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第39話 キングバイ王国へ
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「聞いたかよ。死神と道化師がまた村を一つ救ったって」
「ドワーフの女が増えてたぜ。今じゃ、三人でラッキークラウンっていうパーティだってよ」
「幸運の道化師! 確かに、あいつら組んでから運がついてきてるもんな」
「あやかりたい……」
ギルドにおける、俺たちへの視線が変わってきたのを感じる。
「なんだいなんだい? 素直な称賛の声が聞こえないんだけど。あんたたち、何かここでやらかしてるのかい?」
「君が俺たちと会ったときに、彼女がなんて呼ばれていたか覚えているかな」
そう言われて、ギスカはじっとイングリドを見た。
しばらくしてから、ポンと手を打つ。
「ああ、死神!」
「違うぞ!!」
イングリドが即座に否定してきた。
これが面白かったようで、ギスカが椅子を傾けながらけらけら笑う。
「ひええ、面白い。分かった、分かったよ。つまりイングリドが死神と呼ばれてて、それが道化師を仲間にしたら活躍し始めたじゃないか。連中、馴染んだ死神呼びができなくなってきていて寂しいんだろうさ」
「そうだろうね。今やイングリドは、名実ともに我々にとっての幸運の女神だ」
「めっ、女神!! そんな大仰な」
たまに褒められるとすぐ赤くなるんだ、この王女様は。
王族なのに褒められ慣れてないというのはどうなんだろうね。
これは他の冒険者たちにも大いに受けた。
「しかし、それにしてもだ。俺たちが戦っていた、腐敗神の司祭たちとの戦いは、進展したものの……」
俺はテーブルの上に、手を載せた。
そして、それをゆっくり持ち上げていく。
さっきまで何もなかったところに、金貨が塔のごとく積み上がっていく。
「へえ! 大したもんだね!」
「いいぞ道化師!」
ギスカと冒険者たちが、わっと盛り上がる。
だが、俺の手は中途半端なところで止まってしまった。
金貨の高さは、塔と言うにはあまりに貧弱。
物見櫓くらいのものである。
「あれ、どうしたんだいオーギュスト?」
「どうしたもこうしたも。金貨はこれでおしまいさ。今回の報酬はこれだけだったってことだ」
そう。
護衛は、拘束期間の間の宿と食事を提供してくれる。
その代わりに、報酬は安めなのだ。
今回は途中で襲ってきた相手もゴブリンのみ。
「これでも、村を救ったことで色を付けてもらったんだがね。しかし……大した額じゃない。俺は芸の種を用意するのに金がかかる。ギスカは鉱石を補充しなくちゃいけない。イングリドは稼いだだけ飲み食いして使ってしまう」
「そ、そんなに食べないぞ!」
失敬な、とイングリド。
「しかし、私たちのパーティはそんなに消耗品が多かったのか」
「本来なら、前衛に立つ戦士の君が一番消耗品が多いはずなんだぞ。だが、その魔剣と魔槍はなんだ。あれだけの戦いをしても刃こぼれ一つしない。でたらめな業物じゃないか。ショートソードを研ぎに出しているくらいで、君は防具を着ていてもきっちり攻撃を回避するから傷まない。君は特殊なんだぞ、イングリド」
「そ、そうだったのか……!!」
イングリドは、とにかくダメージを受けない。
運良く攻撃が及ばない場所にいるという幸運スキルの賜物もあるだろうが、何より、彼女は非常に腕の立つ戦士なのだ。
一見不用意に見えて、常に油断していない。その動きは攻防一体。
問題は、コンビネーションで動くことを全く想定していないことくらいか。
俺と会うまでは、一人で依頼を完遂してきたんだものな。
「そんなわけで、今回の消耗品を補充すると、あまり何日もダラダラしていられなくなる。今までの仕事で得た貯金はあるが、貯金を崩すのはなんだか負けた気がする」
「分かるよ」
