コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

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第61話 五人パーティ

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 任務は達成された。
 ワイバーンの逆鱗だが、実はそれなりに良いお金で売れる。
 逆鱗の下の袋は、傷ついていたとしても優秀な魔力蓄積素材として使用できるし、逆鱗そのものは魔力を遮断する効果を持っている。

 村人たちが集まってきて、みんなで胸をなでおろしている。
 これで牛や羊が襲われる心配はない。

 少々面倒だが、他の肉食獣が寄り付かないように、大きな穴を掘ってワイバーンは埋めてしまうことになった。
 ここまでの作業は、こちらでも手を貸しておくことにする。
 大量の逆鱗が手に入ったことで、それなりに我々の懐も温まったからだ。

 気持ちが大きくなり、心が広くなり、ちょっとくらいのサービスはしてもいいじゃないかという気持ちになる。

「ご覧あれ諸君! これにて牧場は安全! ワイバーンによる危機は去ったのだ!」

 作業の前に、俺は朗々と告げる。
 村人たちが、うわーっと盛り上がった。
 素晴らしい。

 やっぱりこれだよこれ。
 オーディエンスがいなければ、盛り上がらないというものだ。
 昨夜もちょっと無理をして、村の人たちには見に来てもらえばよかったのだ……。

「オーギュストが悪い顔をしている。あの戦いに村人を呼ぶべきだったという顔をしているな」

「なぜ分かるんだ……」

「分からないわけがないだろう。いい加減、付き合いが長くなってきているんだ」

 イングリドに心の中を読まれている……。
 おかしい。

 ともかく、ワイバーンの埋葬作業をさっさと終えて帰るとしよう。
 明け方まで掛けてワイバーンを全滅させた俺たちは、その後、村で仮眠を取った。
 今の時間は昼近く。

 朝の仕事を終えた村人たちを率いて、作業開始というわけだ。
 スコップを使い、大きな穴を掘っていく。

 腕力に優れる、ジェダとイングリドが大活躍である。
 二人で、村の男五人分くらいの働きをする。

 もの凄い速度で大きな穴が掘られていき、そこにワイバーンが次々投げ込まれていく。
 死んだワイバーンは、鱗が柔らかくなる。
 魔力のようなものが抜けて、モンスターから普通の動物の死骸のようになるのだ。

 腐敗すると大変なので、さっさと仕事を終える。
 穴に全て詰め込み、土を上からかぶせてガッチリと固めた。

 一年くらいで骨だけになるだろう。
 この丘は、ワイバーンの死体が分解され、豊かな栄養を得ることになる。
 きっと今度見に来た時には、緑が大いに繁茂していることになるのだろうなあ。

 そのようなことを考えつつ、作業を終えた。
 もう夕方近くである。

「うーむ……。結局またここで一泊していかねばならないな」

「まあ、いいじゃないかい。あたいはこういう牧歌的な光景も好きだよ? ずっと鉱山ぐらしをしているドワーフからすると、だだっ広くて草がどこにも生い茂ってるってのは、珍しい光景だけどね。海と違って水が少ないのが何よりいいね」

「ギスカ、海が嫌いなのかね」

「嫌いじゃないけど、深い水に入りたくないだけだよ……」

 他のドワーフもそうなのだろうか。
 これまでの人生で、あまり多くのドワーフには会っていないからな。
 少し興味がある。

 その後、俺たちは牧場の村で大いに飲み食いした。
 報酬の金額は増えないが、せめてたくさん飲んで食って帰ってくれという心意気であろう。
 大変ありがたい。

 俺もお返しに、定番の芸を見せる。
 ナイフ投げだとか、ジャグリングとか、手品とか……。

「オーギュストはあれだな」

「あれとは?」

 酔いの回ったイングリドが、曖昧な事を言う。

「道化師だけど、失敗して笑わせたりするのはないよな」

「ああ、この姿では、失敗したら笑わせると言うか笑われてしまうだろう? 失敗を笑いに変える芸は、顔を白塗りにして専用の化粧をしてね。まさしく道化になりきってやるものなのだよ。あれはあれで、これを楽しんでいいという空気を作らねばならないのだ」

「ほー」

「酔っ払った君に話しても無駄だったな……」

 農場で出る酒は、少し変わっていた。
 いわゆる、乳酒というものがあるのだ。

 ぷちぷちと泡が浮いてきており、味わいはまろやか。
 強い酒ではなく、自家製の酒として楽しむ感じだろう。

 メインは村で麦を発酵させたエール。
 作りたてだ。
 こっちは文句なく美味い。

 イングリドが飲みすぎて潰れるくらいには美味い。
 って、潰れてしまったか……。

 村の女性陣がイングリドを運んでいく。

「いやあ、最初の依頼、楽勝やったなあ」

 乳酒をちびちびやりながら、フリッカはごきげんだ。
 あまり酒に強くないらしく、既に顔が真っ赤だ。

「この男が戦場を設定してくれたお陰だ。あれだけの数のモンスターを一方的に殴れる場は少ない」

 ジェダはよくお分かりのようだ。
 フリッカに比べて、場馴れしているというかな。

「だがオーギュスト。俺は楽な戦いばかりだと退屈だ。歯ごたえのある勝負も用意してくれよ」

「あまり戦いの過程を楽しんでもらっては困るのだがなあ……。俺は、必勝を期して戦い、その上で観客映えする演出をする主義なんだが」

「常識人面をして、お前の方が俺よりイカれているじゃないか」

 ニヤニヤ笑うジェダ。
 お互い様である。
 魔族というものは、どこかでタガが外れているものだ。

 俺も、マールイ王国のキュータイ一世陛下からの恩がなければ、あの国に百年も務めなかった。
 だが、百年努めたお陰で大量のスキルを手に入れて、冒険者としての仕事が楽になっているのだから、人生とは分からないものだ。

「楽しみにしているぞオーギュスト。お前の采配があれば、こいつの目的も果たせるのかも知れんな」

 ジェダの目線の先では、こっくりこっくりと船を漕ぎ始めたフリッカがいる。
 この二人の関係性はどういうものなのだろうな。そしてフリッカの目的とは?
 こういう人間関係の機微というものも、人付き合いの醍醐味なのだ。

 あえて詮索はしない。
 どこかで自ら吐露してくれるのを楽しみにしながら、次なる仕事のことを考えようではないか。
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