コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
106 / 107

第106話 妄念の終わり

しおりを挟む
 上空からジェダが襲いかかり、飛び回る悪霊の腕を掴み取る。
 そのまま地面に叩きつけて、砕く。

 イングリドは槍で悪霊の手足を叩き落とし、剣を使って胴体を串刺しに。
 周囲の観客は、フリッカが呼びだした妖精と、ギスカの鉱石魔法が守る。

 決着の時はもう目と鼻の先だ。
 俺はフィナーレを迎えるべく、悪霊の目の前に立った。

「さあ、終わりと行こう」

『まだだ! まだわしは終わらぬ! もっともっと存在し続けて、永遠にわしは!  この世界にいる……!』

「既に存在する理由まで無くなっているね。君は一言で表せば、既にただの災厄だ。多数の幸福のためには存在するべきではない。イングリド」

「ああ、決めろ、オーギュスト!」

 魔剣が放られてきた。
 これをキャッチ。

 俺自身がこういう長物を持てばいいのだが、道化師は身軽が身上だ。
 そこは彼女の剣を常に拝借するということでお許し願いたい。

『あおおおおおっ!! わしは存在する! 永遠に存在する! わしはわしはわしは!!』

 飛びかかってくる人形の頭を、宙返りして避けながら、空中にて一刀両断する。
 そして飛び降りざまに魔剣を投擲。
 イングリドが剣を突き刺していた場所に、再び剣が突き刺さり、傷口を大きく広げた。

