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ボコスカ渓谷の惨劇事件
第45話 魔法石利権
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モウグワーの洞窟の中。
あちこちが崩れていて、オウルベアとの激しい戦いが行われたであろうことが伺える。
シャーロットがどこから取り出したのか、魔法の小型ランタンを使って洞窟内を照らしていた。
お陰で、薄暗い、くらいの明るさになる。
「モンスターが暴れると凄いのね。洞窟が崩れてしまうんじゃないかって不安になるくらい、どこもかしこも壊されてる」
「大丈夫ですわ。予測が確かなら、崩れ落ちている岩はあくまで洞窟の表層を覆った、砂埃みたいなもの。モウグワーの実体は……」
どんどんと先に行くシャーロット。
私もナイツを連れて、早足で後を追った。
すると、薄暗いはずの洞窟の中が、不意に青白い輝きに照らし出された。
「なに!? どうしたの!?」
「案の定ですわ! わざとらしく瓦礫を寄せて蓋をしてありましたの! なるほど。これは何もなければ見過ごしてしまいますわねえ……」
シャーロットが目の前にしているのは、深くえぐれた地面だった。
そこから青い輝きが放たれている。
これは……。
「魔法石? 魔法石の鉱床が、洞窟の中にあったの?」
「ええ。そう考えるのが自然ですわね。魔法石とは、活動を終えた地の精霊が結晶となったものだと言われていますわ。つまり、地の精霊の化石ですわね。理屈の上では、地の底であればどこにでも存在する可能性がありますの。ですけれど、それでも見つかるのはほんの少し。今回のこれは、普段見つかる規模とは比べ物になりませんわねえ……」
「すっごい光。純度が高いのかな? ナイツ、ちょっと岩をどけて」
「ほいほい」
ナイツがぽいぽいと、地面を覆う岩盤をどけていく。
すると、光が強くなった。
なるほど、この辺り一帯が、高純度の魔法石の鉱床になっていたのだ。
「さっき、シャーロットが握っていた魔法石はこれ?」
「ええ、間違いありませんわね。そしてこの事件の真相は、魔法石の所有権を巡る争いと見て間違いないでしょうね」
彼女が靴の踵で、鉱石を蹴る。
脆い部分がバキッと音を立てて割れ、転がった。
拾い上げると、そこだけでも親指の先くらいの大きさがある魔法石だ。
お金を出して買うなら、けっして安くはない。
「それじゃあ、このことをデストレードに教えてあげなくちゃ」
「ええ。彼女の予想がひっくり返りますわね。今からデストレードがどんな顔をするのか楽しみですわ!」
私とシャーロットで笑い合う。
一方、ナイツが不思議そうに私たちを見ていた。
「お二人とも、こんな財宝が目の前にあるってのに、無欲ですなあ」
「そりゃあそうよ。正しい手段で得たお金以外、私は興味がないもの。思わぬ幸運で手に入れたものは、思わぬ不運で無くなってしまうものだわ」
「お見事ですわ、ジャネット様! その通りですわねえ。ああ、わたくしはお金に困っていないので」
お金に困っていない……?
冒険者からの収入と、アカデミーで講師をやった時の授業料だけで豊かに暮らせる気がしないんだけど。
やはり侯爵家からお小遣い出てるでしょ……?
聡明なシャーロットは、私から向けられる視線の意味にも気付いたはずだ。
そっぽを向いて、実に上手な口笛を吹きながら外へと歩き出した。
「シャーロット! あのね、別にあなたの生活費の割合について質問する気はなくて……」
「何事にも秘密というものは、残しておいた方がロマンチックですわよ!」
うふふ、と悪びれない笑みを見せる彼女。
開き直ったな。
こうして私たちは、川べりで尋問が行われている現場に向かった。
冒険者パーティ、ナイトバードのリーダーであるディオー氏が色々聞かれている。
というか、デストレードは半分犯人だと決めつけて尋問してないかな。
「憲兵の役割は、ありうる可能性を探ることではありませんもの。最もその場で信憑性が高い結果を確定させて、事件を収束させることですわ。だから度々誤認逮捕もありますわねえ」
「どうなのかなあ、それは」
「デストレードに関しては少ないですけれど、そもそも真実を知るための手がかりがあまりに少なすぎたら、ああなるのも分かりますわね」
どうも、ディオーはひたすら、自分は犯人ではないと繰り返すばかり。
魔法石の話などする気配もない。
「鉱石の話を切り出せばいいのに」
「知らないのでしょうね」
「知らない!?」
「亡くなられたジョナサン氏が単独で、商会と交渉をしたのではないかしら。つまり……利益を独り占めしようとした可能性がありますわ」
な、なんだってー!
