コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

文字の大きさ
上 下
3 / 107

第3話 冒険者

しおりを挟む
  半開放式の建物だから、昼間から飲んでいる連中の騒ぎが聞こえてくる。
 景気のいいことだ。
 いや、冒険者は宵越しの金を持たないらしいから、パーッと使ってるのか。

 どちらにせよ、景気がいい。
 これは運が向いてきそうな気がする。

 冒険者ギルドのカウンターに向かうと、受付のお姉さんがいた。
 淡い茶色の髪に、メガネを掛けて、耳が尖ったお姉さんだ。
 ハーフエルフだろう。

「ようこそ、冒険者ギルドへ。仕事の依頼ですか?」

「いや、新規に登録しようと思ってね」

「ああ、はい。冒険者登録ですね。承りました。お名前は」

 そこまで言って、ハーフエルフの受付嬢は黙った。
 メガネの奥で、目が真ん丸になって俺を見ている。

「あの、もしかして、マールイ王国宮廷道化師のオーギュストさん?」

「今はクビになったので、ただのオーギュストだよ。よく、隣国の一道化師のことなんか知ってるね」

「だって、何度かこの広場を通られたでしょう? 私、小さい頃にオーギュストさんの芸を見せてもらったことがあるんです。まさか、そのオーギュストさんが冒険者登録しにくるなんて」

 それはなんというか、縁を感じるな。
 俺と受付嬢の話が聞こえていたようで、近くにいた冒険者がこちらに振り返った。

「えっ、マールイ王国の道化師?」

「王宮をクビになっただって?」

「やっぱ、道化師じゃ今の時代やってけねえのかな」

「厳しいねえ」

「だけどさ、オーギュストって隣の国の人だけど、知ってるぜ。俺が物心ついたころにはもう宮廷道化師だっただろ」

「そんな有名人で、しかもベテランをクビにするのかよ」

「頭おかしいだろ、マールイ王国」

 声が漏れ聞こえてくる。
 受付嬢は引きつり笑いを浮かべた。

「て、手続きは簡単です。私たちには、クラスとスキルというものがありまして、これを明らかにし、ギルドに登録してもらいます」

「ああ、知っているよ。その人間の魂に刻み込まれた、能力の記録。これを明らかにしているからこそ、冒険者と冒険者ギルドは国境をまたいで存在できるんだ」

「よ、よくご存知で」

「広く浅く、知識を持つようにしているんだ。どれ……」

 俺に差し出されたのは、水晶の玉。
 かつて、冒険者の神アドベンジャーが人間に授けたというステータス・クリスタルだ。

 俺が手をかざすと、そこにクラスとスキル……合わせて、ステータスと呼ばれる物が現れた。

「はい、オーギュスト様、クラスは道化師。ああ、ずっとやってらっしゃったお仕事と一緒ですね。まさに天職だったんですねえ。スキルは……と。外交、演劇、文芸、武技知識、魔物知識、魔法知識、地質学、史学、神話学、伝承学、噂話、軽業、俊足、持久、投擲……」

 俺のスキルの数々を読み上げる受付嬢。
 彼女の顔が、どんどん引きつっていく。

「ひょ、表示しきれません。次のページに続いてます」

 ざわめくギルド。

「次のページってなんだそれ!?」

「表示しきれないって、そんなのありか!?」

「普通、人間がそんなにスキル持ってるわけねえんだよ……!」

 知識や技術を身に着け研鑽を重ねていくと、それはある時スキルと呼ばれるものに昇華される。
 技能ではなく、異能という領域に至るのだ。

 俺は人間よりも、少々寿命が長い魔族の血筋だ。
 この人より長い時間を使って、スキルを身につけるべく努力してきたのだ。
 まあ、そうでもしなければ、マールイ王国の歴代国王が満足するような芸はできなかったというわけだが。

