推理令嬢シャーロットの事件簿~謎解きは婚約破棄のあとで~

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
43 / 225
ボコスカ渓谷の惨劇事件

第43話 それらしい殺人事件の話

しおりを挟む
 いつも変な事件に首を突っ込んでは、趣味で推理を披露して事件解決らしきことをしているシャーロット。
 彼女は、冒険者たちから依頼を受けて謎を解き明かすことを生業にしているなんて言っているけど……。

 その現場を一度も見たことがない私なのだった。
 正直、あれは彼女なりのリップサービスで、侯爵家からお小遣いをもらっているのではと思っていた。

 それを謝りたい。
 だって目の前で、彼女がきちんと仕事をしているのだから。

「それで、ボコスカ渓谷に行った冒険者パーティのうち一人が死んでてですね」

「なるほど。人間関係良好だったはずなのに、死者が出ていますのね。確かに事件の香りがしますわ」

 お茶を飲む私の向かいで、シャーロットが依頼人の冒険者と話をしている。
 堂に入った様子だ。
 本当に、冒険者の問題解決を仕事にしてたんだなあ。

「死んだ時に、ウグワーッ!と叫んだそうで」

 いつものことでは?
 というか、なんでみんな悲鳴でウグワーッて叫ぶんだろう。

「ふむふむ、冒険者パーティナイトバード。疑われているのはパーティーリーダーのディオー氏ですわね? ですが、あなたはディオー氏への疑いが冤罪であると思っていると」

「は、はい。実行可能だったのはディオーだけだったと言われていますが、昔パーティーを組んでいた俺にはとてもそれは信じられなくて……。あんないいやつが……」

 いろいろな相談をして、依頼人は帰っていった。
 シャーロットがちょっとニヤニヤしながら、何か考えている。

「ご機嫌ねえ」

「いや失礼しましたわ! ついつい自分の世界に入り込んでしまいましたの。それに人様が亡くなられているのですから、喜ぶのは違いましたわねえ……」

「すっごくテンション上がってたじゃない。あんなに嬉しそうなシャーロット久しぶりに見た」

「だって、事件ですもの。わたくしに依頼してきたということは、通り一遍の解決では満足できない、ということですわ。わたくし、顧客の希望には答える主義ですの。さあ、こうしてはいられませんわよ!」

 冒険者というものは、命が特別軽い職業だ。
 言うなれば、命を賭けたなんでも屋。
 そして彼らの命が関わる案件を、やり甲斐ある仕事として引き受けるシャーロット。
 
 そそくさと出立の準備を始める彼女を、私は興味深く眺めた。
 彼女もまた、荒事のある世界でなければ生きていけないタイプなのかも知れないな、なんて思って。

 さてさて、ボコスカ渓谷はエルフェンバイン王都からほど近いところにある、風光明媚な場所だ。
 だが、最近ここに凶悪なオウルベアが住み着いたということで、冒険者によるモンスター狩りが行われていた。

 オウルベアというのは、フクロウのような頭を持つ熊のモンスター。
 その身の丈は熊よりもさらに大きくて、しかも夜目が効く。

 蛮族に飼われて襲ってくることもあるから、私も辺境では何度か戦ったことがある。
 開けた場所なら、四方から網を掛けて、腕や足を縄で拘束して転ばせてからとどめを刺せばいい。

 だけど、それは軍隊の人数と規律があるからできることで、冒険者はどう倒すのだろうな……などと考えながら、馬車に揺られることになった。
 御者台のナイツが、「そんなん、真っ向から斬り伏せればいいんですよ。大して強くないんですから」って言っている。
 彼の言うことを真に受けてはいけない。

 小一時間走ると、ボコスカ渓谷に到着した。
 さほど高くない岸壁に挟まれ、豊かな水量を誇る川が流れている。
 周囲はちょっとした林だ。

 そこで、見覚えのある顔と遭遇した。

「まーたあなたがたですか」

「やあ、これはデストレード憲兵隊長! 最近よく顔を合わせますわねえ」

「シャーロット嬢! それにジャネット嬢! なんですかあなた方は。事件を引き寄せる特異点か何かですか」

「凄い発想だなあ」

 私は他人事みたいに感心してしまった。

「ふむふむ、殺されたのは、ナイトバードに所属する戦士、ジョナサン氏。ジョナサン氏とディオー氏が激しく口論する姿が目撃されており、翌朝にはジョナサン氏が死体になっていたと……」

「こらこらこらシャーロット嬢! なーにをうちの憲兵から聞き込みしてますかーっ!!」

 デストレードとシャーロットがわちゃわちゃとお喋りを始めた。
 あの二人は仲良しだなあ。

 事件に関することは彼らに任せて、私は渓谷を見て回るとしよう。
 ボコスカ渓谷は風光明媚な場所。

 オウルベアが発生しなければ、王都に一番近い観光地なのだ。
 川を挟んで、あちこちにペンションが建っている。
 野生の獣が入り込めないよう、柵に囲まれてはいるが……。

「あのくらいの大きさじゃあ、オウルベアの侵入は防げないもんね」

 柵を見て回って、そう結論づける。
 だって、木製で見た目のおしゃれさ重視。
 頑丈さは二の次みたいな作りなのだ。

 かと行って、城壁みたいに石を積んだら景観が台無しだ。
 冒険者に頼って、オウルベアを狩ってもらう理由も分かる。

 私の横を、憲兵たちが走っていった。
 ペンションにいる、冒険者パーティーの人たちを呼びに行ったようだ。
 これから尋問が始まるのか。

 ペンションから出てきたのは、男女何名かの冒険者たち。
 金髪碧眼の青年がディオーか。
 そして最後に、冒険者らしからぬ男性が続いている。

 これは多分、依頼人かな?

 デストレードとしては、妥当な当たりで犯人を確定させて事件を終わらせるつもりだろうな。
 彼女は至極常識的な人物だ。

 だが、シャーロットは違う。
 ほら、尋問を聞く気も無いようで、鼻歌を歌いながらこっちにやって来るではないか。

「シャーロット、どう? 何か分かった?」

「ええ、もちろんですわ。この事件、ディオー氏は犯人ではありませんわね」

「証拠が見つかった?」

「もちろん」

 彼女は得意げな顔をして、ウインクしてみせるのだった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...