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樫の木屋敷の遺産事件
第72話 調査開始
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外泊というのはほとんど経験がなくて、ウキウキだ。
私は自分で翌朝の服を用意して、使用人がいない家で眠る体験をすることになった。
新鮮!
隣の部屋でナイツが寝ているので、安心度は高い。
シャーロットが同室で、ベッドを並べて就寝だ。
狭い部屋!
新鮮!
だけど旅疲れをしていたらしくて、すぐにぐっすり眠ってしまった。
目覚めたら、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
カーテンの隙間から差し込む陽の光。
私はパッと起き上がって、カーテンを開いた。
窓を開けると、視界いっぱいに広がる麦畑の緑色。
「朝だー!」
「うーん」
私が叫ぶと、まだ寝ているシャーロットが呻いた。
朝に弱いタイプだな?
私は彼女をわしわしと揺さぶった。
「うーわー。か、勘弁ですわ~」
朝のシャーロットは弱いぞ。
その後、さっさと着替えた私は、顔を洗う水を持ってきてもらった。
寝ぼけ眼のシャーロットを着替えさせて、顔を洗ってやって、下の階へ。
さあ、朝食だ。
既にナイツがいて、朝食とは思えないような量をもりもり食べている。
「お嬢、おはようございます。よく眠れましたかね」
「ええ、ぐっすり! シャーロットはまだおねむみたいだけど」
「うーん」
「お茶ある? 朝食と、できるだけ渋く淹れたお茶をちょうだい」
ということで、シャーロットに渋いお茶を飲ませる。
効果はてきめん。
半眼だった彼女の目が、カッと開かれた。
「おお……お茶が効いてきた気がしますわ……! ……これ、紅茶ではありませんわね」
お茶には覚醒効果があるものと無いものがあるけど、シャーロットはお茶を飲んだ気分になって目が覚めたのかも?
「何のお茶?」
「裏庭で育ててるハーブティーですよ」
どうりで不思議な香りがする。
「紅茶はないんですの?」
「仕入れるには高いんですよね」
どうやら村にいる間は、紅茶はお預けらしい。
その他、村ではいろいろな物が足りていないらしく、外から荷馬車で仕入れて使っているそうだ。おかげで王都では慣れたものを口にするにも、ちょっとお高い。
シャーロットは、「これは紅茶、これは紅茶」とつぶやきながらハーブティーを飲んでいる。
さて、お腹も膨れたことだし、調査開始だ。
本日は快晴。
麦畑の間の道を、のんびりと歩くことにする。
仕事をしている農夫に、声をかけて聞き込みをしてみた。
「こんにちは! 少しものを尋ねてもいい?」
「なんだい、今は仕事中……」
振り返った農夫が、私を見てぽかーんと目と口を開き、棒立ちになった。
「あっ、ジャネット様を耐性がない方が直視してしまいましたわね……」
「まるで私が見たら石にされるモンスターみたいな言い方するのやめて」
「お嬢は辺境の至宝とか、魅入られたら死ぬ宝石とか言われるご自分の容姿に無自覚なところがありますからね」
「後者は明らかに呪われた宝石とかじゃない!」
ともかく、正気に戻った農夫に話を聞くことに成功した。
樫の木屋敷のご主人は、確かに入婿で、奥さんが先に亡くなられたそう。
それで遺産を相続したけれど、奥さんの親族から色々言われているとか。
で、奥さんの妹さんを抱き込んで、王都に正式な相続証明書を作りに行ってもらっているけれど、その間に親族が来るとやいのやいの言うとか。
常に妹さんがいる、という状態じゃないといけないらしい。
なんともややこしい。
レオパルド嬢はつまり、妹さんの替え玉に呼ばれたということ?
