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賢者の館の事務員事件
第89話 賢者の館を訪れてみれば
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ハンスを連れて、賢者の館にやって来た。
ここは王宮の中にあるので、一般市民はよほどのことがなければ入ることはできない。
事務員を募集していたのねえ。
そこを、ハンスの名を騙った何者かに騙されて雇ってしまったと。
「こんにちはー」
「こんにちは。入館手続きがございますのでこちらにご署名を……あっ!!」
受付をしていた、顔なじみの事務員の女性が青くなった。
「ジャネット様とシャーロット様が揃って……!!」
「なんだって!!」
入り口すぐのところが事務員の職場になっているのだけれど、そこにいた全員がどよめき始めた。
なんだなんだ。
最初の女性が、蚊の鳴くような声を出してくる。
「あのう……。もしかしてまた事件でしょうか」
「どうしてそう思うの」
「お二人が揃ってやって来ると、絶対にろくでもない事件が起きるからです……! 最近でも、カーバンクルやナイトメア、マミーと言った取り扱いに困る魔獣、幻獣の類が増えてるんです……!」
「ははあ。心当たりがあり過ぎる……」
私はとても納得した。
話を聞いてみると、カーバンクルは職員たちの癒やしとして可愛がられているらしいのだが、ナイトメアは封印されている巻き物に近づくと悪夢を見せられるし、マミーは我が物顔で館の中を歩き回っているし、夜に遭遇したらすごく怖いとかで、職員たちは色々大変らしい。
「マミー、普通に拘束もされずにいるの?」
「はい、オーシレイ殿下のお達しで。確かに無害ですし、力仕事とか手伝ってくれるから助かるんですが、怖いんですよね……。一応アンデッドですし」
あのマミーは随分フランクな性格だったらしい。
私やシャーロット、オーシレイに恩義を感じているようで、今では賢者の館の警備員みたいなことも買って出ているとか。
アンデッドだから、疲労するということが無いものね。
夜間でもずっと動き続けることができる。
「ひえええ、賢者の館ってのはモンスターハウスだったんですか!?」
真っ青になってガタガタ震えるハンス。
ここに来て、事務員女子はハンスに気付いたようだ。
「あら、そちらの方はどなたなんですか? ジャネット様のお連れでは、見たことがないお顔ですが……」
「彼は、ハンスよ。つい最近ここに雇われた、新任の会計屋よ」
「えっ、ハンス……!?」
事務員女子の顔が唖然としたものになった。
彼女は、ハンスのことを見たことがないと言った。
だけど、ハンスの名前はよく知っている。
間違いなく、ハンスを騙る別人はここに入り込んでいる。
でも、どうやら今は席を外しているようだ。
「ちょっと失礼しますわね」
シャーロットがずかずかと事務室に入り込んでいって、偽ハンスの机を開けたり書類を確かめ始めた。
なんと躊躇のない動き!
みんなびっくりして、咎めることもできない。
「確かに名前のサインだけは、ハンスさんのを真似ていますわね。少しだけ筆跡が違いますけれど。ですけれど、それ以外はハンスさんのものとは似ても似つかぬものですわねえ」
書類の脇に、ハンスに字を書かせて比べてみせる。
確かにぜんぜん違う。
「まさか……。ジャネット様のお知り合いの、あの噂のハンスだから採用したのに、偽物だったなんて……」
事務員女子、天を仰ぐ。
「だとしたら大変! 彼、館の中の見回りに行ってるんです!」
「見回りに?」
「はい! 何かあったら大変です!」
「それはもちろん、何かを起こすために見回りに行っているのですわよ?」
ここでシャーロットが話に加わってきた。
「偽ハンスは、マミーのことを悪く言っていましたでしょう? あんな化け物がうろついているのは問題だ、早くどうにかしないとって」
「分かるんですか!? 一言一句変わらず、そんなこと言ってました!」
「それはですわね。他に見る者がいない状況で、ゆっくりと盗みを働きたいからですわね。マミーが歩き回っていたら、落ち着いて作業もできませんでしょう? それに、マミーは休むことがありませんわ。つまり、偽ハンスが犯行に及べる安全な時間帯が存在しない、と言うことになりますの」
「マミー、いい仕事をするなあ。久しぶりに顔を見たくなってきた気がする」
「じゃあ参りましょうかジャネット様。今ならちょうど、犯人とマミーの攻防が見られるかも知れませんわよ」
「あら、それはどうして?」
「犯人がハンスを雇ってから何日も経っていますもの。彼がどこまで偽の給料を出し続けられるかは分かりませんけれども、早く決着を付けたいのは間違いないでしょう? 間違いなく、犯人は焦って、強硬手段に出ますわよ。それに彼にとっては幸いなことに、賢者の方々は腕っぷしが弱くいらっしゃいますから」
「オーシレイ以外は、よわよわね」
アカデミーの講師でやって来る賢者の面々を思い出す。
エルフェンバインの賢者は、フィールドワークをする人が少ない。
基本的に文献を読み解いたり、冒険者に発掘の依頼をする人ばかり。
みんななかなか現地に行かないんだよな。
その点、オーシレイは大臣とかの制止を振り切って、フィールドワーク旅行に出たりするらしい。
今もそれを計画中だとか。
「ようし、じゃあ犯人を捕まえに行こうか! 行くわよ、ハンス!」
「ええ、俺も!?」
「あなたの偽物を捕まえるんだから、ハンスが来なくちゃ話にならないでしょ!」
「いや、俺がいたって役に立たないですよ!? それにマミー怖いし!!」
「役に立つか役に立たないかは私が決めるわ。さあさあ」
