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辺境の地主事件
第104話 事件を追え~辺境都市観光案内~
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「この位置に投石できそうな場所は何箇所かありますわね。巡ってみましょうか。ジャネット様、案内をお願いできます?」
「もちろん」
そういうことになったので、シャーロットを連れてあちこちを巡る。
「どこに行くのだジャネット? 何、シャーロット嬢が推理をするためにあちこち歩き回る? よしよし、ではせっかくだから辺境がどんなところだか、案内してあげるといい」
父の言葉を聞いて、シャーロットが小さくガッツポーズした。
これはつまり……私が彼女に、観光案内をするということでは。
まあいいか。
「シャーロット、とりあえずどれくらいの範囲で探せばいいの?」
「はい。石片は死体にもついていましたし、骨を砕いて潜り込んでいるものもありましたわ。高い威力の小型投石機を使ったものだと思うのですけれど、それを行った姿を見られないためにはそれなりの距離が必要ですわね。例えば……あの丘とか」
シャーロットが、地主の土地に隣接した丘を指差す。
なるほど、あれは一旦下って、町中を歩いてから登らないと。
「俺が馬車を走らせますかね? 上り下りにご婦人を歩かせるもんじゃないでしょう」
「ナイツ気が利く!」
ということで、ナイツに御者をしてもらい、町中を走ることになった。
行き交う人々もそれなりにいるから、馬車の速度は出せない。
自然と、人が速歩きする程度の速度になる。
「この辺りがね、ゴブリン通りって言うの。かつてゴブリンの大群を誘い込んで、この広い通りに集めて一網打尽にしたんだよ」
「歴史ある通りですのねえ」
「うん。ほら、あそこにゴブリンの彫像があるでしょ? あれに石を投げつけて、子どもたちは投石の訓練をするの。だから彫像もすぐすり減って、毎年更新されるんだよね」
「凄い伝統がありますのね……」
辺境の男たちは全員兵士だからねえ。
「あっ、ナイツ様とジャネット様だ!」
「ナイツ様ー!!」
「ジャネット様ー!」
道端から声が掛かる。
ナイツも私も手を振って返すのだ。
「ナイツさんの方が人気があるようで?」
「それはそうよ。彼って英雄だもの。冒険者としても辺境を何度も救っているし、騎士になって蛮族の長の首を取ったのも彼だし」
「なるほど、確かに英雄ですわね。辺境伯はよくぞ、そんな彼を王都に送り出しましたわねえ」
「ナイツが私の言うことしか聞かないし、それにお父様って案外過保護だから、私の安全を考えたんじゃない?」
「……過保護な親が娘を戦場に出すかねえ……」
ナイツがボソリと言ったのは聞こえないふりをした。
我が家は私しか子どもがいないんだから、私が戦場で采配しなくちゃ始まらないでしょ。
ということで、丘に向かう途中の次なる場所。
「湧き水ですの? 皆様がゆっくり休んでいらっしゃいますわね」
「ええ。ここは冷たい水が湧き出すところでね。魔王の泉って言って、かつて魔王が切り裂いた大地だったんだって。今はこうやって安全なように囲って、領民の憩いの場になっているわ」
「大体何かしら物騒ないわれがあるんですのね」
「ええ、あるわ」
こうして観光案内をしながら、丘に上っていく。
この丘も道は舗装されている。
なぜなら、ここは墓地だからだ。
辺境伯領の数ある墓地の一つ。
戦死した者たちは死体を焼かれて、残った骨をこの丘に埋められる。
そして彼らは、永遠に領都を見守ることになるのだ。
ちなみに、戦死してない者たちは平地にある墓地に埋葬される。
戦いの中で死んだということは、この国を守るために身を捧げたということで、尊いことである、とされているわけ。
騎士や兵士たちは、この丘に眠る事をこそ戦士の誇りだと考えている。
「ふむふむ……」
シャーロットが丘の上に立ち、地主の土地までの距離を測る。
指を立てて腕を伸ばし……。
「ここで間違いありませんわね。投石して一撃で石を当てて、地主の使用人を殺した。凄まじい腕前ですわ。放物線を描いて飛んでいく石の動きを、風向きとともに完璧に読み切っていたのですわね」
「……ということは、騎士か兵士の仕業だね、これ。そういう芸当ができる人、何人か知ってるもの」
「容疑者が絞られてきますわね」
シャーロットが微笑んだ。
「ナイツさんはどう見ますの?」
「仮にも同僚だからなあ。やれるやつは確かに何人かいるが、俺からそいつらを売るわけにゃ行かねえな。済まんがシャーロット嬢、自分でどうにか見つけてくれ」
「義理堅いのですわね。戦場ではそういうの、大切ですものねえ。さて……では犯人のピックアップと絞り込みを行わねばなりませんわね、ジャネット様」
私に話を振ってきた。
何故かシャーロット、足元に転がっていた長い棒を拾い上げ、それを検分している。
指先で棒の腹をさすって、先端の、擦れた跡があるところを見て頷いた。
「何か分かったみたいね。それはつまり、もう一度訓練所に戻るということでよろしい?」
「はい、よろしいですわ」
そういうことになった。
この事件、うちの騎士や兵士が犯人なのだとしたら、犯行の動機が察せられる。
