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第59話 夜襲

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「ワイバーンは昼行性。つまり、夜になれば活動が鈍るから、ここで攻撃を仕掛ければ仕事は楽になる……んだけど」

 俺はため息をついた。
 イングリドが苦笑する。

「観客がいない仕事なので、オーギュストがやる気を無くしている。これはいつものことなので気にしなくていい。最低限の仕事はしてくれるからな」

「そ……そうなん? 面倒な性格やねえ」

「おかしな男だ」

 割と散々な言われようだが、芸を見せるとなると人の目がなければやる気にならない性分なのは仕方ない。
 今回はサクサクと仕事を終わらせて、早く王都へ戻ることにしよう。

 時間はすっかり夜。
 日は暮れて久しく、早めの夕食を摂ってから仮眠をした我々ラッキークラウン。

 ワイバーンの営巣地へ向けて、突き進んでいるところなのだった。

「いいかね諸君。ワイバーンは一匹から二匹が、夜間の見張りを担当する。これを素早く片付けることが重要だ。連中が騒げば、全てのワイバーンが起きてしまう。昼間に見たろう? あれだけの数の群れだ。一度に相手にするのは少々手こずることになる」

 一体一体の戦闘力は、そこまで高くないワイバーン。
 彼らは、飛ぶことができれば強いのだが、地上にいれば非力な大トカゲに過ぎない。

 飛ばせずに片付ける。
 これが重要になる。
 それに彼ら、夜目がそこまで利かないからな。

 今回、イングリドには鎧を脱いでもらった。
 大体のケースでフル装備な彼女だが、今回は服の上に鎧下だけを纏っているわけだ。
 本人は少々心細そうではある。

 他は、ギスカは鉱石をジャラジャラ鳴らさないよう、一つ一つ布でくるんでしまってもらってある。
 当然、ぶうぶう文句を言われた。
 見栄えが悪いとか、鉱石魔法使いのプライドとしてはどうとか。

 迅速な仕事の達成のためである。
 フリッカとジェダのテストは合格。
 あとは仕事を終わらせるだけなのだ。

 観客がつきようもない仕事など、早く終わらせて帰還し、この話を面白おかしく脚色して冒険者諸君に聞かせながら一杯やり、ついでにおひねりをもらうに限る!

「道化師が真剣な顔をしてるねえ……。やる気が無いんじゃなかったのかい」

「オーギュストはやる気がないぞ。だからこそ真剣に、さっさと仕事を片付けるために全力を尽くすんだ」

「分かんない男だねえ……」

 好きに言いたまえ。
 モチベーションが上がらない仕事こそ、さっさと片付ける。
 これが鉄則だ。

 さて、丘の上の営巣地が見えてきたぞ。
 この辺りには高い山が無いため、目的地に近づくのもそう難しくはない。
 障害物だって少ない。

 だからこそ、向こうからはこちらが丸見えになりやすい。
 今は、夜闇に身を潜めてゆっくりと動いているのだ。

 丘の上で、キラキラ光るものがある。
 ワイバーンの目だ。
 それが光っているうちは、こちらを見ている。
 光が消えれば……。そっぽを向いたということ。

「今だ、イングリド」

「ああっ! せいっ!!」

 大きく振りかぶり、イングリドが魔槍を投擲する。
 それは風を切りながらぐんぐん進み、ワイバーンの頭を貫いた。

 見張りのワイバーンが、力を失ってばたりと倒れる。

「進行!」

 指示を出し、仲間たちを率いていく。

「フリッカ、ジェダ、途中で目覚めるワイバーンがいるかも知れない。先行して起きてきた個体を仕留められるか?」

「任せとき! ジェダ、リンクスフォームで行くよ!」

「良かろう!」

 フリッカの言葉と同時に、ジェダの全身が変化した。
 首枷が地面に落ちる。
 手枷と首枷は、彼の能力を封じてコントロールしやすくするためのものらしい。
 なので、回収しておかねばならないのだ。

 巨大な山猫のような姿になったジェダに、フリッカがまたがる。
 すると、ジェダは風を切って猛烈な速度で駆け出した。

「なるほど、猛獣使いだ」

「便利な能力だねえ……。だけど、肉弾戦しかできないんじゃ扱いが難しいさね。さーて、あたいもやるとするか!」

 ちょうどいいところでギスカが立ち止まった。
 ここが鉱石魔法で、巣を射程に入れられるちょうどいいところなのだろう。

「丘に眠る岩石よ、力をお貸し! 崩れよ足場! 脆き大地が足を取る! グランドスネア!」

 ギスカの杖が、丘に突き刺さる。
 すると、俺たちの足元が少しふわふわしたように感じた。

 ワイバーンの巣では、それが顕著になったらしい。
 倒れたワイバーンの姿が、土に少しだけ潜り込んだように見えた。
 地面が軟化したのだろう。

 そこにジェダが到着した。
 ばたばたと暴れ始めたようである。

 ワイバーンが次々に目覚め、ギャアギャアと騒ぎ出したのが聞こえる。
 しかし、ギスカが作り出した柔らかな地面に足を取られ、上手く体勢を整えることができない。

 ワイバーンの飛翔は、滑空である。
 高いところから低いところへ、駆け下りながら翼を広げて飛び上がる。
 飛んでしまえば羽ばたけるが、その巨体ゆえ、飛ぶまでが大変なのだ。

 つまり、こういう足場が悪いところでは、彼らは本領を発揮できなくなる。

「よし、では行こう! ワイバーン掃討だ! 夜明けまでに片付けるぞ!」

 俺は吼えた。
 両手にナイフを構えて、巣に飛び込んでいく。

 これを見て、イングリドが呆れた声を漏らすのだった。

「やれやれ……。やる気がない時ほどやる気に満ちているように見えるのはどうなんだろうな……!」

 声を出した自分を鼓舞しなければ、動くのも億劫になるだけなのである……!
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