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謎の木の実の種事件
第50話 ジャクリーンの挨拶
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屋敷に戻る直前に、並走する馬車があった。
馬と御者のいない、シャーロットの馬車に並ぶとは剛毅な……。
と思ったら。
向こうの窓から、特徴的な容貌のご婦人が顔をのぞかせた。
くるくる巻かれた豊かな髪は、ストロベリーブロンド。
エメラルドグリーンに輝く瞳が印象的な、ちょっと耳の尖った美女だ。
「こうも早く解決してしまうなんて。いよいよあなた方を無視することができなくなってきたわ」
「あなたは?」
私が問うと同時に、シャーロットがニヤリと笑った。
「ジャクリーン・モリアータ。ついに姿を見せましたわね?」
「あら。あたしとあなたは初対面だと思うけれど」
ジャクリーン・モリアータ!
犯罪コンサルタントを名乗る女で、王都に巻き起こる事件の影で暗躍するという……つまりは黒幕だ。
そんな彼女が、直接顔を見せるなんて。
やる気かな?
「ジャクリーン・モリアータがハーフエルフだという推測は立てていましたわ。あなたが関わっていると目される犯罪、五十年前から起きているんですもの。これに関わり続けた上で、あなたの情報だけが不思議と表には出てこない。なのに、犯罪界では根強くあなたの存在がブランドとして存在していますわ。こんなことは、人間には少々難しいですものね」
五十年間、世界の犯罪行為に影響を及ぼし続けるということ。
人間でも無理ではないかも知れないけど、厳しいのは確かだろう。
黒幕であるジャクリーンがハーフエルフならば、納得だ。
「あら、素晴らしい推理ね、シャーロット・ラムズ。あたし、あなたが嫌いだわ。その推理で、あたしの商品を次々に台無しにしてくれるんだもの」
「商品?」
私の問いに、ジャクリーンが笑った。
「犯罪よ。あたしの仕事は、バカなことをしようとする者たちに知恵を授けることだもの。それでバカな計画が上手く行ったならばあたしの勝ち。バカをやって者たちが破滅したらあたしの負け。そういうゲームがあたしの商品なの」
「それって、あなたは全くリスクを負ってなくない!? 罰せられるのが犯罪者で、あなたは表に出てこないままじゃない」
「それが、あたし。あたしが関わるということは、そういうことなの。世界はそう言う風にできているの」
「まっ! なんて傲慢!」
辺境なら即死ね!
いやいや、案外こいつはしぶとく生き残るタイプかも知れない。
とにかく、自分では責任を負わないのに、世界に犯罪の種をばらまいて不幸を量産するジャクリーンという女。
私は大嫌いになった。
こいつに比べれば、元ローグ伯爵令嬢のキャシーなんか本当に可愛いものだ。
「うふふ、可愛い反応。あたし、あなたが大好きになったわ。ワトサップ辺境伯令嬢ジャネットさん?」
「私は大嫌い! 馬車から降りなさいよ! 今すぐボコボコにしてあげる!」
「まっ、野蛮!」
「むきー!」
私は怒り心頭である。
だが、私がカッカしたお陰でシャーロットは冷静になったらしい。
「それで、そのジャクリーンが姿を見せたというのは、どういう意味かしら? わたくしたちへの宣戦布告と受け取っていいのかしら」
「ああ、それねえ」
ジャクリーンが不快そうに顔を歪めた。
「立て続けにあたしの計画をダメにされたの、初めてなのよね。だから、もう我慢できなくなっちゃった。一度顔を見てやろうとおもったの。第一、あなたがたがあたしの顔を覚えたって、次にはこの顔を変えてるかもしれないわ。覚えたって無駄よ。だからこれは、あなたが言うようにあたしからの宣戦布告。またとびっきりのを用意するから、待ってなさいよ」
それだけ言うと、ジャクリーンの馬車が急カーブで横合いの通りに走っていってしまった。
「あの馬車を追いなさい!」
シャーロットが命令を出す。
魔法生物は忠実にそれを守り、馬車の進みを変える。
馬が牽いている馬車よりも、魔法生物の馬車の方が早い。
馬の機嫌を気にしなくていいので、好きなだけ速力を上げられるのだ。
追いついて馬車の窓を覗き込むと、そこにはもう、誰もいなかった。
いつの間にか、ジャクリーン・モリアータは逃げてしまっていたのだ。
「おのれ……!! こんなことならナイツを連れてくるんだった」
『わふ?』
降り立った私に、後ろを走ってきていたバスカーがすり寄ってきた。
彼をわしわしと撫でながら、次こそ逃さないぞと誓う私である。
それに対して、シャーロットはなんだか嬉しそうだ。
「ついに表舞台に現れましたわねえ……。犯罪を起こされるのは迷惑ですけれども、わたくしが全力でやりあえる相手がいるというのは、楽しいものですわ」
もしかして……シャーロットとジャクリーンは同類……?
あー、それっぽい。
たまたま、こちら側に残っているのがシャーロットで、悪の側に転んだのがジャクリーンなのかも。
ということは、これは二人のシャーロットが争うような状況になっていくのだろうか。
いや、今までも表立ってはいなかっただけで、シャーロットとジャクリーンの対決は既に始まっていたのだ。
さっきのジャクリーンの挨拶は、これから本格的に行くぞ、と言う宣言でしかない。
いやはや……。
面倒なことにならなければいいんだけど……なるんだろうなあ。
馬と御者のいない、シャーロットの馬車に並ぶとは剛毅な……。
と思ったら。
向こうの窓から、特徴的な容貌のご婦人が顔をのぞかせた。
くるくる巻かれた豊かな髪は、ストロベリーブロンド。
エメラルドグリーンに輝く瞳が印象的な、ちょっと耳の尖った美女だ。
「こうも早く解決してしまうなんて。いよいよあなた方を無視することができなくなってきたわ」
「あなたは?」
私が問うと同時に、シャーロットがニヤリと笑った。
「ジャクリーン・モリアータ。ついに姿を見せましたわね?」
「あら。あたしとあなたは初対面だと思うけれど」
ジャクリーン・モリアータ!
犯罪コンサルタントを名乗る女で、王都に巻き起こる事件の影で暗躍するという……つまりは黒幕だ。
そんな彼女が、直接顔を見せるなんて。
やる気かな?
「ジャクリーン・モリアータがハーフエルフだという推測は立てていましたわ。あなたが関わっていると目される犯罪、五十年前から起きているんですもの。これに関わり続けた上で、あなたの情報だけが不思議と表には出てこない。なのに、犯罪界では根強くあなたの存在がブランドとして存在していますわ。こんなことは、人間には少々難しいですものね」
五十年間、世界の犯罪行為に影響を及ぼし続けるということ。
人間でも無理ではないかも知れないけど、厳しいのは確かだろう。
黒幕であるジャクリーンがハーフエルフならば、納得だ。
「あら、素晴らしい推理ね、シャーロット・ラムズ。あたし、あなたが嫌いだわ。その推理で、あたしの商品を次々に台無しにしてくれるんだもの」
「商品?」
私の問いに、ジャクリーンが笑った。
「犯罪よ。あたしの仕事は、バカなことをしようとする者たちに知恵を授けることだもの。それでバカな計画が上手く行ったならばあたしの勝ち。バカをやって者たちが破滅したらあたしの負け。そういうゲームがあたしの商品なの」
「それって、あなたは全くリスクを負ってなくない!? 罰せられるのが犯罪者で、あなたは表に出てこないままじゃない」
「それが、あたし。あたしが関わるということは、そういうことなの。世界はそう言う風にできているの」
「まっ! なんて傲慢!」
辺境なら即死ね!
いやいや、案外こいつはしぶとく生き残るタイプかも知れない。
とにかく、自分では責任を負わないのに、世界に犯罪の種をばらまいて不幸を量産するジャクリーンという女。
私は大嫌いになった。
こいつに比べれば、元ローグ伯爵令嬢のキャシーなんか本当に可愛いものだ。
「うふふ、可愛い反応。あたし、あなたが大好きになったわ。ワトサップ辺境伯令嬢ジャネットさん?」
「私は大嫌い! 馬車から降りなさいよ! 今すぐボコボコにしてあげる!」
「まっ、野蛮!」
「むきー!」
私は怒り心頭である。
だが、私がカッカしたお陰でシャーロットは冷静になったらしい。
「それで、そのジャクリーンが姿を見せたというのは、どういう意味かしら? わたくしたちへの宣戦布告と受け取っていいのかしら」
「ああ、それねえ」
ジャクリーンが不快そうに顔を歪めた。
「立て続けにあたしの計画をダメにされたの、初めてなのよね。だから、もう我慢できなくなっちゃった。一度顔を見てやろうとおもったの。第一、あなたがたがあたしの顔を覚えたって、次にはこの顔を変えてるかもしれないわ。覚えたって無駄よ。だからこれは、あなたが言うようにあたしからの宣戦布告。またとびっきりのを用意するから、待ってなさいよ」
それだけ言うと、ジャクリーンの馬車が急カーブで横合いの通りに走っていってしまった。
「あの馬車を追いなさい!」
シャーロットが命令を出す。
魔法生物は忠実にそれを守り、馬車の進みを変える。
馬が牽いている馬車よりも、魔法生物の馬車の方が早い。
馬の機嫌を気にしなくていいので、好きなだけ速力を上げられるのだ。
追いついて馬車の窓を覗き込むと、そこにはもう、誰もいなかった。
いつの間にか、ジャクリーン・モリアータは逃げてしまっていたのだ。
「おのれ……!! こんなことならナイツを連れてくるんだった」
『わふ?』
降り立った私に、後ろを走ってきていたバスカーがすり寄ってきた。
彼をわしわしと撫でながら、次こそ逃さないぞと誓う私である。
それに対して、シャーロットはなんだか嬉しそうだ。
「ついに表舞台に現れましたわねえ……。犯罪を起こされるのは迷惑ですけれども、わたくしが全力でやりあえる相手がいるというのは、楽しいものですわ」
もしかして……シャーロットとジャクリーンは同類……?
あー、それっぽい。
たまたま、こちら側に残っているのがシャーロットで、悪の側に転んだのがジャクリーンなのかも。
ということは、これは二人のシャーロットが争うような状況になっていくのだろうか。
いや、今までも表立ってはいなかっただけで、シャーロットとジャクリーンの対決は既に始まっていたのだ。
さっきのジャクリーンの挨拶は、これから本格的に行くぞ、と言う宣言でしかない。
いやはや……。
面倒なことにならなければいいんだけど……なるんだろうなあ。
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