コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
9 / 107

第9話 黒幕はマンティコア

しおりを挟む
 地下通路は左右に伸びている。
 灯りは薄暗い。

「さて、次なる目的地だが……。何をしているんだ、イングリド」

「良かった……。オーギュスト、まだ死んでいないな? よしよしよしっ……! 私、新記録だぞ……! こんなに長くいて死なない仲間なんて初めてだ」

「なんて恐ろしい基準なんだ」

 死神の二つ名通りの結果が発生していないことに、彼女は喜んでいる。
 そこまで特別なことではないのだが。

 彼女が幸運スキルを持っており、致命的な事態が偶然回避される可能性が高いとする。
 それならば、可能な限りイングリドのそばにいれば、幸運のおこぼれにあずかれるというわけである。

「ところでオーギュスト、次はどこに行くんだ? 私は全く、盗賊スキルの心得がなくて分からないんだ」

「そこは俺に任せて欲しい。道化師たるもの、芸に通じる様々なスキルを身につけておいて然るべきなんだ。さあ、床は石畳。しかしここを歩いてきた村人の足には土がついている。ということは……どういうことだと思う?」

「うーん……。土があるところから来た?」

「正解! 彼は石畳で覆われてはいないところから、ここまでやって来たということだ。さらに言えば、足の土が落ちきらない程度、乾ききらない程度の距離にそれはある。ほら、土は湿ってるだろ? こっちだ」

 俺は歩き出した。
 土の跡を追っていけばいい。

 すぐに、行き先は判明する。
 それは一見して、石壁。

「ここだ」

「壁にしか見えないが……」

「魔法だろうな。ほら」

 俺が手を伸ばすと、壁の中に消えていく。
 これを見て、イングリドが血相を変えた。

「いっ、石壁に取り込まれるぞ! あぶなーい!!」

「うおわーっ!?」

 イングリドに押されて、二人で石壁へと飛び込むことになってしまった。
 なんて大胆なアクションをするんだ。

 俺達が飛び込んだところは、なるほど、地面も、壁も、何もかもが土ででききていた。
 ここから村人はやって来たのだろう。

 俺の耳に、すすり泣く声が聞こえてくる。
 周囲を見回すと、即席の牢屋のようなものが作られているのが分かる。

 中には……子どもだ。
 暗視スキルがあるから、暗いところでも人の顔をはっきり見分けることができるのだ。

「生存者確認。イングリド、この子たちを生かして連れ帰れれば、死神の汚名返上に一歩近づくぞ」

「いや、そんなことは今はどうでもいい! 子どもたち、無事!? 私が助けに来た!」

 すぐさま行動に移すイングリド。
 心根が真っ直ぐな女性だ。

「おっと!!」

 俺も慌てて、イングリドの後を追う。
 彼女が走り出したということは、その行く先に幸運があるということだ。
 逆に言えば……。

 さっきまで俺たちがいた場所目掛けて、頭上から何かが降り立つところだった。

『なにぃっ!? わしの動きを察していたのか? いやあ、これはただのまぐれだな』

 巨大なモンスターが、そこに立っている。
 俺がもとの場所にいたら、踏み潰されているところだった。

 奴は、気配も音もなく現れた。
 魔法を使用して隠れていたのだろう。

 その姿は、コウモリのような翼を生やした、ライオン……いや、顔は邪悪な笑みを浮かべた老人のものだ。
 俺の魔物知識が、モンスターの正体を告げる。

 こいつはマンティコア。
 恐るべき、邪悪な知識と邪神から与えられた魔法を行使する、強大なモンスターだ。

『しかし驚いたな。どうやってわしが作った毒の霧を抜けてきた? 地上には村人どもの死体も置いておいたはずだ。どうして地下に来ようなどという発想になる』

「地上には子どもがいなかったからな」

 マンティコアの問いに答える俺。
 背後では、イングリドが子どもたちを助け出している。
 今救出すると、マンティコアとの戦いに巻き込まれかねないから、危ないのだが……。だが、彼女は子どもたちを放ってはおけなかったのだろう。

