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婚約者の正体事件
第39話 お茶会での噂話
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いつものように、我が家でお茶を飲むカゲリナとグチエル。
二人の家が私の家に取り入っているので、もしかしたら年末に、カゲリナの家が子爵なれるかも、という話だった。
ローグ伯爵家が無くなったので、そこに子爵家が格上げされて入った。
すると子爵家のポストが一つ空くので、男爵家から格上げされる家が出てくる。
選考基準は、この平和な世の中だと有力な貴族からの推挙だ。
カゲリナはせっせと私のために何かしようとしており、これはうちの父的にも好感度が高いらしい。
「人間は皆裏切るものだから、こちらに寝返ったとしても果たした功績で判断せよ。再度寝返ったなら首を落とせばいい」
これが父のスタンス。
そういうことで、シタッパーノ男爵家が子爵家になりそうなわけだ。
バックについているのが、ワトサップ辺境伯家だからね。
お陰で今日のカゲリナは、もう尻尾を振ってまとわりついてくる子犬の如くである。
「おめでとうカゲリナ!」
「ありがとうグチエル!」
親友同士の二人の令嬢が、カップを掲げ合って喜んでいる。
私も、脳裏に父の「裏切ったら首を落とせばいい」発言がよぎりつつ、それをおくびにも出さないでいる。
「おめでとう。なかなかないことよね」
「はい! 何もかもジャネット様のお陰ですぅ」
感激に目をうるうるさせるカゲリナ。
元はそのローグ伯爵家の子飼いだったシタッパーノ男爵家だが、ローグ伯爵家取り潰しの恩恵を一番受ける形になったのは皮肉だなあ。
空位となる男爵家の地位には、一代貴族たちの中から最も功績が高かった者を取り立てるそうだ。
こうして、王国の貴族の数は常に維持されている。
公爵が二、辺境伯が一、侯爵が四、伯爵が八、子爵が十六、男爵が三十二いる。
一代貴族はまちまち。
お茶会の途中で、バスカーがお昼寝タイムを終えてやって来た。
突然バスカーが飛び出してきたから、カゲリナもグチエルもちょっとびっくりしたようだ。
たまにやって来ては彼を撫でているものの、元々はガルムというモンスターだから、正常な反応と言えよう。
駆け寄ってくるバスカー。
二人の間を抜けながら、もふもふと毛並みをこすりつけた。
カゲリナとグチエルの顔が緩んで、バスカーをなでなもふもふする。
その後、バスカーはお茶会の席まで到着し、ぬおーっと前足を持ち上げると、私の肩にぺたっと乗せた。
「バスカー、ぺろぺろはだめ。今日はドレスだから」
『わふ』
お利口なバスカーは一声鳴いて、ぺろぺろ舐めてくるのを我慢した。
その代わり、濡れた鼻をぺたっと押し付けてくる。
うーん、犬のにおい。
「言葉が分かるのですか?」
「賢いからね。敵意がない相手にはフレンドリーだよ」
「へえ……。でもやっぱり、ジャネット様の教育がいいのだと思います!」
何も教えてないんだけど。
「二人とも、もっともふもふしていいのよ? どうぞどうぞ!」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」
「うわーっ、もっふもふのもっこもこー! また毛並み良くなってる!」
二人がわちゃわちゃとバスカーの首や体に触れる。
大変とろけた顔をしている。大きい犬もいいよね……。
「ふわっふわー」
「もっふもふー」
そうだろうそうだろう。
動物を撫でることにはセラピー効果があるのだ。
二人はしばらく、バスカーを撫でていた。
バスカーも、舌を出しながら二人のことを交互にキョロキョロ見ている。
「うちにも犬がいるんですけど、バスカーちゃんよりも、もっと小さいしおバカだからなあ……」
カゲリナが呟いた。
そして、ハッとした表情になる。
「そう言えば! 変わったお話があるんですけど」
「変わったお話?」
「はい。うちのメイドが、この間婚約したそうで……。相手はいい感じの商家のお坊ちゃんらしくてですね」
「玉の輿ねえ」
「はい。みんなでお祝いしてたんですけど、お坊ちゃんがですね。とっても達筆なお手紙を毎回寄越すんですよ。見せてもらったんですけど、すごく見事な字で」
「へえー」
それなりに地位が高い人間が、直筆で手紙を書くというのは特別なことだ。
文字にはその人間の受けた教育が出る。
下町では、読み書きもできない人間がそれなりにいるそうだし。
辺境では、読み書きができなければ戦場で倒れた仲間のドッグタグを読めないから、最低限の読み書きは叩き込まれるのだ。
ドッグタグを回収し、その家族の元へ送り届けたりするのが戦場で死んだ仲間への礼儀なので。
王都は平和だなあ。
私がほんわかした気持ちになっていると、カゲリナの話が怪しい方向に進んでいた。
「それで、我が家で一度会おうっていう話になったんですけど、部屋の中で待っていたはずの婚約者の人がいなくなっていたんです。扉から出てくるのは誰も確認していなくて、窓から逃げたんじゃなければ、突然消えたことに! 外で仕事をしてた庭師のハンスに聞いても、見てないって言いますし」
「なるほどー」
身内の幸せ話かと思ったら、一気に事件性を帯びてきた。
まあ、今まで私が経験してきた事件の数々に比べたら可愛いものだけど。
「それでうちのメイドも悲しんでいて、よくしてくれる子だからなんとかしてあげたいんです」
カゲリナ、身内に対しては徹底的に甘くなるタイプらしい。
そういう分かりやすい性格は嫌いじゃない。
「カゲリナ優しい……。うちのメイド、もう結婚してるおばさまたちばかりなのよねえ……」
グチエルの家はグチエルの家で、使用人の高齢化問題があるらしい。
色々だ。
「よし、それじゃあ、謎を解くにはうってつけの人がいるのだけど、一緒に行ってみる?」
私は彼女たちに提案する。
ちょうど、バスカーの散歩に行こうと思っていたのだ。
そのついでと言えば、ついでだろう。
「もしかして、その方って……」
二人は何か察したらしい。
「そう。シャーロットの家に行くの」
私は、平和続きで退屈しているであろう彼女の顔を思い浮かべていた。
二人の家が私の家に取り入っているので、もしかしたら年末に、カゲリナの家が子爵なれるかも、という話だった。
ローグ伯爵家が無くなったので、そこに子爵家が格上げされて入った。
すると子爵家のポストが一つ空くので、男爵家から格上げされる家が出てくる。
選考基準は、この平和な世の中だと有力な貴族からの推挙だ。
カゲリナはせっせと私のために何かしようとしており、これはうちの父的にも好感度が高いらしい。
「人間は皆裏切るものだから、こちらに寝返ったとしても果たした功績で判断せよ。再度寝返ったなら首を落とせばいい」
これが父のスタンス。
そういうことで、シタッパーノ男爵家が子爵家になりそうなわけだ。
バックについているのが、ワトサップ辺境伯家だからね。
お陰で今日のカゲリナは、もう尻尾を振ってまとわりついてくる子犬の如くである。
「おめでとうカゲリナ!」
「ありがとうグチエル!」
親友同士の二人の令嬢が、カップを掲げ合って喜んでいる。
私も、脳裏に父の「裏切ったら首を落とせばいい」発言がよぎりつつ、それをおくびにも出さないでいる。
「おめでとう。なかなかないことよね」
「はい! 何もかもジャネット様のお陰ですぅ」
感激に目をうるうるさせるカゲリナ。
元はそのローグ伯爵家の子飼いだったシタッパーノ男爵家だが、ローグ伯爵家取り潰しの恩恵を一番受ける形になったのは皮肉だなあ。
空位となる男爵家の地位には、一代貴族たちの中から最も功績が高かった者を取り立てるそうだ。
こうして、王国の貴族の数は常に維持されている。
公爵が二、辺境伯が一、侯爵が四、伯爵が八、子爵が十六、男爵が三十二いる。
一代貴族はまちまち。
お茶会の途中で、バスカーがお昼寝タイムを終えてやって来た。
突然バスカーが飛び出してきたから、カゲリナもグチエルもちょっとびっくりしたようだ。
