上 下
119 / 225
シャーロット最後の事件?

第119話 リュカ・ゼフィ号へ!

しおりを挟む
 憲兵がシャーロットの家を訪ねてきて、彼女と何か話をしている。
 一言二言交わす程度だったけれど、それで十分だったらしい。

「ジャネット様。それではわたくし、行って参りますわね!」

「あっ、一人で決戦に向かおうとしてるわね!? ナイツ、ちょっと家に行って旅行道具準備させて取ってきて!」

「お嬢一人にしとくと危ないでしょ。シャーロット嬢は一人でも大丈夫だから、まずは帰って準備ですぜお嬢」

「ええー」

 嫌がる私だったが、ナイツにヒョイッと担がれて、そのまま運ばれていってしまった。
 シャーロットは、私がついていくと言ったのが嬉しかったらしく、

「それじゃあ、道行きについてはこのようにお願いしますわね。そして港にある船に乗り込んで欲しいんですの。はい、これは船長に渡す紹介状」

 果たしてほしい用事まで聞いて、つまりこれは、私とシャーロットは別行動でジャクリーンを追い詰めるというわけね。
 いいじゃない。

 大急ぎで家に戻り、メイドたちと三人で荷物を纏める。

「お嬢様、今更ですけれども危ないことは避けてくださいね」

「そうだ、バスカーを連れて行って下さい!」

『わふん』

 ということで、一匹増えた。
 私とナイツとバスカーで、猛スピードで港へ向かう。
 そこには、優美な姿をした真っ白な帆船があった。

 船の横には、『リュカ・ゼフィ号』と書かれている。
 これって、シャーロットが幼い頃に乗った船?

 紹介状を手渡すと、私たちは乗り込むことができた。
 バスカーを見て、流石に船長も顔をしかめたが……。

「船長、このお方はワトサップ辺境伯令嬢だぜ」

「えっ、あの噂の豪傑!?」

 と私を見る目が変わり、すぐにバスカーを受け入れてくれた。
 豪傑ってなんだ。

『わふわふ』

 まあまあ、という感じでバスカーが前足を私の肩に置いてくる。
 そして、船に乗り込むようぎゅうぎゅう押してきた。

「分かった分かった。乗るわよ」

 船に乗り込むと、他に客でもいるかと思ったらびっくり。
 私たちの他には、赤いドレスのご婦人以外誰もいない。

「あのー、シャーロット……じゃない、ラムズ侯爵令嬢は乗り込んでないの?」

 船長に尋ねると、彼はちらりとご婦人を見た。
 赤いドレスの彼女が微笑みながら、ハンカチで顔を拭ってみせると……それは変装したシャーロットだったのだ!

「一人でここまで来るには、ジャクリーンの妨害が予想されるでしょう? わたくし、こう見えて変装もできるんですのよ?」

 どうやら素早く変装して、港までやって来たらしい。

「そんなに、今のジャクリーンは危険なの?」

「それはもちろん。ついに逮捕されてしまいそうというので、なりふり構わずですわよ。わたくしを潰せば、彼女はいくらでも憲兵の手から逃れられるでしょうし。逆を言えば、わたくしがいる限りは彼女は常に捕まる危険がある、ということですわね」

 シャーロットは余裕の笑みでそう告げてから、船長に船を出すよう指示をした。

「シャーロット、この船って、前にあなたが話していた……?」

「ええ。元婚約者の船。今ではラムズ侯爵家が買い取って、私用で使っていますの。観光客を乗せて遊覧船としても活動していて、これが家の収入にもなっていますのよ?」

 たくましい。

 船が海上を走り出すと、しばらくして後方にもう一隻の船が見えた。

「ジャクリーンですわね。追ってきてますわ」

 シャーロットは、彼女自身を囮にしてジャクリーンをおびき寄せたわけだ。
 向こうだってそんなことは承知なんだろうけど、とにかくシャーロットをどうにかしないと、今後の仕事ができなくなるんだろう。
 全力で迫ってくる後方の帆船。

 必死だなあ。

「接舷してくれりゃ、俺とバスカーがちょっと乗り移って大暴れしますがね」

「それがいい」

 私がナイツの素晴らしいアイディアに頷くと、シャーロットが苦笑した。

「いつものですわね。ですけど、毎度それでジャクリーンには逃げられてますわ。彼女、どうにもならないタイプの危険から逃げるのは天才的ですもの。つまり、ジャクリーンを追い詰めるには、自分でもなんとかなるかも……と思える程度の脅威を用意しなければならないということ」

「そこでよく自分を囮に、とか考えるよねえ」

「あら、ジャネット様も一緒でしょう?」

 そうだった!
 蛮族の族長を釣り上げた時、私はまさに囮だった。

 ギルス曰く、『王国の最も恐ろしい女将軍は恐怖の象徴でしたぜ。お嬢がいるだけで、騎士たちの士気が上がって、弱兵が死をも恐れない強者になりやすからね。だから、族長はお嬢の首を自ら刈ろうとしたんでしょうや。そうしなきゃ、うちの士気がやばかったんで』とか。
 自らの手で、障害になるものを取り除かねば前にも後にも行けないことってあるのだ。

 蛮族にとっての障害が私で、ジャクリーンにとっての障害がシャーロットというわけか。
 なーんだ。
 似た者同士じゃないか、私たち。

「シャーロット、行き先は?」

「エルフェンバイン北部の渓谷地帯、ストラーダですわ。風光明媚ないいところですわよ」

「これが観光旅行だったら最高だったのに」

「あら、ちょっとスリルがある方が、ジャネット様の好みだと思ってましたけれど」

「ばれたか」

 和やかに談笑しつつ、リュカ・ゼフィ号は、ジャクリーンの船との追いかけっこをするのだった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】4人の令嬢とその婚約者達

cc.
恋愛
仲の良い4人の令嬢には、それぞれ幼い頃から決められた婚約者がいた。 優れた才能を持つ婚約者達は、騎士団に入り活躍をみせると、その評判は瞬く間に広まっていく。 年に、数回だけ行われる婚約者との交流も活躍すればする程、回数は減り気がつけばもう数年以上もお互い顔を合わせていなかった。 そんな中、4人の令嬢が街にお忍びで遊びに来たある日… 有名な娼館の前で話している男女数組を見かける。 真昼間から、騎士団の制服で娼館に来ているなんて… 呆れていると、そのうちの1人… いや、もう1人… あれ、あと2人も… まさかの、自分たちの婚約者であった。 貴方達が、好き勝手するならば、私達も自由に生きたい! そう決意した4人の令嬢の、我慢をやめたお話である。 *20話完結予定です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

処理中です...