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帰ってきた勇者パーティー編
第99話 黒騎士現れ、そろそろ集団戦としてはラストだ
しおりを挟む国王が倒されたが、まだ国内にはモンスターがいた。
魔王としては元国王をこの国のモンスターの元締めにする気は無かったと見える。
「単純にモンスターのボスを倒しても状況が解決しないようにしただけじゃろうなー。その方が敵が苦しむと分かっててやってるのじゃ」
「性格悪いなあ」
ということで、しばらくは国内のモンスターを掃討することになったのである。
残念なことに、王都にいた人々の大半はモンスターになっていた。
逃げ延びた人たちは近隣の村におり、ギルドの受付嬢なんかもいた。
戻ってきた彼女は、俺とエクセレンの無事を喜ぶ。
「エクセレントファイターって、勇者のことだったんですね! わかりにく過ぎます!」
受付嬢がプンプン怒っている。
それが分かっていたら、ギルドでもっとサポートしたのに、と言うのだ。
だが、多分魔王の脅威が迫らなければ、誰も信じなかったんじゃないかね。
「これは……既に王国はその体をなしていないな」
ライトダーク王はショックを受けているようである。
「この国もライトダーク王国にしちまえばいいじゃないですか」
「そうはいかん。王都が潰されただけで、諸侯がまだ残っているだろう。彼らを説得して味方に引き込む暇はもうない。王都を接収させてもらい、ここに残された資材や糧食を使って魔王軍と戦うことになる」
王国の貴族たちからの助けは期待できないということか。
まあ同感だ。
彼らも自分の領地で手一杯だろうしな。
そこで多くの国民が生き残れば、魔王との戦いが終わった後で将来的な展望があるというものだ。
王都なんかほぼ全滅だぞ。
寝返ったアホな国王が、王都の国民全員を売ったのだ。
「いやあ、王様弱かったですね」
「多分、今まで俺たちが戦ってきた、人間が変わった魔将よりはちょっと上くらいの強さだと思うな。エクセレンが強くなったから歯ごたえが無くなったんだな」
「そうなんですね! むむむ、成長を感じます!!」
力こぶを作るエクセレン。
野心を持って国を売った国王は、勇者の棍棒で文字通り粉砕されたのである。
悪いことはするものじゃないなあ。
その後、しばらくは国内のモンスターを掃討する活動が続いた。
王都が解放されたと聞いて、周辺の地域からは人が集まり始めた。
新しい王都が形成されて、経済活動が始まる。
そしてライトダーク連合軍は、準備をしっかりと整えた後に出発するのである。
向かうは元ナンポー帝国。
現魔王領。
見覚えのある、丘に挟まれた隘路に到着すると、そこに黒い甲冑の軍隊が待ち受けていた。
『ようこそ、人間たちよ。王国を取り戻してここまで来るのに随分かけたようですな。いや、余裕がある。お陰で周囲の小国をまた、二つ陥落させることができました。ご存知ですかな? 既にこの大陸の半分は、魔王領になっておりますぞ』
朗々と語るのは、甲冑たちの先頭に立った、一際鈍く輝く鎧姿の騎士である。
「黒騎士だ……!」
「魔王軍幹部の黒騎士だ……!!」
あれが黒騎士かあ。
ずっと噂は聞いてたけど、見るの初めてだな。
なんだか強そうな気配がする。
「シャイニングアロー!!」
あっ、エクセレンが輝く矢を射掛けた!
だがこれを、黒騎士は容易く剣で弾いてしまう。
「あっ」
「エクセレンの攻撃を弾くとは……。あの魔将、他とは格が違うな」
ジュウザが目を細めた。
「勇者の一撃は、我らのそれとは意味が違う。破魔の力そのものだ。それを弾くとは、並大抵の技量ではないぞ」
「秘密はあの装備にあると見た。彼の剣と盾は、どうやら魔王の力ではなく、真逆の性質を帯びているのではないか?」
「ウインド、なんで分かるんだ?」
俺が聞くと、彼は頷いた。
「簡単なことだ。魔を帯びた装備は今まで見てきた。それらとは輝きが違う。黒騎士の装備はむしろ、エクセレンが纏っている装備に近い」
『ご名答ですな! わたくしめは、言うなれば勇者が最初に仲間にするはずだった戦士! 即ち勇者パーティーの一員なのです! わたくしめを欠いた勇者パーティーは前線の守りを欠き、魔王様の前に敗れるはずだったのです! ですが……明らかに本来いるはずではなかった者がいるようですな』
黒騎士が俺を睨む。
『何者ですかな、魔王様の攻撃すらをも防ぐ、聖も魔も何一つ帯びていない、ただの人間』
「タンクだ」
『ナンセンス! あなたの出現から、勇者の運命が変わった! そして集まった仲間たちは、本来勇者パーティーとして立つ者たちではない! ニンジャ!? アルケミスト!? エクソシスト!? 挙げ句はどうして強大な魔将が当たり前のような顔をしてそこにいるのです! あなたがいるべきは魔王軍でしょう!』
「こっちのが居心地いいのじゃー。空からやって来た魔王なぞクソクソのクソじゃぞ」
ディアボラがけらけら笑った。
『その言葉を後悔せねばよいですなあ。ともかく! ありえぬ仲間たちを得て、勇者は今ここに立っております。そして! どうして武器が棍棒なのですかな!? 剣は? 魔王様が念入りに封じさせた勇者の剣は、未だに封印の地から動いておりません! そこを守るために向かった魔将二名が手持ち無沙汰になっています!』
「あ、最後の二人はそこにいたのか。どうだ、決戦に間に合いそう?」
『間に合わないでしょうなあ……』
黒騎士が、空を仰いで呟いた。
きっと遠い目をしていることだろう。
『聖なる武器を手に入れること無く、自前の武器を鍛え上げて聖なるものにしてしまい、しかもそれは魔王様を殴りつけたことで聖なる武器としての資格を得た』
「あ、魔王星の時ですね! ボク、マイティの横から出てきて魔王のスネを殴ったんですよ」
「おう。あの時魔王は痛そうだったもんな」
どうやらそういう既成事実が重なって、棍棒は聖なる武器として成り立ったらしい。
「解説お疲れ。ってことで、俺たちは押し通るぞ」
『通しません。わたくしめは、皆様が冥府へと向かう道先案内を務めましょうぞ』
黒騎士が剣を抜いた。
『掛かれ!』
それに対して、さっきからずーっと状況を見守っていたライトダーク王がハッとして我に返った。
「よ、よし! こっちも突撃だ! これを突破すれば魔王城だぞ! 今が決戦の時!」
まさしく、状況はそんな感じなのである。
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