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ノウザーム大陸戦乱編
第86話 議場が壊れてしまったぞ
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逃げ回る魔将を追いかけて、馬でどこまでも走る。
流石にそろそろ馬だと厳しいんじゃないかなと思わないでもないが、ナラティブの馬がとにかく体力があって頼れるのだ。
せっかくなので馬のパワーに甘えていたら、俺たちが通過する場所全てを馬用のサイズに拡張することになった。
扉を破壊し、壁を破壊し、邪魔な柱を破壊し、二階への階段を破壊し。
「おや? 後ろから何かが崩れていく音がする」
「おや? じゃないよ! あんだけめちゃくちゃやったら、この建物だってぶっ壊れるだろ! ああーっ! 後ろから崩壊が来る!!」
カッサンドラが悲鳴を上げた。
仕方あるまい。
俺は馬車の速度を緩めながら、崩落してくる天井をガードした。
「ふんっ!!」
瓦礫の山を跳ね除ける。
それなりの重さはあったが、この程度なら容易い仕事だ。
気がつくと、共和国の議場は跡形もなく壊れてしまっていた。
「なんということだ」
俺が驚いたら、カッサンドラが走ってきて俺の頭をペチッと叩いた。
「なんということだ! じゃないよーっ! あたいらがめちゃくちゃやったからだろ! おまけに魔将を見失っちまったよ」
「なに、それなら拙者に任せよ」
ジュウザが馬から飛び降りる。
ずっと体を使わずにいたので、体力が十分にあるのだ。
アンバランスでグラグラ揺れる瓦礫をもともせず、軽々と駆け上がる。
そしてまだ残った柱の上に立ち、周囲を見回した。
「いたぞ。やつは飛行をしたりはできぬようだな」
「頭脳型の魔将なのかも知れないな。恐らく行く先で罠を仕掛けている」
ウインドが思考を巡らせているな。
この二人が目と脳の役割をしてくれるのでとても助かる。
「よし、それじゃあわしに任せるのじゃー! それ、儀式魔法クリエイトゴーレム!」
ディアボラが瓦礫にペタペタと紙を貼り付けた。
描かれている魔法陣が起動し、瓦礫が次々に組み合わさって複数の人の形になった。
「インスタントゴーレムじゃ! 今日一日は動くのじゃー! それお前ら。この紙を町のあちこちに貼るのじゃ!」
ゴーレムはディアボラから魔法陣を受け取り、走り出した。
走れるんだなあ。
「体の維持を考えなくていいのじゃ! 持っている能力を限界まで使えるぞい」
「で、あの紙は?」
「クリエイトサウンドの魔法陣じゃ! わしらの声を作り出して、発声するようになっておる!」
「ほう……」
どういう使い道があるんだ?
俺にはさっぱり分からなかった。
だが、それはすぐに明らかになるのだった。
町のあちこちから、「魔将がいたぞ!!」「こっちに逃げましたよ!」「逃さぬぞ!」「後ろから攻撃を仕掛けよう」「殲滅なのじゃー!」と俺たちの声が聞こえてきたのだ。
「カッサンドラの声だけしないな」
「カッサンドラは普通に常識があるのじゃ。多分追い詰めるときに声出さないじゃろ」
「そうだねえ……」
ディアボラの理解を得て、カッサンドラが複雑そうな顔をした。
「そしてあれは、魔力を強く宿したものが近づくと声がするのじゃ」
「つまりあの声の方向に行けばいいんですね! 行きましょう!」
戦うことになるとエクセレンの察しがいい!
そういうことで、俺たちは魔将を追いかけるのだった。
魔将ハーミットは、声を発していた魔法陣を焼き払った。
一体何だというのか。
最初は声がした時、ビクッとなった。
だが、それが声を再生するだけの魔法陣だと知って、腹が立ったのである。
これは何だ?