確かに、王都で一般市民が複雑な手続きをしようとすると、一ヶ月掛かりの仕事になったりするし。
そんな話をしていたら、周囲から農夫や奥さんたちが集まってきて、わいわいと噂話大会になってしまった。
どんどん集まってくる情報。
樫の木屋敷の人はもともとよそ者で、金を使って住み着いたとか、他の町にいる一族がいちいち口出しをしてくるとか……。
「ね?」
シャーロットが得意げである。
大体、彼女が推理した通りだった。
なるほど、よくある話なのかなあ。
後はこれを、レオパルド嬢に伝えればいいわけね。
残りは観光をして終わり!
大したこと無い事件だったな。
私はホッと一息。
「ん?」
ここで、ナイツが目を細めた。
彼の視線の先には、樫の木屋敷がある。
「どうしたの? ナイツが反応するっていうことは……なんだか良くないことが起きそう」
「あそこで、キラッと光るものがですな」
「光るもの……? ああ、賊がいるのね。よし、出陣!」
「了解だ!」
ナイツが走り出した。
そしてあぜ道に生えた木を駆け上がり、跳躍する。
彼の剣が抜かれている。
振り抜かれた虹色の刃が、何かを切り落とした。
私の目の前に、くるくると回りながら尖ったものが落ちてくる。
「これ……。クロスボウの矢?」
ナイツは戻ってくると同時に、矢が放たれたであろう場所に向けて走った。
麦畑の中から、緑色の衣を着た男が立ち上がり、慌てて逃げ出していく。
全然楽だったはずの事件が、突然きな臭くなってきたぞ!
「これはこれは……! わたくしの予想外の事が起きてきましたわね!」
シャーロットの目が輝き始める。
厄介な状況になればなるほど、生き生きしてくる彼女なのだ。
農夫たちがどよめいている。
「やっぱりジャネット様がいると、退屈しなくて済みますわ! さてさて、こんな状況で事を起こそうというのは、樫の木屋敷の一件が無事に片付いてしまっては困る人ですわね。そしてこんな物騒なことをやるのは……実行犯が村に入ってきていますわよ……!」
生き生きしているシャーロット。
「本当に、物騒なことがあると嬉しそうになるわよね」
「ジャネット様も楽しそうですわよ?」
えっ、私も染まってきたのかな……?
私は自分で翌朝の服を用意して、使用人がいない家で眠る体験をすることになった。
新鮮!
隣の部屋でナイツが寝ているので、安心度は高い。
シャーロットが同室で、ベッドを並べて就寝だ。
狭い部屋!
新鮮!
だけど旅疲れをしていたらしくて、すぐにぐっすり眠ってしまった。
目覚めたら、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
カーテンの隙間から差し込む陽の光。
私はパッと起き上がって、カーテンを開いた。
窓を開けると、視界いっぱいに広がる麦畑の緑色。
「朝だー!」
「うーん」
私が叫ぶと、まだ寝ているシャーロットが呻いた。
朝に弱いタイプだな?
私は彼女をわしわしと揺さぶった。
「うーわー。か、勘弁ですわ~」
朝のシャーロットは弱いぞ。
その後、さっさと着替えた私は、顔を洗う水を持ってきてもらった。
寝ぼけ眼のシャーロットを着替えさせて、顔を洗ってやって、下の階へ。
さあ、朝食だ。
既にナイツがいて、朝食とは思えないような量をもりもり食べている。
「お嬢、おはようございます。よく眠れましたかね」
「ええ、ぐっすり! シャーロットはまだおねむみたいだけど」
「うーん」
「お茶ある? 朝食と、できるだけ渋く淹れたお茶をちょうだい」
ということで、シャーロットに渋いお茶を飲ませる。
効果はてきめん。
半眼だった彼女の目が、カッと開かれた。
「おお……お茶が効いてきた気がしますわ……! ……これ、紅茶ではありませんわね」
お茶には覚醒効果があるものと無いものがあるけど、シャーロットはお茶を飲んだ気分になって目が覚めたのかも?
