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遺跡の儀式事件~ヤング・シャーロット~
第96話 アンクト家の遺跡
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シャーロットの家に行くといつも思うのだが、彼女が後片付けなどをやった様子がないのに、妙に片付いているのだ。
本を読んだら放り出しっぱなしだし、外から帰ってもコートをその辺りの床に放り出している。
貴人は本来、自ら後片付けはしないものだけれど、それにしたって一人暮らしなんだから……と思わないでもない。
辺境は割と、自分のことは自分でやるところだったからね。
私の方が変わり者なのかも知れない。
ちなみに私が疑問に感じていた、シャーロット邸がいつも片付いている理由は直ぐに判明した。
ふわりと飲みさしのカップが浮かび上がり、洗い場に持っていかれる。
地面に置かれたコートは、見えない手がパンパンと払い、壁に掛けられる。
「シャドウストーカー、すごく仕事してくれるよねえ……」
「そうですわねえ。わたくしが一人暮らしをすると言った時、お兄様が心配してつけてくださったものなのですけれど、本当に助かっていますわ! わたくし一人だったら、大変なことになってましたわねえ」
「想像するのも恐ろしいよね」
私とシャーロットで顔を見合わせて笑う。
彼女と談笑している間にも、シャドウストーカーがバタバタ動き回って仕事をしている。
魔法生物だけれど、かなり高度な知性があるのだそうだ。
自分の判断で様々な仕事を行う。
シャーロットの護衛から、馬車を引っ張ったり、あるいは家事全般。
「どこで手に入るの、シャドウストーカー。便利すぎない?」
「これはですわね。以前、わたくしがワトサップ領とは逆側の辺境で、遺跡に行った話をしましたわよね?」
「ええ、覚えてるわ」
「あれは、わたくしが王立アカデミーを卒業した時のことなのですけれど、卒業旅行で遺跡を訪れて、シャドウストーカーをもらいうけたのですわ」
「へえ、そんなストーリーがあったのね! 人じゃないけど、人に歴史ありだなあ。シャーロットが王立アカデミーを卒業した頃って言うと……二年前くらい?」
「それくらいになりますかしら」
「聞きたい! 詳しいお話!」
「あら! じゃあ今日は、その時のお話をしましょうか。紅茶を淹れてきますわね? シャドウストーカーは、紅茶を淹れるのだけは不得意ですの」
シャーロットが立ち上がる。
そしてポットを火にかけながら、
「ちなみに、そこでも事件に巻き込まれましたのよ? それがまさしく、シャドウストーカー絡みで……」
「うんうん」
こうしてシャーロットが語りだす。
かつてあった事件の話。
■ ■ ■
馬車が到着したのは、辺境の農村。
かつては男爵領だったようだが、その男爵は十分な税を収められなかったために没落し、今は誰も領主がいない土地になっている。
アンクト男爵家と言ったのだが、なんとその男爵家は地主となり、今も領地を実質的に支配しているとか。
「これ、イニアナガ陛下なりの温情ですわね。土地の住民はアンクト男爵家を支持しているけれど、国の決まり的に義務を果たせない貴族はそのままにしておけない。かと言って新たな貴族では、この土地をまとめられない……。そういうことで、例外的にアンクト領は地主が管理する土地になっているのですわね」
シャーロットの言葉を聞いているのは、馬車の中にいるメイドだけ。
彼女はラムズ侯爵家から出向してきて、今はシャーロットのお世話をしているのだ。
だが、シャーロットが最近、一人暮らししたいといい出したことで、彼女は頭を抱えていた。
ラムズ侯爵に相談したところ、
『シャーロットが無茶を言い出すのはいつものことだね。よし、私も暇を作って妹と同行しよう。たまには息抜きが必要だし、無茶を言う妹の意見も変わるかも知れない』
そういうことになってしまったのだった。
当の侯爵は、なんと外で御者台に座り、馬を走らせて楽しんでいる。
メイドは、これは旦那様の息抜きがメインなのではないか、と訝しんだ。