 イングリドがこれを掴むと、

「うおおおおっ!!」

 裂帛の気合とともに、大きく刃にて切り上げる。

『うぎゃああああああ!!』

 悪霊の叫びが響いた。
 さらば、高額なゴーレムの素体……!
 君は歴史的な役割を果たしたのだ。

 どうやら悪霊の本体は、胴体部分に宿っていたらしい。
 ポルターガイストで飛び回る手足がバタリと地面に落ちた。

 イングリドはそのまま、剣で胴体を地面に縫い付ける。
 胴体部分がばたばたと暴れているが、既に何かをできる状態ではあるまい。

 俺は仲間たちとともに、人形の手足を近くにかき集め、それぞれをショートソードなどで地面に固定する。

「どなたか! 火種をお持ちの方は?」

 俺が観客に呼びかけると、悪霊の暴れ方がひどくなった。

『ぎえええええ! 燃やされるのはいやだ! いやだーっ!!』

「あ、俺タバコ吸ってる」

 キセルを持った年配の男性が出てきた。
 ワッと沸く観客。

 ゴーレムの胴体はいい感じにほぐれており、俺はポケットから火口箱を取り出す。
 中に入ったおがくずを、ほぐれた場所にふりかけ。

 男性からキセルを預かり、火がついたタバコをそこにぽん、と落とした。
 ちなみにこのおがくずに、ギスカから教えてもらった、熱に反応して爆発する石などを混ぜてある。

 すぐさま、反応は起こった。
 人形の胴体が、ぼんっ、ぼんっと音を立てて破裂し始める。
 生まれるのは炎だ。

『やめろー! やめてくれえええ! このまま依代を失ったら! わしは、わしはーっ! そうだ、ガキどもに乗り移れば……』

「それはもうできないさ。さあ君たち、これを持って」

「これ……?」

 俺は子どもたちに、あるものを投げ渡してある。
 それは色とりどりの布で織られた、手のひらサイズのお守りみたいなものだ。

「それに祈るといい。なに、あの神様の力はよく悪用されるが、間違っても悪しき神じゃない。信者を常に募集しているから、手厚く加護をくれるさ」

「は、はい!」

 子どもたちはお守りを握りしめ、神の加護を願った。
 悪霊は、一度は取り付くことができた彼らに、再び憑依しようとしたようだが……。

『ウグワーッ!?』

 何か強いものに殴り返されたらしく、紫色の悪霊が燃え上がる人形に戻っていく。
 俺の目には見えた。

 せっかく確保できた若い信者を全力で守るべく、腐敗神がその姿を現し、かなり気合を入れて加護を与えているのが。
 腐敗神こそは、生命の円環を象徴する神だ。

 全てのことには終わりがある。
 故に、終わりを迎えたものは腐って土に還り、養分となって次なる世代を育てる糧となる。

 古きものが、新しきものを餌とすることに怒りを示す神。
 それが腐敗神だ。

 どうやら、神様が炎に火種を投じたらしい。
 人形があげる炎が一層強くなった。

 しばらく、悪霊の断末魔が聞こえていた気がする。
 だがそれは、完全に日が暮れた頃には聞こえなくなっていた。

 観客は呆然としている。
 どうやら彼らにも、腐敗神が見えたらしい。

「皆々様!」

 俺は大きな音を立てて手を叩いた。
 ハッとする、観客のみんな。

「思わぬゲストの登場となりましたが……これにて、ガットルテに仇をなす悪霊は、退治されたようでございます。ああ、念のため、一晩の間はこれに触れぬようお願いいたします! 先程現れた神様の加護が、好奇心旺盛な方を火種として燃やしてしまうことになりますから」

 観客から、笑いが漏れた。

「長らくのお付き合い、ありがとうございました。ラッキークラウンによる興行、これにて終幕とさせていただきます。またお会いしましょう! 我ら一行、芸を磨き、皆様との再会を心待ちにしております!」

 湧き上がる、拍手喝采。

 ガットルテ王国を覆う、長きにわたる陰謀は終わった。
 変質していった、まつろわぬ民の憎悪は擦り切れ、ついには受け継がれること無く消えた。

 しかし、人々の心には、本日の楽しい出し物の記憶が残ったことであろう。
 それが、新しく明日を始めるための一歩を、僅かなりとも助けてくれるはずだ。

 そうなれば、芸人としては本望。
 いつまでも止まぬ拍手の中、俺は小さく呟いた。

「いやあ……いい舞台だった」
 
しおりを挟む
感想 114

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

無能扱いされた実は万能な武器職人、Sランクパーティーに招かれる~理不尽な理由でパーティーから追い出されましたが、恵まれた新天地で頑張ります~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
鍛冶職人が武器を作り、提供する……なんてことはもう古い時代。 現代のパーティーには武具生成を役目とするクリエイターという存在があった。 アレンはそんなクリエイターの一人であり、彼もまたとある零細パーティーに属していた。 しかしアレンはパーティーリーダーのテリーに理不尽なまでの要望を突きつけられる日常を送っていた。 本当は彼の適性に合った武器を提供していたというのに…… そんな中、アレンの元に二人の少女が歩み寄ってくる。アレンは少女たちにパーティーへのスカウトを受けることになるが、後にその二人がとんでもない存在だったということを知る。 後日、アレンはテリーの裁量でパーティーから追い出されてしまう。 だが彼はクビを宣告されても何とも思わなかった。 むしろ、彼にとってはこの上なく嬉しいことだった。 これは万能クリエイター(本人は自覚無し)が最高の仲間たちと紡ぐ冒険の物語である。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

聖女の孫だけど冒険者になるよ!

春野こもも
ファンタジー
森の奥で元聖女の祖母と暮らすセシルは幼い頃から剣と魔法を教え込まれる。それに加えて彼女は精霊の力を使いこなすことができた。 12才にった彼女は生き別れた祖父を探すために旅立つ。そして冒険者となりその能力を生かしてギルドの依頼を難なくこなしていく。 ある依頼でセシルの前に現れた黒髪の青年は非常に高い戦闘力を持っていた。なんと彼は勇者とともに召喚された異世界人だった。そして2人はチームを組むことになる。 基本冒険ファンタジーですが終盤恋愛要素が入ってきます。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

処理中です...