80 / 108
ノウザーム大陸戦乱編
第80話 ジュウザを舐めてはいけない
しおりを挟む
エクセレントマイティで、パッと見だと凄みが分からないのは誰か。
ジュウザだろう。
小柄で、ナイフ程度しか武器を帯びていない軽装の男。
分からない者には、荒事が不得意な斥候タイプに見えてしまうことだろう。
どうやらナラティブ自治連合は力の法則が支配する土地でもあるらしく、勇者パーティーの強さを怪しむ者が多かった。
彼らが目をつけたのはジュウザだ。
一番与し易いと見たのだろう。
俺がエクセレンと屋台で飯を食っていると、ジュウザが風体の怪しい若者たちに連れられて路地に入るところだった。
これはいかん。
首が飛ぶぞ。
慌てて料理をかきこんで、若者たちを守るために俺は動き出した。
エクセレンがもぐもぐしながら物言いたげだったが、「そのまま食べていてくれ。食べ終わったら追ってくるように」と留めておく。
果たして、路地に入ろうとしたところで、若者の一人が「ウグワー!?」と吹っ飛んできた。
キャッチして立たせる。
よし、首はついているな。
「どうだ、ジュウザは強いだろう」
「ば、ば、化け物だあ」
「あの男は小柄で無手みたいなもんだが、勇者パーティーの切り込み隊長だぞ。強大なモンスターを一撃で首を刈って仕留め、魔法を使いこなし、盗賊スキルでも最上位クラスの働きをする」
どうやら自分たちが舐めていた存在が、とんでもない怪物だと理解して、若者は真っ青になった。
「手加減したみたいだな」
路地の奥に行くと、ジュウザが息も乱さずに立っていた。
「無論だ。いたいけな若人を手に掛けることなどせぬさ」
笑う彼の足元に、白目を剥いた若者たちがごろごろと転がっている。
「ウグワー」「パネエー」とか呟いている辺り、かなり優しく相手をしてやったようだな。
「マイティのガードを前にして加減は学んだ故な。今の拙者は、殺さぬクリティカルヒットを使える」
「うむうむ。いいか若者たち。人を見た目で判断すると死ぬからな。いい勉強になったな。これが魔王の手下だと死んでたからな」
地面に転がったまま、青ざめて頷く若者たちであった。
ということで、彼らから話が広がったらしく、エクセレントマイティは本当に強いらしいと評判になった。
いい結果になったじゃないか。
特にジュウザの状況が大きく変わった。
若くいかつい連中が詰めかけてきて、ジュウザに頭を下げる。
「押忍!! ジュウザさんお疲れさまです!」
「やめよ」
真顔でやめさせようとするジュウザ。
「いいじゃないか。お前さんの強さに惚れ込んだ連中だぞ」
「拙者もいい年だ。若人にこうされて喜ぶような趣味などもうないぞ」
「昔はあったのか」
「若気の至りでな……」
遠い目をする。
まあ、クリティカルヒットを使えるほどに鍛え抜かれたニンジャだからなあ。
そりゃあ調子に乗る時代もあったことだろう。
結局若者たちはついてきたので、俺とジュウザで訓練をつけてやることにした。
「どこ行くんですか? ボクも行きます!」
「勇者様! 勝手に出ていかれては困りますー!!」
「うーあー、マイティ~!」
「頑張れよー」
こっちに来ようとしたエクセレンが、教会の人々に連れられていく。
古の教会の話とか、今後の旅路についてとか、ナラティブにはたくさんの伝承が存在するんだそうだ。
これらを調べるためにエクセレンが必要らしい。
しばらくは遊びに行けないな。
俺たちは広場にて、若者たちに技を教えたりする。
「いいか、ガードは基本だ。誰か一人がガードに徹して、相手を三人以上引き付ければ、こちらはその分だけ攻撃に専念できるようになる。人間が持っている力は限られているからな。攻撃も防御もと気を使うよりは、攻撃のみ、防御のみと専門化した方が効果が大きくなるわけだ」
「はあ」
「難しいこと言っても分からんな。かかってこい」
「そっちは分かりやすいっす! うおりゃー!!」
群がる若者をまとめて食い止めて、ポイッと押し返した。
「ウグワーッ!!」
総崩れになる若者たち。
うーむ、元気があってよろしい。
「なんでこれだけの人数を一人で押し返せるんだ!?」
