コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
31 / 107

第31話 のどかな護衛と新たな仲間

しおりを挟む
 アキンドー商会としても、馴染みの冒険者が来たことで安心できたようである。

「お二人が噂の! ジョノーキン村はですね、新しい移住者を募って、アキンドー商会が出資して再出発することになりまして!」

「ほうほう、そりゃあ凄いな」

 結局、あの村で恨みをつのらせていた人々は、歴史の裏側に消えていくのだろう。
 命を賭して憎悪を実現させるために、エルダーマンティコアまで呼び寄せたが……。
 死んでしまっては、全て終わった後に語り継ぐものもいない。

 せめて、助かった子どもたちが悪い思想に被れていないことを祈るばかりだ。

「ということで、ジョノーキン村を通ってから、周辺の村々を一周します。食材や資材を買い取って積み込み、王都に戻ってくるんですよ」

「それはいい。ガットルテ王国をざっと見て回りたかったところだ」

「ああ。私も王都の外はあまりよく知らない。助かる」

 今回の旅は、なんと荷馬車に乗れる。
 素晴らしい……!

 騎士団の依頼以外は、徒歩だったからな。
 荷馬車の数は四台。
 これを二人だけで守ることは難しいので、今回は他の冒険者も来ている。

 イングリドがいる依頼に他の冒険者が来る辺り、死神の汚名は返上されつつあるな。
 だが、今回参加している冒険者の中で、一人だけは見たことがない。

 藍色の髪の、小柄な女だ。
 がっちりしているから、おそらくはドワーフだろう。
 彼らの髪や髭の色は、鉱物の色を持っている。

 ドワーフ族はもともと、地中より生まれたと言われている。
 その証拠として、ドワーフの骨や体毛からは金属が採れるのだ。
 そしてこれは、彼らが極めて強靭な肉体を持っている証拠でもある。

 だが……このドワーフの女性、斧や槌といった武器を持っていない。
 背中に背負っているのは、杖?
 ということは、魔術師か。

「おう、なんでえ」

 彼女が俺の視線に気付いたようだ。

「あたいの顔に、なんかついてるのかい? じろじろ見やがって」

「これは失礼! 俺の名はオーギュスト。道化師をやっていてね。初対面の方には、顔を売るようにしているんだ。そして、顔を覚えるようにもしている」

「おうおう、うさんくせえ。お前、人間のにおいがしないねえ。魔族か。魔族が人間の中に入り込んで冒険者やってんのかい。それで道化師って、一体どういう了見だい? 何か企んでるんじゃないのかい?」

「失敬な!」

 頭から湯気を立てそうなほど怒って、イングリドが加わってきた。

「君は初対面の相手に失礼だぞ! 名前くらい名乗ったらどうだ! 私はイングリドだ!」

「よっ、死神イングリド!」

 横合いから別の冒険者が茶化したので、イングリドがむきーっ!とさらにヒートアップした。

「違う! 死神じゃない!!」

「へえ……。あんた、腕の立つ戦士だねえ。そこの胡散臭い道化師も、とんでもねえ手練だ。なるほどねえ……。こんなのが参加してるんじゃ、この依頼もただの護衛じゃなさそうだ」

 ニヤリと笑うドワーフ女史。

「おっと、名乗るんだったね。あたいの名は、ギスカ。ドワーフさ。そして、魔術使いでもある。お山を出てから、ふらふらとあちこち旅をしてるんだけどね。路銀がちょいと心もとなくなって来て、そこにこの依頼が募集をかけてたのさ」

「なるほど。金がないのは辛い。心まで貧しくなってしまうからな。俺も、生活費を得るために冒険者になった……」

「あんたもかい!」

「君もか!」

 一気にシンパシーが生まれた。
 俺とギスカで、握手を交わし合う。
 ドワーフにしては、柔らかな手だ。

 近接戦闘を行わないスタイルなのだろう。

「むうー」

 イングリドが不満げに唸っている。

「何が不満なんだ」

「初対面の相手に失礼だからだ! 彼女がごめんなさいをオーギュストにするまで、私は許さないぞ!!」

 腕組みをしたイングリドが、どーんと言い放つ。
 ギスカは目を丸くしてこれを見て、プッと吹き出した。

「あは、あははははは! 面白いねえあんた……! 今どき、そんな真っ直ぐでよく冒険者なんかやってこれたねえ。いや、あんたの腕ならやっていけるか。相方が抜け目ないし、問題ないさね。分かったよ! 道化師オーギュスト! さっきは悪かったね! 旅先で声を掛けてくる男なんざ、みんなろくでもない奴ばかりでね。警戒心ってやつがどうしても育っちまうのさ」

「よろしい!」

 イングリドが許した。どうやら礼儀がきちんと成されれば、気にならないらしい。

「だが、君も魔術師ながら一人旅とは大したものだ。よく身を守ることができたね」

「そりゃあ、コツがあるのさ。それ、そのコツを見せる機会が来たよ!」

「ああ、どうやらそのようだ」

 荷馬車の周囲に、気配が現れる。
 茂みが鳴り、幾つもの影が飛び出してきた。

「ウギギギギ!」

「ギギギギギ!」

 甲高い声で叫ぶ、緑色の肌の小人たち。
 ゴブリンである。
 外見は人に似ているが、あれらは下位の魔族である。

 この世界由来の存在ではない。
 かつて過去に起きた大きな戦いで、魔族と呼ばれる存在がこちらに呼び出された。
 その下級兵士に当たるのがゴブリンだ。

 彼らはこの世界に住み着き、定着している。
 そして、他の知的種族を襲い、略奪をすることせ生活しているのだ。

「お仲間じゃないのかい?」

「まさか! 俺はこう見えて上位魔族なんでね」

「そういえばオーギュスト、君がどういう魔族なのか私は知らないな」

 口を開きながらも、俺たち三人はすぐさま戦闘態勢に入る。

「混血が進み、ほとんどの権能を失ってしまったが、俺の種族はバルログ。知恵と力に優れる魔族だよ」

「バルログ!? 始祖王を苦しめた最強の魔族じゃないか! いや、見た目は普通なんだな……」

「俺の中の魔族の血は、一割くらいしか流れていないからね! さあて、ゴブリンも襲いかかってくるところだ! 諸君の実力を存分に発揮し、雇い主にアピールするとしよう!」

 まずは肩慣らし程度の戦闘、行ってみようか。
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

処理中です...