何のために仕掛けられている。
嫌がらせか。
「性格の悪いものがいるようじゃな、勇者パーティーめ」
別の街角からも、ハーミットの接近に合わせて声が聞こえてくる。
そこも、魔法を使って焼き払う。
既に勇者パーティーの追跡は無いようだ。
背後を確認した後、ハーミットはふん、と鼻を鳴らした。
「奴らめ、まさかこれほどの速度で来るとは思わなんだ。普通、人間の軍隊がまるごと敵対したなら、それとどうにか相対して後ろのことを考えるだろうが。それを、軍隊をまるごと無視して正面から突き破り、最短ルートでその日の内に議会に攻め込み、議場の政治家たちの安全も無視してわしだけを追いかけるとは……!! 頭がおかしすぎる」
だが、とハーミットは笑う。
「どういう性質なのかは理解した。次はそれを逆手に取り、再び人間たちの手で奴らを追い詰めてくれるわ。楽しみに待っておれよ、勇者パーティー!」
「いましたよ! 魔将です!」
「またか! 全く、どれだけ嫌がらせの魔法陣が仕掛けてあるのか……」
「シャイニングカノンナックル!!」
「ウグワーッ!?」
魔将ハーミットは粉砕された。
「いやー! 家の隙間から見えたからラッキーでしたね! 家ごとやっつけました!」
笑顔のエクセレン。
彼女の左腕に、カノンナックルが戻ってくる。
「躊躇なく家ごと破壊したね!? あんたら、敵との間に何があっても止まらないタイプだろう……!」
「俺たちは話が早いんだ。迷っている暇があったら直進したほうがいいからな」
「直進~っ」
カッサンドラが帽子をバリバリかきむしった。
だが、俺は直進するってのはいいことだと思う。
魔王はどうも、人間の心の弱さにつけこんでくるようなのだ。
こっちも迷ったら魔王の術中にはまる。
なので、思いついたら即行動する。これで何度か魔王の思惑を砕いてきた。
まあ、こっちはそんな複雑なことを考えてもいないのだが。
「これで、ナラティブとタクサスが争う理由はなくなったな。世界は平和になった」
俺の言葉に、カッサンドラが顔をしかめた。
「いやあ……世界はそんな単純なものじゃないよ……?」
「単純なものじゃないのなら、単純にしてやればいいのだ」
俺は笑い返すのだった。
流石にそろそろ馬だと厳しいんじゃないかなと思わないでもないが、ナラティブの馬がとにかく体力があって頼れるのだ。
せっかくなので馬のパワーに甘えていたら、俺たちが通過する場所全てを馬用のサイズに拡張することになった。
扉を破壊し、壁を破壊し、邪魔な柱を破壊し、二階への階段を破壊し。
「おや? 後ろから何かが崩れていく音がする」
「おや? じゃないよ! あんだけめちゃくちゃやったら、この建物だってぶっ壊れるだろ! ああーっ! 後ろから崩壊が来る!!」
カッサンドラが悲鳴を上げた。
仕方あるまい。
俺は馬車の速度を緩めながら、崩落してくる天井をガードした。
「ふんっ!!」
瓦礫の山を跳ね除ける。
それなりの重さはあったが、この程度なら容易い仕事だ。
気がつくと、共和国の議場は跡形もなく壊れてしまっていた。
「なんということだ」
俺が驚いたら、カッサンドラが走ってきて俺の頭をペチッと叩いた。
「なんということだ! じゃないよーっ! あたいらがめちゃくちゃやったからだろ! おまけに魔将を見失っちまったよ」
「なに、それなら拙者に任せよ」
ジュウザが馬から飛び降りる。
ずっと体を使わずにいたので、体力が十分にあるのだ。
アンバランスでグラグラ揺れる瓦礫をもともせず、軽々と駆け上がる。
そしてまだ残った柱の上に立ち、周囲を見回した。
「いたぞ。やつは飛行をしたりはできぬようだな」
「頭脳型の魔将なのかも知れないな。恐らく行く先で罠を仕掛けている」
ウインドが思考を巡らせているな。
この二人が目と脳の役割をしてくれるのでとても助かる。
「よし、それじゃあわしに任せるのじゃー! それ、儀式魔法クリエイトゴーレム!」
ディアボラが瓦礫にペタペタと紙を貼り付けた。
描かれている魔法陣が起動し、瓦礫が次々に組み合わさって複数の人の形になった。
「インスタントゴーレムじゃ! 今日一日は動くのじゃー! それお前ら。この紙を町のあちこちに貼るのじゃ!」
ゴーレムはディアボラから魔法陣を受け取り、走り出した。
走れるんだなあ。
「体の維持を考えなくていいのじゃ! 持っている能力を限界まで使えるぞい」
「で、あの紙は?」
「クリエイトサウンドの魔法陣じゃ! わしらの声を作り出して、発声するようになっておる!」
「ほう……」
どういう使い道があるんだ?
