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プラチナブロンド組合事件
第38話 犯行寸前、大捕物
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よくよく考えたら、うちのメイド二人は辺境の民とは言え、前線に出たことなんか当然無い普通の人なのだ。
そんな彼女たちを、強盗の恐怖に晒すのはよろしくない。
「ナイツ、急いで! 事が起こる前に終わらせるわ!」
「合点だ! よしよし、走れお前ら! 戦場の如く!」
軍馬が嘶き、馬車が走り出す。
我が家の馬車は、貴族が使うものとしては明らかに無骨だ。
車輪は大きく太く、モンスターの皮が貼られて頑丈になっている。
車の作りも全体的にガッチリと大きく、それでいて中身はあまり広くない。
つまり、装甲が厚いのだ。
この馬車のまま戦場を駆け抜けられる。そう言う風にできている。
かつてドッペルゲンがこの扉を貫いたが、彼くらいの使い手でなければ、馬車の中に危害を加えることは難しいわけだ。
そんな馬車だから、軍馬の疾走にもついていける。
道行く人々が、わあわあと驚いて逃げる。
その後、我が家の紋章を見て、「またワトサップ家のご令嬢だ」「事件が起きたんだな」「今度はどんな話になるんだろうな」なんて話し合ってるのが聞こえた気がした。
私が事件に関わったゴシップを、彼らが娯楽感覚で摂取しているんだな。
すぐに、我が家が見えてきた。
道の脇に身を隠していた憲兵隊が、ギョッとして振り返る。
「早い!? なんでもういるんですか」
デストレードの声をよそに、馬車はワトサップ邸に突っ込んでいく。
ギリギリで止めたから、馬と門が衝突するのだけは避けた。
馬車から飛び出す私。
すると、その辺りの通りから下町遊撃隊の子どもたちが、わあーっと走り出てきた。
「早い! 早いよジャネットさん!」「あいつら逃げちゃう!」
「事が起こったら、うちのメイドが怖い目に遭うって気付いたの! だから事が起きる前に解決するわ! バスカー!!」
門の前で叫ぶと、家の奥から『わふーん!』と応じる声がした。
自ら器用に扉を開けて、青い大きな犬が駆けてくる。
すると、我が家の塀の上からバラバラと、黒ずくめの男たちが降りてきて、大きな麻袋やロープや網を持ってバスカーを追いかけ始めた。
出た出た!
そのうちの一人が私を見て、ギョッとする。
「げえっ、ジャネット! なんでここに!!」
「あなたたちの企みは最初からお見通しだからよ!! ナイツ! 鍵ちょうだい!」
「はいよ!」
馬をなだめているナイツが、鍵を放ってよこす。
私はそれを鍵穴に差込み、自ら家の門を開けた。
こちらにバスカーが飛び出してくる。
私の肩に前足を置くと、ぺろぺろ舐めてきた。
うわー、顔中が犬のにおいに!
「これは大混乱ですわね! デストレード、ある意味チャンスですわよ!」
「ひどい! 全くひどい状況ですよ! なんであんたたちが絡むと毎回こうなんだ! 全員、突撃ー!! 賊を捕らえろー!!」
憲兵たちが走り出した。
私が開け放った門から突入し、賊に襲いかかる。
驚いたのは、賊の一団だろう。
完全装備の憲兵たちが雪崩込んできたのだ。
うわー、とか、ウグワー、とか、我が家の前庭にて大捕物が繰り広げられることになってしまった。
満足げな顔で、隣にシャーロットが並んでくる。
「どうして賊が逃げなかったか分かります?」
「そう言えば。私が来た時点で、計画が破綻したって分かったはずだよね。どうして?」
「人間には、損得勘定というものが備わっていますわ。これまでジャネット様にしてきた投資……騙すための家を借り、それらしい手紙を用意し、そして仕事を作ってお給金を払ってきた……。これらの投資が無駄になると思ったから、目の前のバスカーに飛びついたのですわ。ここでどうにかしてしまえば、得になる……いえ、もう彼らもパニック状態で、理性のストップを振り切って計画を実行してしまったのですわね」
「へえ……。ままならないものねえ」
