をするような人ではありません!」
若者もヒートアップしている。
ここは紅茶でも飲んで落ち着いたほうがいいのでは?
私はそう思って、勝手知ったるシャーロットの家でお湯を沸かし始めた。
いい香りのする新しい茶葉を見つけたので、これの封を切ってティーポットにそそいでいると……。
シャーロットがそれに気付いて、「あっ」という顔をした。
ふふふ、私に任せたのがいけないのだよ。
その代わり、美味しい紅茶を淹れてあげる。
私だって日々、修行をしているのだ。
ちょうどお湯もいい加減。
ティーポットの中で、茶葉を蒸らしている頃である。
扉が激しくノックされた。
窓から一階を見下ろしたシャーロット。
「あら、デストレード」
「シャーロット。容疑者がお宅に入っていったという目撃情報があるんです。ゼンニーン家の人々は全員容疑者です。タクランダー氏殺害の関与が疑われています」
大人しく、ゼンニーン家の若者を差し出せ、とデストレードは告げた。
彼女は有能な憲兵だが、融通が利かない。
「せめて、紅茶を飲み終わるくらいの間は?」
「……それくらいならいいでしょう」
ということで、デストレードと憲兵たちもやって来て、みんなで紅茶を飲んだ。
お菓子も食べた。
デストレードの雰囲気は、ピリピリしていなかったので、私は「おやっ?」と思う。
彼女はもしかして、この若者を犯人だと思っていないのではないだろうか?
その後、若者は憲兵たちに連れて行かれてしまった。
憲兵所に確保して、尋問するのだとか。
「彼は何も知らないでしょうね」
シャーロットの言葉に、ここに残ったデストレードが肩をすくめた。
「でしょうねえ。ですが、これが私たちの仕事なものでね。しっかりとやっておかねば、明日にでも犯罪を犯そうとする者たちへの睨みを効かせられないのです。案外、こういう抑止力となる演出が大事なのですよ」
「やっぱりデストレードも、この事件の犯人はゼンニーン家の人たちじゃないと思っているの?」
「彼らの評判はこちらにも届いていますからね。ごく普通の、善良な家族です。ですが憲兵は、その善良な人々を絞り上げねばなりません。焼死体は炭化していて、身につけたものでタクランダー氏だと判断する他ありませんでしたからね。遺書が見つかった以上は、順当と思われる業務を行うだけです」
ここでデストレードが、分かってるな、という目でシャーロットを見た。
シャーロットがにっこり笑う。
「ではわたくしも、依頼された仕事を独自に片付けていくだけですわ。もしかしたら、意外な真相が明らかになってしまうかも」
「そりゃあ参りましたね。憲兵の仕事がまた増えてしまう。それじゃあ、私はこれで」
デストレードはそう告げると去っていった。
「ねえシャーロット。これってあからさまに、デストレードからも依頼されたみたいなものよね」
「ええ。事件解決の暁には、憲兵隊から豪華なランチ代くらいはいただきましょうね」
「賛成!」
そういうことになって、早速私たちは動き出すのだった。
さあ、そうなれば調査の準備!
一旦ナイツの馬車で家まで戻り、ナイツとバスカーをチェンジ!
バスカーはお散歩に出られると思ったのか、尻尾を振りながら走ってきた。
「バスカーの鼻が頼りなのよー」
『わふー?』
理由がどうであれ、外で走れるのが嬉しいバスカー。
彼を連れて、私とシャーロットは、まずはゼンニーン家へ向かうのだった。
私は基本的に、貴族街と商店街と下町ばかり行っているから、それ以外の街区とは馴染みが薄い。
ゼンニーン家は貴族でもなんでもなく、ゼニシュタイン商会に勤める真面目な商人の一家なのだった。
それでも、到着したゼンニーン家を見て、私は感心してしまった。
「きちんとした家が建ってるじゃない。さすがはゼニシュタイン商会ねえ」
「ええ。ゼンニーン氏の実直な性格と、重要な仕事を達成する能力から、商会では重用されていたようですわね。さあ、聞き込みと参りましょうか!」
いざ、事件の渦中へ。
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