ギスカが深く頷いた。
「お金は使うためにあるのではないのか?」
きょとんとするイングリドを前に、俺とギスカでため息をついた。
「なんだなんだ二人とも! まるで私が世間知らずみたいに! よし分かった。仕事を見つければいいんだな! うーん……これだ! 見ろ! これが一番報酬が高いぞ。募集人数もちょうど三人で……」
イングリドが、掲示板にはりつけようかどうか、迷っていたギルド職員から依頼用紙を奪い取った。
そして自慢気に俺たちに見せてくる。
「あっ、そ、それは……」
「職員が困ってる上に、イングリドが迷いもせずに選んだ……。これはまた、とんでもない依頼の予感がするぞ」
「そうなのかい?」
「ああ。彼女が選んだ依頼は、実入りはいいんだ。だが、常に裏があり、とんでもない相手と戦うことになる」
「へえ……。疫病神でも飼ってるのかい……あ、それで死神……?」
「一応そのあだ名を返上するために冒険してる。彼女の前では言わないでやってくれ……」
「はいはい。しかしまあ、確かにあの子と一緒じゃあ、並の冒険者は体が持たないねえ……」
こうして、新たなる依頼を受けることになった俺たち。
それは、冒険者ギルドが、果たして一般の依頼として張り出していいものかどうか、迷うような代物だったのである。
『緊急! キングバイ王国の海賊海峡に、巨大なモンスターが出現。早急なる退治を願う!人数、三人以上 報酬、200ゴールド 依頼人:アキンドー商会・キングバイ王国オルカ騎士団』
「これは……国をまたいでの冒険になるな。しかも、海だ」
「えっ、海に行くのか! 実は私、海に行ったこと無くてな」
ウキウキしているイングリド。
依頼内容を読んでなかったな!?
「海かい? ドワーフは水に沈むから、船から落っことさないようにしておくれよ……!!」
そっちは切実だな、ギスカ。
さて、募集人数もよし。
報酬は高額。
アキンドー商会が噛んでいるなら間違いなし。
そして、キングバイ王国のオルカ騎士団とは、面識もある。
今度の仕事も、楽しくなりそうだ。
笑える結末になるよう、道化師は備えるのである。
「ドワーフの女が増えてたぜ。今じゃ、三人でラッキークラウンっていうパーティだってよ」
「幸運の道化師! 確かに、あいつら組んでから運がついてきてるもんな」
「あやかりたい……」
ギルドにおける、俺たちへの視線が変わってきたのを感じる。
「なんだいなんだい? 素直な称賛の声が聞こえないんだけど。あんたたち、何かここでやらかしてるのかい?」
「君が俺たちと会ったときに、彼女がなんて呼ばれていたか覚えているかな」
そう言われて、ギスカはじっとイングリドを見た。
しばらくしてから、ポンと手を打つ。
「ああ、死神!」
「違うぞ!!」
イングリドが即座に否定してきた。
これが面白かったようで、ギスカが椅子を傾けながらけらけら笑う。
「ひええ、面白い。分かった、分かったよ。つまりイングリドが死神と呼ばれてて、それが道化師を仲間にしたら活躍し始めたじゃないか。連中、馴染んだ死神呼びができなくなってきていて寂しいんだろうさ」
「そうだろうね。今やイングリドは、名実ともに我々にとっての幸運の女神だ」
「めっ、女神!! そんな大仰な」
たまに褒められるとすぐ赤くなるんだ、この王女様は。
王族なのに褒められ慣れてないというのはどうなんだろうね。
これは他の冒険者たちにも大いに受けた。
「しかし、それにしてもだ。俺たちが戦っていた、腐敗神の司祭たちとの戦いは、進展したものの……」
俺はテーブルの上に、手を載せた。
そして、それをゆっくり持ち上げていく。
さっきまで何もなかったところに、金貨が塔のごとく積み上がっていく。
「へえ! 大したもんだね!」
「いいぞ道化師!」
ギスカと冒険者たちが、わっと盛り上がる。
だが、俺の手は中途半端なところで止まってしまった。
金貨の高さは、塔と言うにはあまりに貧弱。