「誰だって、自分が今行っている事が正しく進んでいると思いたいものですもの。わたくしの誤算は、ジャネット様の行動力でしたわね」
「だって、うちのメイドが怖がったら可哀想じゃない」
「なるほど! 勇ましくもお優しいお方です、おっと!」
私を散々舐めて満足したバスカーが、今度はシャーロットをペロペロし始めた。
シャーロットが笑いながら、バスカーの毛並みをもふもふしている。
私が顔をハンカチで拭っていると、憲兵隊による捕物は終わったようだった。
賊はみんな、自分たちが持ってきた縄や麻袋で拘束され、地面に転がっている。
デストレードが、いい仕事をした、とばかりに笑顔を見せた。
家からメイド二人が出てきて、目を丸くした。
そして肩をすくめる。
「お嬢様ー! また何かやったんですかー」
「あー、皆さん、芝がだめになるので早くその人たちを外に運んでいって下さい」
メイドたちが憲兵に指図し始めるのを見て、私はちょっと驚いた。
「なんかハートが強くなってる」
「ジャネット様と暮らしてらっしゃる方々ですものね」
『わふ』
次々運び出されていく、拘束された賊たち。
最後に門をくぐったデストレードが、私たちに尋ねた。
「しかし、どうして今日ワトサップ邸が襲われると分かったのですかね?」
「それはですね」
シャーロットが得意げに解説する。
私が囮になって彼らをおびき寄せた、的な話になったら、顔色の悪い彼女の頬に赤みが差した。
「そういうのはまず憲兵隊にご連絡いただけませんかね? 詐欺で立件できるので!」
怒られてしまった。
まあ、もっともだ。
その後、ぷりぷりと怒る彼女の機嫌を、お茶とお菓子を差し入れる話で直してもらい、事件はこれで終わりとなった。
「でも、私の名前って妙に知られてきてるのね。変な事件に巻き込まれないように注意しなくちゃ」
「よい心がけですわ! もっとも、ジャネット様は自ら事件に飛び込んで行かれるお方ですけど!」
「ええっ!? 私ってそんななの!?」
「お二人とも! 憲兵隊を頼るようにお願いしますよ!」
わいわいと言葉を交わす私たちを見て、バスカーは尻尾をふりふり。
笑っているみたいな顔をして『わふ!』と鳴くのだった。
~プラチナブロンド組合事件・了~
そんな彼女たちを、強盗の恐怖に晒すのはよろしくない。
「ナイツ、急いで! 事が起こる前に終わらせるわ!」
「合点だ! よしよし、走れお前ら! 戦場の如く!」
軍馬が嘶き、馬車が走り出す。
我が家の馬車は、貴族が使うものとしては明らかに無骨だ。
車輪は大きく太く、モンスターの皮が貼られて頑丈になっている。
車の作りも全体的にガッチリと大きく、それでいて中身はあまり広くない。
つまり、装甲が厚いのだ。
この馬車のまま戦場を駆け抜けられる。そう言う風にできている。
かつてドッペルゲンがこの扉を貫いたが、彼くらいの使い手でなければ、馬車の中に危害を加えることは難しいわけだ。
そんな馬車だから、軍馬の疾走にもついていける。
道行く人々が、わあわあと驚いて逃げる。
その後、我が家の紋章を見て、「またワトサップ家のご令嬢だ」「事件が起きたんだな」「今度はどんな話になるんだろうな」なんて話し合ってるのが聞こえた気がした。
私が事件に関わったゴシップを、彼らが娯楽感覚で摂取しているんだな。
すぐに、我が家が見えてきた。
道の脇に身を隠していた憲兵隊が、ギョッとして振り返る。
「早い!? なんでもういるんですか」
デストレードの声をよそに、馬車はワトサップ邸に突っ込んでいく。
ギリギリで止めたから、馬と門が衝突するのだけは避けた。
馬車から飛び出す私。
すると、その辺りの通りから下町遊撃隊の子どもたちが、わあーっと走り出てきた。
「早い! 早いよジャネットさん!」「あいつら逃げちゃう!」
「事が起こったら、うちのメイドが怖い目に遭うって気付いたの! だから事が起きる前に解決するわ! バスカー!!」
門の前で叫ぶと、家の奥から『わふーん!』と応じる声がした。
自ら器用に扉を開けて、青い大きな犬が駆けてくる。
すると、我が家の塀の上からバラバラと、黒ずくめの男たちが降りてきて、大きな麻袋やロープや網を持ってバスカーを追いかけ始めた。
出た出た!
