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シャーロット最後の事件?
第120話 上陸、ストラーダ地方
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ジャクリーンの帆船は仕掛けてくるかと思ったら、一定の距離を取ったまま追跡してくるだけなのだ。
「攻撃してきなさいよー」
「ジャクリーンもおバカではありませんからね。今まで、どれだけジャネット様から痛い目に遭ったか覚えているのでしょう」
私が振り返ると、やる気満々のナイツに、鼻息も荒いバスカー。
この一人と一匹で、船一隻なら楽々鎮圧できそう。
「なるほど。戦力を用意しすぎたのね」
「強い力を持つことは、逆に争いを遠ざけますものねー」
ということで、船旅は一転してのんびりしたものになった。
向こうの甲板にジャクリーンがいるので、あっかんべーをしてやる。
すると向こうも変なポーズをして煽ってきた。
「生意気な」
「お嬢と精神年齢が近いのかも知れませんな。聞いた話だと、もう何十年も犯罪を裏で操ってきたとかいう輩らしいのに、気持ちが若いですなあ」
ナイツが変なところで感心している。
「多分、そうじゃないと継続して活動するなんてのは無理なんだと思うな。あれはあれで尊敬すべきところはあるわね」
緊張感があるんだか無いんだか。
全く手出しをしてこないジャクリーン。
しかし、しっかりと後をつけてくる。
うちの船に、ナイツとバスカーがいる限り、向こうは何も出来ないのだ。
だが、これはつまり……。
「このままでは千日手ですわねえ」
千日手は、ウォーフィギュアという卓上ゲームにおいて、互いの実力が拮抗して勝負がつかない様を言うのだ。
なるほど、私がナイツたちを連れている限り、ジャクリーンは何もしてこない。
それは決着をつけることができないとも言えるわけか。
「ストラーダに上陸したら、別行動をしましょう。わたくしの元にジャクリーンをおびき寄せますわ!」
「そうしたら、ジャクリーンの手下もついてくるでしょ。危ないって」
「そこはジャネット様にお任せしますわ! どうせ、到着と同時に大変なことになるでしょうから」
シャーロットは、まるで先のことがどうなるか分かっているみたいだった。
やがて、見えてきた陸地。
リュカ・ゼフィ号は精霊船で、常に追い風を受けて走れるからとんでもなく速いはず。
ジャクリーンはよく追いつけるものだ。
そんな疑問を抱いていたら、シャーロットが教えてくれた。
「あれは遺跡の力を使った自走船ですわ。遺跡から発掘される動力機関は汎用性がありますもの。いつだったか、偽札作りの機械が無くなっていたことがあったでしょう? ああやって様々な事件に介入して、こうやって使う時のための道具を集めているのでしょうね」
「なるほど。犯罪は、次の犯罪をするための布石なんだ」
「そういうことですわ。だからジャクリーンは恐ろしいんですの」
少しずつ、ジャクリーンの船が近づいてくる。
それは、飛び移れない程度の距離で並走する形になった。
向こうの船から、ごうごうという機械音が聞こえてくる。
船の後方に車輪がついていて、それが水を掻き分けつつ回転していた。
間に海を隔てて、シャーロットとジャクリーンがにらみ合う。
シャーロットが赤いドレスを着ていて、ジャクリーンが活動的な格好をしているのがいつもとは対照的。
「決着をつけてやるわよ、シャーロット!」
「望むところですわ」
シャーロットはあくまで余裕。
こうして、二隻の船は陸へと到着した。
リュカ・ゼフィ号から降り立つのは、私たちの他は武装した船員一同。
ジャクリーンの船からは手下たちがわらわら降りてくる。
その中に、一人だけ槍を携えた武人っぽい人がいた。
「エルフェンバイン最強の戦士ナイツか。俺は東方は翡翠帝国より来た武侠、フェン。手合わせ願うぜ」
「おっ、ありゃあ強いな。お嬢、俺はちょっと掛かりきりになりますよぜ
「ナイツがそう言うんだから、めちゃくちゃ強いんでしょあれ。任せたわ。バスカー、雑魚をやるわよ!」
『わふーん!』
私の周りで、バスカーが暴れまわる。
私だって、棒を一本、船員から借りて大立ち回り。
相手の足を引っ掛けたり、脇腹を小突いてバランスを崩したり。
長物があれば、腕力が無くたって戦えるのだ。
大混戦の中、気付く。
シャーロットがいない。
ジャクリーンもだ。
こうなることを、シャーロットは分かっていたのだろう。
今、二人はどこにいる?
