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箱の中の指先事件
第82話 こんにちはマミーさん
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憲兵たちや下町遊撃隊と一緒に下町を捜索することになると思ったが、シャーロットがあっというまに解決してしまった。
そこでは、首のない干からびた死体に見えるものが、膝を抱えてうずくまっている。
表から裏路地に抜ける細い道で、昼でも日が当たらないところだ。
「ね、いましたでしょう?」
「すごい。よく分かったわねえ……」
「簡単な推理ですわよ、ジャネット様。下町遊撃隊に、誰に聞き込みしたかを尋ねたのですわ。人間は基本的に、ルーティーンで生活していますから。決められた自らの生活領域から外れることはありませんわね。だから、誰がミイラの目撃談を口にしたかで、捜索範囲はおのずと絞られていきますの。そして、今までミイラが発見されていなかったということは……。人目につきづらい場所にいるということでしょうね」
「それでここなのね。しかしまあ……しょんぼりしてるわね、ミイラ」
「首が見つからないのでしょうねえ。指を追ってはるばるやって来たのに、今度は首までなくなってしまったわけですわ。ちょっとかわいそうですわね」
「そうね……。……そうだ!!」
私はハッとした。
うちに、失せ物探しが上手なのがいたじゃないか。
私はすぐに、家に取って返した。
「バスカー、出番よ!」
『わふーん!』
いつもとは違ったお散歩に出られると察したバスカーが、尻尾を振りながら飛び出してくる。
私は彼を連れて現場に戻ると、ミイラのモンスターであるマミーのにおいを嗅いでもらった。
モンスターであるガルムがくんくんしてくるので、マミーはちょっと戸惑ったようだ。
逃げたそうにしている。
「なんかミイラなのに感情表現がちょっと分かる」
「生前は人間ですし、意識というものがあるのでしょうね」
その後、バスカーが『わふ!』と自信ありげに鳴いた。
そして、マミーを鼻先でぽん、と空中に放り投げると、自分の背中でキャッチする。
「えっ、マミーを連れて行くの!? まあ、確かに本人がいたほうが話が早いかもだけど」
とりあえず、直射日光はマミーに悪そうだったので、近所で布を買って彼の上に被せておいた。
こうすれば道行く人々からも、マミーが隠れるしね。
「ジャネット様とバスカーとわたくしが揃っているのですから、下町の皆さんはちょっとやそっとではびっくりしないと思いますわよ?」
なんでだ。
備えは万全にし、私たちは下町の通りを歩く。
バスカーがくんくんとにおいを嗅いで、『わふ』と一声あげた。
尻尾をふりふり、私たちについてくるよう促す。
もう見つかったのか。
そこは、雨水を地下にある水路に注がせ、川へと流し込む側溝だった。
なんと、側溝の一部が壊れているではないか。
マミーがハッとしたように体を起こし、バスカーから降りた。
側溝に近づいていく。
「危ない危ない。落ちちゃう」
私はマミーの腕を引っ張って引き止めた。
ふむ、薬指と小指が欠けている。
なるほど、これは送られてきた指は、このマミーのもので間違いない。
私がマミーを止めている間に、バスカーが側溝のフタを、前足でペンっと弾き飛ばした。
そして鼻先を突っ込んで、何かを咥えて顔を上げた。
あー、マミーの頭だ。
ちょっと水に触れてふやけている。
これをマミーに手渡すと、彼はそそくさと首の上に乗せた。
すぽんとはまる。
「良かったわねえ」
マミーがゆるゆると会釈した。
礼儀ができている。
「後は指ね。あれ、この人に返してあげないといけないんじゃない?」
「ジャネット様、もう完全にマミーに馴染みましたわね?」
そう言えば。
彼からは敵意を感じないのだもの。
「憲兵所にオーシレイ殿下が来ているはずですわ。そこで今後の処遇を話し合いましょうか」
