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箱の中の指先事件
第80話 送られてきた指
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スージーの家にやって来ると、既にそこは、下町遊撃隊の子たちがたくさんいた。
みんな心配で集まってきていたらしい。
「こんにちはー」
ノックをすると、しばらくして扉が開いた。
コロコロっとした印象のおばさまが立っている。
「あれまあ! すごい美人さんが来たよう!」
「ジャネット・ワトサップと申します。こっちはシャーロット」
「どうも、スージーさん。ご調子を崩されたと聞いて、お見舞いに伺いましたわ」
スージーはすぐに、私たち二人が下町に暮らすような身分の人間ではないことを見抜いたようだ。
家の中に招いてくれた。
そして、外にいる子どもたちに、
「みんな、大丈夫だよ。あたしは見ての通り元気だから! 夕方には、みんなの好きな肉と野菜のスープを作って待ってるからね!」
そう声を掛けた。
子どもたちの表情がパッと明るくなり、みんなスージーに一声かけながら散っていく。
本当に慕われているのだ。
ほっこりしながらその様子を見守っていたら、スージーが振り返って小さく会釈した。
「失礼しました。お二人とも、偉い方なんでしょう? そちらのシャーロットさん? 子どもたちがいつもお話をしてる、仕事をくれるのっぽのお姉さんだね? それから綺麗な銀髪のあなたは、あたしでも知ってるよ。辺境の至宝ジャネット様。こんな狭い家にお越しいただいてしまって」
「下町遊撃隊の子たちにはお世話になってるもの。気にないで。それより、スージーさんが元気なようで良かったわ」
「ええ、はい。体の方はすっかり」
スージーがガッツポーズをした。
これは古代に魔王が広めたと言われる、元気を誇示するポーズで、ガッツというのは魔王の世界……きっと魔界なのだろうが、そこの有名な人物の名前らしい。
シャーロットは家の中をくるりと見回し、ポンと手を打った。
「なるほど、あの箱に入っているものにショックを受けて寝込みましたわね」
「えっ!?」
いきなり彼女がそんなことを口にしたので、スージーはとても驚いたようだ。
目をまんまるにして、口をぽかーんと開けている。
「な、な、なんで分かるんです?」
「箱が置かれている位置が微妙だからですわよ。見たところ、古くもなくて荷解きをされたばかりの箱。ほら、底面に近いところが凹んでいますから、紐で縛られていた跡ですわね。それに、場所がカーテンを締め切られた窓際ですもの。お昼だと言うのにあそこだけカーテンが開いていないのは、あの箱に近づきたくないからではなくって?」
「そ、そうです。すごい人だねえ……。あたしのことを簡単に言い当ててしまったよ……」
「そういう仕事ですもの。今回は、下町遊撃隊の頼みに応えてあなたを助けに来たのですわ。これって、わたくしが滅多にしないサービスですのよ?」
いつもお金にならない事件に首を突っ込んでは、楽しそうに解決してる気がするけど。
まあ言わないでおこう。
彼女なりに、下町遊撃隊へのリスペクトが籠もった仕事が今回の事件なのだ。
そう、シャーロットが口にしたことで、私は確信した。
これは下町のおばちゃんこと、スージーが寝込んだだけの話ではない。
事件のにおいがする。
窓際から箱を持ってきたシャーロット。
スージーの顔がこわばる。
「開けてもよろしくて?」
「ど、どうぞ」
家主の許可をもらい、シャーロットは箱を開けた。
その中には、細長いものが二つはいっていた。
指だ。
「指ね。太いのと細いのがある……」
「男性のものと女性のものですわね。これは確かに、突然見たらショックを受けてしまいますわねえ。スージーさんの気持ちが分かりますわ」
全く気持ちなんか分かってないような顔のシャーロット。
ひょい、と指をつまんでしげしげと眺めた。
ひー、とスージーがか細い悲鳴を漏らす。
「ミイラの指ですわね。よく乾燥してますわ。送りつけられてきたのは、誤配送かしら? 包み紙はあって? もう捨ててしまった?」
「箱を開けた時に、あたし、パニックになっちゃって。それでどこに行ったか分からなくなったよ……」
「仕方ありませんわね。ですけれど、この近くに箱を受け取るはずだった方がいるはずですわね。届いたのはいつですの?」
「一昨日のことだね」
「では、そろそろその人物は、指が誤った住所に送られたことを突き止めている頃合いでしょうね。ここをつきとめるまで、そう時間は掛かりませんわ」
「ひええ」
スージーが震え上がった。
「シャーロット、こういうものをやり取りするのは国の法律的には問題ないわけ? 別に、危険そうな相手が受取人だって限らないでしょう?」
私が尋ねると、シャーロットは顎先に指を当てた。
「そうですわねえ。送られてきた箱の封印次第かしら。スージーさん、こういう分厚い紙でくるまれていて、封蝋がされてませんでした?」
「されてたねえ」
「あー、それをばりばり開けちゃいましたのね」
「えへへ、間違って配送されてても、高級なものだったら儲けものだと思って……」
なるほど、スージーも下町の住人ということだ。
たくましい。
「どちらにせよ、大仰な封がされた物が発送されていたということ、これを受取人は隠したかった可能性がありますわね。スージーさんが素直に届け先に手渡しても、目撃者として狙われるかも知れませんわ。まあ、過去に起きたことに、かもしれなかったという話はやめましょう。非生産的ですわ」
シャーロットはこの話を、ここで切り上げた。
「さて、わたくしたちがやって来たのはちょうどいいタイミングでしたわね! お客様がいらっしゃったようですわよ」