「この人もおかしい」
「おかしくはない。きちんと体を鍛えて、ガードの技を磨いただけだ。これで俺は地すべりや、ダンジョンから溢れてくるスタンピードだって防いだのだ」
後半の話は、若者たちには冗談に聞こえたらしい。
ちょっと笑っている。
まあそれでいいか。
「マイティのガードは、目の前で見ていてもちょっと信じられぬ時があるからな」
「ジュウザのクリティカルだってそうだろう」
「うむ。技というものは磨き抜いていくと、物理法則を越える事がよくあるな」
「あるある」
二人で分かり合うのである。
このように、ナラティブでの日々は俺たち戦闘班にとっては、ゆったりと過ぎていくものだった。
だがこの日、俺たちは忙しい状況に巻き込まれることになった。
「た、大変だ!!」
家々が立ち並ぶ地区に駆け込んでくる男。
馬上で叫ぶ彼は伝令であろう。
「タクサスの襲撃だ!!」
この言葉だけでは、ナラティブの人々は驚きもしない。
「いつものことじゃないか」
「夕方までやり過ごせば退いていくだろう」
タクサス共和国のスタンスのせいで、緊張感が薄い戦争が日々行われていたせいだろう。
だが、どうも伝令の様子がおかしい。
怯えているようではないか。
「どうした? いつものタクサス共和国と違うのか?」
「そ、その通りだ! あいつら、とんでもない数の軍勢で攻めて来やがった! まるで、ナラティブを滅ぼそうとするみたいに!」
これを聞いて、ジュウザが飛び出していった。
迫るタクサスの軍勢を偵察に行ったのだろう。
どうやらこれは、きなくさくなってきたな。
ジュウザだろう。
小柄で、ナイフ程度しか武器を帯びていない軽装の男。
分からない者には、荒事が不得意な斥候タイプに見えてしまうことだろう。
どうやらナラティブ自治連合は力の法則が支配する土地でもあるらしく、勇者パーティーの強さを怪しむ者が多かった。
彼らが目をつけたのはジュウザだ。
一番与し易いと見たのだろう。
俺がエクセレンと屋台で飯を食っていると、ジュウザが風体の怪しい若者たちに連れられて路地に入るところだった。
これはいかん。
首が飛ぶぞ。
慌てて料理をかきこんで、若者たちを守るために俺は動き出した。
エクセレンがもぐもぐしながら物言いたげだったが、「そのまま食べていてくれ。食べ終わったら追ってくるように」と留めておく。
果たして、路地に入ろうとしたところで、若者の一人が「ウグワー!?」と吹っ飛んできた。
キャッチして立たせる。
よし、首はついているな。
「どうだ、ジュウザは強いだろう」
「ば、ば、化け物だあ」
「あの男は小柄で無手みたいなもんだが、勇者パーティーの切り込み隊長だぞ。強大なモンスターを一撃で首を刈って仕留め、魔法を使いこなし、盗賊スキルでも最上位クラスの働きをする」
どうやら自分たちが舐めていた存在が、とんでもない怪物だと理解して、若者は真っ青になった。
「手加減したみたいだな」
路地の奥に行くと、ジュウザが息も乱さずに立っていた。
「無論だ。いたいけな若人を手に掛けることなどせぬさ」
笑う彼の足元に、白目を剥いた若者たちがごろごろと転がっている。
「ウグワー」「パネエー」とか呟いている辺り、かなり優しく相手をしてやったようだな。
「マイティのガードを前にして加減は学んだ故な。今の拙者は、殺さぬクリティカルヒットを使える」
「うむうむ。いいか若者たち。人を見た目で判断すると死ぬからな。いい勉強になったな。これが魔王の手下だと死んでたからな」
地面に転がったまま、青ざめて頷く若者たちであった。
ということで、彼らから話が広がったらしく、エクセレントマイティは本当に強いらしいと評判になった。
いい結果になったじゃないか。
特にジュウザの状況が大きく変わった。
若くいかつい連中が詰めかけてきて、ジュウザに頭を下げる。
「押忍!! ジュウザさんお疲れさまです!」
「やめよ」
真顔でやめさせようとするジュウザ。
「いいじゃないか。お前さんの強さに惚れ込んだ連中だぞ」
「拙者もいい年だ。若人にこうされて喜ぶような趣味などもうないぞ」
「昔はあったのか」
「若気の至りでな……」