物見櫓くらいのものである。
「あれ、どうしたんだいオーギュスト?」
「どうしたもこうしたも。金貨はこれでおしまいさ。今回の報酬はこれだけだったってことだ」
そう。
護衛は、拘束期間の間の宿と食事を提供してくれる。
その代わりに、報酬は安めなのだ。
今回は途中で襲ってきた相手もゴブリンのみ。
「これでも、村を救ったことで色を付けてもらったんだがね。しかし……大した額じゃない。俺は芸の種を用意するのに金がかかる。ギスカは鉱石を補充しなくちゃいけない。イングリドは稼いだだけ飲み食いして使ってしまう」
「そ、そんなに食べないぞ!」
失敬な、とイングリド。
「しかし、私たちのパーティはそんなに消耗品が多かったのか」
「本来なら、前衛に立つ戦士の君が一番消耗品が多いはずなんだぞ。だが、その魔剣と魔槍はなんだ。あれだけの戦いをしても刃こぼれ一つしない。でたらめな業物じゃないか。ショートソードを研ぎに出しているくらいで、君は防具を着ていてもきっちり攻撃を回避するから傷まない。君は特殊なんだぞ、イングリド」
「そ、そうだったのか……!!」
イングリドは、とにかくダメージを受けない。
運良く攻撃が及ばない場所にいるという幸運スキルの賜物もあるだろうが、何より、彼女は非常に腕の立つ戦士なのだ。
一見不用意に見えて、常に油断していない。その動きは攻防一体。
問題は、コンビネーションで動くことを全く想定していないことくらいか。
俺と会うまでは、一人で依頼を完遂してきたんだものな。
「そんなわけで、今回の消耗品を補充すると、あまり何日もダラダラしていられなくなる。今までの仕事で得た貯金はあるが、貯金を崩すのはなんだか負けた気がする」
「分かるよ」
ギスカが深く頷いた。
「お金は使うためにあるのではないのか?」
きょとんとするイングリドを前に、俺とギスカでため息をついた。
「なんだなんだ二人とも! まるで私が世間知らずみたいに! よし分かった。仕事を見つければいいんだな! うーん……これだ! 見ろ! これが一番報酬が高いぞ。募集人数もちょうど三人で……」
イングリドが、掲示板にはりつけようかどうか、迷っていたギルド職員から依頼用紙を奪い取った。
そして自慢気に俺たちに見せてくる。
「あっ、そ、それは……」
「職員が困ってる上に、イングリドが迷いもせずに選んだ……。これはまた、とんでもない依頼の予感がするぞ」
「そうなのかい?」
「ああ。彼女が選んだ依頼は、実入りはいいんだ。だが、常に裏があり、とんでもない相手と戦うことになる」
「へえ……。疫病神でも飼ってるのかい……あ、それで死神……?」
「一応そのあだ名を返上するために冒険してる。彼女の前では言わないでやってくれ……」
「はいはい。しかしまあ、確かにあの子と一緒じゃあ、並の冒険者は体が持たないねえ……」
こうして、新たなる依頼を受けることになった俺たち。
それは、冒険者ギルドが、果たして一般の依頼として張り出していいものかどうか、迷うような代物だったのである。
『緊急! キングバイ王国の海賊海峡に、巨大なモンスターが出現。早急なる退治を願う!人数、三人以上 報酬、200ゴールド 依頼人:アキンドー商会・キングバイ王国オルカ騎士団』
「これは……国をまたいでの冒険になるな。しかも、海だ」
「えっ、海に行くのか! 実は私、海に行ったこと無くてな」
ウキウキしているイングリド。
依頼内容を読んでなかったな!?
「海かい? ドワーフは水に沈むから、船から落っことさないようにしておくれよ……!!」
そっちは切実だな、ギスカ。
さて、募集人数もよし。
報酬は高額。
アキンドー商会が噛んでいるなら間違いなし。
そして、キングバイ王国のオルカ騎士団とは、面識もある。
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