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今度は花嫁が失踪事件
第63話 消えた花嫁
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結婚式にお呼ばれしたので、久しぶりにちゃんとしたドレス姿になり、出かけることにした。
「お嬢様は花嫁さんより目立ってはいけないんですからね」
「分かってるわよ」
メイドが変な注意をしてくるなあ。
そして私のフォーマルなドレス姿を見て、バスカーが興味津々。
『わふわふ?』
「あっ、だめよバスカー! お嬢様のドレスを食べたらだめ!」
『わふー』
メイド二人に取り押さえられるバスカー。
無念そうだ。
彼は頭がいいので、どうやらドレスをパクっとやると一大事になると学んだことだろう。
「それじゃあ行きましょうぜ」
ナイツが呼びに来た。
馬車の準備はできたということだろう。
今日は彼も、フォーマルなスーツに身を包んでいる。
体格が良い彼がスーツを着ると、とても映える。
メイドたちがぽーっとなって彼を見ていて、ナイツがウインクしたら、二人ともキャッと甲高い声をあげた。
むっ、もしかして君たち、家庭内異性交友をしていないだろうね……?
いや、それはそれで全然構わないんだけど。
『わふーん』
「バスカーもついてきたいの? 確かに今回の結婚式は、王宮横の大聖堂でやるから、ピーターにも会えるかもしれないね」
『わっふ!! わふわふ!』
「よし、一緒に行こう!」
『わふー!』
ということで、私とナイツとバスカーで大聖堂に向かう。
我が家のいかつい馬車が、バスカーを引き連れてやって来たので、参列者たちは一瞬驚いたようである。
だけど、私が馬車から降りてきたら、「なーんだ」みたいな顔をしてホッとした。
なんだなんだ、その態度は。
「ジャネット! シンプルなドレスを纏っていてなお、お前は美しいな。そしてお前がバスカーを連れてくると思って、ここにピーターがいる」
オーシレイがやって来て、彼の胸ポケットからピーターがぴょこっと顔を出した。
『ちゅっちゅ!』
『わふー!』
ピーターがぴょーんとジャンプして、バスカーの鼻先に飛び乗った。
「二人でお庭で遊んでおいで」
『わふー!』
『ちゅちゅー!』
ガルムとカーバンクルのコンビが、喜び勇んでお庭を駆け回り始めた。
参列客の子どもたちが、わいわいと寄っていって、バスカーやピーターとじゃれ始める。
参列者たちは、式で子どもたちが退屈がってうるさくしないよう、気を割いていたようだが、これで心配は幾分か和らぐのじゃないだろうか。
さて、もこもこたちは置いておいて、式だ。
本日の結婚式は、エルム侯爵家とワイザー子爵家のもので、子爵家のお嬢さんが侯爵家に嫁ぐそうだ。
こういうのはイベントなので、普段王都で暇を持て余している貴族たちが、こぞって参列する。
大聖堂はパンパンだ。
花婿と花嫁が現れて、いよいよ式が始まる。
エルフェンバインの国教は、大地の精霊女王レイアを信奉するもの。
この大陸に存在する、四柱の精霊王の中で唯一の女性格である彼女は、あまねく大地に豊穣をもたらす存在と言われている。
それが拡大解釈されて、結婚を守護する女神とも扱われるようになったわけだ。
イリアノス神国ではぜんぜん違う、世界の外から来た神様を信仰しているらしいけど。
その辺りはシャーロットの方が詳しいかな。
私はなぜか、オーシレイの隣だった。
王家代表の参列者がオーシレイと、そのお母様であるソーナリアス様。
なぜ私が、オーシレイとお母様の間に挟まれているの……?