「本当ならば、お兄様抜きで旅行したかったのですけれど。女だけの旅だと、良からぬ輩が絡んできますものねえ……。本当に困ったものですわ。わたくし、バリツの腕前なら十回に一回はお兄様に勝てるようになりましたのに」
「あはは……」
曖昧に笑って返すメイドであった。
どんな返事をしていいか分からない。
かくして、馬車はアンクト地方へ。
地主一家は総出で畑を耕していたのだが、馬車が到着すると麦穂を割って地主が飛び出してきた。
「ようこそおいでくださいました! 地主のアース・アンクトです」
やや太めでガッチリして、やや頭が薄くなった初老の男性である。
「ラムズ侯爵です。よろしく頼みますよ」
「はい! 遺跡の観光はうちの息子が担当してましてね。元冒険者でよく気が利く男です。後で紹介しますよ」
馬車から降りたシャーロットは、麦畑の遠く、エルフェンバインの国境にあたる
ところを見つめた。
そこには、遠目からも分かる不思議なものが存在している。
宙に浮かんだ、楕円形の物体だ。
遠く離れた場所からもしっかり分かるということは、とんでもない大きさがあるということになる。
「あれが遺跡ですのねえ。あそこから、たくさんの発掘物が出ていると聞きますわ。今から見に行くのが楽しみですわねえ……!」
本日は地主の家に一泊。
観光は明日から。
楽しみに胸を躍らせるシャーロットなのだったが……。
次の日の朝に起こった事件で、観光気分が吹き飛ぶことになってしまった。
「遺跡の鍵がない!」
地主の家は、アンクト男爵の屋敷をそのまま使ったものだ。
当主がアンクト男爵その人だし、家族も使用人も、男爵家の頃と何も変わっていないので、立場だけが変わったと言えよう。
そのため、地主の家としてはかなり大きい。
客間から顔を出したシャーロットは、吹き抜けになって見下ろせる一階に目をやった。
アース・アンクトが何かまくし立てている。
どうやら、雇っている農夫の一人が行方不明になり、遺跡の鍵も無くなってしまったようだ。
「事件の香りですわね。これは遺跡に行かなくてはですわ!」
「お嬢様! その前に髪とお召し物を……!」
事件の予感にテンションを上げながら、シャーロットはメイドによって部屋に連れ戻されるのだった。
本を読んだら放り出しっぱなしだし、外から帰ってもコートをその辺りの床に放り出している。
貴人は本来、自ら後片付けはしないものだけれど、それにしたって一人暮らしなんだから……と思わないでもない。
辺境は割と、自分のことは自分でやるところだったからね。
私の方が変わり者なのかも知れない。
ちなみに私が疑問に感じていた、シャーロット邸がいつも片付いている理由は直ぐに判明した。
ふわりと飲みさしのカップが浮かび上がり、洗い場に持っていかれる。
地面に置かれたコートは、見えない手がパンパンと払い、壁に掛けられる。
「シャドウストーカー、すごく仕事してくれるよねえ……」
「そうですわねえ。わたくしが一人暮らしをすると言った時、お兄様が心配してつけてくださったものなのですけれど、本当に助かっていますわ! わたくし一人だったら、大変なことになってましたわねえ」
「想像するのも恐ろしいよね」
私とシャーロットで顔を見合わせて笑う。
彼女と談笑している間にも、シャドウストーカーがバタバタ動き回って仕事をしている。
魔法生物だけれど、かなり高度な知性があるのだそうだ。
自分の判断で様々な仕事を行う。
シャーロットの護衛から、馬車を引っ張ったり、あるいは家事全般。
「どこで手に入るの、シャドウストーカー。便利すぎない?」
「これはですわね。以前、わたくしがワトサップ領とは逆側の辺境で、遺跡に行った話をしましたわよね?」
「ええ、覚えてるわ」
「あれは、わたくしが王立アカデミーを卒業した時のことなのですけれど、卒業旅行で遺跡を訪れて、シャドウストーカーをもらいうけたのですわ」
「へえ、そんなストーリーがあったのね! 人じゃないけど、人に歴史ありだなあ。シャーロットが王立アカデミーを卒業した頃って言うと……二年前くらい?」
「それくらいになりますかしら」
「聞きたい! 詳しいお話!」
