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謎の木の実の種事件
第48話 シャーロット、動く
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「まず封筒ですけれど、これはエルフェンバインで作られたものではありませんわね」
「ほんとだ。見慣れた封筒じゃない。でも、庶民の間ではこういうのが広まってるとか無いの?」
「ありませんわね。これはイリアノス神王国の作りですわ。あちらは神の力とやらで、機械を動かしてこれを自動的に作りますのよ」
「なにそれこわい」
封筒を太陽に透かして見てみる。
確かに、紙がきめ細かくて、元になったであろう植物の繊維が見えない。
エルフェンバインが作る紙は、もう少し目が荒くて肉眼で繊維が分かるのだ。
「その代わり劣化が早いのですわ。どろどろに溶かしてまとめたものなので、虫なども食べやすいのかも知れませんわね」
「なーるほど。で、これは海を渡ってイリアノスから来たと?」
「間違いありませんわね。手紙が出されたのはイリアノス。ですけれど、手紙を届けられた依頼人が殺されたのは届いた翌日。手紙を追うようにして犯人がやって来たということですわ」
「そうなんだ……。で、どうして封筒を送ったんだろう」
「エルフの実は、異郷では芽吹かぬ象徴とされていますの。だから、これの花言葉みたいなものがございまして『お前は異郷に根付くことはできない』ですわね。悪意たっぷりですわねー。根付く前に刈り取ってやると言う話ですわ」
「もう戦争じゃない」
「戦争ですわね」
私たちはシャーロットの馬車に乗り、港に向かって突き進んでいる。
「依頼人こうも話していましたの。父も同じ種を受け取っていたと。どうやら、こうして異種族の血が入っている方を探し出して害するのを生業としているようですわね」
「テロリストじゃない。憲兵に連絡した?」
「海の上は国内じゃありませんもの。治外法権ですわ。デストレード、その辺りの区分にはうるさいんですのよ」
「なるほど、融通が効かない……」
馬車の横から、並走するバスカーの背中が見える。
今日は彼の運動も兼ねているのだ。
のんびりお散歩ばかりだと、体が鈍る。
そして到着する港。
シャーロットは馬車から降りるなり、周囲をぐるりと見回した。
「もう、港から出てしまった後ですわねえ」
「分かるの?」
「船の作りがエルフェンバインの様式のものばかりですわ。あちらのものはイリアノスの船ですが、貨物船ですわね。速度は出ませんわ。それに、今帆を畳んでいるでしょう。到着して、荷を降ろしているところですわね」
到着したばかりということだ。
その乗組員が陸に上がって犯行に及ぶとは考えづらいらしい。
「そしてここが一箇所、空いていますわ」
シャーロットが指し示したのは、小さな船が一隻停泊できたであろうスペース。
木製の係船柱が立っていて、そこは少し濡れていた。
もやい綱が掛けられていたのだろう。
「ちょっと、よろしいですかしら?」
「うおっ!? なんで港にお嬢様の姿をした人が!? な、なんだい」
シャーロットと私を見て、道行く水夫がびっくりしていた。
「ここに停泊していた船ですけれど、ご存知ですの?」
「お、おお。わざわざ海から観光にやって来たっていう変わり者たちだったよ。正式なエルフェンバインの滞在許可は取ってたようだよ」
「ありがとうございますわ!」
シャーロットは水夫に礼を言うと、私に振り返った。
「では船を一つ借りましょうか。今ならすぐに追いつけますわよ!」
「ええ!? 今から追いかけるの!?」
「当然ですわ。皆さん! こちらへ!」
シャーロットが声を上げると、彼女の馬車から目に見えない何者かが動き出す気配がした。
インビジブルストーカーという魔法生物。
これをシャーロットは自在に使役するらしい。
シャーロットは水夫に頼んで、彼の船まで連れて行ってもらった。
そこで船主と合う。
「船を貸していただけます? ラムズ侯爵家のツケで」
「えっ、ラムズ侯爵様の!? ってことはその長身と馬のいない馬車! そしてどう見てもワトサップ辺境伯令嬢らしき女性と青い大きな犬! あんたはラムズ侯爵令嬢シャーロットか!!」
なんで今、私がシャーロットの身分確認に使われたの?
「ええ、その通り。貸してくださいますわね?」
「ああ、構わねえよ。噂のシャーロットとワトサップのご令嬢のコンビを、まさかこの目で拝めるとはなあ! 船の上で、あんたらの冒険譚は人気なんだよ」
「いつの間にそんなものが広まっていたの……」
解せぬ私である。
だけれど、お陰で船主は私たちのファンらしく、快く船を貸してくれた。
侯爵家の名前も効いているとは思うけど。
私とシャーロット、バスカーが乗り込むと、船のもやい綱がひとりでにほどけた。
そして、誰も手を触れていないのに、帆が上がる。
「なんだなんだ……!?」
混乱する船主と水夫たち。
「わたくしのインビジブルストーカーが仕事をしているのですわ。何も心配いりませんわよ」
いやいや、これ、知らないとめちゃくちゃ怖いでしょ……!
