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裏切りの代価事件

第112話 王都蛮族包囲網

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 シャーロットが憲兵所に連絡すると、そのまま私たちについてきた。

「あれ? ジャクリーンを追うんじゃなかったの?」

「ジャネット様の活躍次第で、ジャクリーンが動くかどうかが決まると思うんですのよね。それにこっちにいた方が楽しそう」

 楽しそう、が本音だな!

「ま、大丈夫だろ。標的はギルスだ。俺が守るから大丈夫だぜ」

「あら、わたくしだってそれなりにやりますのよ?」

 おっ、ナイツとシャーロットが張り合っている。
 そしてそれを横でニコニコしながら見つめるギルス。
 君が守られる立場だからヒロインだな。

 憲兵との連絡は、下町遊撃隊の子たちが担当する。
 私たちはシャーロットの馬無し馬車を使って、一旦家に帰ることにした。

 目的は……。

『わふわふ!』

「バスカー、トライエッジについたにおいは覚えた?」

『わふー!』

「よーし、バスカー、ゴー!」

『わっふー!』

 バスカーが駆け出した。
 馬なし馬車がそれを追う。
 バスカーとインビジブルストーカーはすっかり仲良しになっているので、息もぴったりだ。

 息するのかな?

 猛烈な勢いで街路を疾走するバスカー。
 道のあちこちで、憲兵が歩き回っているのを見かける。
 彼ら全員が、首から呼笛を下げていて、蛮族を発見次第これで仲間を呼ぶのだ。

 通り過ぎる私たちに、憲兵が敬礼する。
 事は、王都の一大事。

 エルフェンバインを狙う蛮族の一味が王都に入り込んだのだから、大変だ。
 下町遊撃隊の子の話では、もうじき国王直属の騎士団も投入されるとか。

 蛮族に逃げ場なし!
 王都蛮族包囲網の完成なのだ。

「侵入したら生きては帰れないだろうに、よく来たよねえ」

 私の呟きに、ギルスが頷いた。

「けじめっつーやつっすな。あいつら、俺が裏切ってのうのうと生きてるのが許せねえんだ。俺もそんな気なかったのが、お館様と話したらコロッとやられちまったもんだからなあ……」

「なるほど、命がけでけじめを付けに来たと。気持ちは分かるなあ。だけど、ギルスはもううちの身内だもの。守れるなら守りきるし、刺客は撃退するよ」

「お嬢!!」

 ギルスが感激して目を潤ませた。
 髭面の巨漢が乙女みたいな仕草をしているなあ。

『わふ!!』

 バスカーが高らかに鳴く。
 においのする場所を嗅ぎ当てたのだ。

 そこは狭い路地。
 馬車は入り込めないから、みんなで降りて向かうのだ。

「こりゃ狭いな。二人並んだら剣も振れねえ」

 ナイツがそう呟いたかと思うと、真っ先に路地に駆け込んでいく。
 そして壁を蹴りつけながら昇り、そのまま真横に走っていくという技を見せた。

「なるほど、ああしていれば上から攻撃される心配はありませんし、下に誰かが隠れていても一望にできますものね。合理的ですわ。ナイツさん以外誰もあれができないという点を除けばですけど」

「そうだねえ、ナイツしかできないねえ」

 私たちは後から、バスカーを先頭にしてのんびり向かうことにする。
 ギルスをバスカーの真後ろにしておけば、とても目立つし、蛮族たちは真っ先に狙ってくることだろう。
 さあこいこい。

 私は蛮族の性質をよく知っている。
 狡猾さもあるが、標的と定めた相手には、猪突猛進に向かってくるタイプが多い。
 彼らもそうに違いない。

 だって、昼日中、シャーロットの家に武器を投げ込むくらいなのだもの。

「すぐ来ると思うから注意してて。ギルスは剣を構えてて。顔の前に立てておけば、一撃で殺されることはないから」

「へ、へい!」

「こう言う時のジャネット様は頼りになりますわねえ。経験が物を言うんですのね」

「それはね。小さい頃から戦場に立ってればねー」

 シャーロットと談笑しながら進んだら、すぐにギルスの剣に何かがぶつかってきた。
 ギャリギャリギャリと音を立てて回転するそれが、ギルスの掲げていた剣を切断する。

「うおっ!」

 ギルスが慌てて首を避けたら、回転するものが私の頭上を越えていった。

「バリツ!」

 それを掴み取る辺りがシャーロット。
 飛来してきたのはトライエッジだった。
 刃を掴んだので、それを回転させているはずの機械みたいな部分だけがぐるぐる回っている。

「えいっ」

 シャーロットは当身を放って、機械の部分だけをスポーンと抜いた。
 そんなことできるんだ……!

「なるほど、これは厄介ですわねえ。初撃を躱す自信、わたくしにはありませんわ」

「だよねえ。まあ素手で掴み取る方もおかしいけど」

「ギルスさんが避けたタイミングで、どうやって飛んでくるかは推理できましてよ? 後は刃を削る音がしましたでしょう? あれで回転の度合いも分かりますし、刃が3つあることも分かってますもの」

 簡単なことですわ、と微笑む彼女。
 そんなわけあるか。

 ちなみにその間に、通路の奥で「ウグワー!!」と叫び声がした。
 そしてすぐさま、「無念!」と続いたのでナイツが倒したらしい。

 向かってみると、蛮族の一人が事切れていた。
 間違いなく、この顔に見覚えあり。

「私がナイツを連れてね、蛮族の族長と正面から戦ったんだけど、その守備をしていた五人のうちの一人だよ」

「族長を討ち取ったのジャネット様だったんですの!?」

「ナイツだよナイツ」

「いえ、そういう意味ではなくてですね」

 これは間違いなく、裏切り者であるギルスへの制裁。
 そしてジャクリーンが手を貸して、こいつらをエルフェンバインへと侵入させた。

 なるほど、私たちは確かに、こいつらに手一杯になってしまいそう。
 だったら、ジャクリーンは自由に動けてしまうことになる。

「どうしよう」

 私が考え込んだら、シャーロットが「簡単なことですわ!」と告げた。

「荒事を、ナイツさんとギルスさんとバスカーに任せればいいんです」

「ギルスが死にそう」

「頑張ってもらいましょう!」

「それもそうか」

 私は納得した。
 ギルスは「ええーっ!」とか不安げな声を上げていたが、あなただって族長を守る五人のうちの一人だったんだから、がんばりなさい。
 

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