104 / 225
辺境の地主事件
第104話 事件を追え~辺境都市観光案内~
しおりを挟む
「この位置に投石できそうな場所は何箇所かありますわね。巡ってみましょうか。ジャネット様、案内をお願いできます?」
「もちろん」
そういうことになったので、シャーロットを連れてあちこちを巡る。
「どこに行くのだジャネット? 何、シャーロット嬢が推理をするためにあちこち歩き回る? よしよし、ではせっかくだから辺境がどんなところだか、案内してあげるといい」
父の言葉を聞いて、シャーロットが小さくガッツポーズした。
これはつまり……私が彼女に、観光案内をするということでは。
まあいいか。
「シャーロット、とりあえずどれくらいの範囲で探せばいいの?」
「はい。石片は死体にもついていましたし、骨を砕いて潜り込んでいるものもありましたわ。高い威力の小型投石機を使ったものだと思うのですけれど、それを行った姿を見られないためにはそれなりの距離が必要ですわね。例えば……あの丘とか」
シャーロットが、地主の土地に隣接した丘を指差す。
なるほど、あれは一旦下って、町中を歩いてから登らないと。
「俺が馬車を走らせますかね? 上り下りにご婦人を歩かせるもんじゃないでしょう」
「ナイツ気が利く!」
ということで、ナイツに御者をしてもらい、町中を走ることになった。
行き交う人々もそれなりにいるから、馬車の速度は出せない。
自然と、人が速歩きする程度の速度になる。
「この辺りがね、ゴブリン通りって言うの。かつてゴブリンの大群を誘い込んで、この広い通りに集めて一網打尽にしたんだよ」
「歴史ある通りですのねえ」
「うん。ほら、あそこにゴブリンの彫像があるでしょ? あれに石を投げつけて、子どもたちは投石の訓練をするの。だから彫像もすぐすり減って、毎年更新されるんだよね」
「凄い伝統がありますのね……」
辺境の男たちは全員兵士だからねえ。
「あっ、ナイツ様とジャネット様だ!」
「ナイツ様ー!!」
「ジャネット様ー!」
道端から声が掛かる。
ナイツも私も手を振って返すのだ。
「ナイツさんの方が人気があるようで?」
「それはそうよ。彼って英雄だもの。冒険者としても辺境を何度も救っているし、騎士になって蛮族の長の首を取ったのも彼だし」
「なるほど、確かに英雄ですわね。辺境伯はよくぞ、そんな彼を王都に送り出しましたわねえ」
「ナイツが私の言うことしか聞かないし、それにお父様って案外過保護だから、私の安全を考えたんじゃない?」
「……過保護な親が娘を戦場に出すかねえ……」
ナイツがボソリと言ったのは聞こえないふりをした。
我が家は私しか子どもがいないんだから、私が戦場で采配しなくちゃ始まらないでしょ。
ということで、丘に向かう途中の次なる場所。
「湧き水ですの? 皆様がゆっくり休んでいらっしゃいますわね」
「ええ。ここは冷たい水が湧き出すところでね。魔王の泉って言って、かつて魔王が切り裂いた大地だったんだって。今はこうやって安全なように囲って、領民の憩いの場になっているわ」
「大体何かしら物騒ないわれがあるんですのね」
「ええ、あるわ」
こうして観光案内をしながら、丘に上っていく。
この丘も道は舗装されている。
なぜなら、ここは墓地だからだ。
辺境伯領の数ある墓地の一つ。
戦死した者たちは死体を焼かれて、残った骨をこの丘に埋められる。
そして彼らは、永遠に領都を見守ることになるのだ。
ちなみに、戦死してない者たちは平地にある墓地に埋葬される。
戦いの中で死んだということは、この国を守るために身を捧げたということで、尊いことである、とされているわけ。
騎士や兵士たちは、この丘に眠る事をこそ戦士の誇りだと考えている。
「ふむふむ……」
シャーロットが丘の上に立ち、地主の土地までの距離を測る。
指を立てて腕を伸ばし……。
「ここで間違いありませんわね。投石して一撃で石を当てて、地主の使用人を殺した。凄まじい腕前ですわ。放物線を描いて飛んでいく石の動きを、風向きとともに完璧に読み切っていたのですわね」
「……ということは、騎士か兵士の仕業だね、これ。そういう芸当ができる人、何人か知ってるもの」
「容疑者が絞られてきますわね」
シャーロットが微笑んだ。
「ナイツさんはどう見ますの?」
「仮にも同僚だからなあ。やれるやつは確かに何人かいるが、俺からそいつらを売るわけにゃ行かねえな。済まんがシャーロット嬢、自分でどうにか見つけてくれ」
「義理堅いのですわね。戦場ではそういうの、大切ですものねえ。さて……では犯人のピックアップと絞り込みを行わねばなりませんわね、ジャネット様」
私に話を振ってきた。
何故かシャーロット、足元に転がっていた長い棒を拾い上げ、それを検分している。
指先で棒の腹をさすって、先端の、擦れた跡があるところを見て頷いた。
「何か分かったみたいね。それはつまり、もう一度訓練所に戻るということでよろしい?」
「はい、よろしいですわ」
そういうことになった。
この事件、うちの騎士や兵士が犯人なのだとしたら、犯行の動機が察せられる。
やったことは悪いけれど、悪意があったわけじゃないものなあ……。
私は「うーん」と唸りながら、シャーロットとナイツを連れて訓練所に戻っていくのだった。
「もちろん」
そういうことになったので、シャーロットを連れてあちこちを巡る。
「どこに行くのだジャネット? 何、シャーロット嬢が推理をするためにあちこち歩き回る? よしよし、ではせっかくだから辺境がどんなところだか、案内してあげるといい」
父の言葉を聞いて、シャーロットが小さくガッツポーズした。
これはつまり……私が彼女に、観光案内をするということでは。
まあいいか。
「シャーロット、とりあえずどれくらいの範囲で探せばいいの?」
