コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
48 / 107

第48話 海水浴と帰途

しおりを挟む
「あはははは! オーギュスト、そっちだ! そっちに行ったぞ!」

「ああ、ボールが波にさらわれる! イングリド、あまり全力で投げるものじゃない!」

 気がつくと……。
 イングリドと海で遊んでいた。

 気持ちいいくらいの晴天。
 打ち寄せる波。
 真っ白な砂浜。

 童心に帰ってしまう光景だ。
 それ故に、童心に帰って遊んでしまった……!

 道化師たるもの、水着くらいは用意してある。
 なので、俺とイングリドの二人が、水着姿のまま、波打ち際で戯れているのだ。

 ここにオルカが二頭入ってきて、彼らに乗って沖まで行ったり、戻ったり。
 実に楽しい。
 これは極上の息抜きだ。

 ガットルテの王都では、歓楽街で遊ぶか、高めの酒と食事をするくらいしか娯楽がなかったからな。
 天然のバカンスを擁するキングバイ王国、なかなか良い。

 残念なことに、この国には冒険者ギルドが無いのだ。
 一つの島を拠点とした王国であるため、ここにギルドがあっても、仕事が少ない。
 活動できる範囲が狭いためだ。

 なので、近くの王国やマールイ王国冒険者ギルドが、キングバイ王国で発生した仕事を請けることになる。
 そのマールイ王国と断絶状態であるため、ガットルテまで仕事の話が来たのだ。

「お陰で、帰る前にキングバイ王国の海を堪能できる……」

 プカプカと海に浮かんで、空を眺める。
 実に優雅な一時だ。
 人生は、こうやってのんびりしていてもいいものである。

 報酬もたっぷりともらったしな。

 ギスカは、砂浜で地面を掘り返している。
 何か鉱石の反応があったらしい。
 新しい魔法が使えるかも知れない、と意気込んでいたので、彼女は彼女で楽しんでいるのだ。

 こうして、バカンスをエンジョイする我々ラッキークラウンの横を、帆船が通り過ぎていった。
 船上の水夫たちが、手を振ってくる。
 俺もイングリドも手を振り返す。

「お陰で船が出られるよ! ありがとう! あんたたちの話はあちこちで広めるから! 凄い冒険者がいるって!」

「それはありがたい! 宣伝してもらえれば、我々も商売繁盛だよ!」

 そう返して、過ぎ去っていく帆船の後ろを見送る。
 そして気付いた。

「我々が有名になると、仕事がどんどん来てしまうのでは……?」

「どうしたんだオーギュスト。それはいいことじゃないか」

 すぐ間近まで来ていたイングリドが不思議そうだ。
 それよりも、露出度が高い水着を纏い、陽光を受けてキラキラ輝く彼女の肢体は、大変刺激的だ。
 無防備に異性に近寄ってはいけない。

「オーギュストが難しい顔をしている……! 何か問題があるんだな!?」

「いや、問題があると言えばある。無いと言えば無い……」

「どっちなんだ。あ、でもオーギュストの腕は結構太いな。胸板も鍛えられているなあ」

 仕事が来て休む暇がなくなる……それはいい。
 だが、今の姿のイングリドがぐいぐい近づいてくるのは大変問題があるということだ。やめるんだ、どうして豊かな胸を俺の腕に押し付ける必要がある。
 いかんいかん、俺としたことが冷静さを欠いていたようだ。

 二つの問題は全く別のものではないか。
 思わず混同してしまっていた。

 散々遊んでいたら、日が傾いてきてしまった。
 これはいけない。
 今日帰るつもりだったのだが、もう船が無くなっている。

「海は魔物だな」

「何を渋い顔して呟いてるんだい。あんたたち遊んでただけじゃないか」

 パラソルの下で昼寝をしていたギスカが起き上がり、苦笑した。
 彼女の横には、砂を固めて作ったらしい石が幾つか転がっている。

「ギスカ、それは一体なんだい?」

「新しい魔法に使う石さ。鉱石魔法ってのはね。何回か使うとその石を消費しちまう。砂は鉱石よりも脆いから、こいつらは一発で消えちまうかも。だけど、面白い魔法が使えるようになるよ。楽しみにしておいで」