王家の第二王妃であったソーナリアス様は、黒髪でキリッとした感じの女性だった。
元は男爵家の出で、天才的な武術の腕を持っているとかで、ロイヤルガードに抜擢された。
そこをイニアナガ一世が見初めて第二夫人になったわけだ。
ちなみに正妃である方は、コイニキールがやらかして王宮にいづらくなったので、病気がどうとか言って田舎の保養地に籠もったきり戻ってきていない。
つまり、この方は、今やイニアナガ陛下に次ぐ権力者というわけ。
そんな彼女が私をじっと見て、ふんふん、と頷く。
そして、とてもいい笑顔になる。
その後、花嫁をじーっと見て、ふんふん、と頷いた。
そして優しく微笑む。
ちらっと私を横目で見る。
なんだなんだ。
「コイニキール様もバカな真似をしたものだわ。この勝負、わたくしの完勝ね」
なんかぼそっと言ったな。
オーシレイは全く気にしていない。
王子らしいキリッとした姿で、参列者の役割を果たしている。
こういうところはしっかり締めるんだよな、この人は。
ちなみに第三王子がいて、彼は正妃の方の子どもなのだけれど……。
まだほんの子どもなので、正妃と一緒に保養地にいる。
宮廷から離れてしまったので、もう王宮へは戻ってこれまい、と巷では噂になっている。
おっと、そんな思考をしている間に、式が終わってしまった。
荘厳な儀式の後は、もちろん披露宴だ。
飲めや歌えの大騒ぎになる。
貴族たち、絶対にこっちが楽しみで参列しているのだ。
大聖堂前の広場には、既に調理用のテントが張られ、あちこちにテーブルが用意されている。
その上にはお皿に山盛りの、様々な料理。
給仕が銀盆の上にお酒を乗せて歩き回っている。
私もエルフェバインの法律上では、一応ギリギリ成人なんだけれど。
ついこの間まではお酒が飲めなかったわけで、今回もソフトドリンクにしておこうと思う。
「ジャネットさん!!」
ソーナリアス様が物凄い勢いでやって来た。
うわーっ、なんだなんだ。
「なんでしょう?」
「前々から、ご挨拶をせねばと思っていました。なるほど、その美貌。そして凛とした眼差しに、すっと伸びた背筋。あの辺境伯の血を感じます。(これはコイニキール様では手に負えない)」
最後なんかぼそっと言ったな。
「あなたならば、王宮に蠢く魑魅魍魎すらもひれ伏させ、次代の王の隣で燦然と輝くことでしょう! 期待しています」
「はあ」
なんてストレートな物言いか。
つまりオーシレイと結婚してね! って言っているのだ。
周囲の目線は、私とソーナリアスに釘付け。
花婿と花嫁が、この場の主役ではなくなっている。
これはいけない……!
「ああ、すみません。私、今日の主役に挨拶をしてこないと」
「あら、そうでしたね。主役が他にいるのでした」
ソーナリアス様はなかなかいい性格をしている。
新郎新婦のところに向かう私の後に、彼女がついてきた。
すると、花婿だけが所在なげに立っているではないか。
「ご結婚おめでとうございます。あの、花嫁さんは?」
エルム侯爵家の花婿は困った顔をした。
「ああ、はい。調子が悪いと引っ込んだきり、戻ってこないのですよ」
「なるほど」
緊張感から体調を崩すとか、よくあることだ。
今回もそうなのかな、と思った時だった。
「た、大変だ!!」
聖堂の方から声がした。
「花嫁がいなくなっている!!」
なんですって!?
「事件の香りですな」
突如、聞き覚えのある声がした。
私の横に、とても背の高い男性が並ぶ。
「妹をこの場に呼んでいなくて良かった。きっと花嫁の控えまで突撃して、場をかき回したことでしょう」
「マクロスト侯爵様!?」
消えた花嫁、オーシレイとその母上、そしてマクロスト侯爵。
状況は混迷の度合いを深めている気がする……!!
「お嬢様は花嫁さんより目立ってはいけないんですからね」
「分かってるわよ」
メイドが変な注意をしてくるなあ。
そして私のフォーマルなドレス姿を見て、バスカーが興味津々。
『わふわふ?』
「あっ、だめよバスカー! お嬢様のドレスを食べたらだめ!」
『わふー』
メイド二人に取り押さえられるバスカー。
無念そうだ。
彼は頭がいいので、どうやらドレスをパクっとやると一大事になると学んだことだろう。
「それじゃあ行きましょうぜ」
ナイツが呼びに来た。
馬車の準備はできたということだろう。
今日は彼も、フォーマルなスーツに身を包んでいる。
体格が良い彼がスーツを着ると、とても映える。
メイドたちがぽーっとなって彼を見ていて、ナイツがウインクしたら、二人ともキャッと甲高い声をあげた。
むっ、もしかして君たち、家庭内異性交友をしていないだろうね……?
いや、それはそれで全然構わないんだけど。
『わふーん』
「バスカーもついてきたいの? 確かに今回の結婚式は、王宮横の大聖堂でやるから、ピーターにも会えるかもしれないね」
『わっふ!! わふわふ!』
「よし、一緒に行こう!」
『わふー!』
ということで、私とナイツとバスカーで大聖堂に向かう。
我が家のいかつい馬車が、バスカーを引き連れてやって来たので、参列者たちは一瞬驚いたようである。
だけど、私が馬車から降りてきたら、「なーんだ」みたいな顔をしてホッとした。
なんだなんだ、その態度は。
「ジャネット! シンプルなドレスを纏っていてなお、お前は美しいな。そしてお前がバスカーを連れてくると思って、ここにピーターがいる」
オーシレイがやって来て、彼の胸ポケットからピーターがぴょこっと顔を出した。
『ちゅっちゅ!』
『わふー!』
ピーターがぴょーんとジャンプして、バスカーの鼻先に飛び乗った。
「二人でお庭で遊んでおいで」
『わふー!』
『ちゅちゅー!』
ガルムとカーバンクルのコンビが、喜び勇んでお庭を駆け回り始めた。
参列客の子どもたちが、わいわいと寄っていって、バスカーやピーターとじゃれ始める。
参列者たちは、式で子どもたちが退屈がってうるさくしないよう、気を割いていたようだが、これで心配は幾分か和らぐのじゃないだろうか。
さて、もこもこたちは置いておいて、式だ。
本日の結婚式は、エルム侯爵家とワイザー子爵家のもので、子爵家のお嬢さんが侯爵家に嫁ぐそうだ。
こういうのはイベントなので、普段王都で暇を持て余している貴族たちが、こぞって参列する。
大聖堂はパンパンだ。
花婿と花嫁が現れて、いよいよ式が始まる。
エルフェンバインの国教は、大地の精霊女王レイアを信奉するもの。
この大陸に存在する、四柱の精霊王の中で唯一の女性格である彼女は、あまねく大地に豊穣をもたらす存在と言われている。
それが拡大解釈されて、結婚を守護する女神とも扱われるようになったわけだ。
イリアノス神国ではぜんぜん違う、世界の外から来た神様を信仰しているらしいけど。
その辺りはシャーロットの方が詳しいかな。
私はなぜか、オーシレイの隣だった。
王家代表の参列者がオーシレイと、そのお母様であるソーナリアス様。
なぜ私が、オーシレイとお母様の間に挟まれているの……?