こうして、つい十数分前までお茶を飲んでいたはずの私は、波に揺られることになった。
怒涛の展開過ぎる。
しかも私、船に乗るのが初めてなんだけど。
お茶の前は、バスカーとカゲリナの犬と散歩してたのに。
日常の隣には非日常があるものである。
「賊の船が出てからそう時間が経っていませんわ。ここから外海へと出るまで時間がありますし、この船の速さならば追いつくのも時間の問題でしょう。ではこの隙に、ジャネット様にはわたくしの推理を聞いてもらわないと……」
「この一連の流れで散々推理は聞いた気がしたんだけど」
それでも語らずにはおれぬ推理開陳の欲求。
私は彼女の推理を聞きながら、バスカーの毛並みをもふもふと撫でることになるのだった。
「ほんとだ。見慣れた封筒じゃない。でも、庶民の間ではこういうのが広まってるとか無いの?」
「ありませんわね。これはイリアノス神王国の作りですわ。あちらは神の力とやらで、機械を動かしてこれを自動的に作りますのよ」
「なにそれこわい」
封筒を太陽に透かして見てみる。
確かに、紙がきめ細かくて、元になったであろう植物の繊維が見えない。
エルフェンバインが作る紙は、もう少し目が荒くて肉眼で繊維が分かるのだ。
「その代わり劣化が早いのですわ。どろどろに溶かしてまとめたものなので、虫なども食べやすいのかも知れませんわね」
「なーるほど。で、これは海を渡ってイリアノスから来たと?」
「間違いありませんわね。手紙が出されたのはイリアノス。ですけれど、手紙を届けられた依頼人が殺されたのは届いた翌日。手紙を追うようにして犯人がやって来たということですわ」
「そうなんだ……。で、どうして封筒を送ったんだろう」
「エルフの実は、異郷では芽吹かぬ象徴とされていますの。だから、これの花言葉みたいなものがございまして『お前は異郷に根付くことはできない』ですわね。悪意たっぷりですわねー。根付く前に刈り取ってやると言う話ですわ」
「もう戦争じゃない」
「戦争ですわね」
私たちはシャーロットの馬車に乗り、港に向かって突き進んでいる。
「依頼人こうも話していましたの。父も同じ種を受け取っていたと。どうやら、こうして異種族の血が入っている方を探し出して害するのを生業としているようですわね」
「テロリストじゃない。憲兵に連絡した?」
「海の上は国内じゃありませんもの。治外法権ですわ。デストレード、その辺りの区分にはうるさいんですのよ」
「なるほど、融通が効かない……」
馬車の横から、並走するバスカーの背中が見える。
今日は彼の運動も兼ねているのだ。
のんびりお散歩ばかりだと、体が鈍る。
そして到着する港。
シャーロットは馬車から降りるなり、周囲をぐるりと見回した。
「もう、港から出てしまった後ですわねえ」
「分かるの?」
「船の作りがエルフェンバインの様式のものばかりですわ。あちらのものはイリアノスの船ですが、貨物船ですわね。速度は出ませんわ。それに、今帆を畳んでいるでしょう。到着して、荷を降ろしているところですわね」
到着したばかりということだ。
その乗組員が陸に上がって犯行に及ぶとは考えづらいらしい。
「そしてここが一箇所、空いていますわ」
シャーロットが指し示したのは、小さな船が一隻停泊できたであろうスペース。
木製の係船柱が立っていて、そこは少し濡れていた。
もやい綱が掛けられていたのだろう。
「ちょっと、よろしいですかしら?」
「うおっ!? なんで港にお嬢様の姿をした人が!? な、なんだい」
シャーロットと私を見て、道行く水夫がびっくりしていた。
「ここに停泊していた船ですけれど、ご存知ですの?」
「お、おお。わざわざ海から観光にやって来たっていう変わり者たちだったよ。正式なエルフェンバインの滞在許可は取ってたようだよ」
「ありがとうございますわ!」
シャーロットは水夫に礼を言うと、私に振り返った。
「では船を一つ借りましょうか。今ならすぐに追いつけますわよ!」
「ええ!? 今から追いかけるの!?」
「当然ですわ。皆さん! こちらへ!」
シャーロットが声を上げると、彼女の馬車から目に見えない何者かが動き出す気配がした。
インビジブルストーカーという魔法生物。
これをシャーロットは自在に使役するらしい。
シャーロットは水夫に頼んで、彼の船まで連れて行ってもらった。
そこで船主と合う。
「船を貸していただけます? ラムズ侯爵家のツケで」
「えっ、ラムズ侯爵様の!? ってことはその長身と馬のいない馬車! そしてどう見てもワトサップ辺境伯令嬢らしき女性と青い大きな犬! あんたはラムズ侯爵令嬢シャーロットか!!」
なんで今、私がシャーロットの身分確認に使われたの?
「ええ、その通り。貸してくださいますわね?」
「ああ、構わねえよ。噂のシャーロットとワトサップのご令嬢のコンビを、まさかこの目で拝めるとはなあ! 船の上で、あんたらの冒険譚は人気なんだよ」
「いつの間にそんなものが広まっていたの……」
解せぬ私である。
だけれど、お陰で船主は私たちのファンらしく、快く船を貸してくれた。
侯爵家の名前も効いているとは思うけど。
私とシャーロット、バスカーが乗り込むと、船のもやい綱がひとりでにほどけた。
そして、誰も手を触れていないのに、帆が上がる。
「なんだなんだ……!?」
混乱する船主と水夫たち。
「わたくしのインビジブルストーカーが仕事をしているのですわ。何も心配いりませんわよ」
いやいや、これ、知らないとめちゃくちゃ怖いでしょ……!
こうして、つい十数分前までお茶を飲んでいたはずの私は、波に揺られることになった。
怒涛の展開過ぎる。
しかも私、船に乗るのが初めてなんだけど。
お茶の前は、バスカーとカゲリナの犬と散歩してたのに。
日常の隣には非日常があるものである。
「賊の船が出てからそう時間が経っていませんわ。ここから外海へと出るまで時間がありますし、この船の速さならば追いつくのも時間の問題でしょう。ではこの隙に、ジャネット様にはわたくしの推理を聞いてもらわないと……」
「この一連の流れで散々推理は聞いた気がしたんだけど」
それでも語らずにはおれぬ推理開陳の欲求。
私は彼女の推理を聞きながら、バスカーの毛並みをもふもふと撫でることになるのだった。
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