「まるで、すぐに砂の魔法を使える時が来るような物言いをするなあ」

「あんたらと一緒にいたら、いざこざの方からこっちに来るんじゃないかい? あたいはそんな予感がするね」

 間違ってはいない。

 結局その日は、キングバイ王国で一泊したのだった。
 この国は観光地でもある。
 各国のお金持ちが集まり、海で遊び、夜は宿で豪遊する。

 俺たちも豪遊した。
 金があるならば使わねばならない。
 金は生き物だ。使うことで世界をめぐり、金が通過した場所に暮らす人々を潤していく。

 故に……。

「清酒のお代わりを持ってきてくれ。それからメニューのここからここまで追加で」

「あ、この魚は美味しかったな! 魚倍量で! ソースとかもっと濃くていいかも」

「蒸留酒ないのかい? ある? 高い? 構わないさ、じゃんじゃん持ってきておくれ!」

 ラッキークラウンは、豪遊した。
 お金をじゃぶじゃぶ使った。
 そして酒に酔った我々は、部屋の中でぶっ倒れて寝た。

 朝目覚めたのは、扉をノックする音でだ。
 これは、船に乗るため、起こしてくれるよう頼んでおいた宿のモーニングコールだ。

「船が出ちまいますよ!! 起きてください!」

「まずい!!」

 俺は飛び起きた。
 イングリドを揺り起こし、ギスカの頬をぺちぺち叩いて起こす。

「うおお、昨夜の記憶がない……」

「いやあー、痛飲したねえー! あんないい酒をじゃぶじゃぶ飲めるなんて、あんたらと一緒になって良かったよー」

「昨晩の記憶など、今は構っている場合ではない! 船が出るぞ! これを逃すと、昼過ぎまで船は無い!」

 俺の言葉を聞いて、イングリドとギスカが真顔になった。
 慌てて三人で荷造りをし、宿を飛び出す。
 前払いの宿で本当に良かった。

 渡り板が外され、今にも桟橋を離れようとする船に、ラッキークラウンが駆け寄った。

「待ってくれー! 乗る! 乗るぞ! 金は出す!」

 金と聞いて、船の乗組員が駆け寄ってきた。
 俺たちの荷物を受け取り、俺たちの手を取って引っ張り上げてくれる。

 素晴らしい。
 金は全てを解決する。

 かくして、離れていくキングバイ王国。
 さらば、海の王国よ。
 つかの間のバカンスを楽しめたのは幸いだった。

 大陸では、また騒動が待っているのだろうな。
しおりを挟む
感想 114

あなたにおすすめの小説

無能扱いされた実は万能な武器職人、Sランクパーティーに招かれる~理不尽な理由でパーティーから追い出されましたが、恵まれた新天地で頑張ります~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
鍛冶職人が武器を作り、提供する……なんてことはもう古い時代。 現代のパーティーには武具生成を役目とするクリエイターという存在があった。 アレンはそんなクリエイターの一人であり、彼もまたとある零細パーティーに属していた。 しかしアレンはパーティーリーダーのテリーに理不尽なまでの要望を突きつけられる日常を送っていた。 本当は彼の適性に合った武器を提供していたというのに…… そんな中、アレンの元に二人の少女が歩み寄ってくる。アレンは少女たちにパーティーへのスカウトを受けることになるが、後にその二人がとんでもない存在だったということを知る。 後日、アレンはテリーの裁量でパーティーから追い出されてしまう。 だが彼はクビを宣告されても何とも思わなかった。 むしろ、彼にとってはこの上なく嬉しいことだった。 これは万能クリエイター(本人は自覚無し)が最高の仲間たちと紡ぐ冒険の物語である。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

聖女の孫だけど冒険者になるよ!

春野こもも
ファンタジー
森の奥で元聖女の祖母と暮らすセシルは幼い頃から剣と魔法を教え込まれる。それに加えて彼女は精霊の力を使いこなすことができた。 12才にった彼女は生き別れた祖父を探すために旅立つ。そして冒険者となりその能力を生かしてギルドの依頼を難なくこなしていく。 ある依頼でセシルの前に現れた黒髪の青年は非常に高い戦闘力を持っていた。なんと彼は勇者とともに召喚された異世界人だった。そして2人はチームを組むことになる。 基本冒険ファンタジーですが終盤恋愛要素が入ってきます。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...