上 下
104 / 107

第104話 既に悪霊のたぐい

しおりを挟む
 人形は見事に、怨霊の依代となった。
 その姿が、どんどん変化していく。

 肉が付き、皮が付き、その上から魔力で編まれた甲冑が生まれ……。
 気がつけば、紫色をした異形の騎士がそこにいた。

『よし、よしよし! これならばよし! ひ弱なガキの体よりもよほどいい!』

 体の感覚を確かめている怨霊。

「どうやら……何らかの依代に宿っていなければ、お前は都合が悪いようだな」

『なにっ!? お前は……道化師か!!』

「よくご存知で。道化師オーギュストにござい」

『知らぬ訳がない! わしの野望を! 腐敗神めに頭を下げてまで実行した儀式を台無しにしおって!! 危うくわしは消滅するところであった!!』

「語るに落ちたな? お前を完全に倒す算段がついた」

『なんだと……!?』

 怨霊の言葉はここまで。
 俺は周囲で、何が起きるのかと見守る人々に向かって朗々と告げる。

「さて、お立ち会い! これなるは、ガットルテ王国に仇を成そうと企んでいた怨霊! ジョノーキン村が毒霧に包まれた事件! 近隣の穀倉地帯でデビルプラントが発生した事件! そして王都を襲ったドラゴンゾンビ! これら全ての裏にいたのがこの怨霊……いや、悪霊にございます!」

「なんだって!」

「じゃあさっきの紫色の大きな顔は……」

「ついに正体を現したわけか!」

 ガットルテ王国の人々も、どうやら俺のノリに慣れてきたらしい。
 では、ここで一つ、我がパーティのメンバー紹介といこうじゃないか!

『こら! わしを無視するな!』

 君の出番はもうちょっと後だ。

「御覧ください! 屋根の上に立つあの二人、堂々たる偉丈夫は、獣にその姿を変える神秘の怪人! ジェダ! 隣にて鞭を振るうのは」

 ここでサッとフリッカを下ろすジェダ。
 フリッカは自分の話がされていると気付いて、慌てて鞭を取り出し、パシンと屋根を叩いてみせた。

「獣使いフリッカ!」

「そうや! ジェダ! モード・リンクス!」

「おう! ぎゃおおおーんっ!!」

 ジェダが吠えながら、その全身が巨大なリンクスのものに変わる。
 おおーっと人々がどよめいた。

「そしてこれなるは皆様御存知! 鉱石魔法の使い手! ドワーフの里からやって来たエンターティナーのギスカ!」

「大仰な紹介するねえ……。え、サービスしないとだめかい? じゃあこれでどうかね?」

 ギスカがクズ鉱石を空に向かって放り投げた。
 それらが魔法を受けて、色とりどりの火花を咲かせる。

 ちょうど時刻は夕暮れ。
 家の影が長く伸びる路地に、この火花は大変目立つ。

「そして剛力無双のイングリド!」

「おいこら、誰が剛力だ。私は一応この国の王女なんだからな」

 ここでドッと人々が……観客が笑う。
 俺はイングリドに小突かれ、ちょっとおどけた仕草をしながら、すぐに動きをきりりと引き締める。

「そしてこの個性豊かな仲間を率いますのが、道化師のオーギュストにございます。本日は皆様、我が一団の興行にお集まりいただきありがとうございます! 演目は……ガットルテ王国に災いをもたらそうとする、恐るべき悪霊の最期! どうぞ最期までご覧くださいませ!」

 わああああっと沸き立つ観衆。

『なんだ!? なんだこれはーっ!? わしはどういう状況にいるんだーっ!!』

 悪霊が混乱し、叫んだ。
 だが、その声すら、人々の歓声にかき消されてほとんど聞こえない。

 子どもたちは呆然としてあたりを見回していたが、周囲の熱に当てられて、次第に笑顔になっていく。
 さあ、思い出そう。

 俺と君たちが出会った、あの村の地下を。
 絶望が希望に塗り替わったあの冒険を。

 今度もまた、俺が君たちの前に希望という名の演目を提示しよう。
 いつか、君たちが俺の芸を受け継いで、そして世界に広めていけるように。

『ええい、茶番はもうたくさんだ! これほど多くの人間が集まっているのは好都合! わしがこやつらの頭の中をかき回し、新たな信者に変えてくれる!』

「おやおや。お前はガットルテ王国に復讐するのではなかったのか? それとも、長い年月の間に理想と復讐の思いは摩耗し、ただ存在し続けることだけが目的となっているのかな?」

『う、う、うるさいわ!! わしは消滅したくない! そのために信者を増やす! 今度はヘマはせぬ! 生かさず殺さず、わしを信仰するだけの存在に変えてやる……!』

 怨霊というものも堕落するのかも知れない。
 彼らが変化することは無いが、持って生まれた思いが摩耗し、消え失せ、存在し続けることだけを目的とした単純なものに変わってしまうのだ。

 長き時を存在し続け、己の意思を保ち続けるのは、神ならぬ身には難しい……!
 他山の石とせねばな。

「さあみんな、やるぞ。さっさとこれを片付けてしまおう。これは既に、ガットルテ王国への恨みを募らせた怨霊などではない。その思いすら忘れて、存在し続けるために悪意を振りまき、呪いを連鎖させるだけの存在だ。だが、今この時。この状況ならば、これを完全に消滅させられる!」

「ほう、道化師、今回も何か策があるんだね?」

「その通り。ああ、皆さん! そのくらいの距離を保ってご観覧下さい! 今回の出し物は、町中でのサプライズイベント! 日が暮れる前には終わりますが、こちらも皆様の安全を守るためにご協力を願えれば、さらにさらに素晴らしい演目となることでしょうからね!」

 わっと返ってくる歓声が、観客からの答えだ。

 既に悪霊は我慢の限界。
 我慢していた事自体が奇跡みたいなものだかが、これにとっても、周囲に集まった民衆は逃すことができないエサなのだ。

 だが、何もさせぬまま、これには希望のための礎となってもらおう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

外れスキル「トレース」が、修行をしたら壊れ性能になった~あれもこれもコピーで成り上がる~

うみ
ファンタジー
 港で荷物の上げ下ろしをしてささやかに暮らしていたウィレムは、大商会のぼんくら息子に絡まれていた少女を救ったことで仕事を干され、街から出るしか道が無くなる。  魔の森で一人サバイバル生活をしながら、レベルとスキル熟練度を上げたウィレムだったが、外れスキル「トレース」がとんでもないスキルに変貌したのだった。  どんな動作でも記憶し、実行できるように進化したトレーススキルは、他のスキルの必殺技でさえ記憶し実行することができてしまうのだ。  三年の月日が経ち、修行を終えたウィレムのレベルは熟練冒険者を凌ぐほどになっていた。  街に戻り冒険者として名声を稼ぎながら、彼は仕事を首にされてから決意していたことを実行に移す。    それは、自分を追い出した奴らを見返し、街一番まで成り上がる――ということだった。    ※なろうにも投稿してます。 ※間違えた話を投稿してしまいました! 現在修正中です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

処理中です...