「ひぃー」
悲鳴をあげるハンスの手を、私とシャーロットで引っ張って、賢者の館の奥へと突き進むのだった。
ここは王宮の中にあるので、一般市民はよほどのことがなければ入ることはできない。
事務員を募集していたのねえ。
そこを、ハンスの名を騙った何者かに騙されて雇ってしまったと。
「こんにちはー」
「こんにちは。入館手続きがございますのでこちらにご署名を……あっ!!」
受付をしていた、顔なじみの事務員の女性が青くなった。
「ジャネット様とシャーロット様が揃って……!!」
「なんだって!!」
入り口すぐのところが事務員の職場になっているのだけれど、そこにいた全員がどよめき始めた。
なんだなんだ。
最初の女性が、蚊の鳴くような声を出してくる。
「あのう……。もしかしてまた事件でしょうか」
「どうしてそう思うの」
「お二人が揃ってやって来ると、絶対にろくでもない事件が起きるからです……! 最近でも、カーバンクルやナイトメア、マミーと言った取り扱いに困る魔獣、幻獣の類が増えてるんです……!」
「ははあ。心当たりがあり過ぎる……」
私はとても納得した。
話を聞いてみると、カーバンクルは職員たちの癒やしとして可愛がられているらしいのだが、ナイトメアは封印されている巻き物に近づくと悪夢を見せられるし、マミーは我が物顔で館の中を歩き回っているし、夜に遭遇したらすごく怖いとかで、職員たちは色々大変らしい。
「マミー、普通に拘束もされずにいるの?」
「はい、オーシレイ殿下のお達しで。確かに無害ですし、力仕事とか手伝ってくれるから助かるんですが、怖いんですよね……。一応アンデッドですし」
あのマミーは随分フランクな性格だったらしい。
私やシャーロット、オーシレイに恩義を感じているようで、今では賢者の館の警備員みたいなことも買って出ているとか。
アンデッドだから、疲労するということが無いものね。
夜間でもずっと動き続けることができる。
「ひえええ、賢者の館ってのはモンスターハウスだったんですか!?」
真っ青になってガタガタ震えるハンス。
ここに来て、事務員女子はハンスに気付いたようだ。
「あら、そちらの方はどなたなんですか? ジャネット様のお連れでは、見たことがないお顔ですが……」
「彼は、ハンスよ。つい最近ここに雇われた、新任の会計屋よ」
「えっ、ハンス……!?」
事務員女子の顔が唖然としたものになった。
彼女は、ハンスのことを見たことがないと言った。
だけど、ハンスの名前はよく知っている。
間違いなく、ハンスを騙る別人はここに入り込んでいる。
でも、どうやら今は席を外しているようだ。
「ちょっと失礼しますわね」
シャーロットがずかずかと事務室に入り込んでいって、偽ハンスの机を開けたり書類を確かめ始めた。
なんと躊躇のない動き!
みんなびっくりして、咎めることもできない。
「確かに名前のサインだけは、ハンスさんのを真似ていますわね。少しだけ筆跡が違いますけれど。ですけれど、それ以外はハンスさんのものとは似ても似つかぬものですわねえ」
書類の脇に、ハンスに字を書かせて比べてみせる。
確かにぜんぜん違う。
「まさか……。ジャネット様のお知り合いの、あの噂のハンスだから採用したのに、偽物だったなんて……」
事務員女子、天を仰ぐ。
「だとしたら大変! 彼、館の中の見回りに行ってるんです!」
「見回りに?」
「はい! 何かあったら大変です!」
「それはもちろん、何かを起こすために見回りに行っているのですわよ?」
ここでシャーロットが話に加わってきた。
「偽ハンスは、マミーのことを悪く言っていましたでしょう? あんな化け物がうろついているのは問題だ、早くどうにかしないとって」
「分かるんですか!? 一言一句変わらず、そんなこと言ってました!」
「それはですわね。他に見る者がいない状況で、ゆっくりと盗みを働きたいからですわね。マミーが歩き回っていたら、落ち着いて作業もできませんでしょう? それに、マミーは休むことがありませんわ。つまり、偽ハンスが犯行に及べる安全な時間帯が存在しない、と言うことになりますの」
「マミー、いい仕事をするなあ。久しぶりに顔を見たくなってきた気がする」
「じゃあ参りましょうかジャネット様。今ならちょうど、犯人とマミーの攻防が見られるかも知れませんわよ」
「あら、それはどうして?」
「犯人がハンスを雇ってから何日も経っていますもの。彼がどこまで偽の給料を出し続けられるかは分かりませんけれども、早く決着を付けたいのは間違いないでしょう? 間違いなく、犯人は焦って、強硬手段に出ますわよ。それに彼にとっては幸いなことに、賢者の方々は腕っぷしが弱くいらっしゃいますから」
「オーシレイ以外は、よわよわね」
アカデミーの講師でやって来る賢者の面々を思い出す。
エルフェンバインの賢者は、フィールドワークをする人が少ない。
基本的に文献を読み解いたり、冒険者に発掘の依頼をする人ばかり。
みんななかなか現地に行かないんだよな。
その点、オーシレイは大臣とかの制止を振り切って、フィールドワーク旅行に出たりするらしい。
今もそれを計画中だとか。
「ようし、じゃあ犯人を捕まえに行こうか! 行くわよ、ハンス!」
「ええ、俺も!?」
「あなたの偽物を捕まえるんだから、ハンスが来なくちゃ話にならないでしょ!」
「いや、俺がいたって役に立たないですよ!? それにマミー怖いし!!」
「役に立つか役に立たないかは私が決めるわ。さあさあ」
「ひぃー」
悲鳴をあげるハンスの手を、私とシャーロットで引っ張って、賢者の館の奥へと突き進むのだった。
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