上 下
61 / 107

第61話 五人パーティ

しおりを挟む
 任務は達成された。
 ワイバーンの逆鱗だが、実はそれなりに良いお金で売れる。
 逆鱗の下の袋は、傷ついていたとしても優秀な魔力蓄積素材として使用できるし、逆鱗そのものは魔力を遮断する効果を持っている。

 村人たちが集まってきて、みんなで胸をなでおろしている。
 これで牛や羊が襲われる心配はない。

 少々面倒だが、他の肉食獣が寄り付かないように、大きな穴を掘ってワイバーンは埋めてしまうことになった。
 ここまでの作業は、こちらでも手を貸しておくことにする。
 大量の逆鱗が手に入ったことで、それなりに我々の懐も温まったからだ。

 気持ちが大きくなり、心が広くなり、ちょっとくらいのサービスはしてもいいじゃないかという気持ちになる。

「ご覧あれ諸君! これにて牧場は安全! ワイバーンによる危機は去ったのだ!」

 作業の前に、俺は朗々と告げる。
 村人たちが、うわーっと盛り上がった。
 素晴らしい。

 やっぱりこれだよこれ。
 オーディエンスがいなければ、盛り上がらないというものだ。
 昨夜もちょっと無理をして、村の人たちには見に来てもらえばよかったのだ……。

「オーギュストが悪い顔をしている。あの戦いに村人を呼ぶべきだったという顔をしているな」

「なぜ分かるんだ……」

「分からないわけがないだろう。いい加減、付き合いが長くなってきているんだ」

 イングリドに心の中を読まれている……。
 おかしい。

 ともかく、ワイバーンの埋葬作業をさっさと終えて帰るとしよう。
 明け方まで掛けてワイバーンを全滅させた俺たちは、その後、村で仮眠を取った。
 今の時間は昼近く。

 朝の仕事を終えた村人たちを率いて、作業開始というわけだ。
 スコップを使い、大きな穴を掘っていく。

 腕力に優れる、ジェダとイングリドが大活躍である。
 二人で、村の男五人分くらいの働きをする。

 もの凄い速度で大きな穴が掘られていき、そこにワイバーンが次々投げ込まれていく。
 死んだワイバーンは、鱗が柔らかくなる。
 魔力のようなものが抜けて、モンスターから普通の動物の死骸のようになるのだ。

 腐敗すると大変なので、さっさと仕事を終える。
 穴に全て詰め込み、土を上からかぶせてガッチリと固めた。

 一年くらいで骨だけになるだろう。
 この丘は、ワイバーンの死体が分解され、豊かな栄養を得ることになる。
 きっと今度見に来た時には、緑が大いに繁茂していることになるのだろうなあ。

 そのようなことを考えつつ、作業を終えた。
 もう夕方近くである。

「うーむ……。結局またここで一泊していかねばならないな」

「まあ、いいじゃないかい。あたいはこういう牧歌的な光景も好きだよ? ずっと鉱山ぐらしをしているドワーフからすると、だだっ広くて草がどこにも生い茂ってるってのは、珍しい光景だけどね。海と違って水が少ないのが何よりいいね」

「ギスカ、海が嫌いなのかね」

「嫌いじゃないけど、深い水に入りたくないだけだよ……」

 他のドワーフもそうなのだろうか。
 これまでの人生で、あまり多くのドワーフには会っていないからな。
 少し興味がある。

 その後、俺たちは牧場の村で大いに飲み食いした。
 報酬の金額は増えないが、せめてたくさん飲んで食って帰ってくれという心意気であろう。
 大変ありがたい。

 俺もお返しに、定番の芸を見せる。
 ナイフ投げだとか、ジャグリングとか、手品とか……。

「オーギュストはあれだな」

「あれとは?」

 酔いの回ったイングリドが、曖昧な事を言う。

「道化師だけど、失敗して笑わせたりするのはないよな」

「ああ、この姿では、失敗したら笑わせると言うか笑われてしまうだろう? 失敗を笑いに変える芸は、顔を白塗りにして専用の化粧をしてね。まさしく道化になりきってやるものなのだよ。あれはあれで、これを楽しんでいいという空気を作らねばならないのだ」

「ほー」

「酔っ払った君に話しても無駄だったな……」

 農場で出る酒は、少し変わっていた。
 いわゆる、乳酒というものがあるのだ。

 ぷちぷちと泡が浮いてきており、味わいはまろやか。
 強い酒ではなく、自家製の酒として楽しむ感じだろう。

 メインは村で麦を発酵させたエール。
 作りたてだ。
 こっちは文句なく美味い。

 イングリドが飲みすぎて潰れるくらいには美味い。
 って、潰れてしまったか……。

 村の女性陣がイングリドを運んでいく。

「いやあ、最初の依頼、楽勝やったなあ」

 乳酒をちびちびやりながら、フリッカはごきげんだ。
 あまり酒に強くないらしく、既に顔が真っ赤だ。

「この男が戦場を設定してくれたお陰だ。あれだけの数のモンスターを一方的に殴れる場は少ない」

 ジェダはよくお分かりのようだ。
 フリッカに比べて、場馴れしているというかな。

「だがオーギュスト。俺は楽な戦いばかりだと退屈だ。歯ごたえのある勝負も用意してくれよ」

「あまり戦いの過程を楽しんでもらっては困るのだがなあ……。俺は、必勝を期して戦い、その上で観客映えする演出をする主義なんだが」

「常識人面をして、お前の方が俺よりイカれているじゃないか」

 ニヤニヤ笑うジェダ。
 お互い様である。
 魔族というものは、どこかでタガが外れているものだ。

 俺も、マールイ王国のキュータイ一世陛下からの恩がなければ、あの国に百年も務めなかった。
 だが、百年努めたお陰で大量のスキルを手に入れて、冒険者としての仕事が楽になっているのだから、人生とは分からないものだ。

「楽しみにしているぞオーギュスト。お前の采配があれば、こいつの目的も果たせるのかも知れんな」

 ジェダの目線の先では、こっくりこっくりと船を漕ぎ始めたフリッカがいる。
 この二人の関係性はどういうものなのだろうな。そしてフリッカの目的とは?
 こういう人間関係の機微というものも、人付き合いの醍醐味なのだ。

 あえて詮索はしない。
 どこかで自ら吐露してくれるのを楽しみにしながら、次なる仕事のことを考えようではないか。
しおりを挟む
感想 114

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...