やったことは悪いけれど、悪意があったわけじゃないものなあ……。
私は「うーん」と唸りながら、シャーロットとナイツを連れて訓練所に戻っていくのだった。
「もちろん」
そういうことになったので、シャーロットを連れてあちこちを巡る。
「どこに行くのだジャネット? 何、シャーロット嬢が推理をするためにあちこち歩き回る? よしよし、ではせっかくだから辺境がどんなところだか、案内してあげるといい」
父の言葉を聞いて、シャーロットが小さくガッツポーズした。
これはつまり……私が彼女に、観光案内をするということでは。
まあいいか。
「シャーロット、とりあえずどれくらいの範囲で探せばいいの?」
「はい。石片は死体にもついていましたし、骨を砕いて潜り込んでいるものもありましたわ。高い威力の小型投石機を使ったものだと思うのですけれど、それを行った姿を見られないためにはそれなりの距離が必要ですわね。例えば……あの丘とか」
シャーロットが、地主の土地に隣接した丘を指差す。
なるほど、あれは一旦下って、町中を歩いてから登らないと。
「俺が馬車を走らせますかね? 上り下りにご婦人を歩かせるもんじゃないでしょう」
「ナイツ気が利く!」
ということで、ナイツに御者をしてもらい、町中を走ることになった。
行き交う人々もそれなりにいるから、馬車の速度は出せない。
自然と、人が速歩きする程度の速度になる。
「この辺りがね、ゴブリン通りって言うの。かつてゴブリンの大群を誘い込んで、この広い通りに集めて一網打尽にしたんだよ」
「歴史ある通りですのねえ」
「うん。ほら、あそこにゴブリンの彫像があるでしょ? あれに石を投げつけて、子どもたちは投石の訓練をするの。だから彫像もすぐすり減って、毎年更新されるんだよね」
「凄い伝統がありますのね……」
辺境の男たちは全員兵士だからねえ。
「あっ、ナイツ様とジャネット様だ!」
「ナイツ様ー!!」
「ジャネット様ー!」
道端から声が掛かる。
ナイツも私も手を振って返すのだ。
「ナイツさんの方が人気があるようで?」
「それはそうよ。彼って英雄だもの。冒険者としても辺境を何度も救っているし、騎士になって蛮族の長の首を取ったのも彼だし」
「なるほど、確かに英雄ですわね。辺境伯はよくぞ、そんな彼を王都に送り出しましたわねえ」
「ナイツが私の言うことしか聞かないし、それにお父様って案外過保護だから、私の安全を考えたんじゃない?」
「……過保護な親が娘を戦場に出すかねえ……」
ナイツがボソリと言ったのは聞こえないふりをした。
我が家は私しか子どもがいないんだから、私が戦場で采配しなくちゃ始まらないでしょ。
ということで、丘に向かう途中の次なる場所。
「湧き水ですの? 皆様がゆっくり休んでいらっしゃいますわね」
「ええ。ここは冷たい水が湧き出すところでね。魔王の泉って言って、かつて魔王が切り裂いた大地だったんだって。今はこうやって安全なように囲って、領民の憩いの場になっているわ」
「大体何かしら物騒ないわれがあるんですのね」
「ええ、あるわ」
こうして観光案内をしながら、丘に上っていく。
この丘も道は舗装されている。
なぜなら、ここは墓地だからだ。
辺境伯領の数ある墓地の一つ。
戦死した者たちは死体を焼かれて、残った骨をこの丘に埋められる。
そして彼らは、永遠に領都を見守ることになるのだ。
ちなみに、戦死してない者たちは平地にある墓地に埋葬される。
戦いの中で死んだということは、この国を守るために身を捧げたということで、尊いことである、とされているわけ。
騎士や兵士たちは、この丘に眠る事をこそ戦士の誇りだと考えている。
「ふむふむ……」
シャーロットが丘の上に立ち、地主の土地までの距離を測る。
指を立てて腕を伸ばし……。
「ここで間違いありませんわね。投石して一撃で石を当てて、地主の使用人を殺した。凄まじい腕前ですわ。放物線を描いて飛んでいく石の動きを、風向きとともに完璧に読み切っていたのですわね」
「……ということは、騎士か兵士の仕業だね、これ。そういう芸当ができる人、何人か知ってるもの」
「容疑者が絞られてきますわね」
シャーロットが微笑んだ。
「ナイツさんはどう見ますの?」
「仮にも同僚だからなあ。やれるやつは確かに何人かいるが、俺からそいつらを売るわけにゃ行かねえな。済まんがシャーロット嬢、自分でどうにか見つけてくれ」
「義理堅いのですわね。戦場ではそういうの、大切ですものねえ。さて……では犯人のピックアップと絞り込みを行わねばなりませんわね、ジャネット様」
私に話を振ってきた。
何故かシャーロット、足元に転がっていた長い棒を拾い上げ、それを検分している。
指先で棒の腹をさすって、先端の、擦れた跡があるところを見て頷いた。
「何か分かったみたいね。それはつまり、もう一度訓練所に戻るということでよろしい?」
「はい、よろしいですわ」
そういうことになった。
この事件、うちの騎士や兵士が犯人なのだとしたら、犯行の動機が察せられる。
やったことは悪いけれど、悪意があったわけじゃないものなあ……。
私は「うーん」と唸りながら、シャーロットとナイツを連れて訓練所に戻っていくのだった。
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