遠い目をする。
まあ、クリティカルヒットを使えるほどに鍛え抜かれたニンジャだからなあ。
そりゃあ調子に乗る時代もあったことだろう。
結局若者たちはついてきたので、俺とジュウザで訓練をつけてやることにした。
「どこ行くんですか? ボクも行きます!」
「勇者様! 勝手に出ていかれては困りますー!!」
「うーあー、マイティ~!」
「頑張れよー」
こっちに来ようとしたエクセレンが、教会の人々に連れられていく。
古の教会の話とか、今後の旅路についてとか、ナラティブにはたくさんの伝承が存在するんだそうだ。
これらを調べるためにエクセレンが必要らしい。
しばらくは遊びに行けないな。
俺たちは広場にて、若者たちに技を教えたりする。
「いいか、ガードは基本だ。誰か一人がガードに徹して、相手を三人以上引き付ければ、こちらはその分だけ攻撃に専念できるようになる。人間が持っている力は限られているからな。攻撃も防御もと気を使うよりは、攻撃のみ、防御のみと専門化した方が効果が大きくなるわけだ」
「はあ」
「難しいこと言っても分からんな。かかってこい」
「そっちは分かりやすいっす! うおりゃー!!」
群がる若者をまとめて食い止めて、ポイッと押し返した。
「ウグワーッ!!」
総崩れになる若者たち。
うーむ、元気があってよろしい。
「なんでこれだけの人数を一人で押し返せるんだ!?」
「この人もおかしい」
「おかしくはない。きちんと体を鍛えて、ガードの技を磨いただけだ。これで俺は地すべりや、ダンジョンから溢れてくるスタンピードだって防いだのだ」
後半の話は、若者たちには冗談に聞こえたらしい。
ちょっと笑っている。
まあそれでいいか。
「マイティのガードは、目の前で見ていてもちょっと信じられぬ時があるからな」
「ジュウザのクリティカルだってそうだろう」
「うむ。技というものは磨き抜いていくと、物理法則を越える事がよくあるな」
「あるある」
二人で分かり合うのである。
このように、ナラティブでの日々は俺たち戦闘班にとっては、ゆったりと過ぎていくものだった。
だがこの日、俺たちは忙しい状況に巻き込まれることになった。
「た、大変だ!!」
家々が立ち並ぶ地区に駆け込んでくる男。
馬上で叫ぶ彼は伝令であろう。
「タクサスの襲撃だ!!」
この言葉だけでは、ナラティブの人々は驚きもしない。
「いつものことじゃないか」
「夕方までやり過ごせば退いていくだろう」
タクサス共和国のスタンスのせいで、緊張感が薄い戦争が日々行われていたせいだろう。
だが、どうも伝令の様子がおかしい。
怯えているようではないか。
「どうした? いつものタクサス共和国と違うのか?」
「そ、その通りだ! あいつら、とんでもない数の軍勢で攻めて来やがった! まるで、ナラティブを滅ぼそうとするみたいに!」
これを聞いて、ジュウザが飛び出していった。
迫るタクサスの軍勢を偵察に行ったのだろう。
どうやらこれは、きなくさくなってきたな。
0
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。


伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です
カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」
数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。
ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。
「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」
「あ、そういうのいいんで」
「えっ!?」
異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ――
――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる