コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

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第27話 罠の張り巡らされた階段を幸運任せで駆け抜ける

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「な、なんで僕まで一緒に!?」

「しっ。殿下、敵に気付かれますぞ」

「敵!? もごっ」

 ロンディミオン王子の口を、イングリドの手が塞ぐ。
 もっとソフトに塞いでもいいのでは?

 ここは、侍従長の部屋。
 甲冑を動かし、隠し通路を出現させたところである。

 見たところ、この仕掛けは古そうだ。
 本来ならば、城が攻められた際に脱出するための通路だったのかも知れない。

 ガットルテ城の歴史はそれなりに長く、三百年程度ある。
 その間、城下町まで攻め込まれるような戦争が無かったため、この隠し通路に関する話は忘れ去られていったのだろう。

「これを、陛下と殿下の御身を狙う敵が利用したのでしょうな」

 俺のこの発声は、閉鎖空間でもあまり反響しない、特殊なやり方をしている。
 王子は話を聞きながら青ざめていた。

(なんで僕が一緒にいるんだ!)

 口をパクパクさせて抗議してくる。

「それは簡単な理由です。イングリドの横が、世界で最も安全な場所なのです。わたくしめはこういった状況に対応するスキルを無数に持ってはいますが、ただ一つ、運不運の要素だけは如何ともしがたい。それを幸運側に傾けるのがイングリドの力なのです」

(そ、そうなのか! でもなんで僕を)

「殿下をお一人にしておけば、狙われてしまうでしょう。ですので、同時に行動するのがよろしい。敵もまさか、標的が自ら懐深くまで入り込んでくるとは思っておらぬでしょうからな」

 俺の言葉を聞いて、イングリドがふんふんと頷く。

(確かに、ロンが近くにいた方が守りやすいな。ロン、私から離れないようにね)

(わ、分かりました叔母上!!)

 イングリドの言うことはすぐ聞くんだな。
 とても懐かれている。

 隠し扉の奥は、細長い通路だった。
 それはすぐに階段になり、下っていくことになる。

 灯りなど無いから、足元が見えない。
 王子は大変不安そうである。
 イングリドが彼の肩を抱きながら、一緒にゆっくりと下っている。

 俺は当然のように暗視スキルがあるため、暗くても見えるのだ。
 ただ、暗視スキルには大きな欠点がある。

 物の色が見えなくなるのだ。
 そのため、視界内における違和感などに気づきにくくなる。

 ダンジョンにおいて、冒険者が罠などに引っかかりやすくなる理由はこれだ。
 暗い中で働く視界は、色彩を見分けづらくなる性質がある。
 そのため、外の空間にいるときよりも、罠に引っかかりやすくなる。

 これをカバーするのがイングリドの幸運スキル、というわけだ。

「っくしゅん!」

 イングリドが小さくくしゃみをした。
 俺は思わず立ち止まる。

 そして、じっと自分の足元を見た。
 次の一段が、少しだけ出っ張っている。

 何らかの仕掛けがしてあるようだ。

「この段は踏まないようにしてくれ」

 俺の意識を引くようにくしゃみが発生したということは、そこに何らかの意味がある。
 幸運スキルというのはそういうものだ。
 その意味合いを見落とさず、十全に活かせば、罠などに掛かることはなくなる。

 王子は緊張した面持ちで、そっと一段を抜かして降りる。
 もう、「どうして僕が」なんてことは口にしない。
 先に進むしか無いと分かっているようだ。

 君の身を守るための措置なので、ご理解いただけて嬉しい。

 その後、幾つか仕掛けられていた罠を回避していく。
 壁から槍が突き出してくるもの。
 これは、偶然俺の隣を歩いていたイングリドがつまずき、彼女の頭があった場所を槍が通過していって気付いた。

 隠蔽の魔法まで掛けられていた。
 実にたちが悪い。
 俺ならば回避できるが、王子だったら危なかっただろう。

 匍匐前進でここを抜ける。

 天井から、対象を溶かす魔法生物ブロブが降ってくるもの。
 これは、王子の上に落ちてきたところを回避した。
 というのも、足元に何か落ちているのを見つけたイングリドが、しゃがみこんだ拍子にお尻でロンディミオン王子を弾き飛ばしたのである。

 何もないところにブロブは落下し、その後、イングリドに核を貫かれて溶けていった。

 罠の危険度としてはかなりのものだが、俺一人であればどうにか回避できただろう。
 イングリドがいれば、楽勝。

 かくして、通路最下層まで辿り着いた。

「お、お尻に弾かれた。お尻に」

 王子がぶつぶつ言っているが、これは怒っているのではない。
 思春期の少年の心というものは複雑なのだ。

 ここまでくれば、彼が呟いていようと関係ない。
 存分に感想を言わせてあげよう。

「やあ、こんな部屋があるとは驚きだ」

 俺が堂々と入室すると、その先にあった地下室で、侍従長がギクリとして振り返った。

「な、な……。お、お前は文官の……」

「先日、文官を偽装して、陛下と殿下の御身に危険をなすものを調査すべくやって参りました。道化師オーギュストと申します」

 仰々しく一礼。
 胸元に片手を当てて、左足を下げて右足と交差させる。

「道化師!? あ、お、思い出した! お前は、マールイ王国の道化師!!」

「いえいえ。今は彼の国に別れを告げ、自由気ままの身。どうやら、王宮にて笑えぬ陰謀が巡らされていると聞き及び、老若男女が笑って迎えられる結末にすべく参上いたしました」

「君は本当に口が回るな」

 イングリドが呆れて呟く。
 王子はすっかり、俺の口上に聞き入っており、目を丸くしていた。

 うん、彼を連れてきたのは正解だった。
 観客のいない舞台など、張り合いが無いからな。

「おのれ……! ここを見られたからには、生かしてはおけぬ……!!」

 侍従長の顔が憤怒のそれになる。
 彼が懐から取り出したのは、腐敗神のシンボルである。
 骨になった獣を模した、ペンダントトップ。

 これを握りしめながら、呟く。

「ガットルテ王国は、我らまつろわぬ民を圧し、文化を滅ぼそうとした! 恨みは忘れぬ! 百年経っても、二百年経ってもな! これは我ら、まつろわぬ民の正義の戦い……聖戦なのだ!」

 何を身勝手なことを。

 
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