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今度は花嫁が失踪事件
第65話 花嫁発見せり
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「いきなり走り出したけれど、シャーロットは行く先がわかるの?」
「ええ。もうつきますわ」
「早い!!」
走り出してちょっとのこと。
大聖堂から区画を一つだけ離れた公園で馬車は停まった。
ここならば、歩いて来ることもできたんじゃない?
公園は人気がない。
それはそうだ。
近くで結婚式が行われているし、大聖堂があるところは王城の一角で、すぐここは貴族街。
目立った貴族はみんな参列したりしてると思うし、こんな時に公園でのんびりしているのは、派閥関係なくお呼ばれしなかった貴族だとみられるわけだ。
ぼっち認定はきつい。
ということで、公園は無人なのだった。
「いましたわよ」
シャーロットが指し示す先には、木陰に身を隠すようにして一組の男女の姿があった。
「あれがそうなの? それにしたって、よくここだって分かったねえ……」
「ひとまず落ち着けそうで人が来ないところは、ここしかありませんもの。それに、ああいう場から駆け落ちするのは、精神的な体力を消耗しますわ。ならば、本当に愛があるタイプの殿方はここで花嫁を休ませますわね」
「案外ロマンチストねえ」
「ロマンを思う想像力が無くなってしまったら、推理なんてできなくなりますわよ?」
そういうものかもしれない。
なんとなく納得しつつ、私は公園の男女に近づいていった。
「そちらにいるのは、花嫁さん?」
「……誰ですか」
「ジャネット・ワトサップです。突然会場から花嫁がいなくなったので探しにきたのだけれど」
「わ……私たちのことは放っておいてください! せっかく彼と再会できたのに……!」
花嫁を庇うようにして、男が前に出る。
身なりは普通の参列者。
手入れが行き届いたスーツを纏っている。
「貸衣装のものですわね。オーソドックス過ぎるのと、体型が若干合っていませんわ」
シャーロットがすぐに看破した。
貴族は見えっ張りなので、公式の場に出る際は、体型に合わせて衣装を仕立て直したり寸法直しをさせるか、あるいはダイエットをして体型を絞って服に合わせるのだ。
なので、王都の上級貴族は頻繁に服を替え、下級貴族は筋肉質で絞られた体をしていたりする。
この差異がとても面白い。
「つまりシャーロット、彼って」
「身のこなしと佇まい、参列した時の所作は間違いなく貴族のそれでしたでしょうね」
「なんでシャーロットいなかったのに分かるの」
「無理な動きで服が乱れていないでしょう? 質のいい服の着方が分かっているのですわ。ですから、彼はもともとは貴族。ですけれど、今は事情があって平民になっているのですわね?」
「そ……そうだ」
硬い表情で告げる、男。
花嫁と駆け落ちしたのも、なんとなく理由が分かった。
「もしかして、二人とも地元で婚約してたとか……?」
頷く、男と花嫁。
詳しい話を聞きたかったが、公園に身を隠すのも限界だろう。
二人を馬車の中に押し込んで、我が家に招待することにした。
堅苦しい正装のドレスを脱いで、普段着になる。
あー、体が軽い!
いつの間にか家に戻ってきていたバスカーが、ドレスに鼻先を突っ込んで、ふんふん嗅いでいる。
「きゃーっ、ドレスにバスカーの鼻水がついちゃう!」
メイドの悲鳴が聞こえた。
後は任せた……!!
ドレスの裾から、バスカーが連れてきてしまったピーターが顔を出し、『ちゅっちゅっ』とご満悦で鳴いている。
……待てよ。
ピーターか。
「バスカー、ピーター、ちょっと一緒に来て」
『わふ?』
『ちゅうー?』
二匹を呼び寄せて、庭のテーブルへ。
そこでは、男と花嫁が緊張した面持ちで座っていた。
「詳しいお話を聞かせて欲しいな。まず言っておくけれど、王都では貴族法と民法という二つの法律があるのね。そして、貴族法では駆け落ちは重罪。婚約を正統な理由なく、一方的に破棄するのも重罪。どちらも、家が取り潰されてもおかしくないわ。だって、きちんと段取りを踏んでなされた契約を、一方的に破棄するってことなんだもの。そんな人は、国を維持していくためには邪魔なだけなの。これは分かるわよね?」
私の言葉に、二人は頷いた。
エルフェンバインは、現国王イニアナガ一世が統治する前までは荒れていた。
婚約破棄や略奪婚が横行し、貴族なのか蛮族なのかよくわからなくなる有様だった。
これも、先代の王が貴族に自由を許し、もっとみんな自分らしく生きるべき、と貴族法を大幅に緩めたせいである。
お陰で国は荒廃し、下級貴族はやる気をなくし、民も荒れて軍隊の士気が著しく下がった。
治安まで大変悪くなったので、先代の王の王子であったイニアナガ一世が父を倒し、王座についた。
先王は突然、前後不覚になったとかで、そのまま正気に戻らずにこの世を去ったそうだ。
そしてイニアナガ一世の治世となってから、苛烈な統制による政治が行われた。
もちろん、非難轟々だったのだけれど……。
不思議と、国の治安は回復したのだ。
自由はなくなったが、その代わり、誰もがそれなりにやっていけるようになった。
先王の頃に生まれていた、水麻窟みたいな場所は国の認定を受けて、今はちゃんと税金を払いながら運営されているらしい。
あそこ、国家公認だったんだ……。
ということで、今の国の法では、恋情に身を任せた駆け落ちは違法です!