シャーロットの言った通り、憲兵所に戻るとニコニコ顔のオーシレイがいた。
「マミーの指先に、マミー本人か! 素晴らしいな! これはアンデッドというモンスターで、空から来た災厄が運んできた存在なのだ。生きている人間に取り付き、入れ替わってしまう人食いのモンスターがレブナント。死体に取り付き、これを変質させて生前のように動かすのがゾンビやマミーと言われている。マミーはその中でも高位の種で、意思疎通ができるのだ。しかし希少でな……。どうやらジャネット、マミーと仲良くなったようだな。さすが」
「何がさすがなんだろう……!」
その後、オーシレイの手からマミーに指が返還された。
指は彼の手にくっつき、五指が揃った手のひらが、握ったり開いたりされている。
嬉しそうだ。
マミーから筆談で聞き出したのだが、彼は遺跡に住んでいたのだそうだ。
だが、事故で指先がどこかに飛んでいってしまった。
彼の目には、自らの肉体がどこにあるかが見えるという。
そこで、指先を追ってエルフェンバインまでやって来たそうだ。
その話を聞き出した頃には、憲兵が何人もの男たちをふん縛って連れてきたところだった。
デストレードがニヤリと笑う。
「ご協力感謝しますよ、皆さん。彼らは違法でインチキな薬を売りさばくグループでした。マミーを薬にしようと狙っていたのでしょう。今回の件で、一網打尽にできそうです」
スージーの家の隣にアジトを構えていたらしい。
めちゃくちゃ近くじゃないか。
かくして、謎の指先が送られてきた事件は解決。
ミイラも指を取り戻せてハッピーエンドとなった。
それからそれから。
マミーの身の振り方なのだが。
「しばらく王宮に滞在してもらい、賢者の館で研究に協力してもらうことになったのだ」
オーシレイの話で、私はぶっ飛んだ。
「アンデッド何でしょ? 大丈夫なんですか?」
「父上は構わんと認めたぞ。マミーも、住処まで送ってくれるなら協力すると言っている。お互いウィンウィンの関係だ」
なんてことだ。
ちなみにカーバンクルのピーターは、マミーと仲良くやっているそうである。
そこでは、首のない干からびた死体に見えるものが、膝を抱えてうずくまっている。
表から裏路地に抜ける細い道で、昼でも日が当たらないところだ。
「ね、いましたでしょう?」
「すごい。よく分かったわねえ……」
「簡単な推理ですわよ、ジャネット様。下町遊撃隊に、誰に聞き込みしたかを尋ねたのですわ。人間は基本的に、ルーティーンで生活していますから。決められた自らの生活領域から外れることはありませんわね。だから、誰がミイラの目撃談を口にしたかで、捜索範囲はおのずと絞られていきますの。そして、今までミイラが発見されていなかったということは……。人目につきづらい場所にいるということでしょうね」
「それでここなのね。しかしまあ……しょんぼりしてるわね、ミイラ」
「首が見つからないのでしょうねえ。指を追ってはるばるやって来たのに、今度は首までなくなってしまったわけですわ。ちょっとかわいそうですわね」
「そうね……。……そうだ!!」
私はハッとした。
うちに、失せ物探しが上手なのがいたじゃないか。
私はすぐに、家に取って返した。
「バスカー、出番よ!」
『わふーん!』
いつもとは違ったお散歩に出られると察したバスカーが、尻尾を振りながら飛び出してくる。
私は彼を連れて現場に戻ると、ミイラのモンスターであるマミーのにおいを嗅いでもらった。
モンスターであるガルムがくんくんしてくるので、マミーはちょっと戸惑ったようだ。
逃げたそうにしている。
「なんかミイラなのに感情表現がちょっと分かる」
「生前は人間ですし、意識というものがあるのでしょうね」
その後、バスカーが『わふ!』と自信ありげに鳴いた。
そして、マミーを鼻先でぽん、と空中に放り投げると、自分の背中でキャッチする。
