“ダメージはゼロだ”追放された最強タンクによる勇者育成記

あけちともあき

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帰ってきた勇者パーティー編

第105話 そっちは任せた! 黒騎士迎撃戦

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「俺が引き受ける……!!」

 エクセレンとともに前に出たのは、フェイクだった。

「俺一人では力が足りない! みんな、ありったけの支援をくれ!」

 彼の呼びかけに応じて、フェイクブレイバーズが使えるだけの強化魔法を彼に施す。
 あるいは援護攻撃を放ち、黒騎士の動きを妨害する。

「ここは任せろ! その小さいのが切り札なんだろ!? そいつを連れてマイティの方に行け!」

「でも、ディアボラ地面に魔法陣書いてますよね?」

「おお、これか? あっちに行くなら書きながら魔法陣の端を伸ばしていくのじゃ! わしの腰を持って引っ張っていくのじゃー」

「はーい!」

 フェイクがやってくれるか、ありがたい!

「そっちは任せたぞ!!」

「任された!」

『ほう、勇者パーティーでもない雑魚が私めの足止めを? この黒騎士も見くびられたものです』

「見くびってなどいない。お前が俺よりも遥かに強いことなどよく分かっている。だが、それでも、俺が少しでもここで持ち堪えられれば俺たちの勝ちが見えてくるんだ! うおおっ!!」

 フェイクが黒騎士と切り結び始めた。
 あいつは王国でも最強と言える戦士だった。
 だが、今の俺ならば、王国最強程度では魔将に全く及ばないと断言できる。

 フェイクはそれを自覚できていないことが最大の弱点だったのだ。
 今は違う。
 あいつは自分の非力さを知り、それを仲間の力で補い、その上で黒騎士の足止めに専念するつもりだ。

 フェイクの剣が踊り、黒騎士の動きを止める。
 周囲に矢が、投石が降り注ぎ、魔法が放たれる。
 黒騎士はこれを軽々と回避し、盾で受け止めている。

 だが、それをやりながらディアボラに迫ることはできていない。
 徐々に奴が焦れて来ているのが分かった。

『邪魔だ……実に邪魔だなあ諸君らは!! 一人ひとりでは大した強さでは無いのに、連携して私めに決定打を出させまいとする! 姑息! 小賢しい! しかし効果的! なるほど、人の力のみで魔将になった私めですが、それはここで弱点となるのですなあ。ふざけるな!!』

 黒騎士が身構えた。
 今までと明らかに違う。
 盾を前に、剣を後ろにした構えだ。

『押し通る!!』

 そう叫んだ直後、黒騎士は疾走した。
 前にかざした盾は、飛び道具をことごとく受け止める。
 盾で止まらない攻撃は当たるに任せる。

 そしてフェイクに肉薄した。
 フェイクから放たれる斬撃。
 これを、黒騎士は繰り出した剣で弾く。

「くおっ!!」

 剣が弾き飛ばされ、宙を舞った。
 黒騎士は無言のまま、フェイクを真っ向から斬り捨て、直進。
 フェイクブレイバーズ全員を斬り倒した。

「みんな! ああ畜生、やっぱり分が悪いか!」

「マイティ! あいつらはあたいに任せときな!」

「次の足止めは俺がやろう。こんなこともあろうかと用意してきたが、他人を巻き込む可能性があったのでな」

 フェイクブレイバーズの回復に走るカッサンドラと、ただ一人黒騎士の前に立ちはだかるウインド。

『今度はあなたですかな? 魔法も使えぬ、武器も使えぬ者がどうやって私めを止めると……』

「既にお前は止まっている」

『はは、何を詭弁を』

 黒騎士は笑っているようだが、兜の奥に見える輝きは怒りに満ちている。
 今にも、一撃でウインドを倒しそうだ。
 だが、ウインドは無防備な体勢のままだった。

 悠然と腰の袋に手を伸ばす。

『させぬ!!』

 黒騎士は高速で迫り、ウインドを斬り捨てようとして……。
 つんのめった。

『なにっ!?』

「ぬかるみ粉と言ってな。お前の歩幅は理解した。踏み込みの一歩がぬかるむように仕込んでおいたわけだ。へっぴり腰の一撃なら、曲がりなりにも勇者パーティーである俺は回避できる。熊の打ち込みも深き川に浸かれば力を成さぬ、と言う通りだ」

『私めの足を奪ったつもりか!』

「剣も奪う」

 ウインドが袋から撒き散らしたのは、緑色の粉だった。
 それが黒騎士の周りを舞い……鎧や剣、盾にへばりつく。
 よく見れば、ウインドが霧吹きで水を送っているではないか。

「水分とともに粘着質になる、粘り粉だ。決定力のある攻撃ではないが、お前の剣の切れ味は鈍り、盾の取り回しは変わり、関節部分が粘って動きを妨げる」

『小癪な……』

「お前の敗因は、この一瞬だけ俺たちを侮ったことだ。マイティの旧友がお前を足止めしている間に全ての情報は集まった。俺は準備をしていただけだ」

「こっちは終わったよ! せやっ!!」

 黒騎士の背後から鞭が飛ぶ。
 それは黒騎士の剣を縛り上げ、後ろへと引っ張った。

『この程度の束縛など……』

「破裂粉だ」

 ウインドがばら撒いた粉が、爆発する。
 威力はない。
 だが、音と衝撃で黒騎士の意識を逸らす効果を果たす。

 あいつには恐らく聞こえなかったのだろう。

「シャイニングッ! カノンナックル・ざーんっ!!」

 エクセレンが全ての準備を整えていた。
 爆煙を貫いて、輝く拳が飛来する。
 その手に握る、魔王星の剣。

 あるいは、万全な黒騎士ならばこれを退けられていたかも知れない。
 だが、こいつはフェイクブレイバーズの働きで、その動きを丸裸にされていた。
 ウインドが張った罠で、足と剣を奪われていた。

 残る盾を、どうにかかざしたのは立派だった。
 だが、エクセレンの攻撃を止めることはできない。

『おおっ、おおおおおおおっ!! こんな、こんなところで私めが!! 申し訳ございません魔王様ーッ!! ウグワーッ!!』

 叫んだ後、カノンナックルがその場を貫通していった。
 黒騎士は粉々になり、飛び散る。

『うおわーっ、黒騎士まで!! 私の部下は本当に使えないやつばかりだなあ! だが、次はもっとちゃんとした魔将を作る。失敗しても、それは次の成功の糧だよ。そうは思わないかい?』

 逃げ回る魔王は、まだ余裕のようだ。
 実際、こいつに追いつけていない。
 そしてこの戦場の周囲は、完全に真っ青な世界になっていた。

 やばいぞ、もう時間がない。
 だがこっちも、そろそろディアボラがやってくれるはずだ。

「よっしゃ、こんなもんじゃろ!! さっさと発動させるぞ!!」

 よーし、これで終わらせるぞ魔王!
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