「まずは詳しく話してもらえるかな? このままだと、あなたたちには逃げる場所なんて無いし、子爵家だって取り潰しになるよ」
花嫁の顔が青ざめた。
そして、訥々と事情を語りだすのだった。
「ええ。もうつきますわ」
「早い!!」
走り出してちょっとのこと。
大聖堂から区画を一つだけ離れた公園で馬車は停まった。
ここならば、歩いて来ることもできたんじゃない?
公園は人気がない。
それはそうだ。
近くで結婚式が行われているし、大聖堂があるところは王城の一角で、すぐここは貴族街。
目立った貴族はみんな参列したりしてると思うし、こんな時に公園でのんびりしているのは、派閥関係なくお呼ばれしなかった貴族だとみられるわけだ。
ぼっち認定はきつい。
ということで、公園は無人なのだった。
「いましたわよ」
シャーロットが指し示す先には、木陰に身を隠すようにして一組の男女の姿があった。
「あれがそうなの? それにしたって、よくここだって分かったねえ……」
「ひとまず落ち着けそうで人が来ないところは、ここしかありませんもの。それに、ああいう場から駆け落ちするのは、精神的な体力を消耗しますわ。ならば、本当に愛があるタイプの殿方はここで花嫁を休ませますわね」
「案外ロマンチストねえ」
「ロマンを思う想像力が無くなってしまったら、推理なんてできなくなりますわよ?」
そういうものかもしれない。
なんとなく納得しつつ、私は公園の男女に近づいていった。
「そちらにいるのは、花嫁さん?」
「……誰ですか」
「ジャネット・ワトサップです。突然会場から花嫁がいなくなったので探しにきたのだけれど」
「わ……私たちのことは放っておいてください! せっかく彼と再会できたのに……!」
花嫁を庇うようにして、男が前に出る。
身なりは普通の参列者。
手入れが行き届いたスーツを纏っている。
「貸衣装のものですわね。オーソドックス過ぎるのと、体型が若干合っていませんわ」
シャーロットがすぐに看破した。
貴族は見えっ張りなので、公式の場に出る際は、体型に合わせて衣装を仕立て直したり寸法直しをさせるか、あるいはダイエットをして体型を絞って服に合わせるのだ。
なので、王都の上級貴族は頻繁に服を替え、下級貴族は筋肉質で絞られた体をしていたりする。
この差異がとても面白い。
「つまりシャーロット、彼って」
「身のこなしと佇まい、参列した時の所作は間違いなく貴族のそれでしたでしょうね」
「なんでシャーロットいなかったのに分かるの」
「無理な動きで服が乱れていないでしょう? 質のいい服の着方が分かっているのですわ。ですから、彼はもともとは貴族。ですけれど、今は事情があって平民になっているのですわね?」
「そ……そうだ」
硬い表情で告げる、男。
花嫁と駆け落ちしたのも、なんとなく理由が分かった。
「もしかして、二人とも地元で婚約してたとか……?」
頷く、男と花嫁。
詳しい話を聞きたかったが、公園に身を隠すのも限界だろう。
二人を馬車の中に押し込んで、我が家に招待することにした。
堅苦しい正装のドレスを脱いで、普段着になる。
あー、体が軽い!
いつの間にか家に戻ってきていたバスカーが、ドレスに鼻先を突っ込んで、ふんふん嗅いでいる。
「きゃーっ、ドレスにバスカーの鼻水がついちゃう!」
メイドの悲鳴が聞こえた。
後は任せた……!!
ドレスの裾から、バスカーが連れてきてしまったピーターが顔を出し、『ちゅっちゅっ』とご満悦で鳴いている。
……待てよ。
ピーターか。
「バスカー、ピーター、ちょっと一緒に来て」
『わふ?』
『ちゅうー?』
二匹を呼び寄せて、庭のテーブルへ。
そこでは、男と花嫁が緊張した面持ちで座っていた。
「詳しいお話を聞かせて欲しいな。まず言っておくけれど、王都では貴族法と民法という二つの法律があるのね。そして、貴族法では駆け落ちは重罪。婚約を正統な理由なく、一方的に破棄するのも重罪。どちらも、家が取り潰されてもおかしくないわ。だって、きちんと段取りを踏んでなされた契約を、一方的に破棄するってことなんだもの。そんな人は、国を維持していくためには邪魔なだけなの。これは分かるわよね?」
私の言葉に、二人は頷いた。
エルフェンバインは、現国王イニアナガ一世が統治する前までは荒れていた。
婚約破棄や略奪婚が横行し、貴族なのか蛮族なのかよくわからなくなる有様だった。
これも、先代の王が貴族に自由を許し、もっとみんな自分らしく生きるべき、と貴族法を大幅に緩めたせいである。
お陰で国は荒廃し、下級貴族はやる気をなくし、民も荒れて軍隊の士気が著しく下がった。
治安まで大変悪くなったので、先代の王の王子であったイニアナガ一世が父を倒し、王座についた。
先王は突然、前後不覚になったとかで、そのまま正気に戻らずにこの世を去ったそうだ。
そしてイニアナガ一世の治世となってから、苛烈な統制による政治が行われた。
もちろん、非難轟々だったのだけれど……。
不思議と、国の治安は回復したのだ。
自由はなくなったが、その代わり、誰もがそれなりにやっていけるようになった。
先王の頃に生まれていた、水麻窟みたいな場所は国の認定を受けて、今はちゃんと税金を払いながら運営されているらしい。
あそこ、国家公認だったんだ……。
ということで、今の国の法では、恋情に身を任せた駆け落ちは違法です!
「まずは詳しく話してもらえるかな? このままだと、あなたたちには逃げる場所なんて無いし、子爵家だって取り潰しになるよ」
花嫁の顔が青ざめた。
そして、訥々と事情を語りだすのだった。
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