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ボコスカ渓谷の惨劇事件
第44話 ウグワーの意味
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「証拠は二つありましたわ」
シャーロットが柵にもたれながら、指を二本立ててみせる。
「二つ?」
「ええ。一つは断末魔の叫び。ウグワー、ですわ」
「それってふっ飛ばされたり、倒されたりした人がよく叫んでるじゃない」
「ええ。だからこそみんな気に留めていなかったのでしょうね。ごくありきたりの悲鳴に似ていて、だけれど、断末魔で発せられる声ではありませんの」
「そうだったの!?」
言われてみれば、戦場でウグワーッ!なんてふざけた悲鳴は聞いたことがない。
私はこれまで耳にしたウグワーを思い返す。
みんな、バリツで投げられたりふっ飛ばされたりした時だけ叫んでたな。
「そしてこれが地図ですわ。ボコスカ渓谷の奥には、モウグワーの洞窟というものがありますの」
「モウグワー!? それじゃあもしかして……」
「ええ。そこに何か、ジョナサンの心残りがあったのか、それとも犯人の手がかりがあるのではないかと思いますわね。まあ、死に際に犯人の手がかりを残すほど冷静さがあるとは思えませんから、今回の事件に関連するジョナサン的な心残りでしょうね」
言われてみればそうだ。
読み物なんかでは、ダイイングメッセージがあるけど、死に際に考えるのは自分の命の大切さとか、死んでいく動揺とかじゃない?
一人で死ぬ時に何か残すとか、戦場ではないない。
「では行ってみましょうか」
「ねえシャーロット、あとひとつの証拠って?」
「これですわ」
シャーロットがポケットから取り出したのは、小さな革のケース。
本来なら葉巻入れになるようなものなのだけど……。
彼女は葉巻やタバコを嗜まない。
紅茶の香りが分からなくなってしまうかららしい。
ケースの中に入っていたのは、きらきら光る石だった。
「これって」
「魔法石ですわね。魔力の素となる石で、魔法を使って体の魔力が残っていなくても、これがあれば継続して魔法を使うことができますわ」
「うん、知ってるわ。うちでも粗悪なものなら、よく使ってたから」
シャーロットから受け取ると、魔法石は小さいのに手の中でキラキラと輝いた。
「純度が高い……。精製されてるのかな?」
「恐らく違いますわね。こんな大きさにする意味がありませんもの。クズ魔法石を集めて、もっと大きなクリスタルにするのが一般ですわね。そうなると庶民や一介の冒険者ではとても手が届かないものになります。だから、粗悪な掘り出したままの魔法石をそのまま使いますでしょう?」
「ええ。うちもそうだった」
魔法石は、触れた人間の性質に合わせてその色を変える。
私が触れると、炎のような濃いオレンジ色に染まるのだ。
だから、クリスタルになった魔法石は消耗品としてではなく、調度品として貴族や商家に買われることとなる。
つまり、大変高価なのだ。
「……まさかこれ、掘り出されたままの魔法石なの? こんなに、混じりけが無いものなのに……!」
「そのまさかですわね。死体の手の先が川べりでしたでしょう? ジョナサンの手が泥の中に押し込んだみたいになっていて、完全に埋もれていましたの。死体をデストレードが移動させたので、わたくしが掘り返したのですわ」
「それ、叱られたでしょう」
「とっても!」
けらけら笑うシャーロットだった。
なんとフリーダムな。
ナイツを呼んで、ついてきてもらう。
万一のことが無いようにだ。
私は石橋を叩いて渡るタイプだ。
叩いた結果、石橋が盤石だと知れれば突撃する。
さて、川べりをしばらく歩いていると、冒険者たちとオウルベアが激闘を繰り広げたのであろう跡が散見されるようになる。
幾つかの死体はまだ処分されておらず、渓谷に住む野生動物に食われた形跡も見える。
「こういうのは誰が掃除するのかな」
「専門の冒険者を雇うのですわよ」
「オウルベアを倒すのも冒険者、掃除するのも冒険者かあ」
「雇用が生まれていて結構なことではございませんの。オウルベアに勝てない実力の冒険者でも、オウルベアの死体を片付けることはできますもの。この事件が片付いたら、彼らがやって来てこの辺りも綺麗になりますわよ」
そういうものだろうか。
オウルベアの死体は、数えるだけで3つある。
三体と言えば大した数だ。
小さな村なら、これで滅ぼされてしまうだろう。
事件の渦中にはあるが、冒険者パーティーナイトバードはなかなか優秀だったらしかった。
ちなみにナイツは全く興味が無いようで、あくびをしながら後をついてくる。
彼は規格外だから仕方ない。
歩くこと十分少々くらいだろうか?
モウグワーの洞窟が見えてきた。
その入口は、ひどく破壊されている。
「洞窟にオウルベアが住み着いていましたのね。戦いの後で、あちこちが崩れていますわ。補修しないととても観光地にはならないでしょうねえ」
「それは大変だ」
この観光地を運営しているのは、ゼニシュタイン商会傘下のエルフェンバイン馬車組合だ。
ボコスカ渓谷まで行くための馬車を使い、ペンションまでこしらえてここを観光地として開発した。
手軽に遊びに来れる観光地として、一般市民にも親しまれているのだ。
さぞや儲かっていることだろう。
冒険者を何度も雇い、オウルベア退治にオウルベアの死体掃除を急ぐわけだ。
「そして、この魔法石の秘密が洞窟の奥にあるのですわ」
シャーロットが断言した。
「どうして断言……!」
「疑わしい情報を並べて、それぞれを検証していけば選択肢は減っていきますわ。最後に残ったものが、どれほどありえないようなものでも答えとなりますの」
「あの短時間でそこまで検証したわけ?」
「さすがにわたくしでもできませんわねえ。今回は勘ですわ」
ガクッと来た。
「ただ、一つだけ教えて差し上げますわね。冒険者は、金を得ることが目的ですわよ。名声がついてきたとしても、金を手放すことはありませんわ。仕事の報酬以外の金を得る可能性が目の前にあったとしたら、彼らはどうすることでしょうね?」
どうやら、ちゃんと推理はしていたようだ……!
シャーロットが柵にもたれながら、指を二本立ててみせる。
「二つ?」
「ええ。一つは断末魔の叫び。ウグワー、ですわ」
「それってふっ飛ばされたり、倒されたりした人がよく叫んでるじゃない」
「ええ。だからこそみんな気に留めていなかったのでしょうね。ごくありきたりの悲鳴に似ていて、だけれど、断末魔で発せられる声ではありませんの」
「そうだったの!?」
言われてみれば、戦場でウグワーッ!なんてふざけた悲鳴は聞いたことがない。
私はこれまで耳にしたウグワーを思い返す。
みんな、バリツで投げられたりふっ飛ばされたりした時だけ叫んでたな。
「そしてこれが地図ですわ。ボコスカ渓谷の奥には、モウグワーの洞窟というものがありますの」
「モウグワー!? それじゃあもしかして……」
「ええ。そこに何か、ジョナサンの心残りがあったのか、それとも犯人の手がかりがあるのではないかと思いますわね。まあ、死に際に犯人の手がかりを残すほど冷静さがあるとは思えませんから、今回の事件に関連するジョナサン的な心残りでしょうね」
言われてみればそうだ。
読み物なんかでは、ダイイングメッセージがあるけど、死に際に考えるのは自分の命の大切さとか、死んでいく動揺とかじゃない?