俺にはさっぱり分からなかった。
だが、それはすぐに明らかになるのだった。
町のあちこちから、「魔将がいたぞ!!」「こっちに逃げましたよ!」「逃さぬぞ!」「後ろから攻撃を仕掛けよう」「殲滅なのじゃー!」と俺たちの声が聞こえてきたのだ。
「カッサンドラの声だけしないな」
「カッサンドラは普通に常識があるのじゃ。多分追い詰めるときに声出さないじゃろ」
「そうだねえ……」
ディアボラの理解を得て、カッサンドラが複雑そうな顔をした。
「そしてあれは、魔力を強く宿したものが近づくと声がするのじゃ」
「つまりあの声の方向に行けばいいんですね! 行きましょう!」
戦うことになるとエクセレンの察しがいい!
そういうことで、俺たちは魔将を追いかけるのだった。
魔将ハーミットは、声を発していた魔法陣を焼き払った。
一体何だというのか。
最初は声がした時、ビクッとなった。
だが、それが声を再生するだけの魔法陣だと知って、腹が立ったのである。
これは何だ?
何のために仕掛けられている。
嫌がらせか。
「性格の悪いものがいるようじゃな、勇者パーティーめ」
別の街角からも、ハーミットの接近に合わせて声が聞こえてくる。
そこも、魔法を使って焼き払う。
既に勇者パーティーの追跡は無いようだ。
背後を確認した後、ハーミットはふん、と鼻を鳴らした。
「奴らめ、まさかこれほどの速度で来るとは思わなんだ。普通、人間の軍隊がまるごと敵対したなら、それとどうにか相対して後ろのことを考えるだろうが。それを、軍隊をまるごと無視して正面から突き破り、最短ルートでその日の内に議会に攻め込み、議場の政治家たちの安全も無視してわしだけを追いかけるとは……!! 頭がおかしすぎる」
だが、とハーミットは笑う。
「どういう性質なのかは理解した。次はそれを逆手に取り、再び人間たちの手で奴らを追い詰めてくれるわ。楽しみに待っておれよ、勇者パーティー!」
「いましたよ! 魔将です!」
「またか! 全く、どれだけ嫌がらせの魔法陣が仕掛けてあるのか……」
「シャイニングカノンナックル!!」
「ウグワーッ!?」
魔将ハーミットは粉砕された。
「いやー! 家の隙間から見えたからラッキーでしたね! 家ごとやっつけました!」
笑顔のエクセレン。
彼女の左腕に、カノンナックルが戻ってくる。
「躊躇なく家ごと破壊したね!? あんたら、敵との間に何があっても止まらないタイプだろう……!」
「俺たちは話が早いんだ。迷っている暇があったら直進したほうがいいからな」
「直進~っ」
カッサンドラが帽子をバリバリかきむしった。
だが、俺は直進するってのはいいことだと思う。
魔王はどうも、人間の心の弱さにつけこんでくるようなのだ。
こっちも迷ったら魔王の術中にはまる。
なので、思いついたら即行動する。これで何度か魔王の思惑を砕いてきた。
まあ、こっちはそんな複雑なことを考えてもいないのだが。
「これで、ナラティブとタクサスが争う理由はなくなったな。世界は平和になった」
俺の言葉に、カッサンドラが顔をしかめた。
「いやあ……世界はそんな単純なものじゃないよ……?」
「単純なものじゃないのなら、単純にしてやればいいのだ」
俺は笑い返すのだった。
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