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樫の木屋敷の遺産事件
第71話 小旅行
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「ちょっと遠出をしませんこと?」
シャーロットにそんな提案をされた。
「遠出って言うと……王都の外に出ちゃうっていうこと?」
シャーロットが手ずから淹れてくれた、香り高い紅茶を飲みながら私。
今までも、一応は王都の外に出たことはあった。
だけれど、あくまで近郊って感じで簡単に日帰りできたものね。
「二泊三日くらいになりますわね」
「二泊三日!?」
私は驚愕した。
貴族の令嬢が二泊三日するなんて、大変なことだ。
「先日、依頼人が来たのですけれど、冒険者をやめてカタギに戻った女性でして。彼女は教師になったのですけれど、そこに家庭教師の依頼が来たのですわ」
シャーロットが語り始める。
レオパルドという女性が相談に来たそうだ。
家庭教師の依頼をもらったが、どうも依頼内容がおかしいらしい。
一人では判断しかねると思った彼女は、冒険者時代世話になったシャーロットに判断を仰ごうと思ったと。
「エルフェンバインのとある村にある、樫の木が目印のお屋敷ですわね。そこに彼女は先に向かっていますわ。お給料は良い、相手はお屋敷のお子さんが一人だけ、住み込みで寝食のお世話もしてくれる……」
「いいお仕事じゃない」
「ただ、髪の毛をバッサリ切ってきてねという依頼だけあったそうですわね」
「ひどい仕事ねえ」
私は手のひらを返した。
女に髪を切れとは何事だろう。
「まあ、彼女ってもともと冒険者でしたから、髪はそこまで長くなかったのですけれど。それでも、せっかく伸ばし始めた髪を切るのはちょっと、ということと、明らかに好条件の中にこういうのだけ混ぜてくる辺りが、この髪を切れることを重視してるんじゃない、という疑念でわたくしに相談に」
「頭切れるわねえ、レオパルドさん」
さすがは冒険者稼業を生きたまま勤め上げて引退した女性だ。
ということで、彼女の様子を見つつ、樫の木のお屋敷の謎を探る、と。
「それ、依頼料あまり出ないでしょ?」
「お小遣いですわね」
「シャーロットの趣味でしょ?」
「ええ。ですからジャネット様をお誘いしたのですわ。行きません?」
「行く」
私は即断したのだった。
その後、帰宅した私は家族会議。
「お嬢様が行きたいなら仕方ないんじゃありません?」
「そうですねえ。じゃあ、私たちはバスカーとお留守を守りますね」
「ってことは、俺がついてけばいいんだな。兵士たちにはよろしく伝えておいてくれ」
ということで、すぐにどう動くかが決定した。
私とナイツが旅行に出る。
メイドとバスカーが家を守る。
『わふ!? わふ、ふーん』
「バスカーまで出かけちゃったら、家を守る人がいなくなっちゃうでしょ。また今度、どこかに遊びに連れていくから」
『わふーん』
分かってくれた。
こうして馬車の、私以外の部分は食べ物や着替えでパンパンにしてシャーロット邸へ。
シャーロットも乗り込んできて、ぎゅうぎゅうになりながら樫の木屋敷へと向かった。
昼ころに出発して、到着は夕方。
宿をとって、夜にレオパルド嬢と合流した。
彼女は、眼鏡の似合う綺麗な金髪の女性だった。
ショートボブくらいの長さで、髪をバッサリ切っている。
これは確かにもったいないなあ。
「はじめまして。あなたが噂のジャネット様ですね! お会いできて光栄です!」
「はあ、どうも」
噂……?
どういう噂が……?
「エルフェンバインを騒がせる女傑だとか。あのシャーロットさんの相棒としてやっていけるほどの度胸と豪腕を持った、見た目は超絶美少女、中身は百戦錬磨の猛将とか」
「これはひどい」
大変な風評被害だ。
さて、この樫の木屋敷の村について。
辺りは一面の麦畑で、ここで麦を生産して王都に運んでくれているのだろう。
厩舎があちこちにあるので、馬や牛もいることだろう。
日が高い時に周りを見回っておきたい。
こんな遠出なんか、めったにすることが無いんだから。
ちなみにナイツは、もう現地のおじさんたちと仲良くなり、酒盛りをしている。
酔っ払っても弱くならない男なので、私は全然心配してないけれど。
泥酔した状態で蛮族の一軍を撃退したりしてるからね。
「それで、どうでしたの? お仕事をして何日か経ったのでしょう?」
「はい。ご家族は普通の方で、むこうのお嬢さんもいい子でちゃんとお勉強してくれるんですよ。ああ、あの家はどうやら、この辺りの地主さんらしくてですね。ご主人が婿入りしてきたんですけど、奥さんが先に亡くなられたそうで、その遺産を受け継いだとか」
「いきなり生臭い話になってきたわね」
「人間が二人以上いるところ、必ず問題が起きますものね。ふむふむ、これはわたくしがまず当たりをつけますと、奥様の遺産を狙って外部からなにかの介入が行われていますわね。レオパルドさんはあれですわよ。何かの替え玉かなにかを期待されてません? 例えば、わざと窓から見える場所で読書したり、お嬢さんに教える時も窓際で自分は姿を晒すようにとか言われてません?」
「な、なんで分かるんですか!?」
レオパルド嬢が目を見開いた。
推理したな。
シャーロットの洞察力や、推理力は凄いものがあるから。
「やっぱり。よくある話なんですわよねー。姿形が似ている人を替え玉に使うの。恐らく、奥様の遺産を引き継げる方で、お屋敷の血縁の方がレオパルドさんに似ているのですわよ。そして理由があってその方は遺産相続を拒否したけれども、その方の存在がご主人の遺産相続の正当性を証明するとか、そういうことになっていますわ」
「何よシャーロット、もうあれでしょ。事件解決でしょそれ。なんでそんなに冴えてるの」
「よくある話ですもの……!」
フフフ、と笑うシャーロットなのだった。
これはまさか、さっさと事件を終わらせて、観光を楽しもうというつもりなのだろうか……!?
シャーロットにそんな提案をされた。
「遠出って言うと……王都の外に出ちゃうっていうこと?」
シャーロットが手ずから淹れてくれた、香り高い紅茶を飲みながら私。
今までも、一応は王都の外に出たことはあった。
だけれど、あくまで近郊って感じで簡単に日帰りできたものね。
「二泊三日くらいになりますわね」
「二泊三日!?」
私は驚愕した。
貴族の令嬢が二泊三日するなんて、大変なことだ。
「先日、依頼人が来たのですけれど、冒険者をやめてカタギに戻った女性でして。彼女は教師になったのですけれど、そこに家庭教師の依頼が来たのですわ」
シャーロットが語り始める。
レオパルドという女性が相談に来たそうだ。
家庭教師の依頼をもらったが、どうも依頼内容がおかしいらしい。
一人では判断しかねると思った彼女は、冒険者時代世話になったシャーロットに判断を仰ごうと思ったと。
「エルフェンバインのとある村にある、樫の木が目印のお屋敷ですわね。そこに彼女は先に向かっていますわ。お給料は良い、相手はお屋敷のお子さんが一人だけ、住み込みで寝食のお世話もしてくれる……」
「いいお仕事じゃない」
「ただ、髪の毛をバッサリ切ってきてねという依頼だけあったそうですわね」
「ひどい仕事ねえ」
私は手のひらを返した。
女に髪を切れとは何事だろう。
「まあ、彼女ってもともと冒険者でしたから、髪はそこまで長くなかったのですけれど。それでも、せっかく伸ばし始めた髪を切るのはちょっと、ということと、明らかに好条件の中にこういうのだけ混ぜてくる辺りが、この髪を切れることを重視してるんじゃない、という疑念でわたくしに相談に」
「頭切れるわねえ、レオパルドさん」
さすがは冒険者稼業を生きたまま勤め上げて引退した女性だ。
ということで、彼女の様子を見つつ、樫の木のお屋敷の謎を探る、と。
「それ、依頼料あまり出ないでしょ?」
「お小遣いですわね」
「シャーロットの趣味でしょ?」
「ええ。ですからジャネット様をお誘いしたのですわ。行きません?」
「行く」
私は即断したのだった。
その後、帰宅した私は家族会議。
「お嬢様が行きたいなら仕方ないんじゃありません?」
「そうですねえ。じゃあ、私たちはバスカーとお留守を守りますね」
「ってことは、俺がついてけばいいんだな。兵士たちにはよろしく伝えておいてくれ」
ということで、すぐにどう動くかが決定した。
私とナイツが旅行に出る。
メイドとバスカーが家を守る。
『わふ!? わふ、ふーん』
「バスカーまで出かけちゃったら、家を守る人がいなくなっちゃうでしょ。また今度、どこかに遊びに連れていくから」
『わふーん』
分かってくれた。
こうして馬車の、私以外の部分は食べ物や着替えでパンパンにしてシャーロット邸へ。
シャーロットも乗り込んできて、ぎゅうぎゅうになりながら樫の木屋敷へと向かった。
昼ころに出発して、到着は夕方。
宿をとって、夜にレオパルド嬢と合流した。
彼女は、眼鏡の似合う綺麗な金髪の女性だった。
ショートボブくらいの長さで、髪をバッサリ切っている。
これは確かにもったいないなあ。
「はじめまして。あなたが噂のジャネット様ですね! お会いできて光栄です!」
「はあ、どうも」
噂……?
どういう噂が……?
「エルフェンバインを騒がせる女傑だとか。あのシャーロットさんの相棒としてやっていけるほどの度胸と豪腕を持った、見た目は超絶美少女、中身は百戦錬磨の猛将とか」
「これはひどい」
大変な風評被害だ。
さて、この樫の木屋敷の村について。
辺りは一面の麦畑で、ここで麦を生産して王都に運んでくれているのだろう。
厩舎があちこちにあるので、馬や牛もいることだろう。
日が高い時に周りを見回っておきたい。
こんな遠出なんか、めったにすることが無いんだから。
ちなみにナイツは、もう現地のおじさんたちと仲良くなり、酒盛りをしている。
酔っ払っても弱くならない男なので、私は全然心配してないけれど。
泥酔した状態で蛮族の一軍を撃退したりしてるからね。
「それで、どうでしたの? お仕事をして何日か経ったのでしょう?」
「はい。ご家族は普通の方で、むこうのお嬢さんもいい子でちゃんとお勉強してくれるんですよ。ああ、あの家はどうやら、この辺りの地主さんらしくてですね。ご主人が婿入りしてきたんですけど、奥さんが先に亡くなられたそうで、その遺産を受け継いだとか」
「いきなり生臭い話になってきたわね」
「人間が二人以上いるところ、必ず問題が起きますものね。ふむふむ、これはわたくしがまず当たりをつけますと、奥様の遺産を狙って外部からなにかの介入が行われていますわね。レオパルドさんはあれですわよ。何かの替え玉かなにかを期待されてません? 例えば、わざと窓から見える場所で読書したり、お嬢さんに教える時も窓際で自分は姿を晒すようにとか言われてません?」
「な、なんで分かるんですか!?」
レオパルド嬢が目を見開いた。
推理したな。
シャーロットの洞察力や、推理力は凄いものがあるから。
「やっぱり。よくある話なんですわよねー。姿形が似ている人を替え玉に使うの。恐らく、奥様の遺産を引き継げる方で、お屋敷の血縁の方がレオパルドさんに似ているのですわよ。そして理由があってその方は遺産相続を拒否したけれども、その方の存在がご主人の遺産相続の正当性を証明するとか、そういうことになっていますわ」
「何よシャーロット、もうあれでしょ。事件解決でしょそれ。なんでそんなに冴えてるの」
「よくある話ですもの……!」
フフフ、と笑うシャーロットなのだった。
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