一人で死ぬ時に何か残すとか、戦場ではないない。
「では行ってみましょうか」
「ねえシャーロット、あとひとつの証拠って?」
「これですわ」
シャーロットがポケットから取り出したのは、小さな革のケース。
本来なら葉巻入れになるようなものなのだけど……。
彼女は葉巻やタバコを嗜まない。
紅茶の香りが分からなくなってしまうかららしい。
ケースの中に入っていたのは、きらきら光る石だった。
「これって」
「魔法石ですわね。魔力の素となる石で、魔法を使って体の魔力が残っていなくても、これがあれば継続して魔法を使うことができますわ」
「うん、知ってるわ。うちでも粗悪なものなら、よく使ってたから」
シャーロットから受け取ると、魔法石は小さいのに手の中でキラキラと輝いた。
「純度が高い……。精製されてるのかな?」
「恐らく違いますわね。こんな大きさにする意味がありませんもの。クズ魔法石を集めて、もっと大きなクリスタルにするのが一般ですわね。そうなると庶民や一介の冒険者ではとても手が届かないものになります。だから、粗悪な掘り出したままの魔法石をそのまま使いますでしょう?」
「ええ。うちもそうだった」
魔法石は、触れた人間の性質に合わせてその色を変える。
私が触れると、炎のような濃いオレンジ色に染まるのだ。
だから、クリスタルになった魔法石は消耗品としてではなく、調度品として貴族や商家に買われることとなる。
つまり、大変高価なのだ。
「……まさかこれ、掘り出されたままの魔法石なの? こんなに、混じりけが無いものなのに……!」
「そのまさかですわね。死体の手の先が川べりでしたでしょう? ジョナサンの手が泥の中に押し込んだみたいになっていて、完全に埋もれていましたの。死体をデストレードが移動させたので、わたくしが掘り返したのですわ」
「それ、叱られたでしょう」
「とっても!」
けらけら笑うシャーロットだった。
なんとフリーダムな。
ナイツを呼んで、ついてきてもらう。
万一のことが無いようにだ。
私は石橋を叩いて渡るタイプだ。
叩いた結果、石橋が盤石だと知れれば突撃する。
さて、川べりをしばらく歩いていると、冒険者たちとオウルベアが激闘を繰り広げたのであろう跡が散見されるようになる。
幾つかの死体はまだ処分されておらず、渓谷に住む野生動物に食われた形跡も見える。
「こういうのは誰が掃除するのかな」
「専門の冒険者を雇うのですわよ」
「オウルベアを倒すのも冒険者、掃除するのも冒険者かあ」
「雇用が生まれていて結構なことではございませんの。オウルベアに勝てない実力の冒険者でも、オウルベアの死体を片付けることはできますもの。この事件が片付いたら、彼らがやって来てこの辺りも綺麗になりますわよ」
そういうものだろうか。
オウルベアの死体は、数えるだけで3つある。
三体と言えば大した数だ。
小さな村なら、これで滅ぼされてしまうだろう。
事件の渦中にはあるが、冒険者パーティーナイトバードはなかなか優秀だったらしかった。
ちなみにナイツは全く興味が無いようで、あくびをしながら後をついてくる。
彼は規格外だから仕方ない。
歩くこと十分少々くらいだろうか?
モウグワーの洞窟が見えてきた。
その入口は、ひどく破壊されている。
「洞窟にオウルベアが住み着いていましたのね。戦いの後で、あちこちが崩れていますわ。補修しないととても観光地にはならないでしょうねえ」
「それは大変だ」
この観光地を運営しているのは、ゼニシュタイン商会傘下のエルフェンバイン馬車組合だ。
ボコスカ渓谷まで行くための馬車を使い、ペンションまでこしらえてここを観光地として開発した。
手軽に遊びに来れる観光地として、一般市民にも親しまれているのだ。
さぞや儲かっていることだろう。
冒険者を何度も雇い、オウルベア退治にオウルベアの死体掃除を急ぐわけだ。
「そして、この魔法石の秘密が洞窟の奥にあるのですわ」
シャーロットが断言した。
「どうして断言……!」
「疑わしい情報を並べて、それぞれを検証していけば選択肢は減っていきますわ。最後に残ったものが、どれほどありえないようなものでも答えとなりますの」
「あの短時間でそこまで検証したわけ?」
「さすがにわたくしでもできませんわねえ。今回は勘ですわ」
ガクッと来た。
「ただ、一つだけ教えて差し上げますわね。冒険者は、金を得ることが目的ですわよ。名声がついてきたとしても、金を手放すことはありませんわ。仕事の報酬以外の金を得る可能性が目の前にあったとしたら、彼らはどうすることでしょうね?」
どうやら、ちゃんと推理はしていたようだ……!
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