「もしもし、デストレード」
シャーロットが堂々とした態度で、尋問に割り込んでいった。
「またあなたですか! 何用ですか!」
「ダイイングメッセージのウグワーですけれど、これはモウグワーの洞窟のことですわよ。そしてわたくしたち、洞窟で魔法石の鉱床を見つけましたの」
不機嫌なデストレードの目を覚ます、パワーワードを叩きつけた。
モウグワーの洞窟という具体的な名前。
そこで発見された、とんでもないものの情報。
デストレードの目が見開かれた。
「なんですって!? ねえあなた、ディオーさん。魔法石が洞窟の中にあることを知ってらっしゃった?」
「なん……だと……!?」
ディオー氏の目が驚きで見開かれる。
これは演技してないね。
そしてもう一人。
シャーロットが目線を向けたのは、他のパーティメンバーに混じっていた冒険者らしからぬ男性だ。
「あなたはご存知でしたわよね、エルフェンバイン馬車組合の方」
その男性は、目を頻繁に瞬かせ、拳をギュッと握りしめていた。
シャーロットがそこに声を掛けたので、ビクッと飛び上がる。
「わ、私はこれから仕事が……」
そんなことを言いながら、彼はペンションに向かって踵を返した。
「確保ーっ!!」
デストレードの叫び声が響き、憲兵たちがわーっと依頼人の男を押し倒し、上に次々覆いかぶさった。
「ウグワーッ!?」
これは普通に、悲鳴のウグワーだな。
あちこちが崩れていて、オウルベアとの激しい戦いが行われたであろうことが伺える。
シャーロットがどこから取り出したのか、魔法の小型ランタンを使って洞窟内を照らしていた。
お陰で、薄暗い、くらいの明るさになる。
「モンスターが暴れると凄いのね。洞窟が崩れてしまうんじゃないかって不安になるくらい、どこもかしこも壊されてる」
「大丈夫ですわ。予測が確かなら、崩れ落ちている岩はあくまで洞窟の表層を覆った、砂埃みたいなもの。モウグワーの実体は……」
どんどんと先に行くシャーロット。
私もナイツを連れて、早足で後を追った。
すると、薄暗いはずの洞窟の中が、不意に青白い輝きに照らし出された。
「なに!? どうしたの!?」
「案の定ですわ! わざとらしく瓦礫を寄せて蓋をしてありましたの! なるほど。これは何もなければ見過ごしてしまいますわねえ……」
シャーロットが目の前にしているのは、深くえぐれた地面だった。
そこから青い輝きが放たれている。
これは……。
「魔法石? 魔法石の鉱床が、洞窟の中にあったの?」
「ええ。そう考えるのが自然ですわね。魔法石とは、活動を終えた地の精霊が結晶となったものだと言われていますわ。つまり、地の精霊の化石ですわね。理屈の上では、地の底であればどこにでも存在する可能性がありますの。ですけれど、それでも見つかるのはほんの少し。今回のこれは、普段見つかる規模とは比べ物になりませんわねえ……」
「すっごい光。純度が高いのかな? ナイツ、ちょっと岩をどけて」
「ほいほい」
ナイツがぽいぽいと、地面を覆う岩盤をどけていく。
すると、光が強くなった。
なるほど、この辺り一帯が、高純度の魔法石の鉱床になっていたのだ。
「さっき、シャーロットが握っていた魔法石はこれ?」
「ええ、間違いありませんわね。そしてこの事件の真相は、魔法石の所有権を巡る争いと見て間違いないでしょうね」
彼女が靴の踵で、鉱石を蹴る。
脆い部分がバキッと音を立てて割れ、転がった。
拾い上げると、そこだけでも親指の先くらいの大きさがある魔法石だ。
お金を出して買うなら、けっして安くはない。
「それじゃあ、このことをデストレードに教えてあげなくちゃ」
「ええ。彼女の予想がひっくり返りますわね。今からデストレードがどんな顔をするのか楽しみですわ!」
私とシャーロットで笑い合う。
一方、ナイツが不思議そうに私たちを見ていた。
「お二人とも、こんな財宝が目の前にあるってのに、無欲ですなあ」
「そりゃあそうよ。正しい手段で得たお金以外、私は興味がないもの。思わぬ幸運で手に入れたものは、思わぬ不運で無くなってしまうものだわ」
「お見事ですわ、ジャネット様! その通りですわねえ。ああ、わたくしはお金に困っていないので」
お金に困っていない……?
