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青色のカーバンクル事件

第57話 カーバンクルを守れ

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 途中で、下町遊撃隊の子どもを見つけたので、シャーロットに伝言を頼む。
 すると、少ししてすぐに彼女がやって来た。

「ジャネット様! ピーターがカーバンクルだったって本当ですの!?」

「そうだと思う。だって、ジャクリーンが襲ってきたし」

「でしたら間違いなく本物ですわね。むしろ、カーバンクルが行方不明になった事件に、あの女が絡んでいるのは間違いありませんわ」

 状況証拠だけですけど、とシャーロットが付け加える。
 彼女が言うには、ジャクリーンが関係している時点で、その事件はかの犯罪コンサルタントの仕業であると考えて間違いないそうだ。
 なんというマイナス方面の信頼!

「ひとまず、彼女からピーターを守らねばなりませんわね。諦めさせるには、彼女の今の犯罪に参加しているメンバーを全員捕まえてしまうしかありませんわ」

「メンバーって、あの黒ずくめ? 捕まえても、ジャクリーンをどうにかしないとまたやって来るんじゃないの?」

「ジャクリーンは犯罪のプロですわ。彼女自身が欲望を持って犯罪を計画、実行するのではなく……依頼を受けて計画を立て、チームを編成するのですわ。彼らに犯罪のレクチャーを行うからこそ、彼女が犯罪コンサルタントと呼ばれているのですけれど、つまりそのレクチャーを受けたメンバーが誰もいなくなれば……」

「ジャクリーンの予定している犯罪ができなくなるってわけね。それで手を引く、と」

「ええ」

 もしかしてシャーロット、今までもジャクリーンと何度か対決したことがあるのではないだろうか。

「さあ、これからどうやってピーターを守ろうか」

『ちゅちゅ?』

 ピーターが二本足で立ち上がって、私とシャーロットを交互に見る。
 小さくてもこもこしている彼は、とても可愛い。

 そうかー。
 額に赤い石がついているところから、彼が普通のネズミではないと察して於けばよかったのかも知れない。

『わふ、わふ!』

 バスカーがテーブルに前足を乗せて、何か主張している。
 友達は僕が守るよ! なんて言っているのかも知れない。
 大変可愛いので、私はバスカーの首筋をモフモフとした。

「では行動を始めましょうか。オーシレイ殿下にピーターを預けたとしても解決はしませんわよ? 今回の犯罪チームが残っていれば、作戦を修正しながらジャクリーンは犯罪を続行しますわ! つまり……」

「全員捕まえるしかない、と。よし、デストレードを巻き込みに行こう!」

「ジャネット様も染まってきましたわねえ」

 とても嬉しそうにシャーロットが言うのだった。
 バスカーとピーターを連れて、憲兵所までやって来る。
 我が家には、万一の事を考えてナイツは置いておくことにした。

「ええ……。切った張ったの機会なのに俺は留守番ですかい……」

 とてもがっかりしていた。
 さて、シャーロットの無人馬車を走らせながら、私たちは憲兵所へ。

「覚悟なさいませ、ジャネット様。ここからジャクリーンは本気ですわよ。つまりこれは、わたくしたちとジャクリーンの全面対決ということになりますわ!」

「ええっ!? どうして!?」

「憲兵所に飛び込まれたら、向こうも動きようがなくなりますもの。だから、わたくしたちが憲兵所に駆け込む直前までを勝負どころとして全力で来るでしょうね。ただ、ナイツさんを家に残したのは正解だと思いますわ。これでジャクリーンから、家のメイドたちを人質に取るという選択肢を奪いましたもの」

「あ、それはそれで正解だった……? でも、ならば家に籠もっていた方が……」

「いつまでも籠城はできませんもの。攻めますわよ!!」

 なんたるアクティブさ。
 無人馬車が我が家を出ると、周囲には不自然なほど人の姿がない。
 私は膝の上にピーターを乗せて、彼を守るように両手で包み込む。

 貴族街は元々、そこまで多くの人が行き来するような場所ではないんだけど……。
 どこかの家の使用人すらいないというのは初めてだなあ。

「ああ、これは恐らく、わたくしが来るまでの間に偽の情報が出回ったのですわね」

「偽の情報?」

「大方、オーシレイ殿下が危険な生物を貴族街を通して搬入するから、夕方まで外出をしないように、とかですわね」

「ありそう!!」

 ジャクリーン・モリアータ側でも計略を仕掛けてきているということだ。
 果たして、走り出してすぐに向こうは仕掛けてきた。

 家々の間から、路地から、わあわあと人々が走り出してくる。
 なんだなんだ。
 いや、なんだじゃない。
 ジャクリーンの計略だ。

 馬車の前を塞ぐように、ちょっと汚い感じの服の男たちが立ち並ぶ。

「どうするの?」

「金で雇われた足止め要因ですわね! 蹴散らしますわよ!」

「やっぱり……! よし、バスカー、やっちゃえ!」

『わふーん!!』

 バスカーが突っ切る。
 掴まろうとした男たちは跳ね飛ばされ、ウグワーッ!!と叫びながらあちこちに転がる。

「バスカーが怖くないの? 躊躇なく飛びついてきたけど!」

「この間、麻薬を扱う事件に関わりましたでしょう? そういうことですわ!」

「ジャクリーン、手段を選ばない……!」

 だが、向こうもバスカーの威力に何の対策も立てていないわけではなかった。
 厚手のカーテンみたいなのを持った男たちが現れて、バスカー目掛けて放り投げる。

 バスカーはこれを慌てて避ける。
 あんなものを上から被せられたら、身動きできなくなってしまうだろう。

「シャーロット! 布を持っている人たちの脇に馬車を寄せて!」

「心得ましたわ!」

 馬なし馬車が走り、カーテンを持った人々に接触した。

「ウグワー!?」

 端の男たちが悲鳴を上げて転倒すると、カーテンのバランスが崩れる。
 これで放り投げられない。

 だけど、こうして対処している間は、私たちは憲兵所に向かって進めないのだ。
 ううん、厄介だ、ジャクリーン!

 私は焦れていたが、不思議とシャーロットは笑みを浮かべている。

「下町遊撃隊を通じてわたくしを呼んだのは、大正解でしたわねジャネット様! お陰で、わたくしたちの勝利ですわよ!」

「どういうこと? それってつまり……」

 向こうから、見覚えのある馬車がやって来た。
 そこから、黒ずくめの男たちが降り立つ。
 手にしているのは、魔法の道具か何かだろうか。

 これでバスカーを無力化して、ピーターを捕まえる気なのだ。

「どうするの!?」

「あちらはわたくしたちの足止めを。ですけど、わたくしたちは時間稼ぎをしていましたのよ? 親愛なるデストレードは、無能な憲兵ではありませんから」

 それってつまり……!
 貴族街の向こう側から、わあわあと掛け声が聞こえてきた。

 ピリピリと鳴る警笛の音。
 憲兵たちがやって来たのだ。
 つまりシャーロットは、私に呼ばれた時点で、あらかじめ憲兵隊も呼んでいたのだった。
 
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