上 下
91 / 107

第91話 交渉、リザードマン

しおりを挟む
 さては、ここはリザードマンの、一大保養施設か……?
 などと思ったが、よくよく見ると違うようだ。

 彼方には、地上まで続いていると見える長い長い坂道があり、そこからリザードマンがやって来たり帰って行ったりしている。
 マグマ溜まりの上にあることで、地下水が熱されて温泉になり、信仰の拠点であると同時に温泉を提供するような場所になっているのだった。

 広さは一つの小さな町程度。
 そこかしこにリザードマンがいる。

 当然のごとく、やってきた俺たちは目立った。
 リザードマンではないからな。

「司祭様、人間の信者ができたんですか?」

「イフリート教は温泉入り放題でいいぞお」

 リザードマンたちが話しかけてくる。
 排他的な様子はない。

 俺の記憶では、リザードマンは己の種族で固まりやすい性質をもっていた気がしたが……。
 これは恐らく、外では彼らの数が相対的に少ないため、お互いに助け合いやすいよう、同族で固まっていたのだろう。
 ここはリザードマンしかいないので、のびのびしているのだ。

 それに、温泉に入ってのんびりして神に祈っていれば、おおらかな気持ちになるのは当然と言えよう。

「ああ、違う違う。こいつらはドワーフのところから来たんだ。あの困った連中をどうにかする手伝いをしてくれるらしい」

「なんと!」

「ほんとか!」

「我とこの男は約束を交わしたのだ。嘘であれば、たちまちのうちにイフリートの炎がこの男を焼き尽くすであろう!」

 バルログだから燃えないんだけどな。
 しかし、俺としても彼らを裏切るつもりはない。

 今回の件はドワーフが悪い。
 そしてこのまま引っ込む気も無いと来た。
 ならば、無理やり引っ込めさせるまで。

「シャイク、作戦について一緒に考えていきたいが……まずはどうだろう。我々にこの温泉を体験させてもらえないだろうか?」

 俺の提案に、ラッキークラウンの女性陣が目を輝かせた。
 シャイクは瞬膜を閉じて少し考えた後、頷く。

「いいだろう。イフリートの恵みを経験すれば、お前たちは我らの教えの魅力に気づくだろう。そしてどちらが正しいのかを知ることになる」

 つまり、温泉入っていいよ、という意味だ。

「ありがとう。イフリートに感謝を」

「よろしい」

 満足気にシャイクは目を細めるのだった。

 一つ問題点が発覚した。
 温泉は混浴しか存在しなかったのだ。

「むむむ」

 フリッカが唸った。

「なんでや!」

「それは仕方ないだろう。リザードマンの男女の見分けがつくか?」

 イングリドが冷静に指摘する。
 温泉に浸かっているのは正に、リザードマンの男女。
 俺たちの目には、どちらが男でどちらが女なのかさっぱり分からない。

 体の大きさすら、男女でそう変わらないらしい。
 むしろ年を取るほど体が大きくなるので、若い男よりも年重の女の方が大きかったりする。

「それに彼らは、発情期があり、その時期だけ子どもを作る。なので普段は男女を気にしなくていいんだな」

 俺がイングリドを補足した。
 ジェダがニヤニヤ笑う。

「フリッカは自意識過剰なんじゃねえのか? まだまだお前は子どもなんだからよ、気にしなくても……」

「うるさいわーっ!! っちゅーか、なんでイングリドは気にならんの? ギスカは!?」

「私は一向に構わん」

「あたいは異種族に裸を見られても、気になんないねえ……」

 参考にならない女性陣の返答で、フリッカがムキーッと歯ぎしりした。
 そしてやけくそになったようだ。

「もうええ! 入るわ! 入ったるわ!」

 彼女は猛烈な勢いで服を脱ぎ、可愛いお尻を見せながら温泉に行ってしまった。
 その後、イングリドとギスカは平然と服を脱いで、やはり温泉へ。

 ジェダがそれを見送った後、しみじみ呟いた。

「フリッカはいいけどよ。後の二人は俺たちを男だと見てねえんじゃねえか?」

「そんなことは無いと思うが、イングリドに関しては生まれの問題だね。さて、我々も温泉に行き、リザードマンと裸の付き合いと行こう」

「温泉で酒飲んだりできねえのか? ちょっと俺は交渉してくる」

「君が交渉に行くのか……」

 ジェダが温泉で酒を飲むことに思わぬ情熱を見せ、酒を売っているところを探しに行った。
 俺はその間に、シャイク司祭と今後の話をすることになる。

「ドワーフどもに手を引かせると言ったが、一体どうやるつもりだ? 奴らは我々が散々脅しても言うことを聞かなかった上に、抵抗をしてきた。あれは一筋縄では動かんぞ」

「それはあそこの長のやり方でね。だが、内部の若い者にはフラストレーションが溜まっているようだ。リザードマンと、ドワーフの若者を結びつけて、一つ革命を起こしてみようかと思うのさ」

「革命!? ドワーフに革命を!? どういうことだ?」

「鉱山を掘り進めるどころではなくして、さらにはここに繋がる坑道を全て埋めてしまおうという作戦だ。恐らくドワーフ側にも、この作戦の賛同者が大勢いる。リザードマンと、ドワーフの若者たちによる協同の作戦というわけだよ」

「そんな事が可能なのか……?」

「可能さ。重要になるのは、君たちイフリートの信徒が使っていた魔法だ。あの全身に炎を纏うのは、イフリートから与えられた加護なのかい?」

「表向きはそうなっている。だが、あれは普通に魔法だ。マグマに親しい、聖地周辺でだけごく僅かな魔力で行使が可能でな。我ら司祭や神官はみな使える。あれがどうしたんだ」

「ドワーフは、炎の悪魔バルログをひどく恐れていてね……。君たちの姿も、バルログと勘違いして怯えていたくらいだ。つまり、君たちによる示威行為はかなりの成果を上げていたことになる」

「ふむ、そうだったのか……」

「ただ、俺たちが正体をリザードマンだと看破してしまったので、今後は思うような結果が出ないかも知れない。そこでだ。再びドワーフに、バルログが攻めてきたと勘違いしてもらう必要がある! そのために、向こうの若者と手を組むのさ」

「………!? どういうことなのだ……?」

 俺はシャイクに語りだす。
 ドワーフを撤退させる一大計画について。

 それには、この温泉も重要になってくるのだ。

 
しおりを挟む
感想 114

あなたにおすすめの小説

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

処理中です...