それを知るには、バスカーに頼るしかないでしょ。
この混沌とした状況をくぐり抜けないと、それは敵わないけど……。
ナイツと槍の男は、激しく争ってる。
槍は縦横無尽に振り回されて、突いたと思うと払い、あるいは槍を足場にして男が高く跳躍して、そこから拾い上げた槍を地面めがけて激しく突いてきたりする。
これをナイツが剣でいなし、かいくぐって懐に飛び込み、距離を詰められるのを嫌った男が槍をしならせながら牽制して高速で後退する。
うーん、確かに強い!
辺境に欲しいなあ、あの東洋人。
事件が終わったらスカウトしよう!
私は心に決めた。
そしてそんなことを考えている間に、状況を一転させる、シャーロットの切り札が発動したのだ。
諸々の準備を終えたらしい船長が、船上から降りてくる。
彼が帽子を捨て、付け髭をバリバリ音を立てて剥がす。
なんだか身長がぐんと伸びたような……?
そこには見覚えのある、シャーロットによく似た顔立ちがあった。
「ワトサップ辺境伯令嬢。後は私が引き受けましょう。妹の後を追って下さい。なに、たまにはこうして運動をせねば、貴族の仕事ばかりでは体が鈍ってしまいますからね」
彼は……ラムズ侯爵マクロストは私にウィンクした。
そして、襲ってきたジャクリーンの手下を、魔法みたいな手さばきで一回転させ、地面に叩き伏せる。
うわー、何が起こったか全然分からなかった。
マクロストの登場で、戦況が一変した。
この人、素手のナイツみたいな人なんだな!
ジャクリーンの手下が、次々地面に叩き伏せられていく。
私とバスカーが自由になった。
「さあ、行ってらっしゃい」
「ええ、ありがとう!」
『わふ!』
私とバスカーは駆け出す。
シャーロットとジャクリーンが決着をつけようとしているその場所へ!
「攻撃してきなさいよー」
「ジャクリーンもおバカではありませんからね。今まで、どれだけジャネット様から痛い目に遭ったか覚えているのでしょう」
私が振り返ると、やる気満々のナイツに、鼻息も荒いバスカー。
この一人と一匹で、船一隻なら楽々鎮圧できそう。
「なるほど。戦力を用意しすぎたのね」
「強い力を持つことは、逆に争いを遠ざけますものねー」
ということで、船旅は一転してのんびりしたものになった。
向こうの甲板にジャクリーンがいるので、あっかんべーをしてやる。
すると向こうも変なポーズをして煽ってきた。
「生意気な」
「お嬢と精神年齢が近いのかも知れませんな。聞いた話だと、もう何十年も犯罪を裏で操ってきたとかいう輩らしいのに、気持ちが若いですなあ」
ナイツが変なところで感心している。
「多分、そうじゃないと継続して活動するなんてのは無理なんだと思うな。あれはあれで尊敬すべきところはあるわね」
緊張感があるんだか無いんだか。
全く手出しをしてこないジャクリーン。
しかし、しっかりと後をつけてくる。
うちの船に、ナイツとバスカーがいる限り、向こうは何も出来ないのだ。
だが、これはつまり……。
「このままでは千日手ですわねえ」
千日手は、ウォーフィギュアという卓上ゲームにおいて、互いの実力が拮抗して勝負がつかない様を言うのだ。
なるほど、私がナイツたちを連れている限り、ジャクリーンは何もしてこない。
それは決着をつけることができないとも言えるわけか。
「ストラーダに上陸したら、別行動をしましょう。わたくしの元にジャクリーンをおびき寄せますわ!」
「そうしたら、ジャクリーンの手下もついてくるでしょ。危ないって」
「そこはジャネット様にお任せしますわ! どうせ、到着と同時に大変なことになるでしょうから」
シャーロットは、まるで先のことがどうなるか分かっているみたいだった。
やがて、見えてきた陸地。
リュカ・ゼフィ号は精霊船で、常に追い風を受けて走れるからとんでもなく速いはず。
ジャクリーンはよく追いつけるものだ。
そんな疑問を抱いていたら、シャーロットが教えてくれた。