「えっ、マミーを連れて行くの!? まあ、確かに本人がいたほうが話が早いかもだけど」
とりあえず、直射日光はマミーに悪そうだったので、近所で布を買って彼の上に被せておいた。
こうすれば道行く人々からも、マミーが隠れるしね。
「ジャネット様とバスカーとわたくしが揃っているのですから、下町の皆さんはちょっとやそっとではびっくりしないと思いますわよ?」
なんでだ。
備えは万全にし、私たちは下町の通りを歩く。
バスカーがくんくんとにおいを嗅いで、『わふ』と一声あげた。
尻尾をふりふり、私たちについてくるよう促す。
もう見つかったのか。
そこは、雨水を地下にある水路に注がせ、川へと流し込む側溝だった。
なんと、側溝の一部が壊れているではないか。
マミーがハッとしたように体を起こし、バスカーから降りた。
側溝に近づいていく。
「危ない危ない。落ちちゃう」
私はマミーの腕を引っ張って引き止めた。
ふむ、薬指と小指が欠けている。
なるほど、これは送られてきた指は、このマミーのもので間違いない。
私がマミーを止めている間に、バスカーが側溝のフタを、前足でペンっと弾き飛ばした。
そして鼻先を突っ込んで、何かを咥えて顔を上げた。
あー、マミーの頭だ。
ちょっと水に触れてふやけている。
これをマミーに手渡すと、彼はそそくさと首の上に乗せた。
すぽんとはまる。
「良かったわねえ」
マミーがゆるゆると会釈した。
礼儀ができている。
「後は指ね。あれ、この人に返してあげないといけないんじゃない?」
「ジャネット様、もう完全にマミーに馴染みましたわね?」
そう言えば。
彼からは敵意を感じないのだもの。
「憲兵所にオーシレイ殿下が来ているはずですわ。そこで今後の処遇を話し合いましょうか」
シャーロットの言った通り、憲兵所に戻るとニコニコ顔のオーシレイがいた。
「マミーの指先に、マミー本人か! 素晴らしいな! これはアンデッドというモンスターで、空から来た災厄が運んできた存在なのだ。生きている人間に取り付き、入れ替わってしまう人食いのモンスターがレブナント。死体に取り付き、これを変質させて生前のように動かすのがゾンビやマミーと言われている。マミーはその中でも高位の種で、意思疎通ができるのだ。しかし希少でな……。どうやらジャネット、マミーと仲良くなったようだな。さすが」
「何がさすがなんだろう……!」
その後、オーシレイの手からマミーに指が返還された。
指は彼の手にくっつき、五指が揃った手のひらが、握ったり開いたりされている。
嬉しそうだ。
マミーから筆談で聞き出したのだが、彼は遺跡に住んでいたのだそうだ。
だが、事故で指先がどこかに飛んでいってしまった。
彼の目には、自らの肉体がどこにあるかが見えるという。
そこで、指先を追ってエルフェンバインまでやって来たそうだ。
その話を聞き出した頃には、憲兵が何人もの男たちをふん縛って連れてきたところだった。
デストレードがニヤリと笑う。
「ご協力感謝しますよ、皆さん。彼らは違法でインチキな薬を売りさばくグループでした。マミーを薬にしようと狙っていたのでしょう。今回の件で、一網打尽にできそうです」
スージーの家の隣にアジトを構えていたらしい。
めちゃくちゃ近くじゃないか。
かくして、謎の指先が送られてきた事件は解決。
ミイラも指を取り戻せてハッピーエンドとなった。
それからそれから。
マミーの身の振り方なのだが。
「しばらく王宮に滞在してもらい、賢者の館で研究に協力してもらうことになったのだ」
オーシレイの話で、私はぶっ飛んだ。
「アンデッド何でしょ? 大丈夫なんですか?」
「父上は構わんと認めたぞ。マミーも、住処まで送ってくれるなら協力すると言っている。お互いウィンウィンの関係だ」
なんてことだ。
ちなみにカーバンクルのピーターは、マミーと仲良くやっているそうである。
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