王家の第二王妃であったソーナリアス様は、黒髪でキリッとした感じの女性だった。
元は男爵家の出で、天才的な武術の腕を持っているとかで、ロイヤルガードに抜擢された。
そこをイニアナガ一世が見初めて第二夫人になったわけだ。
ちなみに正妃である方は、コイニキールがやらかして王宮にいづらくなったので、病気がどうとか言って田舎の保養地に籠もったきり戻ってきていない。
つまり、この方は、今やイニアナガ陛下に次ぐ権力者というわけ。
そんな彼女が私をじっと見て、ふんふん、と頷く。
そして、とてもいい笑顔になる。
その後、花嫁をじーっと見て、ふんふん、と頷いた。
そして優しく微笑む。
ちらっと私を横目で見る。
なんだなんだ。
「コイニキール様もバカな真似をしたものだわ。この勝負、わたくしの完勝ね」
なんかぼそっと言ったな。
オーシレイは全く気にしていない。
王子らしいキリッとした姿で、参列者の役割を果たしている。
こういうところはしっかり締めるんだよな、この人は。
ちなみに第三王子がいて、彼は正妃の方の子どもなのだけれど……。
まだほんの子どもなので、正妃と一緒に保養地にいる。
宮廷から離れてしまったので、もう王宮へは戻ってこれまい、と巷では噂になっている。
おっと、そんな思考をしている間に、式が終わってしまった。
荘厳な儀式の後は、もちろん披露宴だ。
飲めや歌えの大騒ぎになる。
貴族たち、絶対にこっちが楽しみで参列しているのだ。
大聖堂前の広場には、既に調理用のテントが張られ、あちこちにテーブルが用意されている。
その上にはお皿に山盛りの、様々な料理。
給仕が銀盆の上にお酒を乗せて歩き回っている。
私もエルフェバインの法律上では、一応ギリギリ成人なんだけれど。
ついこの間まではお酒が飲めなかったわけで、今回もソフトドリンクにしておこうと思う。
「ジャネットさん!!」
ソーナリアス様が物凄い勢いでやって来た。
うわーっ、なんだなんだ。
「なんでしょう?」
「前々から、ご挨拶をせねばと思っていました。なるほど、その美貌。そして凛とした眼差しに、すっと伸びた背筋。あの辺境伯の血を感じます。(これはコイニキール様では手に負えない)」
最後なんかぼそっと言ったな。
「あなたならば、王宮に蠢く魑魅魍魎すらもひれ伏させ、次代の王の隣で燦然と輝くことでしょう! 期待しています」
「はあ」
なんてストレートな物言いか。
つまりオーシレイと結婚してね! って言っているのだ。
周囲の目線は、私とソーナリアスに釘付け。
花婿と花嫁が、この場の主役ではなくなっている。
これはいけない……!
「ああ、すみません。私、今日の主役に挨拶をしてこないと」
「あら、そうでしたね。主役が他にいるのでした」
ソーナリアス様はなかなかいい性格をしている。
新郎新婦のところに向かう私の後に、彼女がついてきた。
すると、花婿だけが所在なげに立っているではないか。
「ご結婚おめでとうございます。あの、花嫁さんは?」
エルム侯爵家の花婿は困った顔をした。
「ああ、はい。調子が悪いと引っ込んだきり、戻ってこないのですよ」
「なるほど」
緊張感から体調を崩すとか、よくあることだ。
今回もそうなのかな、と思った時だった。
「た、大変だ!!」
聖堂の方から声がした。
「花嫁がいなくなっている!!」
なんですって!?
「事件の香りですな」
突如、聞き覚えのある声がした。
私の横に、とても背の高い男性が並ぶ。
「妹をこの場に呼んでいなくて良かった。きっと花嫁の控えまで突撃して、場をかき回したことでしょう」
「マクロスト侯爵様!?」
消えた花嫁、オーシレイとその母上、そしてマクロスト侯爵。
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