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第35話 逆奇襲
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護衛の旅は、実にのどかなものだ。
最初にあったようなゴブリンによる襲撃も、頻繁に起こるようなものではない。
そのため、護衛における報酬は、基本報酬と発生した危険による追加報酬が細かく分かれている。
ゴブリンの襲撃は、比較的安めの追加報酬だ。
そして危険が無かった場合、護衛報酬は日割りだとかなり安いことになる。
そのため、食事をもらいながらダラダラしつつ金も欲しい……などという冒険者がよくこの仕事を受けている。
俺たち以外の冒険者が、さほど腕が良くない──ゴブリン相手に不覚を取るレベルなのも、それが理由だ。
「またゴブリンだね」
「よく出てくるな。今回はギスカがメインでやってみるかい?」
「そうするよ。さあて、他の冒険者たち! 下がっておいで! 赤光石、藍青石、爪弾く火花よ力をお貸し! 熱と冷気を合わせて放つ、蒸気の嵐! スチームストーム!」
荷馬車の周囲を、熱い風が吹き荒れる。
「ウグワーッ!?」
ゴブリンたちの叫び声が響いた。
彼らが近づく前に、強烈な魔法で一掃してしまう戦術である。
「鉱石魔法は、触媒となる石を組み合わせることができるのか」
「ああ、そうさ。その場で石を組み合わせて、即興で魔法を作るのも鉱石魔法の醍醐味さね。ああ、スッキリした。あんたたちと一緒だと、あたいの見せ場がなくなるかと思ってたよ」
冗談を口にしながら、ギスカがウインクする。
ゴブリンたちはこの一撃で肝をつぶしたらしい。
生き残りが、わあわあと叫びながら逃げていく。
その日は、もう襲撃が無かった。
のどかなものである。
お陰で、俺は今後の対策を練ることができる。
「腐敗神の信者たちは、俺たちに標的を変えたようだ。三度計画を潰されたため、俺たちをどうにかせねば計画を進められないと考えたのだろう」
「ふむ……。それはつまり、計画を立案したり進めたりしている、彼らのリーダーがいるということ?」
「そうなるだろう。そして彼らも人である以上、何もない荒野を拠点として暮らしているとは思えない。恐らく、どこかの村を利用していると思う。この護衛は、彼らの拠点を探すために実に都合がいいんだ」
ゴブリンを退治した後、割り当てられた荷馬車に戻る。
馬車の幌の上では、鉱石魔法が生み出した不思議な生き物が周囲を警戒している。
使い魔なのだそうだ。小石に目玉が生えて、それが幾つも積み上がっているような見た目をしている。
索敵はこれに任せて、車内にて作戦会議。
布の上に砂を集めると、これをギスカが杖で突いた。
砂が地図の形になる。
「昨日逃げた男は、次の村にいるみたいだね。留まっているよ」
「なるほど。位置さえ分かれば、こちらから奇襲ができるな」
「私たちが奇襲を仕掛けるのか!?」
イングリドが目を丸くした。
いつもやられるのを待っているばかりでは無いのだ。
ちなみに昨日の男は、どうやら冒険者パーティの新参者だったらしい。
すぐに姿を消してしまったので、そのパーティは、分け前が増えるとむしろ喜んでいた。
よほどの絆が無ければ、冒険者などそんなものなのだろう。
「いつまでも襲撃に怯えるのは笑えないだろ? 憂いはさっくりと片付けておくものさ」
「同感だね。ドワーフには、ヒヤリハットの法則ってのがあってね。ちょっとした気になることや小さな事故を放っておかず、徹底的に解析して、そいつらの大本になっている事態が大事故になるのを防ぐ考え方なのさ」
「素晴らしい思考だ! すっきりしていて大変いい! イングリドも、懸念ごとはすぐに片付けたほうがいいだろう?」
「それはそうだな」
イングリドが納得した。
大変物分りがいいのが彼女のいいところだ。
奇襲という言葉の卑怯な響きは、すっかり意識から消え失せたようだ。
かくして俺たちは、雇い主に上申することになる。
「我々が先行し、村で迎える体勢を作りましょう。本日はゴブリンを撃退し、これ以上の襲撃はないものと思いますからな」