「それで、登録はできるかな?」

「はい、もちろん! 歓迎します、道化師オーギュスト!」

 こうして俺は冒険者に再就職したのだった。


 ※

 一方、その頃……。
 マールイ王国では。


 やってやった。
 見事に、あの目障りな道化師を追放してやったのだ。

 大臣ガルフスは、我が世の春が来たと、湧き上がる笑みを抑えきれない。

 百年もの間、宮廷で代々の王に仕えてきた道化師だ。
 魔族との混血だかなんだか知らないが、いつまでも若いまま、王に直接意見を言える存在などいていいはずがない。

 第一、このマールイ王国は平和な国なのだ。
 百年前には戦乱の絶えない、貧しい国だったという。

 だが、今は他国との関係も安定し、強い軍隊を持ち、農業も安定している。
 こんな落ち着いた国に、あのような宮廷に巣食う寄生虫などいらない。

「むしろ、この私が自らの手で国を動かしていくには、あの男が邪魔だったのだ! 何度邪魔されたことか! 私が行おうとした政治に横から口を出してきおって。何が、それは失敗した前例がある、だ。何が、他国の面子を立てろ、だ。道化師風情が! あの愚かな王だからこそ、私の望む政治ができるというのに!」

 思い出すだけで腹が立つ。
 ガルフスは横合いの柱を蹴飛ばした。

「荒れておりますな、ガルフス殿」

 騎士団長が声を掛けてくる。
 外交官に侍従長も一緒だ。

 ガルフスとこの彼らで策略を張り巡らせ、道化師オーギュストを失脚させたのだ。

「見苦しいところを見せたな。諸君、我々の時代が始まるぞ。マールイ王国を、我々が思うままに育てていこうではないか」

「ええ。あの道化師めが口出しや根回しをしてくるせいで、ちょっかいを出してくる隣国を殴りつけられないでいたのです。騎士団の本気を見せてやりましょうぞ!」

「マールイ王国は大国です。それが、周りの小国の顔色を伺うなどバカバカしい。本物の外交をやってやるとしますよ」

「これで城内のことも指図されずに済みますねえ。城の中はワタクシメのものですよ」

 四人が角を突き合わせて、ぐふふふふ、と笑う。
 誰もが、気づかないのだ。

 百年前の戦乱に満ちた貧しい国が、どうして今豊かなのか。
 この豊かさは、努力なしに維持されているのか。

 今あるものを当然と思い、彼らは気づくことはない。
しおりを挟む
感想 114

あなたにおすすめの小説

無能扱いされた実は万能な武器職人、Sランクパーティーに招かれる~理不尽な理由でパーティーから追い出されましたが、恵まれた新天地で頑張ります~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
鍛冶職人が武器を作り、提供する……なんてことはもう古い時代。 現代のパーティーには武具生成を役目とするクリエイターという存在があった。 アレンはそんなクリエイターの一人であり、彼もまたとある零細パーティーに属していた。 しかしアレンはパーティーリーダーのテリーに理不尽なまでの要望を突きつけられる日常を送っていた。 本当は彼の適性に合った武器を提供していたというのに…… そんな中、アレンの元に二人の少女が歩み寄ってくる。アレンは少女たちにパーティーへのスカウトを受けることになるが、後にその二人がとんでもない存在だったということを知る。 後日、アレンはテリーの裁量でパーティーから追い出されてしまう。 だが彼はクビを宣告されても何とも思わなかった。 むしろ、彼にとってはこの上なく嬉しいことだった。 これは万能クリエイター(本人は自覚無し)が最高の仲間たちと紡ぐ冒険の物語である。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

聖女の孫だけど冒険者になるよ!

春野こもも
ファンタジー
森の奥で元聖女の祖母と暮らすセシルは幼い頃から剣と魔法を教え込まれる。それに加えて彼女は精霊の力を使いこなすことができた。 12才にった彼女は生き別れた祖父を探すために旅立つ。そして冒険者となりその能力を生かしてギルドの依頼を難なくこなしていく。 ある依頼でセシルの前に現れた黒髪の青年は非常に高い戦闘力を持っていた。なんと彼は勇者とともに召喚された異世界人だった。そして2人はチームを組むことになる。 基本冒険ファンタジーですが終盤恋愛要素が入ってきます。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...