コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
90 / 107

第90話 ハロー、イフリート村

しおりを挟む
「オーギュスト、依頼の内容は、炎のモンスターを退治することだったはずだが、どうやって解決するつもりなんだ?」

 イングリドから、ナイスな質問がやって来た。

「いいかねイングリド。炎のモンスターは、坑道に出現するバルログに似た怪物だったはずだ。それがドワーフに危害を加えるとね。ところが、モンスターは存在しなかった。いたのは、イフリートを崇めるリザードマンだ。つまり……存在しないものを退治することはできない。このままでは、俺たちの仕事は不成立となる」

「確かに。報酬をもらい損ねてしまうわけだな」

「長はケチだからねえ。やりかねないよ」

 ギスカが嫌な保証をしてくれる。
 なるほど、そういう手合か。

「かと言って、炎のモンスターということにしてリザードマンを攻撃するのも違う。彼らは自分たちの土地を守るために戦っているわけだ。ラッキークラウンは罪なき者は攻撃しない。そういうスタンスだ」

「初耳だな」

「せやなあ。立派な志があったんやな」

「今決めた」

「おいぃ! 思いつきやないか!?」

 フリッカが手のひらの裏で突っ込んできた。
 いいリアクションだなあ。
 話芸をやることがあったら、彼女に協力を依頼しよう。

「ということで」

 俺は仲間たちを振り返った。
 ここは、ついさきほどリザードマン氏と戦った場所。

 即ち、坑道の終わりである。
 この先は広大な空間に通じており、下を流れるマグマが見える。
 だが、断崖絶壁というわけでは無かった。

 リザードマン氏がこちらに来られる程度には、足がかりが存在していたのである。

「我々はこれから、イフリートを信じる彼ら……仮にイフリート村と呼ぼう。そこに向かって、話を聞いてみようと思う」

「なんやて!? それはあれちゃうか? 依頼人に逆らうみたいな」

「依頼内容には、イフリート村のリザードマンと交渉してはいけない、というただし書きは無い」

「そら無いやろ」

「フリッカがいるとオーギュストの話のテンポが良くなっていいな」

「本当だねえ」

 イングリドとギスカが感心している。
 俺としても、いちいち相槌を打ってもらえるのは助かる。
 イングリドは平気で聞き役に回るからな。

 それはそれでいいのだが、相槌を打ちまくってくる相手とのやり取りもまた楽しいものだ。
 坑道の終わりから、壁を伝って歩く。
 ジェダが進んでも問題ない程度の広さがあり、これは大変都合がいい。

 戦うとなれば少々骨が折れるだろうが、移動するだけなら大荷物を抱えていてもいけそうだ。
 いいぞいいぞ。

「ひえー。手すりもない上に、ちょっと下はマグマやんか! 落ちたら死ぬなあ……」

「なに、俺が助けてやる。お前が死んだら俺が困るからな」

「ほんま? 頼りにしてるでジェダ」

 話だけ聞いているとちょっといい感じの男女関係みたいだが、ジェダもフリッカも、実利的な関係で結びついているだけだからな。
 人と人の関係は、深入りしてみなければ本当のところは分からないものだ。
 とても面白い。

 さて、我々は今、イフリート村に向かって直進しているわけで、これが何事もなく目的地到着……となるわけは無かった。
 村の刺客的なものが現れる。

「止まれ!」

 しゅるしゅると言う呼吸音が混じった、独特の喋り。
 間違いなくリザードマンだ。

「ここより先は聖地! ついにこの地に踏み入ってきたか、地を穿つ愚か者どもめ!!」

 彼は、上半身裸のリザードマンだった。
 なお、都会に出てきているリザードマンは服を羽織るのが普通である。
 彼らは体毛が少ないため、寒さに弱い。服を着て体温調節を行うのだ。

 ここは温かいから、服がいらないというのは分かる。
 それと同時に、彼は宗教的な意味合いで服をまとっていないのかも知れない。

「落ち着きたまえ。我々はドワーフとは違う。一人ドワーフがいるが、君たちの聖地への侵略の意図は無いぞ」

「なにっ。たしかに、ドワーフよりも背が高い者が四人いる……。しかし騙されはせぬぞ! 冒険者を雇い、我々の排除を画策したかも知れない!」

「詳しいな」

 イングリドが呟いた。

「まるで、外の世界で暮らしていたみたいな物言いだ」

「みたい、ではなく、恐らくイフリート村は、地上で暮らしていたリザードマンが宗教的な行為のために作って巡礼に来る土地なのだろう」

 俺の言葉を聞いて、驚いたのはリザードマンだ。

「な……なぜそれを……!!」

「君、頭がいい喋りをし過ぎなんだ。話を聞いてくれ。えーと、名前を教えてもらえるとありがたい。俺は道化師オーギュスト」

「オーギュスト……? もしや、ラッキークラウンのオーギュストか! そんな大物がここに……? いや、話の分かる男だという噂だ。それが真実なら、お前の話を聞いてやってもいい。我が名はシャイク。イフリートを崇める者たちの司祭である」

「よろしく、シャイク。信頼の証として、俺のショートソードは君に預けよう。それからナイフも」

 全身からジャラジャラと隠し持っていた武器を取り出す。
 仲間たちが呆れ顔になり、シャイクの目がまんまるに見開かれた。

「お……おう。信頼の証として預かろう……。というか、こんなに大量の武器は持てない。返す……!」

 武器を返された。
 そして、シャイクが俺たちを案内していく。
 その道すがら、俺たちの目的を話した。

「今回の件は、一方的にドワーフが悪い。我々はドワーフにそそのかされて、君たちの一人を手にかけてしまった。その詫びとして、ドワーフの鉱山都市をこの地から撤退させようじゃないか」

「協力してくれるのか!? だとしたら嬉しい。死んだ者については気にするな。それは役割に殉じたのだ。名誉の死だ。イフリートは暖かく……いや、熱く迎えてくれるだろう」

 目的地は、坑道の終わりからマグマ流れる谷底を挟み、まっすぐ見える場所にあった。
 イフリート村。

 炎の妖精王であり、バルログによく似た存在であるイフリートを信仰する場所。
 そこは……。

「な、なんやここはーっ!!」

 フリッカの絶叫が響く。
 そう、そこは、巨大な温泉施設だったのだ……!
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

処理中です...