推理令嬢シャーロットの事件簿~謎解きは婚約破棄のあとで~

あけちともあき

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ボコスカ渓谷の惨劇事件

第43話 それらしい殺人事件の話

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 いつも変な事件に首を突っ込んでは、趣味で推理を披露して事件解決らしきことをしているシャーロット。
 彼女は、冒険者たちから依頼を受けて謎を解き明かすことを生業にしているなんて言っているけど……。

 その現場を一度も見たことがない私なのだった。
 正直、あれは彼女なりのリップサービスで、侯爵家からお小遣いをもらっているのではと思っていた。

 それを謝りたい。
 だって目の前で、彼女がきちんと仕事をしているのだから。

「それで、ボコスカ渓谷に行った冒険者パーティのうち一人が死んでてですね」

「なるほど。人間関係良好だったはずなのに、死者が出ていますのね。確かに事件の香りがしますわ」

 お茶を飲む私の向かいで、シャーロットが依頼人の冒険者と話をしている。
 堂に入った様子だ。
 本当に、冒険者の問題解決を仕事にしてたんだなあ。

「死んだ時に、ウグワーッ!と叫んだそうで」

 いつものことでは?
 というか、なんでみんな悲鳴でウグワーッて叫ぶんだろう。

「ふむふむ、冒険者パーティナイトバード。疑われているのはパーティーリーダーのディオー氏ですわね? ですが、あなたはディオー氏への疑いが冤罪であると思っていると」

「は、はい。実行可能だったのはディオーだけだったと言われていますが、昔パーティーを組んでいた俺にはとてもそれは信じられなくて……。あんないいやつが……」

 いろいろな相談をして、依頼人は帰っていった。
 シャーロットがちょっとニヤニヤしながら、何か考えている。

「ご機嫌ねえ」

「いや失礼しましたわ! ついつい自分の世界に入り込んでしまいましたの。それに人様が亡くなられているのですから、喜ぶのは違いましたわねえ……」

「すっごくテンション上がってたじゃない。あんなに嬉しそうなシャーロット久しぶりに見た」

「だって、事件ですもの。わたくしに依頼してきたということは、通り一遍の解決では満足できない、ということですわ。わたくし、顧客の希望には答える主義ですの。さあ、こうしてはいられませんわよ!」

 冒険者というものは、命が特別軽い職業だ。
 言うなれば、命を賭けたなんでも屋。
 そして彼らの命が関わる案件を、やり甲斐ある仕事として引き受けるシャーロット。
 
 そそくさと出立の準備を始める彼女を、私は興味深く眺めた。
 彼女もまた、荒事のある世界でなければ生きていけないタイプなのかも知れないな、なんて思って。

 さてさて、ボコスカ渓谷はエルフェンバイン王都からほど近いところにある、風光明媚な場所だ。
 だが、最近ここに凶悪なオウルベアが住み着いたということで、冒険者によるモンスター狩りが行われていた。

 オウルベアというのは、フクロウのような頭を持つ熊のモンスター。
 その身の丈は熊よりもさらに大きくて、しかも夜目が効く。

 蛮族に飼われて襲ってくることもあるから、私も辺境では何度か戦ったことがある。
 開けた場所なら、四方から網を掛けて、腕や足を縄で拘束して転ばせてからとどめを刺せばいい。

 だけど、それは軍隊の人数と規律があるからできることで、冒険者はどう倒すのだろうな……などと考えながら、馬車に揺られることになった。
 御者台のナイツが、「そんなん、真っ向から斬り伏せればいいんですよ。大して強くないんですから」って言っている。
 彼の言うことを真に受けてはいけない。

 小一時間走ると、ボコスカ渓谷に到着した。
 さほど高くない岸壁に挟まれ、豊かな水量を誇る川が流れている。
 周囲はちょっとした林だ。

 そこで、見覚えのある顔と遭遇した。

「まーたあなたがたですか」

「やあ、これはデストレード憲兵隊長! 最近よく顔を合わせますわねえ」

「シャーロット嬢! それにジャネット嬢! なんですかあなた方は。事件を引き寄せる特異点か何かですか」

「凄い発想だなあ」

 私は他人事みたいに感心してしまった。

「ふむふむ、殺されたのは、ナイトバードに所属する戦士、ジョナサン氏。ジョナサン氏とディオー氏が激しく口論する姿が目撃されており、翌朝にはジョナサン氏が死体になっていたと……」

「こらこらこらシャーロット嬢! なーにをうちの憲兵から聞き込みしてますかーっ!!」

 デストレードとシャーロットがわちゃわちゃとお喋りを始めた。
 あの二人は仲良しだなあ。

 事件に関することは彼らに任せて、私は渓谷を見て回るとしよう。
 ボコスカ渓谷は風光明媚な場所。

 オウルベアが発生しなければ、王都に一番近い観光地なのだ。
 川を挟んで、あちこちにペンションが建っている。
 野生の獣が入り込めないよう、柵に囲まれてはいるが……。

「あのくらいの大きさじゃあ、オウルベアの侵入は防げないもんね」

 柵を見て回って、そう結論づける。
 だって、木製で見た目のおしゃれさ重視。
 頑丈さは二の次みたいな作りなのだ。

 かと行って、城壁みたいに石を積んだら景観が台無しだ。
 冒険者に頼って、オウルベアを狩ってもらう理由も分かる。

 私の横を、憲兵たちが走っていった。
 ペンションにいる、冒険者パーティーの人たちを呼びに行ったようだ。
 これから尋問が始まるのか。

 ペンションから出てきたのは、男女何名かの冒険者たち。
 金髪碧眼の青年がディオーか。
 そして最後に、冒険者らしからぬ男性が続いている。

 これは多分、依頼人かな?

 デストレードとしては、妥当な当たりで犯人を確定させて事件を終わらせるつもりだろうな。
 彼女は至極常識的な人物だ。

 だが、シャーロットは違う。
 ほら、尋問を聞く気も無いようで、鼻歌を歌いながらこっちにやって来るではないか。

「シャーロット、どう? 何か分かった?」

「ええ、もちろんですわ。この事件、ディオー氏は犯人ではありませんわね」

「証拠が見つかった?」

「もちろん」

 彼女は得意げな顔をして、ウインクしてみせるのだった。
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