突然そんなことを言うのだ。
さてさて、本格的に事件になってきたみたいだぞ。
みんな心配で集まってきていたらしい。
「こんにちはー」
ノックをすると、しばらくして扉が開いた。
コロコロっとした印象のおばさまが立っている。
「あれまあ! すごい美人さんが来たよう!」
「ジャネット・ワトサップと申します。こっちはシャーロット」
「どうも、スージーさん。ご調子を崩されたと聞いて、お見舞いに伺いましたわ」
スージーはすぐに、私たち二人が下町に暮らすような身分の人間ではないことを見抜いたようだ。
家の中に招いてくれた。
そして、外にいる子どもたちに、
「みんな、大丈夫だよ。あたしは見ての通り元気だから! 夕方には、みんなの好きな肉と野菜のスープを作って待ってるからね!」
そう声を掛けた。
子どもたちの表情がパッと明るくなり、みんなスージーに一声かけながら散っていく。
本当に慕われているのだ。
ほっこりしながらその様子を見守っていたら、スージーが振り返って小さく会釈した。
「失礼しました。お二人とも、偉い方なんでしょう? そちらのシャーロットさん? 子どもたちがいつもお話をしてる、仕事をくれるのっぽのお姉さんだね? それから綺麗な銀髪のあなたは、あたしでも知ってるよ。辺境の至宝ジャネット様。こんな狭い家にお越しいただいてしまって」
「下町遊撃隊の子たちにはお世話になってるもの。気にないで。それより、スージーさんが元気なようで良かったわ」
「ええ、はい。体の方はすっかり」
スージーがガッツポーズをした。
これは古代に魔王が広めたと言われる、元気を誇示するポーズで、ガッツというのは魔王の世界……きっと魔界なのだろうが、そこの有名な人物の名前らしい。
シャーロットは家の中をくるりと見回し、ポンと手を打った。
「なるほど、あの箱に入っているものにショックを受けて寝込みましたわね」
「えっ!?」
いきなり彼女がそんなことを口にしたので、スージーはとても驚いたようだ。
目をまんまるにして、口をぽかーんと開けている。
「な、な、なんで分かるんです?」
「箱が置かれている位置が微妙だからですわよ。見たところ、古くもなくて荷解きをされたばかりの箱。ほら、底面に近いところが凹んでいますから、紐で縛られていた跡ですわね。それに、場所がカーテンを締め切られた窓際ですもの。お昼だと言うのにあそこだけカーテンが開いていないのは、あの箱に近づきたくないからではなくって?」
「そ、そうです。すごい人だねえ……。あたしのことを簡単に言い当ててしまったよ……」
「そういう仕事ですもの。今回は、下町遊撃隊の頼みに応えてあなたを助けに来たのですわ。これって、わたくしが滅多にしないサービスですのよ?」
いつもお金にならない事件に首を突っ込んでは、楽しそうに解決してる気がするけど。
まあ言わないでおこう。
彼女なりに、下町遊撃隊へのリスペクトが籠もった仕事が今回の事件なのだ。
そう、シャーロットが口にしたことで、私は確信した。
これは下町のおばちゃんこと、スージーが寝込んだだけの話ではない。
事件のにおいがする。
窓際から箱を持ってきたシャーロット。
スージーの顔がこわばる。
「開けてもよろしくて?」
「ど、どうぞ」
家主の許可をもらい、シャーロットは箱を開けた。
その中には、細長いものが二つはいっていた。
指だ。
「指ね。太いのと細いのがある……」
「男性のものと女性のものですわね。これは確かに、突然見たらショックを受けてしまいますわねえ。スージーさんの気持ちが分かりますわ」
全く気持ちなんか分かってないような顔のシャーロット。
ひょい、と指をつまんでしげしげと眺めた。
ひー、とスージーがか細い悲鳴を漏らす。
「ミイラの指ですわね。よく乾燥してますわ。送りつけられてきたのは、誤配送かしら? 包み紙はあって? もう捨ててしまった?」
「箱を開けた時に、あたし、パニックになっちゃって。それでどこに行ったか分からなくなったよ……」
「仕方ありませんわね。ですけれど、この近くに箱を受け取るはずだった方がいるはずですわね。届いたのはいつですの?」
「一昨日のことだね」
「では、そろそろその人物は、指が誤った住所に送られたことを突き止めている頃合いでしょうね。ここをつきとめるまで、そう時間は掛かりませんわ」
「ひええ」
スージーが震え上がった。
「シャーロット、こういうものをやり取りするのは国の法律的には問題ないわけ? 別に、危険そうな相手が受取人だって限らないでしょう?」
私が尋ねると、シャーロットは顎先に指を当てた。
「そうですわねえ。送られてきた箱の封印次第かしら。スージーさん、こういう分厚い紙でくるまれていて、封蝋がされてませんでした?」
「されてたねえ」
「あー、それをばりばり開けちゃいましたのね」
「えへへ、間違って配送されてても、高級なものだったら儲けものだと思って……」
なるほど、スージーも下町の住人ということだ。
たくましい。
「どちらにせよ、大仰な封がされた物が発送されていたということ、これを受取人は隠したかった可能性がありますわね。スージーさんが素直に届け先に手渡しても、目撃者として狙われるかも知れませんわ。まあ、過去に起きたことに、かもしれなかったという話はやめましょう。非生産的ですわ」
シャーロットはこの話を、ここで切り上げた。
「さて、わたくしたちがやって来たのはちょうどいいタイミングでしたわね! お客様がいらっしゃったようですわよ」
突然そんなことを言うのだ。
さてさて、本格的に事件になってきたみたいだぞ。
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