「あら! じゃあ今日は、その時のお話をしましょうか。紅茶を淹れてきますわね? シャドウストーカーは、紅茶を淹れるのだけは不得意ですの」
シャーロットが立ち上がる。
そしてポットを火にかけながら、
「ちなみに、そこでも事件に巻き込まれましたのよ? それがまさしく、シャドウストーカー絡みで……」
「うんうん」
こうしてシャーロットが語りだす。
かつてあった事件の話。
■ ■ ■
馬車が到着したのは、辺境の農村。
かつては男爵領だったようだが、その男爵は十分な税を収められなかったために没落し、今は誰も領主がいない土地になっている。
アンクト男爵家と言ったのだが、なんとその男爵家は地主となり、今も領地を実質的に支配しているとか。
「これ、イニアナガ陛下なりの温情ですわね。土地の住民はアンクト男爵家を支持しているけれど、国の決まり的に義務を果たせない貴族はそのままにしておけない。かと言って新たな貴族では、この土地をまとめられない……。そういうことで、例外的にアンクト領は地主が管理する土地になっているのですわね」
シャーロットの言葉を聞いているのは、馬車の中にいるメイドだけ。
彼女はラムズ侯爵家から出向してきて、今はシャーロットのお世話をしているのだ。
だが、シャーロットが最近、一人暮らししたいといい出したことで、彼女は頭を抱えていた。
ラムズ侯爵に相談したところ、
『シャーロットが無茶を言い出すのはいつものことだね。よし、私も暇を作って妹と同行しよう。たまには息抜きが必要だし、無茶を言う妹の意見も変わるかも知れない』
そういうことになってしまったのだった。
当の侯爵は、なんと外で御者台に座り、馬を走らせて楽しんでいる。
メイドは、これは旦那様の息抜きがメインなのではないか、と訝しんだ。
「本当ならば、お兄様抜きで旅行したかったのですけれど。女だけの旅だと、良からぬ輩が絡んできますものねえ……。本当に困ったものですわ。わたくし、バリツの腕前なら十回に一回はお兄様に勝てるようになりましたのに」
「あはは……」
曖昧に笑って返すメイドであった。
どんな返事をしていいか分からない。
かくして、馬車はアンクト地方へ。
地主一家は総出で畑を耕していたのだが、馬車が到着すると麦穂を割って地主が飛び出してきた。
「ようこそおいでくださいました! 地主のアース・アンクトです」
やや太めでガッチリして、やや頭が薄くなった初老の男性である。
「ラムズ侯爵です。よろしく頼みますよ」
「はい! 遺跡の観光はうちの息子が担当してましてね。元冒険者でよく気が利く男です。後で紹介しますよ」
馬車から降りたシャーロットは、麦畑の遠く、エルフェンバインの国境にあたる
ところを見つめた。
そこには、遠目からも分かる不思議なものが存在している。
宙に浮かんだ、楕円形の物体だ。
遠く離れた場所からもしっかり分かるということは、とんでもない大きさがあるということになる。
「あれが遺跡ですのねえ。あそこから、たくさんの発掘物が出ていると聞きますわ。今から見に行くのが楽しみですわねえ……!」
本日は地主の家に一泊。
観光は明日から。
楽しみに胸を躍らせるシャーロットなのだったが……。
次の日の朝に起こった事件で、観光気分が吹き飛ぶことになってしまった。
「遺跡の鍵がない!」
地主の家は、アンクト男爵の屋敷をそのまま使ったものだ。
当主がアンクト男爵その人だし、家族も使用人も、男爵家の頃と何も変わっていないので、立場だけが変わったと言えよう。
そのため、地主の家としてはかなり大きい。
客間から顔を出したシャーロットは、吹き抜けになって見下ろせる一階に目をやった。
アース・アンクトが何かまくし立てている。
どうやら、雇っている農夫の一人が行方不明になり、遺跡の鍵も無くなってしまったようだ。
「事件の香りですわね。これは遺跡に行かなくてはですわ!」
「お嬢様! その前に髪とお召し物を……!」
事件の予感にテンションを上げながら、シャーロットはメイドによって部屋に連れ戻されるのだった。
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