“ダメージはゼロだ”追放された最強タンクによる勇者育成記

あけちともあき

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帰ってきた勇者パーティー編

第100話 激突、黒騎士! こいつは今までのやつより頭がいいぞ

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『戦は部下に任せ、私めは皆様の命をいただくとしましょう。ツアーッ!』

「おおっ、いい攻撃だ!」

 俺と黒騎士の戦いが始まる。
 やたら丁寧な口調のこの男、こう見えてめっぽう腕が立つようだ。
 息をもつかせぬ連続攻撃で、俺を押し込もうとする。

 無論、押しやられる俺ではない。
 ガードに任せて黒騎士を逆に押し込んでやろうとするのだが、しかしこれができない。
 つまり俺にとって、こいつは地すべりやインセクターのキック以上の力を持った存在であるというわけだ。

「こりゃあ強いな!」

『お褒めいただき光栄ですよ! ツアアーッ!』

「うぬ! ここは拙者が! キエエエエエッ!」

 フェイタルヒットが飛ぶ!
 だが、黒騎士はこれを盾で受けながら自らバックジャンプして勢いを殺す。
 そして返す刃をジュウザに叩きつけた。

「ぬおっ!」

 血がしぶく。
 俺が素早く間に割って入らねば危なかっただろう。
 カッサンドラが駆け寄り、ジュウザを回復している。

「俺のガードの隙をつくか。恐ろしいほどの腕前だな」

『私めは専業の戦士ですからな。腕が多いわけでもなく、巨人でもない。モンスターとなった身でも、老いと疲労を克服した程度。本人が強くなければ意味がございますまい』

「確かにな。みんな、迂闊に近寄るなよ。この男は本当に強いぞ」

「ボクのシャイニングアローを弾きましたもんね! じゃあカノンナックル!」

『行くぞ!』

『これはまずい気配ですな!』

 黒騎士が俺から一気に距離を取った。
 そして盾を斜めにしながら、輝くカノンナックルを受ける。
 これをなんと、受け流す!

 なお、受け流されたカノンナックルは敵軍の真っ只中に炸裂し、とてもたくさんのモンスター兵士を粉砕した。

「カノンナックルが防がれた!?」

『我とて万能ではない。いつか防がれる』

 ぐるぐる回りながら戻ってきたカノンナックルは至極冷静である。

『頭を使わず、ぶっ放すだけであればこうなる日が来ることは自明だった。工夫せよ勇者』

「饒舌だなカノンナックル」

「しかし参ったなマイティ」

 顔をしかめているのはウインドだ。

「黒騎士は的にするには人間サイズなので小さすぎる。甲冑をしているから粉の類の効きも良くない。何より、エクセレンの必殺技を冷静に凌いでいく技量なら、俺の粉も見切ってくる可能性が高い。それでいて、ジュウザと真っ向からやり合っても優ってくる強さ。これは今までで最強の難敵だぞ」

「そうだな。魔王よりやりづらい」

 魔王は何をやってくるか分からないところがあるが、とにかく攻撃スケールがでかいのでまとめてこれを防げばいい。
 エクセレンの攻撃も含めて、きっと大雑把な戦いになるだろう。

 だが黒騎士はその真逆だ。
 こいつ、人間が使える剣技だけで攻めてくるし、恐らく攻撃手段がそれしかない。
 だが、剣というのは極めれば、ここまで恐ろしくなるのだ。

 圧倒的な手数と、極めて高い技術。
 こいつのさっきの話からして、スタミナが無限大にあるらしいから、それが延々と襲ってくる。
 防御に関しても隙というものはなく、技術でエクセレンの攻撃すら防ぐ。

 いやあ、強い!

「肉弾戦じゃダメじゃろ。こいつの相手はわしじゃー」

 ディアボラが紙の束を抱えて、トテトテと前線に走り出てきた。

『迂闊な! ツアーッ!』

 そこに繰り出される、無慈悲な黒騎士の一撃。
 だが、当たる寸前でディアボラの姿が消えた。
 剣が伸ばしきられたちょっと先に、ディアボラが現れる。

「わしは瞬間移動ができてな。これで大概の攻撃は避けられるのじゃー。まあ一回使うとタイムラグがあるのじゃがな」

 そう言いながら、既に紙に書かれた魔法陣が展開している。
 そしてディアボラの片手には、ナッツの欠片。

『しまった!』

 慌てて攻撃をしようとする黒騎士。
 しかしディアボラがナッツを弾く方が速い。

 魔法陣はナッツを吸収すると同時に、発動した。
 それは輝く巨大な手のひらである。
 大きな人差し指が親指と合わさって輪を作り、力を込めてたわんだ。

『攻撃が通らない! 霊体を召喚したか!』

「攻撃の瞬間だけ実体化するのじゃ! そおれ! デーモンフィンガー・デコピンじゃあ!」

 あれはデコピンか!
 親指に押し止められて力を蓄えた人差し指が、びよーんと弾けた。
 猛烈な勢いで放たれた一撃が、黒騎士を捉える。

『ぬうおおおおおっ! ウグワーッ!?』

 盾でこれを受け止めたものの、あまりの勢いにふっ飛ばされていく黒騎士。
 この光景を見て、モンスターたちが慌てた。

『黒騎士様がやられた!?』

『バカ、ふっとばされただけだろあれ!』

『だけどやべえ! 勇者パーティーが野放しだぞ!』

『相手したくねえー』

『通しちゃえ』

『そうだそうだ』

 そういうことになってしまったか。
 なぜか、俺たちの目の前がやたらと手薄になる。

「これはいいな。お言葉に甘えて中央突破するぞ!」

 ディアボラをひょいっと抱え、走り出す俺。
 仲間たちが後に続いた。

 並走するエクセレンが、難しい顔をしている。

「どうしたんだ? 考え込んで」

「はい。今までボク、必殺技を使ったらいいやって戦ってきてた気がするんです! でもそれってボク自身が強いんじゃなくて技が強かっただけなんですよね。それを黒騎士との戦いで気付かされました! ボクもどんどん前に出て、きちんと戦っていきます!」

「そうか! いいぞいいぞ。俺は応援する」

 我らが勇者をちょっと成長させつつ、このまま魔王城まで向かっていくのである。
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