「なるほど、確かに。では先に出てくれるか」
納得する雇い主。
何より、アキンドー商会の大きな依頼を一つ果たしており、商会が世話をしているジョノーキン村の子どもたちからの信頼も厚い、俺たちのことである。
意見が通りやすいのだ。
他の冒険者たちは、『こいつらはなんで、そんな面倒なことを率先してやろうとしているのだ』と訝しげだ。
確かに、彼らには関係ない。
我々にとってメリットがある、というだけである。
「では出発だ!」
荷馬車の速度は、人が歩く程度の速さ。
冒険者の足でならば、容易く追い抜くことができる。
さらに、ここへ鉱石魔法を使用して速度を上げる。
「さあギスカ、君の出番だ!」
「ほほーう? よくぞ、鉱石魔法に移動を早くする魔法があると分かったね?」
「鉱山は、足場が悪いだろう? 仕事効率を上げるなら、足元からさ」
「ご明察さね! 行くよ! 大地の砂よ、石くれよ、力をお貸し! 平らかに道を作りて、足場となれ! ファインロード!」
ギスカが杖で地面を突くと、俺たちの足元だけが、平坦な地面に変わった。
脚を上げると、そこはただの地面。
足を下ろすと、平坦な地面。
これはいい。
「荷車そのものにも掛けられるんだけどね。こいつを使えば、馬車だってなんだって速度が上がるよ」
「ではどうして、キャラバンの荷馬車には使わなかったんだ?」
イングリドの当然の質問に対し、ギスカはウインクして答えた。
「頼まれなかったからさ。魔法だってタダじゃないんだ。あんたらが、あたいの仲間だから使ってやってるんだよ!」
「なるほど、確かに!」
イングリドがまた納得した。
物分りが大変いいところが、彼女の美点である。
かくして、俺たち三人は高速で移動する。
町中ですらありえないような、足場の良さ。
進む速度も上がるというものだ。
あっという間に村が見えてきて……。
「なにっ、お、お前らどうして先に!? は、速いっ」
昨日の冒険者が見えたところで、イングリドが加速した。
凄まじい速度で駆け寄りざま、昨日の冒険者へ渾身のストレートを叩き込む。
「ウグワーッ!?」
地面と平行に吹き飛んでいく冒険者。
さあ、馬車到着前に、奇襲を完遂させねば。
最初にあったようなゴブリンによる襲撃も、頻繁に起こるようなものではない。
そのため、護衛における報酬は、基本報酬と発生した危険による追加報酬が細かく分かれている。
ゴブリンの襲撃は、比較的安めの追加報酬だ。
そして危険が無かった場合、護衛報酬は日割りだとかなり安いことになる。
そのため、食事をもらいながらダラダラしつつ金も欲しい……などという冒険者がよくこの仕事を受けている。
俺たち以外の冒険者が、さほど腕が良くない──ゴブリン相手に不覚を取るレベルなのも、それが理由だ。
「またゴブリンだね」
「よく出てくるな。今回はギスカがメインでやってみるかい?」
「そうするよ。さあて、他の冒険者たち! 下がっておいで! 赤光石、藍青石、爪弾く火花よ力をお貸し! 熱と冷気を合わせて放つ、蒸気の嵐! スチームストーム!」
荷馬車の周囲を、熱い風が吹き荒れる。
「ウグワーッ!?」
ゴブリンたちの叫び声が響いた。
彼らが近づく前に、強烈な魔法で一掃してしまう戦術である。
「鉱石魔法は、触媒となる石を組み合わせることができるのか」
「ああ、そうさ。その場で石を組み合わせて、即興で魔法を作るのも鉱石魔法の醍醐味さね。ああ、スッキリした。あんたたちと一緒だと、あたいの見せ場がなくなるかと思ってたよ」
冗談を口にしながら、ギスカがウインクする。
ゴブリンたちはこの一撃で肝をつぶしたらしい。
生き残りが、わあわあと叫びながら逃げていく。
その日は、もう襲撃が無かった。
のどかなものである。
お陰で、俺は今後の対策を練ることができる。
「腐敗神の信者たちは、俺たちに標的を変えたようだ。三度計画を潰されたため、俺たちをどうにかせねば計画を進められないと考えたのだろう」
「ふむ……。それはつまり、計画を立案したり進めたりしている、彼らのリーダーがいるということ?」
「そうなるだろう。そして彼らも人である以上、何もない荒野を拠点として暮らしているとは思えない。恐らく、どこかの村を利用していると思う。この護衛は、彼らの拠点を探すために実に都合がいいんだ」