「お前は以前から、村の地下に住み着いていたようだな」

『なぜそう思う』

「この地下の作りは、神殿だろう。俺の神学スキルから導き出されるに、作りは自然崇拝形式、大地の宗教。そしてお前はその宗教の司祭だな?」

『ほう、わしが司祭だとよく見切ったな……?』

「何、簡単なことだ。毒霧の魔法はポイズンミスト。姿を消したのは、カメレオンの魔法。これらを使いこなすのは、南国で信仰されている神、腐食神プレーガイオスの信徒だけだ。村人の中にある、ガッテルト王国への反発心に付け込み、神殿を作らせて住み着いたな、マンティコア。まずは腐食神への生贄に村人を捧げ、次に子どもたちを使って何らかの儀式を行うつもりだったな」

『見事だ。その通り。お前たちがあと一日遅ければ、腐食神様はこの地に降臨。見渡す限りの大地を腐らせ、腐食の園を作り上げていたことであろうよ』

 にやりとマンティコアが笑った。
 つまり、俺とイングリドが来たのはギリギリ間に合うタイミングだったということだ。

 大人たちは恐らく、この依頼が入った時点で死亡していた。
 子どもたちが儀式に捧げられる寸前だったことは、幸いと言えるだろう。

「子どもたちは牢から助け出した。あとはお前を倒すだけだ、モンスター!!」

 イングリドが身構える。

「気をつけて!」

「あいつは怖いやつだよ!」

「子牛をぺろりと食べちゃうの!」

 子どもたちから声が飛ぶ。
 マンティコアが睨むと、彼らは悲鳴をあげて黙り込んだ。

『ふん、どちらにせよ、そのガキどもを守りながら戦わねばならんお前らが、このわしに勝てるはずがないだろう。お前らもプレーガイオス様への捧げ物にしてくれよう! がおおおおおおおおおっ!!』

 マンティコアが吠える。
 奴の咆哮は、それそのものが聞く者の身を竦ませる魔力的な力を持つ。

 故に、発させてはいけない。
 俺の手は既に、その手段を握り込んでいた。
 振りかぶって、思い切り投げつける。

『おおおおおっふごっ!!』

 投げつけたものはマンティコアの目の前で広がり、奴の口の中を塞いでしまった。
 何のことはない。
 投げられた勢いで広がったのは、厚手のハンカチだ。

『もがっ、もごおおおっ!!』

 モンスターの牙に引っかかり、唾液で湿って張り付いたハンカチは、なかなか取れるものではない。

「さーて、お立ち会い!」

 俺は振り返り、子どもたちへと宣言する。

「これより始まるのは、恐るべき悪漢、マンティコアの退治劇! 優しき女剣士と、この道化師が、見事あの恐ろしいモンスターを退治してのけたなら、拍手喝采を!」

 
しおりを挟む
感想 114

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

無能扱いされた実は万能な武器職人、Sランクパーティーに招かれる~理不尽な理由でパーティーから追い出されましたが、恵まれた新天地で頑張ります~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
鍛冶職人が武器を作り、提供する……なんてことはもう古い時代。 現代のパーティーには武具生成を役目とするクリエイターという存在があった。 アレンはそんなクリエイターの一人であり、彼もまたとある零細パーティーに属していた。 しかしアレンはパーティーリーダーのテリーに理不尽なまでの要望を突きつけられる日常を送っていた。 本当は彼の適性に合った武器を提供していたというのに…… そんな中、アレンの元に二人の少女が歩み寄ってくる。アレンは少女たちにパーティーへのスカウトを受けることになるが、後にその二人がとんでもない存在だったということを知る。 後日、アレンはテリーの裁量でパーティーから追い出されてしまう。 だが彼はクビを宣告されても何とも思わなかった。 むしろ、彼にとってはこの上なく嬉しいことだった。 これは万能クリエイター(本人は自覚無し)が最高の仲間たちと紡ぐ冒険の物語である。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

聖女の孫だけど冒険者になるよ!

春野こもも
ファンタジー
森の奥で元聖女の祖母と暮らすセシルは幼い頃から剣と魔法を教え込まれる。それに加えて彼女は精霊の力を使いこなすことができた。 12才にった彼女は生き別れた祖父を探すために旅立つ。そして冒険者となりその能力を生かしてギルドの依頼を難なくこなしていく。 ある依頼でセシルの前に現れた黒髪の青年は非常に高い戦闘力を持っていた。なんと彼は勇者とともに召喚された異世界人だった。そして2人はチームを組むことになる。 基本冒険ファンタジーですが終盤恋愛要素が入ってきます。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

処理中です...