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第83話 ドワーフの兄来たる
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マールイ王国をめぐる色々に、おおよその決着がついた。
ネレウスは倒され、観光客は満足し、たくさんのおひねりが国庫を潤した。
今後のこの国は、交易の拠点としてではなく、違った形で再興していくことになる。
そう、農業立国である……!
国王たるキュータイ三世自ら農務に従事しているのだ。
この姿は、見物に来た人々に衝撃を与えた。
マールイ王国は周辺地域をまるごと農地として開拓し、地に足をつけてやっていくことになるのだ。
無論、我々ラッキークラウンは冒険者であるからして、農業に従事するわけにはいかない。
幸い、ガルフスは俺の活躍でマールイ王国の調子が良くなってきたという話を聞き、また寝込んでしまったらしいからしばらく出ては来ないだろう。
「オーギュストよ、よくぞやってくれた……。国が少しずつ栄えてきているのが、余にも分かるぞ」
城壁はすっかりなくなり、どこからどこまでもが農地になったマールイ王国。
これを見渡したキュータイ三世は、満足げにうなずいた。
「後は余にもできよう。いつまでも、そなたをこの地に留めておくことはこの世の望むことではないだろう。つまり、世界にとっての損失だということだ」
「買い被りですよ、陛下。わたくしめはただの道化師でございますれば」
「わはは! ただの道化師が、あのような巨大なモンスターを打ち倒せるものか! お前は凄い。その凄さを、余は独り占めしておったのだなあ……。だが、それは良くないと余は思う。こちらは余が頑張ってやっておくから、そなたはそなたのやりたいことをやるがよい」
「陛下がそうおっしゃるのでしたら……わたくしめ……いや、俺は好きにさせてもらいましょう」
「ああ! そなたのかっこいい活躍の話が聞こえてくるのを、楽しみにしているぞ!」
かつて、不当な理由で追放されたマールイ王国。
だが今回は、国王から祝福されて旅立つことになるのだ。
うむうむ、大きな違いではないか。
大手を振って城門をくぐる。
やる気を取り戻した門番が見送ってくれた。
「行ってらっしゃいませ、オーギュスト様!」
「ああ、行ってくる」
「して、どちらへ?」
それは決めてないなあ。
「俺たちの笑える冒険の話が、また聞こえてくるだろう。そして君たちは俺の行った先を、成した事を知る。楽しみにしているがいい」
「はい!」
国が国として機能し始めるだけで、これだけ人の目の色は変わるのだな。
門番たちは、やる気に満ち満ちている。
城下町には、ぽつぽつと掘っ立て小屋ができ始めている。
ここを拠点として、農作業を行うのだ。
少しずつだが、マールイ王国は前に進み始めていた。
さて、我々ラッキークラウンも、新たな冒険に旅立たねば。
「どこに行くんだ、オーギュスト? 仕事続きだったから、また一休みはしたいところだが」
イングリドがいつの間にか隣りにいた。
彼女の言葉ももっともだ。
俺たちはそもそも、ガットルテ王国の冒険者である。
たまたまマールイ王国にて、俺とフリッカの因縁と向かい合った訳だが……。
基本的にはガットルテを拠点として、あちこちに冒険に出るのが正しい。
「よし、ガットルテに戻ろう」
そういうことになった。
ギスカの鉱石は、マールイ王国では補充できないしな。
「あー……退屈で死ぬかと思ったぜ……!!」
ジェダが大きく伸びをしている。
今日まで、ずっと何もしていなかったらしい。
戦いこそ全てと断じる男である。当然と言えよう。
ちなみにフリッカは普通に農作業の手伝いをしていたようだ。
彼女も故郷の村では、こうして暮らしていたのだろう。
「おっ! 旅立ちか? よっしゃ、戻るでー。ほなな! おっちゃんたち、おばちゃんたち、頑張りやー!」
マールイ王国の人々と仲良くなったらしい。
野良着姿の人々に手を振っている。
旅立ちの気配を察して、ギスカもバタバタと走ってきた。
「やっと行くのかい! もうねえ、この辺りは普通の小石しかなくてねえ……あたいの鉱石魔法が錆びちまうよう」