「何のお茶?」
「裏庭で育ててるハーブティーですよ」
どうりで不思議な香りがする。
「紅茶はないんですの?」
「仕入れるには高いんですよね」
どうやら村にいる間は、紅茶はお預けらしい。
その他、村ではいろいろな物が足りていないらしく、外から荷馬車で仕入れて使っているそうだ。おかげで王都では慣れたものを口にするにも、ちょっとお高い。
シャーロットは、「これは紅茶、これは紅茶」とつぶやきながらハーブティーを飲んでいる。
さて、お腹も膨れたことだし、調査開始だ。
本日は快晴。
麦畑の間の道を、のんびりと歩くことにする。
仕事をしている農夫に、声をかけて聞き込みをしてみた。
「こんにちは! 少しものを尋ねてもいい?」
「なんだい、今は仕事中……」
振り返った農夫が、私を見てぽかーんと目と口を開き、棒立ちになった。
「あっ、ジャネット様を耐性がない方が直視してしまいましたわね……」
「まるで私が見たら石にされるモンスターみたいな言い方するのやめて」
「お嬢は辺境の至宝とか、魅入られたら死ぬ宝石とか言われるご自分の容姿に無自覚なところがありますからね」
「後者は明らかに呪われた宝石とかじゃない!」
ともかく、正気に戻った農夫に話を聞くことに成功した。
樫の木屋敷のご主人は、確かに入婿で、奥さんが先に亡くなられたそう。
それで遺産を相続したけれど、奥さんの親族から色々言われているとか。
で、奥さんの妹さんを抱き込んで、王都に正式な相続証明書を作りに行ってもらっているけれど、その間に親族が来るとやいのやいの言うとか。
常に妹さんがいる、という状態じゃないといけないらしい。
なんともややこしい。
レオパルド嬢はつまり、妹さんの替え玉に呼ばれたということ?
確かに、王都で一般市民が複雑な手続きをしようとすると、一ヶ月掛かりの仕事になったりするし。
そんな話をしていたら、周囲から農夫や奥さんたちが集まってきて、わいわいと噂話大会になってしまった。
どんどん集まってくる情報。
樫の木屋敷の人はもともとよそ者で、金を使って住み着いたとか、他の町にいる一族がいちいち口出しをしてくるとか……。
「ね?」
シャーロットが得意げである。
大体、彼女が推理した通りだった。
なるほど、よくある話なのかなあ。
後はこれを、レオパルド嬢に伝えればいいわけね。
残りは観光をして終わり!
大したこと無い事件だったな。
私はホッと一息。
「ん?」
ここで、ナイツが目を細めた。
彼の視線の先には、樫の木屋敷がある。
「どうしたの? ナイツが反応するっていうことは……なんだか良くないことが起きそう」
「あそこで、キラッと光るものがですな」
「光るもの……? ああ、賊がいるのね。よし、出陣!」
「了解だ!」
ナイツが走り出した。
そしてあぜ道に生えた木を駆け上がり、跳躍する。
彼の剣が抜かれている。
振り抜かれた虹色の刃が、何かを切り落とした。
私の目の前に、くるくると回りながら尖ったものが落ちてくる。
「これ……。クロスボウの矢?」
ナイツは戻ってくると同時に、矢が放たれたであろう場所に向けて走った。
麦畑の中から、緑色の衣を着た男が立ち上がり、慌てて逃げ出していく。
全然楽だったはずの事件が、突然きな臭くなってきたぞ!
「これはこれは……! わたくしの予想外の事が起きてきましたわね!」
シャーロットの目が輝き始める。
厄介な状況になればなるほど、生き生きしてくる彼女なのだ。
農夫たちがどよめいている。
「やっぱりジャネット様がいると、退屈しなくて済みますわ! さてさて、こんな状況で事を起こそうというのは、樫の木屋敷の一件が無事に片付いてしまっては困る人ですわね。そしてこんな物騒なことをやるのは……実行犯が村に入ってきていますわよ……!」
生き生きしているシャーロット。
「本当に、物騒なことがあると嬉しそうになるわよね」
「ジャネット様も楽しそうですわよ?」
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