冒険者からの収入と、アカデミーで講師をやった時の授業料だけで豊かに暮らせる気がしないんだけど。
やはり侯爵家からお小遣い出てるでしょ……?
聡明なシャーロットは、私から向けられる視線の意味にも気付いたはずだ。
そっぽを向いて、実に上手な口笛を吹きながら外へと歩き出した。
「シャーロット! あのね、別にあなたの生活費の割合について質問する気はなくて……」
「何事にも秘密というものは、残しておいた方がロマンチックですわよ!」
うふふ、と悪びれない笑みを見せる彼女。
開き直ったな。
こうして私たちは、川べりで尋問が行われている現場に向かった。
冒険者パーティ、ナイトバードのリーダーであるディオー氏が色々聞かれている。
というか、デストレードは半分犯人だと決めつけて尋問してないかな。
「憲兵の役割は、ありうる可能性を探ることではありませんもの。最もその場で信憑性が高い結果を確定させて、事件を収束させることですわ。だから度々誤認逮捕もありますわねえ」
「どうなのかなあ、それは」
「デストレードに関しては少ないですけれど、そもそも真実を知るための手がかりがあまりに少なすぎたら、ああなるのも分かりますわね」
どうも、ディオーはひたすら、自分は犯人ではないと繰り返すばかり。
魔法石の話などする気配もない。
「鉱石の話を切り出せばいいのに」
「知らないのでしょうね」
「知らない!?」
「亡くなられたジョナサン氏が単独で、商会と交渉をしたのではないかしら。つまり……利益を独り占めしようとした可能性がありますわ」
な、なんだってー!
「もしもし、デストレード」
シャーロットが堂々とした態度で、尋問に割り込んでいった。
「またあなたですか! 何用ですか!」
「ダイイングメッセージのウグワーですけれど、これはモウグワーの洞窟のことですわよ。そしてわたくしたち、洞窟で魔法石の鉱床を見つけましたの」
不機嫌なデストレードの目を覚ます、パワーワードを叩きつけた。
モウグワーの洞窟という具体的な名前。
そこで発見された、とんでもないものの情報。
デストレードの目が見開かれた。
「なんですって!? ねえあなた、ディオーさん。魔法石が洞窟の中にあることを知ってらっしゃった?」
「なん……だと……!?」
ディオー氏の目が驚きで見開かれる。
これは演技してないね。
そしてもう一人。
シャーロットが目線を向けたのは、他のパーティメンバーに混じっていた冒険者らしからぬ男性だ。
「あなたはご存知でしたわよね、エルフェンバイン馬車組合の方」
その男性は、目を頻繁に瞬かせ、拳をギュッと握りしめていた。
シャーロットがそこに声を掛けたので、ビクッと飛び上がる。
「わ、私はこれから仕事が……」
そんなことを言いながら、彼はペンションに向かって踵を返した。
「確保ーっ!!」
デストレードの叫び声が響き、憲兵たちがわーっと依頼人の男を押し倒し、上に次々覆いかぶさった。
「ウグワーッ!?」
これは普通に、悲鳴のウグワーだな。
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