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白い仮面事件
第85話 異教の神官
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思い立ったら止まらない。
シャーロットは堂々とした足取りで館に向かうと、その扉をノックした。
「こんにちはー!」
侯爵令嬢とは思えぬフランクさ。
しばらくして、扉ののぞき穴から誰かの目が見えた。
「職員氏の奥様ですわね?」
「きゃっ」
扉の奥から声がする。
そして、向こうで何かボソボソ話し合う声が。
またのぞき穴が開いて、そこに職員氏の奥様の目が出てきた。
「あ、あのう……。何のご用でしょうか。もしかして、国の調査機関とか憲兵とか……」
「ご主人から依頼されて、奥様の動向を探っていたのですわよ。ご主人、冒険者仲間の魅力的な殿方にあなたが誘惑されているのではないか、と心配なされていましたわ」
「まあ!!」
奥方の声色が変わった。
ちょっと笑いを含んだものだ。
また彼女は引っ込み、奥で誰かと会話している。
そして、扉が開けられた。
「こんにちはー」
ここは率先して私が屋内に。
『わふーん』
「あっ、バスカーが私の後ろに隠れてる!」
珍しい。
さっき見えた、白い仮面を警戒しているみたい。
「あらあら! あらあらあら! モフモフの大きいわんこがもう一匹!」
嬉しそうな声がした。
館の奥から、女性が一人猛烈な勢いで走ってくる。
なんだなんだ!?
『わふ!?』
バスカーも面食らったらしい。
だけど全く敵意は感じない。
彼女は満面の笑顔である。
ふんわりウェーブを描く栗色の髪に、青い衣装は多分、聖なる衣。
神官が身につけるものだ。
もちろん、大地の女神レイアを信仰する我が国のものとは違う。
「あの、あの、ちょっとモフモフさせてもらっても?」
私よりちょっと背の高い彼女は、モフモフ欲とでも言うものに突き動かされ、すぐにでもバスカーをモフりたい様子。
気持ちは分かる。
「どうぞどうぞ。バスカー、ちょっとだけ好きにさせてあげてね」
『わふ~』
バスカーが、仕方ないなあ、という顔になった。
「やったー!」
神官らしき彼女は、バスカーを猛烈にモフモフとし始めた。
うーん、なんと手慣れたモフモフの腕前。
しかもこれ、大きな動物をモフモフしている経験があると見た。
彼女とバスカーを見つめる私の横で、シャーロットは奥方氏と話を進めているところだった。
「つまり、あなたのご友人である彼女が王都に来られたので、城壁の中に長期滞在できない立場を慮り、この館を借りたというわけですわね?」
「はい、そうなんです。この方は、私が都市国家アドポリスで冒険者をしていた頃、お世話になった神官さんで。あの、レイア様の神官ではないのですけど」
「分かっていますわよ。彼女は、イリアノス神国の神を信奉する神官ですわね?」
「ええ、そのとおりです!」
バスカーに抱きついたまま、キリッとした顔で振り返る神官の彼女。
「わたくし、アリサといいます!! まさかエルフェンバインの王都が、市民権をもっていないと長期滞在できない場所だったなんて……。宿からエルフェンバインの夜景を眺めたり、美味しいもの巡りをしようと思っていましたのに……」
アリサ、なんだかシャーロットと同じような喋り方をする人だな……!
ただ、二人の見た目は全然違ってて、シャーロットがすらりと背が高く、スレンダーで鋭い印象を与える美女。
アリサはふんわりしていて、出るところは出ている感じの柔らかそうな美女。
こんな正反対の印象の二人が、同じような「わたくし~ですわ」って喋っているのは、見ていてなかなか面白いかも知れない。
「やはり、今回のこれは事件ではありませんでしたわね! ジャネット様。これにて一件落着ですわ。あとは職員氏に結果の報告をすればいいだけですの」
「そうかー。平和に終わってよかったなあ」
ここ最近、とんでもないもの絡みな事件が多かったからね。
たまにはこういう、のんびりした話になるのも悪くはない。
そこで私はちょっと気になることがあって、口を開いた。
「そうだ。でもさ、どうしてアリサのことを秘密にしていたわけ? 正直に話してしまえば、こんな面倒なことにならなかったのに」
奥方氏に問うと、彼女は引きつった笑いを浮かべた。
「いやあ、その。実は……。お客はアリサさんだけじゃなくて……」
そこで私は気付いた。
事件はおおよそ片付いたけれども、白い仮面のことに関しては、全く解決してないじゃないか。
あの、バスカーが警戒する白い仮面は何者なのだ。
今も、館の二階にいるのだろうか。
「例えば、アリサさんだけならばうちに泊めるということもできたと思うんですけれど、彼ばかりはそれは無理で……。というか、門を通るのも難しいし、強行突破しちゃったら問題になるし……」
奥方氏が悩ましげに語る。
その彼とやらが、あの白い仮面なのだろう。
門を通ることができまい、という白い仮面。
問題になるという白い仮面。
一体何者なんだ……。
というか、人間ではないのでは?
「あら、お二人とも、彼のことが気になるんです? じゃあ呼びますわね! ブランー! お客様ですよー」
すると、二階から元気な、『わふー!』という声が聞こえたのである。
こ、この声は、まさか!
どたどたと階段を駆け下りてくる、豪快な足音。
真っ白な仮面がまず姿を現し、それが壁に引っかかってポンっと外れる。
その後から現れたのは……。
白くてもこもことした、とても大きな犬だったのだ……!