「あれは遺跡の力を使った自走船ですわ。遺跡から発掘される動力機関は汎用性がありますもの。いつだったか、偽札作りの機械が無くなっていたことがあったでしょう? ああやって様々な事件に介入して、こうやって使う時のための道具を集めているのでしょうね」
「なるほど。犯罪は、次の犯罪をするための布石なんだ」
「そういうことですわ。だからジャクリーンは恐ろしいんですの」
少しずつ、ジャクリーンの船が近づいてくる。
それは、飛び移れない程度の距離で並走する形になった。
向こうの船から、ごうごうという機械音が聞こえてくる。
船の後方に車輪がついていて、それが水を掻き分けつつ回転していた。
間に海を隔てて、シャーロットとジャクリーンがにらみ合う。
シャーロットが赤いドレスを着ていて、ジャクリーンが活動的な格好をしているのがいつもとは対照的。
「決着をつけてやるわよ、シャーロット!」
「望むところですわ」
シャーロットはあくまで余裕。
こうして、二隻の船は陸へと到着した。
リュカ・ゼフィ号から降り立つのは、私たちの他は武装した船員一同。
ジャクリーンの船からは手下たちがわらわら降りてくる。
その中に、一人だけ槍を携えた武人っぽい人がいた。
「エルフェンバイン最強の戦士ナイツか。俺は東方は翡翠帝国より来た武侠、フェン。手合わせ願うぜ」
「おっ、ありゃあ強いな。お嬢、俺はちょっと掛かりきりになりますよぜ
「ナイツがそう言うんだから、めちゃくちゃ強いんでしょあれ。任せたわ。バスカー、雑魚をやるわよ!」
『わふーん!』
私の周りで、バスカーが暴れまわる。
私だって、棒を一本、船員から借りて大立ち回り。
相手の足を引っ掛けたり、脇腹を小突いてバランスを崩したり。
長物があれば、腕力が無くたって戦えるのだ。
大混戦の中、気付く。
シャーロットがいない。
ジャクリーンもだ。
こうなることを、シャーロットは分かっていたのだろう。
今、二人はどこにいる?
それを知るには、バスカーに頼るしかないでしょ。
この混沌とした状況をくぐり抜けないと、それは敵わないけど……。
ナイツと槍の男は、激しく争ってる。
槍は縦横無尽に振り回されて、突いたと思うと払い、あるいは槍を足場にして男が高く跳躍して、そこから拾い上げた槍を地面めがけて激しく突いてきたりする。
これをナイツが剣でいなし、かいくぐって懐に飛び込み、距離を詰められるのを嫌った男が槍をしならせながら牽制して高速で後退する。
うーん、確かに強い!
辺境に欲しいなあ、あの東洋人。
事件が終わったらスカウトしよう!
私は心に決めた。
そしてそんなことを考えている間に、状況を一転させる、シャーロットの切り札が発動したのだ。
諸々の準備を終えたらしい船長が、船上から降りてくる。
彼が帽子を捨て、付け髭をバリバリ音を立てて剥がす。
なんだか身長がぐんと伸びたような……?
そこには見覚えのある、シャーロットによく似た顔立ちがあった。
「ワトサップ辺境伯令嬢。後は私が引き受けましょう。妹の後を追って下さい。なに、たまにはこうして運動をせねば、貴族の仕事ばかりでは体が鈍ってしまいますからね」
彼は……ラムズ侯爵マクロストは私にウィンクした。
そして、襲ってきたジャクリーンの手下を、魔法みたいな手さばきで一回転させ、地面に叩き伏せる。
うわー、何が起こったか全然分からなかった。
マクロストの登場で、戦況が一変した。
この人、素手のナイツみたいな人なんだな!
ジャクリーンの手下が、次々地面に叩き伏せられていく。
私とバスカーが自由になった。
「さあ、行ってらっしゃい」
「ええ、ありがとう!」
『わふ!』
私とバスカーは駆け出す。
シャーロットとジャクリーンが決着をつけようとしているその場所へ!
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