「錆びるものなのか」
「鉱石だけにね!」
そういうものらしい。
ラッキークラウンが揃い、旅立つ時がやって来た。
マールイ王国の人々に見送られながら、ガットルテ王国へ。
まあ、隣みたいなもんなんだけどな。
何時間か歩くと、もうガットルテの王都が見えてくる。
近い……。近すぎるくらい近いな、相変わらず。
「やあ、お久しぶり」
「ああ、オーギュストさん! イングリドさん!」
門番諸君が俺たちを迎えてくれた。
「随分長いことこちらに来なかったけど、無事でした?」
「ご覧の通りだよ。マールイ王国で一つ、大きな興行をやってね」
「へえ! そいつは見たかったなあ!! 見られなくて残念だあ」
心底残念そうな門番を見て、イングリドが苦笑した。
「いやいや、そんないいものじゃないから。この間のドラゴンゾンビとかあっただろう? ああいうのは本当に、見てる以上にギリギリの勝負なんだ。だから起こらないに越したことは……」
「ストップ、イングリドストップ! そういう舞台裏の話は無粋だからね……語らぬが華だからね……」
「あ、ごめん」
ショーの裏側は常に泥臭いものだ。
だが、それを観客が知る必要はない。
俺の興行のこだわりだ。
そうこうしている間に、ギスカはバタバタと街中に駆け出している。
「お先! あたいはアキンドー商会で鉱石買って来るから!」
「ギスカがウキウキしてるわ。あれやな。あれ、魔法使うの大好きなんやな」
「あの女の魔法は本当につええからなあ。強い力を振るうのは最高に気持ちいい……」
ジェダの言葉には実感が籠もっているな。
こうして、冒険者ギルドに戻ってきた俺たち。
見知った冒険者諸君と旧交を温めようと、いつもの席についたのだが……。
見慣れないドワーフが一人いる。
ずんぐり体型にヒゲモジャで、落ちつかなそうに周囲を見回している。
入ってきた俺たちに向かって、彼は口を開く。
「おお、あんたたち! これっくらいの背丈で、石をじゃらじゃらぶら下げたドワーフの女の子を見なかったか!?」
「それはギスカのことかね? 確かに俺たちの仲間だが、君は?」
「おいらはディゴ。ギスカのアニキだ! 仕事を一つ頼みたくてよ!」
どうやら今度の仕事は、ギスカ関係のようだ。
ネレウスは倒され、観光客は満足し、たくさんのおひねりが国庫を潤した。
今後のこの国は、交易の拠点としてではなく、違った形で再興していくことになる。
そう、農業立国である……!
国王たるキュータイ三世自ら農務に従事しているのだ。
この姿は、見物に来た人々に衝撃を与えた。
マールイ王国は周辺地域をまるごと農地として開拓し、地に足をつけてやっていくことになるのだ。
無論、我々ラッキークラウンは冒険者であるからして、農業に従事するわけにはいかない。
幸い、ガルフスは俺の活躍でマールイ王国の調子が良くなってきたという話を聞き、また寝込んでしまったらしいからしばらく出ては来ないだろう。
「オーギュストよ、よくぞやってくれた……。国が少しずつ栄えてきているのが、余にも分かるぞ」
城壁はすっかりなくなり、どこからどこまでもが農地になったマールイ王国。
これを見渡したキュータイ三世は、満足げにうなずいた。
「後は余にもできよう。いつまでも、そなたをこの地に留めておくことはこの世の望むことではないだろう。つまり、世界にとっての損失だということだ」
「買い被りですよ、陛下。わたくしめはただの道化師でございますれば」
「わはは! ただの道化師が、あのような巨大なモンスターを打ち倒せるものか! お前は凄い。その凄さを、余は独り占めしておったのだなあ……。だが、それは良くないと余は思う。こちらは余が頑張ってやっておくから、そなたはそなたのやりたいことをやるがよい」
「陛下がそうおっしゃるのでしたら……わたくしめ……いや、俺は好きにさせてもらいましょう」
「ああ! そなたのかっこいい活躍の話が聞こえてくるのを、楽しみにしているぞ!」
かつて、不当な理由で追放されたマールイ王国。
だが今回は、国王から祝福されて旅立つことになるのだ。
うむうむ、大きな違いではないか。
大手を振って城門をくぐる。
