コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
44 / 107

第44話 渦潮を越えて

しおりを挟む
 実際に自分で行ってみなければ、魔族の手の内は分かるまい。

「ではオルカ騎士団の皆様! この道化師めに、オルカを一頭貸し与えては下さいませんか?」

 俺が仰々しく礼をすると、今さっきイングリドへの指導を終えて戻ってきた副団長、グットルムが変なものを見るような目をした。

「……お前も乗るのか? 道化師がオルカに? お嬢ちゃんみたいに簡単にはいかねえぞ」

「承知の上です。ですが、我が身を投じて渦潮の脅威を知らねば、対策は立てられますまい!」

「確かにな。団長、いいんですかい?」

「その人の好きにさせてやってくれ。状況を悪くするようなことは絶対しない人だから」

「ヒュウ! すげえ信頼だなあ……。だがよ、団長。オルカに乗れるかどうかは、あいつらが選ぶんだぜ。例え団長がいいって言っても、簡単にあいつらが背中に乗せてくれるとは……」

 あいつら、とはオルカのことであろう。
 確かに、彼らは賢く、そして誇り高き海の獣である。
 背に乗せるともなると、長年培った信頼関係か、初見でもわかる程の相性が必要になる……普通は。

「ではご覧あれ。我が無数のスキルの一つ! オルカライド!」

 俺は船べりに足を掛け、鋭く指笛を吹き鳴らした。
 これが同族の鳴き声に聞こえたのだろう。
 近くにいたオルカが一頭、浮上してきて鼻先を向けた。

 オルカに向けて飛び降りる俺。
 キュイッ!?と驚くオルカ。
 落下までに、短く指笛を連続で鳴らす。

 キュッ!と返事があり、彼は背中を見せた。
 そう、彼は若いオスだ。
 俺の指笛での交渉に応じ、乗せてくれることになったのだ。

 スタッと黒い背中に乗ると、船の上からうおおおおっとどよめきが漏れた。

「立ちやがった!!」

「なんで立てるんだ……」

「オルカ痛くないのあれ?」

 オルカ騎士団の諸君の常識からすると、理解できないだろう。
 ここは解説しよう。

「皆様! どこにどのような部分が来るかを察していれば、例え曲面だろうと平地のように着地できる! そして接地のタイミングで、彼は上手く水に沈み込み、衝撃を吸収したのだ! わたくしめも、皆様方が騎士団を始める前に海獣に乗ることがありましてね! そして身につけたこの芸当! さあ!」

 指笛を鋭く鳴らすと、俺を乗せたオルカ氏が猛然と泳ぎだした。
 そしてもう一度鳴らすと、俺を乗せたまま高く飛び上がる。

 うおおーっとどよめく、オルカ騎士団。
 俺のオルカは、イングリドのオルカに並んで泳ぎ始めた。

「おお! オーギュストも来たのか! ……なんだ、いつもの格好じゃないか。大丈夫か? 海に落ちたら泳げなくて死んだりしないだろうな?」

「君は最近、自分から不吉な話をするな?」

「そう言えば……。オーギュストのお陰で、前向きになったからかもしれないな」

 微笑むイングリドだが、前向きになったあとのセリフが「死なないだろうな」なのはいかがなものか。
 まあ、それは後で追求するとしよう。
 今、俺とイングリドの眼前に迫っているのは、魔法で生み出された大渦潮。

 一つだけではない。
 幾つもの渦潮が重なり合い、海を塞いでいる。
 これを迂回して航海するとなると、とんでもないタイムロスが発生することだろう。

「これは凄まじいな……! 船など巻き込まれたら、バラバラにされてしまうだろう!」

 先程乗ったばかりだと言うのに、オルカを見事に御するイングリド。
 渦潮の周りをゆったりと泳いでいる。
 凄まじいのは彼女の方だと思うが……!

「イングリドは聞いていなかったかもしれないが、この事象を引き起こしたのは、魔族ネレウス。純血種に近い強大な魔族だ。彼は、イカのモンスターに乗って姿を現したとされている。人を載せられ、高速で泳ぐことができるイカといえば……クラーケンだろう」

 俺はオルカを、渦潮の近くまで進ませる。

「そして、そのクラーケンはその巨体ゆえ、どうやっても渦潮に引っかかる。ではクラーケンを動かすときだけ渦潮を消すか? 否。この魔法は、毒霧の奇跡とは違う。召喚されたのではなく、ここにある海水と海流を操作して引き起こした超自然現状だ。そのために、魔法の行使を止めても、しばらくの間渦は残り続け、渦が消えた後に魔法を使用すれば、渦が再び生まれるまで相当な時間が掛かる。そう、精霊魔法のメイルシュトロームという魔法だ」

「詳しい……。しかし君は本当に口が回るな……」

「魔法学を心得ているからね。そしてメイルシュトロームは、二箇所の弱点が存在する。そこには、影響を及ぼせないのだ」

「な、なんだって!? どこなんだ!」

「まずは空だ」

「なるほど!! ……いや、オーギュスト、空は飛べないだろう……。オルカのジャンプだって、渦潮を飛び越せるほどじゃない」

「ああ、その通りだ。ならば、もう一つはどこか?」

 俺はイングリドに問いながら、指先を海に向けた。

「もしや……水の底……?」

「その通り。渦潮は水面に近づくほど大きくなる。逆に、水中ならばその影響する幅はごく小さくなる。水底ならば、ほぼ動きはないと言っていい」

「なるほど! よし、潜るぞ!!」

 イングリドが宣言すると、彼女を乗せたオルカが即座に応じた。
 あっという間に潜航していく。
 さすが、決断が圧倒的に早い。

 彼女がそう選択したということは、俺の考えが正しかったという証左である。

「俺たちも行くぞ。彼女の尻を追え!」

 オルカはキュイッと返事をすると、猛然と前方のオルカの尾を追い、潜航していくのだった。
 渦潮の姿が、側面から見える。
 それは、水中に発生した竜巻だ。

 違うのは、渦潮の深さはさほどでもないということ。
 水の中は、海上と違って静かである。

 オルカはすぐにイングリドへと追いつき、並んだ。
 眼前には、林立する渦潮の末端。

 隙間だらけだ。
 通っていくのは難しくない。
 俺は彼女に手で合図を送り、先行してもらうのだった。

 頼むぞ幸運スキル。
 バッチリな場所に浮上させてくれよ……!
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...