シャーロットは堂々とした足取りで館に向かうと、その扉をノックした。
「こんにちはー!」
侯爵令嬢とは思えぬフランクさ。
しばらくして、扉ののぞき穴から誰かの目が見えた。
「職員氏の奥様ですわね?」
「きゃっ」
扉の奥から声がする。
そして、向こうで何かボソボソ話し合う声が。
またのぞき穴が開いて、そこに職員氏の奥様の目が出てきた。
「あ、あのう……。何のご用でしょうか。もしかして、国の調査機関とか憲兵とか……」
「ご主人から依頼されて、奥様の動向を探っていたのですわよ。ご主人、冒険者仲間の魅力的な殿方にあなたが誘惑されているのではないか、と心配なされていましたわ」
「まあ!!」
奥方の声色が変わった。
ちょっと笑いを含んだものだ。
また彼女は引っ込み、奥で誰かと会話している。
そして、扉が開けられた。
「こんにちはー」
ここは率先して私が屋内に。
『わふーん』
「あっ、バスカーが私の後ろに隠れてる!」
珍しい。
さっき見えた、白い仮面を警戒しているみたい。
「あらあら! あらあらあら! モフモフの大きいわんこがもう一匹!」
嬉しそうな声がした。
館の奥から、女性が一人猛烈な勢いで走ってくる。
なんだなんだ!?
『わふ!?』
バスカーも面食らったらしい。
だけど全く敵意は感じない。
彼女は満面の笑顔である。
ふんわりウェーブを描く栗色の髪に、青い衣装は多分、聖なる衣。
神官が身につけるものだ。
もちろん、大地の女神レイアを信仰する我が国のものとは違う。
「あの、あの、ちょっとモフモフさせてもらっても?」
私よりちょっと背の高い彼女は、モフモフ欲とでも言うものに突き動かされ、すぐにでもバスカーをモフりたい様子。
気持ちは分かる。
「どうぞどうぞ。バスカー、ちょっとだけ好きにさせてあげてね」
『わふ~』
バスカーが、仕方ないなあ、という顔になった。
「やったー!」
神官らしき彼女は、バスカーを猛烈にモフモフとし始めた。
うーん、なんと手慣れたモフモフの腕前。
しかもこれ、大きな動物をモフモフしている経験があると見た。
彼女とバスカーを見つめる私の横で、シャーロットは奥方氏と話を進めているところだった。
「つまり、あなたのご友人である彼女が王都に来られたので、城壁の中に長期滞在できない立場を慮り、この館を借りたというわけですわね?」
「はい、そうなんです。この方は、私が都市国家アドポリスで冒険者をしていた頃、お世話になった神官さんで。あの、レイア様の神官ではないのですけど」
「分かっていますわよ。彼女は、イリアノス神国の神を信奉する神官ですわね?」
「ええ、そのとおりです!」
バスカーに抱きついたまま、キリッとした顔で振り返る神官の彼女。
「わたくし、アリサといいます!! まさかエルフェンバインの王都が、市民権をもっていないと長期滞在できない場所だったなんて……。宿からエルフェンバインの夜景を眺めたり、美味しいもの巡りをしようと思っていましたのに……」
アリサ、なんだかシャーロットと同じような喋り方をする人だな……!
ただ、二人の見た目は全然違ってて、シャーロットがすらりと背が高く、スレンダーで鋭い印象を与える美女。
アリサはふんわりしていて、出るところは出ている感じの柔らかそうな美女。
こんな正反対の印象の二人が、同じような「わたくし~ですわ」って喋っているのは、見ていてなかなか面白いかも知れない。
「やはり、今回のこれは事件ではありませんでしたわね! ジャネット様。これにて一件落着ですわ。あとは職員氏に結果の報告をすればいいだけですの」
「そうかー。平和に終わってよかったなあ」
ここ最近、とんでもないもの絡みな事件が多かったからね。
たまにはこういう、のんびりした話になるのも悪くはない。
そこで私はちょっと気になることがあって、口を開いた。
「そうだ。でもさ、どうしてアリサのことを秘密にしていたわけ? 正直に話してしまえば、こんな面倒なことにならなかったのに」
奥方氏に問うと、彼女は引きつった笑いを浮かべた。
「いやあ、その。実は……。お客はアリサさんだけじゃなくて……」
そこで私は気付いた。
事件はおおよそ片付いたけれども、白い仮面のことに関しては、全く解決してないじゃないか。
あの、バスカーが警戒する白い仮面は何者なのだ。
今も、館の二階にいるのだろうか。
「例えば、アリサさんだけならばうちに泊めるということもできたと思うんですけれど、彼ばかりはそれは無理で……。というか、門を通るのも難しいし、強行突破しちゃったら問題になるし……」
奥方氏が悩ましげに語る。
その彼とやらが、あの白い仮面なのだろう。
門を通ることができまい、という白い仮面。
問題になるという白い仮面。
一体何者なんだ……。
というか、人間ではないのでは?
「あら、お二人とも、彼のことが気になるんです? じゃあ呼びますわね! ブランー! お客様ですよー」
すると、二階から元気な、『わふー!』という声が聞こえたのである。
こ、この声は、まさか!
どたどたと階段を駆け下りてくる、豪快な足音。
真っ白な仮面がまず姿を現し、それが壁に引っかかってポンっと外れる。
その後から現れたのは……。
白くてもこもことした、とても大きな犬だったのだ……!
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