やる気を取り戻した門番が見送ってくれた。
「行ってらっしゃいませ、オーギュスト様!」
「ああ、行ってくる」
「して、どちらへ?」
それは決めてないなあ。
「俺たちの笑える冒険の話が、また聞こえてくるだろう。そして君たちは俺の行った先を、成した事を知る。楽しみにしているがいい」
「はい!」
国が国として機能し始めるだけで、これだけ人の目の色は変わるのだな。
門番たちは、やる気に満ち満ちている。
城下町には、ぽつぽつと掘っ立て小屋ができ始めている。
ここを拠点として、農作業を行うのだ。
少しずつだが、マールイ王国は前に進み始めていた。
さて、我々ラッキークラウンも、新たな冒険に旅立たねば。
「どこに行くんだ、オーギュスト? 仕事続きだったから、また一休みはしたいところだが」
イングリドがいつの間にか隣りにいた。
彼女の言葉ももっともだ。
俺たちはそもそも、ガットルテ王国の冒険者である。
たまたまマールイ王国にて、俺とフリッカの因縁と向かい合った訳だが……。
基本的にはガットルテを拠点として、あちこちに冒険に出るのが正しい。
「よし、ガットルテに戻ろう」
そういうことになった。
ギスカの鉱石は、マールイ王国では補充できないしな。
「あー……退屈で死ぬかと思ったぜ……!!」
ジェダが大きく伸びをしている。
今日まで、ずっと何もしていなかったらしい。
戦いこそ全てと断じる男である。当然と言えよう。
ちなみにフリッカは普通に農作業の手伝いをしていたようだ。
彼女も故郷の村では、こうして暮らしていたのだろう。
「おっ! 旅立ちか? よっしゃ、戻るでー。ほなな! おっちゃんたち、おばちゃんたち、頑張りやー!」
マールイ王国の人々と仲良くなったらしい。
野良着姿の人々に手を振っている。
旅立ちの気配を察して、ギスカもバタバタと走ってきた。
「やっと行くのかい! もうねえ、この辺りは普通の小石しかなくてねえ……あたいの鉱石魔法が錆びちまうよう」
「錆びるものなのか」
「鉱石だけにね!」
そういうものらしい。
ラッキークラウンが揃い、旅立つ時がやって来た。
マールイ王国の人々に見送られながら、ガットルテ王国へ。
まあ、隣みたいなもんなんだけどな。
何時間か歩くと、もうガットルテの王都が見えてくる。
近い……。近すぎるくらい近いな、相変わらず。
「やあ、お久しぶり」
「ああ、オーギュストさん! イングリドさん!」
門番諸君が俺たちを迎えてくれた。
「随分長いことこちらに来なかったけど、無事でした?」
「ご覧の通りだよ。マールイ王国で一つ、大きな興行をやってね」
「へえ! そいつは見たかったなあ!! 見られなくて残念だあ」
心底残念そうな門番を見て、イングリドが苦笑した。
「いやいや、そんないいものじゃないから。この間のドラゴンゾンビとかあっただろう? ああいうのは本当に、見てる以上にギリギリの勝負なんだ。だから起こらないに越したことは……」
「ストップ、イングリドストップ! そういう舞台裏の話は無粋だからね……語らぬが華だからね……」
「あ、ごめん」
ショーの裏側は常に泥臭いものだ。
だが、それを観客が知る必要はない。
俺の興行のこだわりだ。
そうこうしている間に、ギスカはバタバタと街中に駆け出している。
「お先! あたいはアキンドー商会で鉱石買って来るから!」
「ギスカがウキウキしてるわ。あれやな。あれ、魔法使うの大好きなんやな」
「あの女の魔法は本当につええからなあ。強い力を振るうのは最高に気持ちいい……」
ジェダの言葉には実感が籠もっているな。
こうして、冒険者ギルドに戻ってきた俺たち。
見知った冒険者諸君と旧交を温めようと、いつもの席についたのだが……。
見慣れないドワーフが一人いる。
ずんぐり体型にヒゲモジャで、落ちつかなそうに周囲を見回している。
入ってきた俺たちに向かって、彼は口を開く。
「おお、あんたたち! これっくらいの背丈で、石をじゃらじゃらぶら下げたドワーフの女の子を見なかったか!?」
「それはギスカのことかね? 確かに俺たちの仲間だが、君は?」
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