「はい。石片は死体にもついていましたし、骨を砕いて潜り込んでいるものもありましたわ。高い威力の小型投石機を使ったものだと思うのですけれど、それを行った姿を見られないためにはそれなりの距離が必要ですわね。例えば……あの丘とか」
シャーロットが、地主の土地に隣接した丘を指差す。
なるほど、あれは一旦下って、町中を歩いてから登らないと。
「俺が馬車を走らせますかね? 上り下りにご婦人を歩かせるもんじゃないでしょう」
「ナイツ気が利く!」
ということで、ナイツに御者をしてもらい、町中を走ることになった。
行き交う人々もそれなりにいるから、馬車の速度は出せない。
自然と、人が速歩きする程度の速度になる。
「この辺りがね、ゴブリン通りって言うの。かつてゴブリンの大群を誘い込んで、この広い通りに集めて一網打尽にしたんだよ」
「歴史ある通りですのねえ」
「うん。ほら、あそこにゴブリンの彫像があるでしょ? あれに石を投げつけて、子どもたちは投石の訓練をするの。だから彫像もすぐすり減って、毎年更新されるんだよね」
「凄い伝統がありますのね……」
辺境の男たちは全員兵士だからねえ。
「あっ、ナイツ様とジャネット様だ!」
「ナイツ様ー!!」
「ジャネット様ー!」
道端から声が掛かる。
ナイツも私も手を振って返すのだ。
「ナイツさんの方が人気があるようで?」
「それはそうよ。彼って英雄だもの。冒険者としても辺境を何度も救っているし、騎士になって蛮族の長の首を取ったのも彼だし」
「なるほど、確かに英雄ですわね。辺境伯はよくぞ、そんな彼を王都に送り出しましたわねえ」
「ナイツが私の言うことしか聞かないし、それにお父様って案外過保護だから、私の安全を考えたんじゃない?」
「……過保護な親が娘を戦場に出すかねえ……」
ナイツがボソリと言ったのは聞こえないふりをした。
我が家は私しか子どもがいないんだから、私が戦場で采配しなくちゃ始まらないでしょ。
ということで、丘に向かう途中の次なる場所。
「湧き水ですの? 皆様がゆっくり休んでいらっしゃいますわね」
「ええ。ここは冷たい水が湧き出すところでね。魔王の泉って言って、かつて魔王が切り裂いた大地だったんだって。今はこうやって安全なように囲って、領民の憩いの場になっているわ」
「大体何かしら物騒ないわれがあるんですのね」
「ええ、あるわ」
こうして観光案内をしながら、丘に上っていく。
この丘も道は舗装されている。
なぜなら、ここは墓地だからだ。
辺境伯領の数ある墓地の一つ。
戦死した者たちは死体を焼かれて、残った骨をこの丘に埋められる。
そして彼らは、永遠に領都を見守ることになるのだ。
ちなみに、戦死してない者たちは平地にある墓地に埋葬される。
戦いの中で死んだということは、この国を守るために身を捧げたということで、尊いことである、とされているわけ。
騎士や兵士たちは、この丘に眠る事をこそ戦士の誇りだと考えている。
「ふむふむ……」
シャーロットが丘の上に立ち、地主の土地までの距離を測る。
指を立てて腕を伸ばし……。
「ここで間違いありませんわね。投石して一撃で石を当てて、地主の使用人を殺した。凄まじい腕前ですわ。放物線を描いて飛んでいく石の動きを、風向きとともに完璧に読み切っていたのですわね」
「……ということは、騎士か兵士の仕業だね、これ。そういう芸当ができる人、何人か知ってるもの」
「容疑者が絞られてきますわね」
シャーロットが微笑んだ。
「ナイツさんはどう見ますの?」
「仮にも同僚だからなあ。やれるやつは確かに何人かいるが、俺からそいつらを売るわけにゃ行かねえな。済まんがシャーロット嬢、自分でどうにか見つけてくれ」
「義理堅いのですわね。戦場ではそういうの、大切ですものねえ。さて……では犯人のピックアップと絞り込みを行わねばなりませんわね、ジャネット様」
私に話を振ってきた。
何故かシャーロット、足元に転がっていた長い棒を拾い上げ、それを検分している。
指先で棒の腹をさすって、先端の、擦れた跡があるところを見て頷いた。
「何か分かったみたいね。それはつまり、もう一度訓練所に戻るということでよろしい?」
「はい、よろしいですわ」
そういうことになった。
この事件、うちの騎士や兵士が犯人なのだとしたら、犯行の動機が察せられる。
やったことは悪いけれど、悪意があったわけじゃないものなあ……。
私は「うーん」と唸りながら、シャーロットとナイツを連れて訓練所に戻っていくのだった。
0
お気に入りに追加
441
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
下げ渡された婚約者
相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。
しかしある日、第一王子である兄が言った。
「ルイーザとの婚約を破棄する」
愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。
「あのルイーザが受け入れたのか?」
「代わりの婿を用意するならという条件付きで」
「代わり?」
「お前だ、アルフレッド!」
おさがりの婚約者なんて聞いてない!
しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。
アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。
「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」
「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる