90 / 225
賢者の館の事務員事件
第90話 賢者の館捕物帖
しおりを挟む
「うおわあああああマミーこわいー」
大変情けない声をあげるハンスだけど、私たちは気にしない。
一階をぐるっと巡ってみて、マミーの姿が無いことを確認。
「当然のように賊もいませんわね。ジャネット様でしたら、どこに偽ハンスが行ったと思います?」
「そうだね。何日もここで事務員してて、賢者の館のことは詳しく調べたんでしょう? だったら、どこに一番物があるかとかは分かってるんじゃないかな」
「つまり……地下ですわね!」
「そういうこと!」
地下への階段は、鍵付きの扉に閉ざされているのだが……。
なるほど、今は開いている。
どうやら偽ハンスは、マスターキーを手にして犯行に及んだらしい。
私たちがやって来た時に実行しようとしているだなんて、間の悪い男だ。
階段を下っていくと、階下から「もがー」「うおー、邪魔をするなモンスターめえ!」というやり取りが聞こえてくる。
異変に気づいたマミーが、偽ハンスを取り押さえようとしているのだ!
「待っててマミー! 今行くわ!」
「もがー」
「な、なにぃーっ!?」
シャーロットと二人で、ハンスを放り出して階段を駆け下りる。
ハンスが「ウグワー!」とか言いながら階段をゴロゴロ転げ落ちてきた。
すぐに踊り場になるから大丈夫でしょ。
到着した地下は、いわば賢者の館の宝物庫。
たくさんの物品が、詳しい注釈とともに安置されている。
そのただなかで、偽ハンスとマミーが取っ組み合いをしていた。
いいぞマミー!
すっごく仕事をしてるじゃない。
「シャーロット、片付けちゃって!」
「お任せですわ!」
ずんずんと突き進んだシャーロット。
マミーから偽ハンスを引き剥がすと、「バリツ!」放り投げた。
「ウグワー!?」
床に叩きつけられて、のたうち回る偽ハンス。
「確保!」
私は手近なロープで、彼をぐるぐる巻きにした。
すると、簡単に巻いたつもりが、ロープがひとりでに動き出して複雑な縛り方をし始める。
「ジャネット様、それは束縛のロープですわねえ」
「あっ、魔法の道具だった!」
細かい注釈がちゃんとついている。
遺跡からの発掘品をモデルにして、昔の魔法使いが作った道具だそうだ。
偽ハンスは身動きできなくなって、ムームー唸っている。
さて、これを外まで運ぶのはちょっと面倒だなあ。
また憲兵隊でも呼んでこようかしら。
そう考えていたら、ようやくハンスが階段を降りてきた。
「なんか今、ウグワーッて声がしましたけど」
階段からゴロゴロ落ちたはずなのに、ケロッとしている。
何気に頑丈だ。
ハンスは、ふん縛られて転がっている偽ハンスを見て、「ウオッ」と驚いた。
「こ、こいつ、俺を雇ったやつじゃないですか! こいつに言われて、あの部屋で仕事を始めたんですよ! 給料は安かったけど、楽な仕事だったからなあ」
あの楽な仕事ともお別れかあ、としみじみして呟くハンス。
何気に人生を楽しんでいるなあ。
「何言ってるのハンス。あなたの仕事、この偽ハンスに代わって賢者の館で会計やることなんだからね」
「えっ!?」
「せっかく雇った人員が、突然逮捕されていなくなったら困るでしょ。本来のハンスとして穴埋めなさいな」
「うええええ!? いいんですか!? うおー! 再就職先が一瞬で決まったぞぉ!」
ガッツポーズをするハンス。
元庭師だけあって、それなりに体格はいい。
そんな彼を見て、私はピンと来た。
「ねえハンス。賢者の館の事務員になるにあたって、最初の仕事をお願いしたいんだけど」
「はい! なんでもやりますよー!」
言質は取った。
シャーロットが「うかつですわねー」と呟いた。
その後。
マミーと二人がかりで、偽ハンスを階上まで運ぶことになったハンスである。
「うおあああああ、マミー怖い! こいつ重い! 階段きつい!」
泣き言を言いまくりながら、彼は偽ハンスを運び上げたのだった。
その後、事務員の人たちが呼んでいた憲兵によって、偽ハンスは捕らえられていった。
ハンスの噂を利用した、いわゆる詐欺師だったようだ。
案外、仕事は真面目にやっていたようで、職場の評判はそこまで悪くなかった。
まともに仕事してたら良かったのに。
偽ハンスが抜けた穴に、ハンスが収まることになり、こちらも一件落着。
マミーは久々に猛烈に働いたということで、しばらく宝物庫で休むそうである。
彼がいれば、賢者の館に入り込んで悪さをする者も減りそうな気がする。
そして、ハンスと偽ハンスとマミーを巡る話は、面白おかしく脚色されて王都に広まることになった。
花婿失踪事件のハンスが、今度はこんなことに!
という触れ込みで、たちまち王都で話題の笑い話となったわけだ。
ハンス本人は、「うおお、外を出歩けなくなりますよーっ!?」とか言ってたが、笑い話でも無名には勝る。
きっとこれは、またハンスを助けることもあるかも知れない。
ちなみに後日。
私が賢者の館を訪れたところ、事務室にハンスはいなかった。
どうやら彼、あの後でマミーとすっかり仲良くなり、休憩時間には二人でテーブルゲームなどをやっているらしい。
なんとも、たくましいことだ。
大変情けない声をあげるハンスだけど、私たちは気にしない。
一階をぐるっと巡ってみて、マミーの姿が無いことを確認。
「当然のように賊もいませんわね。ジャネット様でしたら、どこに偽ハンスが行ったと思います?」
「そうだね。何日もここで事務員してて、賢者の館のことは詳しく調べたんでしょう? だったら、どこに一番物があるかとかは分かってるんじゃないかな」
「つまり……地下ですわね!」
「そういうこと!」
地下への階段は、鍵付きの扉に閉ざされているのだが……。
なるほど、今は開いている。
どうやら偽ハンスは、マスターキーを手にして犯行に及んだらしい。
私たちがやって来た時に実行しようとしているだなんて、間の悪い男だ。
階段を下っていくと、階下から「もがー」「うおー、邪魔をするなモンスターめえ!」というやり取りが聞こえてくる。
異変に気づいたマミーが、偽ハンスを取り押さえようとしているのだ!
「待っててマミー! 今行くわ!」
「もがー」
「な、なにぃーっ!?」
シャーロットと二人で、ハンスを放り出して階段を駆け下りる。
ハンスが「ウグワー!」とか言いながら階段をゴロゴロ転げ落ちてきた。
すぐに踊り場になるから大丈夫でしょ。
到着した地下は、いわば賢者の館の宝物庫。
たくさんの物品が、詳しい注釈とともに安置されている。
そのただなかで、偽ハンスとマミーが取っ組み合いをしていた。
いいぞマミー!
すっごく仕事をしてるじゃない。
「シャーロット、片付けちゃって!」
「お任せですわ!」
ずんずんと突き進んだシャーロット。
マミーから偽ハンスを引き剥がすと、「バリツ!」放り投げた。
「ウグワー!?」
床に叩きつけられて、のたうち回る偽ハンス。
「確保!」
私は手近なロープで、彼をぐるぐる巻きにした。
すると、簡単に巻いたつもりが、ロープがひとりでに動き出して複雑な縛り方をし始める。
「ジャネット様、それは束縛のロープですわねえ」
「あっ、魔法の道具だった!」
細かい注釈がちゃんとついている。
遺跡からの発掘品をモデルにして、昔の魔法使いが作った道具だそうだ。
偽ハンスは身動きできなくなって、ムームー唸っている。
さて、これを外まで運ぶのはちょっと面倒だなあ。
また憲兵隊でも呼んでこようかしら。
そう考えていたら、ようやくハンスが階段を降りてきた。
「なんか今、ウグワーッて声がしましたけど」
階段からゴロゴロ落ちたはずなのに、ケロッとしている。
何気に頑丈だ。
ハンスは、ふん縛られて転がっている偽ハンスを見て、「ウオッ」と驚いた。
「こ、こいつ、俺を雇ったやつじゃないですか! こいつに言われて、あの部屋で仕事を始めたんですよ! 給料は安かったけど、楽な仕事だったからなあ」
あの楽な仕事ともお別れかあ、としみじみして呟くハンス。
何気に人生を楽しんでいるなあ。
「何言ってるのハンス。あなたの仕事、この偽ハンスに代わって賢者の館で会計やることなんだからね」
「えっ!?」
「せっかく雇った人員が、突然逮捕されていなくなったら困るでしょ。本来のハンスとして穴埋めなさいな」
「うええええ!? いいんですか!? うおー! 再就職先が一瞬で決まったぞぉ!」
ガッツポーズをするハンス。
元庭師だけあって、それなりに体格はいい。
そんな彼を見て、私はピンと来た。
「ねえハンス。賢者の館の事務員になるにあたって、最初の仕事をお願いしたいんだけど」
「はい! なんでもやりますよー!」
言質は取った。
シャーロットが「うかつですわねー」と呟いた。
その後。
マミーと二人がかりで、偽ハンスを階上まで運ぶことになったハンスである。
「うおあああああ、マミー怖い! こいつ重い! 階段きつい!」
泣き言を言いまくりながら、彼は偽ハンスを運び上げたのだった。
その後、事務員の人たちが呼んでいた憲兵によって、偽ハンスは捕らえられていった。
ハンスの噂を利用した、いわゆる詐欺師だったようだ。
案外、仕事は真面目にやっていたようで、職場の評判はそこまで悪くなかった。
まともに仕事してたら良かったのに。
偽ハンスが抜けた穴に、ハンスが収まることになり、こちらも一件落着。
マミーは久々に猛烈に働いたということで、しばらく宝物庫で休むそうである。
彼がいれば、賢者の館に入り込んで悪さをする者も減りそうな気がする。
そして、ハンスと偽ハンスとマミーを巡る話は、面白おかしく脚色されて王都に広まることになった。
花婿失踪事件のハンスが、今度はこんなことに!
という触れ込みで、たちまち王都で話題の笑い話となったわけだ。
ハンス本人は、「うおお、外を出歩けなくなりますよーっ!?」とか言ってたが、笑い話でも無名には勝る。
きっとこれは、またハンスを助けることもあるかも知れない。
ちなみに後日。
私が賢者の館を訪れたところ、事務室にハンスはいなかった。
どうやら彼、あの後でマミーとすっかり仲良くなり、休憩時間には二人でテーブルゲームなどをやっているらしい。
なんとも、たくましいことだ。
0
お気に入りに追加
441
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
悪役令嬢の矜持〜世界が望む悪役令嬢を演じればよろしいのですわね〜
白雲八鈴
ファンタジー
「貴様との婚約は破棄だ!」
はい、なんだか予想通りの婚約破棄をいただきました。ありきたりですわ。もう少し頭を使えばよろしいのに。
ですが、なんと世界の強制力とは恐ろしいものなのでしょう。
いいでしょう!世界が望むならば、悪役令嬢という者を演じて見せましょう。
さて、悪役令嬢とはどういう者なのでしょうか?
*作者の目が節穴のため誤字脱字は存在します。
*n番煎じの悪役令嬢物です。軽い感じで読んでいただければと思います。
*小説家になろう様でも投稿しております。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる