推理令嬢シャーロットの事件簿~謎解きは婚約破棄のあとで~

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
71 / 225
樫の木屋敷の遺産事件

第71話 小旅行

しおりを挟む
「ちょっと遠出をしませんこと?」

 シャーロットにそんな提案をされた。

「遠出って言うと……王都の外に出ちゃうっていうこと?」

 シャーロットが手ずから淹れてくれた、香り高い紅茶を飲みながら私。
 今までも、一応は王都の外に出たことはあった。
 だけれど、あくまで近郊って感じで簡単に日帰りできたものね。

「二泊三日くらいになりますわね」

「二泊三日!?」

 私は驚愕した。
 貴族の令嬢が二泊三日するなんて、大変なことだ。

「先日、依頼人が来たのですけれど、冒険者をやめてカタギに戻った女性でして。彼女は教師になったのですけれど、そこに家庭教師の依頼が来たのですわ」

 シャーロットが語り始める。
 レオパルドという女性が相談に来たそうだ。
 家庭教師の依頼をもらったが、どうも依頼内容がおかしいらしい。

 一人では判断しかねると思った彼女は、冒険者時代世話になったシャーロットに判断を仰ごうと思ったと。

「エルフェンバインのとある村にある、樫の木が目印のお屋敷ですわね。そこに彼女は先に向かっていますわ。お給料は良い、相手はお屋敷のお子さんが一人だけ、住み込みで寝食のお世話もしてくれる……」

「いいお仕事じゃない」

「ただ、髪の毛をバッサリ切ってきてねという依頼だけあったそうですわね」

「ひどい仕事ねえ」

 私は手のひらを返した。
 女に髪を切れとは何事だろう。

「まあ、彼女ってもともと冒険者でしたから、髪はそこまで長くなかったのですけれど。それでも、せっかく伸ばし始めた髪を切るのはちょっと、ということと、明らかに好条件の中にこういうのだけ混ぜてくる辺りが、この髪を切れることを重視してるんじゃない、という疑念でわたくしに相談に」

「頭切れるわねえ、レオパルドさん」

 さすがは冒険者稼業を生きたまま勤め上げて引退した女性だ。
 ということで、彼女の様子を見つつ、樫の木のお屋敷の謎を探る、と。

「それ、依頼料あまり出ないでしょ?」

「お小遣いですわね」

「シャーロットの趣味でしょ?」

「ええ。ですからジャネット様をお誘いしたのですわ。行きません?」

「行く」

 私は即断したのだった。

 その後、帰宅した私は家族会議。

「お嬢様が行きたいなら仕方ないんじゃありません?」

「そうですねえ。じゃあ、私たちはバスカーとお留守を守りますね」

「ってことは、俺がついてけばいいんだな。兵士たちにはよろしく伝えておいてくれ」

 ということで、すぐにどう動くかが決定した。
 私とナイツが旅行に出る。
 メイドとバスカーが家を守る。

『わふ!? わふ、ふーん』

「バスカーまで出かけちゃったら、家を守る人がいなくなっちゃうでしょ。また今度、どこかに遊びに連れていくから」

『わふーん』

 分かってくれた。
 こうして馬車の、私以外の部分は食べ物や着替えでパンパンにしてシャーロット邸へ。
 シャーロットも乗り込んできて、ぎゅうぎゅうになりながら樫の木屋敷へと向かった。

 昼ころに出発して、到着は夕方。
 宿をとって、夜にレオパルド嬢と合流した。

 彼女は、眼鏡の似合う綺麗な金髪の女性だった。
 ショートボブくらいの長さで、髪をバッサリ切っている。
 これは確かにもったいないなあ。

「はじめまして。あなたが噂のジャネット様ですね! お会いできて光栄です!」

「はあ、どうも」

 噂……?
 どういう噂が……?

「エルフェンバインを騒がせる女傑だとか。あのシャーロットさんの相棒としてやっていけるほどの度胸と豪腕を持った、見た目は超絶美少女、中身は百戦錬磨の猛将とか」

「これはひどい」

 大変な風評被害だ。

 さて、この樫の木屋敷の村について。
 辺りは一面の麦畑で、ここで麦を生産して王都に運んでくれているのだろう。

 厩舎があちこちにあるので、馬や牛もいることだろう。
 日が高い時に周りを見回っておきたい。
 こんな遠出なんか、めったにすることが無いんだから。

 ちなみにナイツは、もう現地のおじさんたちと仲良くなり、酒盛りをしている。
 酔っ払っても弱くならない男なので、私は全然心配してないけれど。

 泥酔した状態で蛮族の一軍を撃退したりしてるからね。

「それで、どうでしたの? お仕事をして何日か経ったのでしょう?」

「はい。ご家族は普通の方で、むこうのお嬢さんもいい子でちゃんとお勉強してくれるんですよ。ああ、あの家はどうやら、この辺りの地主さんらしくてですね。ご主人が婿入りしてきたんですけど、奥さんが先に亡くなられたそうで、その遺産を受け継いだとか」

「いきなり生臭い話になってきたわね」

「人間が二人以上いるところ、必ず問題が起きますものね。ふむふむ、これはわたくしがまず当たりをつけますと、奥様の遺産を狙って外部からなにかの介入が行われていますわね。レオパルドさんはあれですわよ。何かの替え玉かなにかを期待されてません? 例えば、わざと窓から見える場所で読書したり、お嬢さんに教える時も窓際で自分は姿を晒すようにとか言われてません?」

「な、なんで分かるんですか!?」

 レオパルド嬢が目を見開いた。
 推理したな。
 シャーロットの洞察力や、推理力は凄いものがあるから。

「やっぱり。よくある話なんですわよねー。姿形が似ている人を替え玉に使うの。恐らく、奥様の遺産を引き継げる方で、お屋敷の血縁の方がレオパルドさんに似ているのですわよ。そして理由があってその方は遺産相続を拒否したけれども、その方の存在がご主人の遺産相続の正当性を証明するとか、そういうことになっていますわ」

「何よシャーロット、もうあれでしょ。事件解決でしょそれ。なんでそんなに冴えてるの」

「よくある話ですもの……!」

 フフフ、と笑うシャーロットなのだった。
 これはまさか、さっさと事件を終わらせて、観光を楽しもうというつもりなのだろうか……!?
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

ある平民生徒のお話

よもぎ
ファンタジー
とある国立学園のサロンにて、王族と平民生徒は相対していた。 伝えられたのはとある平民生徒が死んだということ。その顛末。 それを黙って聞いていた平民生徒は訥々と語りだす――

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません

片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。 皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。 もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。

処理中です...