ゴブリンを退治した後、割り当てられた荷馬車に戻る。
馬車の幌の上では、鉱石魔法が生み出した不思議な生き物が周囲を警戒している。
使い魔なのだそうだ。小石に目玉が生えて、それが幾つも積み上がっているような見た目をしている。
索敵はこれに任せて、車内にて作戦会議。
布の上に砂を集めると、これをギスカが杖で突いた。
砂が地図の形になる。
「昨日逃げた男は、次の村にいるみたいだね。留まっているよ」
「なるほど。位置さえ分かれば、こちらから奇襲ができるな」
「私たちが奇襲を仕掛けるのか!?」
イングリドが目を丸くした。
いつもやられるのを待っているばかりでは無いのだ。
ちなみに昨日の男は、どうやら冒険者パーティの新参者だったらしい。
すぐに姿を消してしまったので、そのパーティは、分け前が増えるとむしろ喜んでいた。
よほどの絆が無ければ、冒険者などそんなものなのだろう。
「いつまでも襲撃に怯えるのは笑えないだろ? 憂いはさっくりと片付けておくものさ」
「同感だね。ドワーフには、ヒヤリハットの法則ってのがあってね。ちょっとした気になることや小さな事故を放っておかず、徹底的に解析して、そいつらの大本になっている事態が大事故になるのを防ぐ考え方なのさ」
「素晴らしい思考だ! すっきりしていて大変いい! イングリドも、懸念ごとはすぐに片付けたほうがいいだろう?」
「それはそうだな」
イングリドが納得した。
大変物分りがいいのが彼女のいいところだ。
奇襲という言葉の卑怯な響きは、すっかり意識から消え失せたようだ。
かくして俺たちは、雇い主に上申することになる。
「我々が先行し、村で迎える体勢を作りましょう。本日はゴブリンを撃退し、これ以上の襲撃はないものと思いますからな」
「なるほど、確かに。では先に出てくれるか」
納得する雇い主。
何より、アキンドー商会の大きな依頼を一つ果たしており、商会が世話をしているジョノーキン村の子どもたちからの信頼も厚い、俺たちのことである。
意見が通りやすいのだ。
他の冒険者たちは、『こいつらはなんで、そんな面倒なことを率先してやろうとしているのだ』と訝しげだ。
確かに、彼らには関係ない。
我々にとってメリットがある、というだけである。
「では出発だ!」
荷馬車の速度は、人が歩く程度の速さ。
冒険者の足でならば、容易く追い抜くことができる。
さらに、ここへ鉱石魔法を使用して速度を上げる。
「さあギスカ、君の出番だ!」
「ほほーう? よくぞ、鉱石魔法に移動を早くする魔法があると分かったね?」
「鉱山は、足場が悪いだろう? 仕事効率を上げるなら、足元からさ」
「ご明察さね! 行くよ! 大地の砂よ、石くれよ、力をお貸し! 平らかに道を作りて、足場となれ! ファインロード!」
ギスカが杖で地面を突くと、俺たちの足元だけが、平坦な地面に変わった。
脚を上げると、そこはただの地面。
足を下ろすと、平坦な地面。
これはいい。
「荷車そのものにも掛けられるんだけどね。こいつを使えば、馬車だってなんだって速度が上がるよ」
「ではどうして、キャラバンの荷馬車には使わなかったんだ?」
イングリドの当然の質問に対し、ギスカはウインクして答えた。
「頼まれなかったからさ。魔法だってタダじゃないんだ。あんたらが、あたいの仲間だから使ってやってるんだよ!」
「なるほど、確かに!」
イングリドがまた納得した。
物分りが大変いいところが、彼女の美点である。
かくして、俺たち三人は高速で移動する。
町中ですらありえないような、足場の良さ。
進む速度も上がるというものだ。
あっという間に村が見えてきて……。
「なにっ、お、お前らどうして先に!? は、速いっ」
昨日の冒険者が見えたところで、イングリドが加速した。
凄まじい速度で駆け寄りざま、昨日の冒険者へ渾身のストレートを叩き込む。
「ウグワーッ!?」
地面と平行に吹き飛んでいく冒険者。
さあ、馬車到着前に、奇襲を完遂させねば。
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