たまにやって来ては彼を撫でているものの、元々はガルムというモンスターだから、正常な反応と言えよう。
駆け寄ってくるバスカー。
二人の間を抜けながら、もふもふと毛並みをこすりつけた。
カゲリナとグチエルの顔が緩んで、バスカーをなでなもふもふする。
その後、バスカーはお茶会の席まで到着し、ぬおーっと前足を持ち上げると、私の肩にぺたっと乗せた。
「バスカー、ぺろぺろはだめ。今日はドレスだから」
『わふ』
お利口なバスカーは一声鳴いて、ぺろぺろ舐めてくるのを我慢した。
その代わり、濡れた鼻をぺたっと押し付けてくる。
うーん、犬のにおい。
「言葉が分かるのですか?」
「賢いからね。敵意がない相手にはフレンドリーだよ」
「へえ……。でもやっぱり、ジャネット様の教育がいいのだと思います!」
何も教えてないんだけど。
「二人とも、もっともふもふしていいのよ? どうぞどうぞ!」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」
「うわーっ、もっふもふのもっこもこー! また毛並み良くなってる!」
二人がわちゃわちゃとバスカーの首や体に触れる。
大変とろけた顔をしている。大きい犬もいいよね……。
「ふわっふわー」
「もっふもふー」
そうだろうそうだろう。
動物を撫でることにはセラピー効果があるのだ。
二人はしばらく、バスカーを撫でていた。
バスカーも、舌を出しながら二人のことを交互にキョロキョロ見ている。
「うちにも犬がいるんですけど、バスカーちゃんよりも、もっと小さいしおバカだからなあ……」
カゲリナが呟いた。
そして、ハッとした表情になる。
「そう言えば! 変わったお話があるんですけど」
「変わったお話?」
「はい。うちのメイドが、この間婚約したそうで……。相手はいい感じの商家のお坊ちゃんらしくてですね」
「玉の輿ねえ」
「はい。みんなでお祝いしてたんですけど、お坊ちゃんがですね。とっても達筆なお手紙を毎回寄越すんですよ。見せてもらったんですけど、すごく見事な字で」
「へえー」
それなりに地位が高い人間が、直筆で手紙を書くというのは特別なことだ。
文字にはその人間の受けた教育が出る。
下町では、読み書きもできない人間がそれなりにいるそうだし。
辺境では、読み書きができなければ戦場で倒れた仲間のドッグタグを読めないから、最低限の読み書きは叩き込まれるのだ。
ドッグタグを回収し、その家族の元へ送り届けたりするのが戦場で死んだ仲間への礼儀なので。
王都は平和だなあ。
私がほんわかした気持ちになっていると、カゲリナの話が怪しい方向に進んでいた。
「それで、我が家で一度会おうっていう話になったんですけど、部屋の中で待っていたはずの婚約者の人がいなくなっていたんです。扉から出てくるのは誰も確認していなくて、窓から逃げたんじゃなければ、突然消えたことに! 外で仕事をしてた庭師のハンスに聞いても、見てないって言いますし」
「なるほどー」
身内の幸せ話かと思ったら、一気に事件性を帯びてきた。
まあ、今まで私が経験してきた事件の数々に比べたら可愛いものだけど。
「それでうちのメイドも悲しんでいて、よくしてくれる子だからなんとかしてあげたいんです」
カゲリナ、身内に対しては徹底的に甘くなるタイプらしい。
そういう分かりやすい性格は嫌いじゃない。
「カゲリナ優しい……。うちのメイド、もう結婚してるおばさまたちばかりなのよねえ……」
グチエルの家はグチエルの家で、使用人の高齢化問題があるらしい。
色々だ。
「よし、それじゃあ、謎を解くにはうってつけの人がいるのだけど、一緒に行ってみる?」
私は彼女たちに提案する。
ちょうど、バスカーの散歩に行こうと思っていたのだ。
そのついでと言えば、ついでだろう。
「もしかして、その方って……」
二人は何か察したらしい。
「そう。シャーロットの家に行くの」
私は、平和続きで退屈しているであろう彼女の顔を思い浮かべていた。
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