そのうちの一人が私を見て、ギョッとする。
「げえっ、ジャネット! なんでここに!!」
「あなたたちの企みは最初からお見通しだからよ!! ナイツ! 鍵ちょうだい!」
「はいよ!」
馬をなだめているナイツが、鍵を放ってよこす。
私はそれを鍵穴に差込み、自ら家の門を開けた。
こちらにバスカーが飛び出してくる。
私の肩に前足を置くと、ぺろぺろ舐めてきた。
うわー、顔中が犬のにおいに!
「これは大混乱ですわね! デストレード、ある意味チャンスですわよ!」
「ひどい! 全くひどい状況ですよ! なんであんたたちが絡むと毎回こうなんだ! 全員、突撃ー!! 賊を捕らえろー!!」
憲兵たちが走り出した。
私が開け放った門から突入し、賊に襲いかかる。
驚いたのは、賊の一団だろう。
完全装備の憲兵たちが雪崩込んできたのだ。
うわー、とか、ウグワー、とか、我が家の前庭にて大捕物が繰り広げられることになってしまった。
満足げな顔で、隣にシャーロットが並んでくる。
「どうして賊が逃げなかったか分かります?」
「そう言えば。私が来た時点で、計画が破綻したって分かったはずだよね。どうして?」
「人間には、損得勘定というものが備わっていますわ。これまでジャネット様にしてきた投資……騙すための家を借り、それらしい手紙を用意し、そして仕事を作ってお給金を払ってきた……。これらの投資が無駄になると思ったから、目の前のバスカーに飛びついたのですわ。ここでどうにかしてしまえば、得になる……いえ、もう彼らもパニック状態で、理性のストップを振り切って計画を実行してしまったのですわね」
「へえ……。ままならないものねえ」
「誰だって、自分が今行っている事が正しく進んでいると思いたいものですもの。わたくしの誤算は、ジャネット様の行動力でしたわね」
「だって、うちのメイドが怖がったら可哀想じゃない」
「なるほど! 勇ましくもお優しいお方です、おっと!」
私を散々舐めて満足したバスカーが、今度はシャーロットをペロペロし始めた。
シャーロットが笑いながら、バスカーの毛並みをもふもふしている。
私が顔をハンカチで拭っていると、憲兵隊による捕物は終わったようだった。
賊はみんな、自分たちが持ってきた縄や麻袋で拘束され、地面に転がっている。
デストレードが、いい仕事をした、とばかりに笑顔を見せた。
家からメイド二人が出てきて、目を丸くした。
そして肩をすくめる。
「お嬢様ー! また何かやったんですかー」
「あー、皆さん、芝がだめになるので早くその人たちを外に運んでいって下さい」
メイドたちが憲兵に指図し始めるのを見て、私はちょっと驚いた。
「なんかハートが強くなってる」
「ジャネット様と暮らしてらっしゃる方々ですものね」
『わふ』
次々運び出されていく、拘束された賊たち。
最後に門をくぐったデストレードが、私たちに尋ねた。
「しかし、どうして今日ワトサップ邸が襲われると分かったのですかね?」
「それはですね」
シャーロットが得意げに解説する。
私が囮になって彼らをおびき寄せた、的な話になったら、顔色の悪い彼女の頬に赤みが差した。
「そういうのはまず憲兵隊にご連絡いただけませんかね? 詐欺で立件できるので!」
怒られてしまった。
まあ、もっともだ。
その後、ぷりぷりと怒る彼女の機嫌を、お茶とお菓子を差し入れる話で直してもらい、事件はこれで終わりとなった。
「でも、私の名前って妙に知られてきてるのね。変な事件に巻き込まれないように注意しなくちゃ」
「よい心がけですわ! もっとも、ジャネット様は自ら事件に飛び込んで行かれるお方ですけど!」
「ええっ!? 私ってそんななの!?」
「お二人とも! 憲兵隊を頼るようにお願いしますよ!」
わいわいと言葉を交わす私たちを見て、バスカーは尻尾をふりふり。
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