コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
24 / 107

第24話 プレーガイオス教団の魔手

しおりを挟む
 俺が通されたのは、王族のための生活空間である。
 外から見えるガットルテ城は砦のようなものであり、外から来たものを威圧するために作られたものだ。
 居住性など無視されている。

 生活するための場所は、別に用意されているのだ。
 城の後ろ半分は木造になっており、王族と使用人たちはここで生活していた。

 階段を上がっていくと、二階に大広間がある。
 ここで舞踏会などを開く……というわけではなく、王族の食堂である。

 そこに、若き王、ブリタインが待っていた。

「よくぞ招きに応じてくれた、道化師オーギュスト殿。そして、無事でなによりだ、我が妹イングリッド」

「お招きに与り光栄にございます」

 俺は礼をするが、イングリドは「うむ」などと頷いて、別に跪くわけでもない。
 堂々たるものだ。
 これを見て、その場にいた家臣がちょっと慌てた。

 ブリタイン王は苦笑する。

「変わらないな、お前は」

 若き王は、イングリドの腹違いの兄である。
 その風貌は、言われてみればイングリドに似ている。
 金髪碧眼、真っ白な肌。
 そして体格はがっちりとしている。

 知的さと力強さを併せ持つ、理想的な王の姿だ。
 威厳のためか、髭を生やそうとしてるようだが……どうやら彼は、毛深さだけには恵まれなかったらしい。
 どうにかもみあげが伸びているだけである。

「あなたは私が跪くことを望んでいないだろう」

「まあ、そうだ。ここは権威も何もない。余が、信をおける数少ない人間としてお前を呼んだのだからな。お前を縛り付ける鎖は、この国のものだけで充分だ。この上、国に忠誠を誓えなどとは言えぬよ」

「スキルの話ですな?」

 俺の端的な問いに、ブリテイン王は目を見開いた後、頷いた。

「なるほど、さすがは道化師殿。すでに、我が妹の持つ恐るべき力にお気づきか」

「はい。高潔な心を持つイングリッド殿下でなければ、これを悪用して世界を手に掛ける魔なる王……魔王にもなれるでしょう」

「ああ。故に、イングリッドを外の世界にはやれぬ。だが、縛り付けることもできぬ。なぜなら、誰も縛ることができぬからだ」

「ガオン殿が彼の武芸を余すこと無く教えてしまいましたな」

「ああ……。よりによって、イングリッドには武術に対する天賦の才があった」

 どうやら話を聞いていると、常に騎士が彼女の身の回りを守るべく存在したらしいのだが、依頼が始まる度に必ず撒かれてしまっていたという。
 これはイングリドが意識したことではなく、彼女のスキルが、騎士たちを巻き込まぬように働いた結果であろう。

「その力が必要になった。城から追い出しておいて、再び呼び戻すなど身勝手な王であることは重々承知だが」

「いいえ、兄上。困っている人々がいるなら、私は救いにやって来ます」

 すぐさま、断言してみせるイングリドである。
 俺は感心した。

「サポートのし甲斐というものがある人ですよ、イングリドは」

「そうか。そうか、そうか!」

 ブリテイン王が、嬉しそうに笑う。

「その話はもういいでしょう!! 本題に入って下さい!」

 イングリドが腕を振り回して抗議してきた。
 なるほど、確かに、彼女の話をしているだけで時間が消費されてしまう。

「プレーガイオスの信仰が、城内で起きていると伺いましたが」

「それよ」

 ブリテイン王が真顔になった。

「余の即位が気に入らなかったのだろうな。奴らが動き始めてな。ガオンが毒を盛られた話を聞いたか」

「はい。ガオン卿ともあろう方が、バリカス卿程度の男に遅れを取るとは信じられませんでしたが、本来の力を発揮できなくなっていたのだとすれば納得できますね。では、内側深くに腐敗神信仰が浸透していると?」

「ああ。それを先導している者がいる。それがどこにいて、何者なのか分からなかったのだが、最近になって、腐敗神に関わる陰謀が立て続けに明らかになっている。そのうち最も大きな二つは、余のよく知る冒険者によって解決されていてな」

 他でもない、俺とイングリドである。
 よりによって、俺たちが引き当てた二つの依頼が、どちらも洒落にならない危険度を誇る、腐敗神信者によるとびきりの陰謀だった。
 なるほど、イングリドがああいう仕事を引き当てるというのなら、同行した冒険者は身が持たないだろう。

 ……幸運スキルを持つ彼女が、危険な依頼を引き当てる……?
 それはよく考えるとおかしくはないだろうか。
 幸運スキルは彼女の身を守っている。

 だが、そもそも危険が無い状況に彼女を導くことができれば、危険を回避する必要などないだろう。
 だとすれば……幸運スキルとは、何にとっての幸運を意味しているのだろうか?
 イングリドだけではない。

 もっと大きな何かを庇護するスキルだということか?
 だからこそ、ガットルテ王国は、イングリドを手放すことができないのではないだろうか。

「調査を頼みたい。幸い、イングリッドの顔を知る者は最近の使用人には少ない。新しい騎士として、城内で腐敗神の動向を調べてくれ。お前たち二人の活躍で、奴らは焦っているようだ。動きがあからさまになってきたからな」

「なるほど。わたくしめから推測を一つ、よろしいですかな?」

「構わない」

 ブリテイン王の許可をいただき、俺は発言する。

「腐敗神の信者たちと繋がった、黒幕を探れというお話と捉えてよろしいでしょうか。陛下が王位を継承されてから、彼らの動きが活発になったということは」

「ああ。誰が仕掛けているかは分かっている。その尻尾を掴んでほしいのだ。なんならば……事故が起こって、その者が消えてしまっても構わん」

「承知致しました」

 ちなみにこのやり取り、イングリドはよく分からない様子だった。
 君は真っ直ぐな人間だからな。
 そう首を傾げて訝しげな顔をするものではない。

「イングリッド。お前には、王子の護衛を頼みたい」

「ロンか。あの子は元気なのね?」

「ああ。お前に会いたがっていた。だが、くれぐれも、表では知らぬ顔をしていろよ」

「分かってる」

 これはどうやら、ブリテイン王のご子息はイングリドに憧れているようだ。
 どうやら俺たちの役割は、王子や王を守りながら、黒幕を探し出すこと。
 そして可能であれば、それを退治することのようだ。

 話が大きくなってきた。
 そして、国の政治に関わる立場から身を引いたつもりだったが……。

 どうも、またきな臭いところに巻き込まれてきたぞ。
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

処理中です...