“ダメージはゼロだ”追放された最強タンクによる勇者育成記

あけちともあき

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ノウザーム大陸戦乱編

第80話 ジュウザを舐めてはいけない

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 エクセレントマイティで、パッと見だと凄みが分からないのは誰か。
 ジュウザだろう。
 小柄で、ナイフ程度しか武器を帯びていない軽装の男。

 分からない者には、荒事が不得意な斥候タイプに見えてしまうことだろう。
 どうやらナラティブ自治連合は力の法則が支配する土地でもあるらしく、勇者パーティーの強さを怪しむ者が多かった。

 彼らが目をつけたのはジュウザだ。
 一番与し易いと見たのだろう。

 俺がエクセレンと屋台で飯を食っていると、ジュウザが風体の怪しい若者たちに連れられて路地に入るところだった。
 これはいかん。
 首が飛ぶぞ。

 慌てて料理をかきこんで、若者たちを守るために俺は動き出した。
 エクセレンがもぐもぐしながら物言いたげだったが、「そのまま食べていてくれ。食べ終わったら追ってくるように」と留めておく。

 果たして、路地に入ろうとしたところで、若者の一人が「ウグワー!?」と吹っ飛んできた。
 キャッチして立たせる。
 よし、首はついているな。

「どうだ、ジュウザは強いだろう」

「ば、ば、化け物だあ」

「あの男は小柄で無手みたいなもんだが、勇者パーティーの切り込み隊長だぞ。強大なモンスターを一撃で首を刈って仕留め、魔法を使いこなし、盗賊スキルでも最上位クラスの働きをする」

 どうやら自分たちが舐めていた存在が、とんでもない怪物だと理解して、若者は真っ青になった。

「手加減したみたいだな」

 路地の奥に行くと、ジュウザが息も乱さずに立っていた。

「無論だ。いたいけな若人を手に掛けることなどせぬさ」

 笑う彼の足元に、白目を剥いた若者たちがごろごろと転がっている。
「ウグワー」「パネエー」とか呟いている辺り、かなり優しく相手をしてやったようだな。

「マイティのガードを前にして加減は学んだ故な。今の拙者は、殺さぬクリティカルヒットを使える」

「うむうむ。いいか若者たち。人を見た目で判断すると死ぬからな。いい勉強になったな。これが魔王の手下だと死んでたからな」

 地面に転がったまま、青ざめて頷く若者たちであった。
 ということで、彼らから話が広がったらしく、エクセレントマイティは本当に強いらしいと評判になった。
 いい結果になったじゃないか。

 特にジュウザの状況が大きく変わった。
 若くいかつい連中が詰めかけてきて、ジュウザに頭を下げる。

「押忍!! ジュウザさんお疲れさまです!」

「やめよ」

 真顔でやめさせようとするジュウザ。

「いいじゃないか。お前さんの強さに惚れ込んだ連中だぞ」

「拙者もいい年だ。若人にこうされて喜ぶような趣味などもうないぞ」

「昔はあったのか」

「若気の至りでな……」

 遠い目をする。
 まあ、クリティカルヒットを使えるほどに鍛え抜かれたニンジャだからなあ。
 そりゃあ調子に乗る時代もあったことだろう。

 結局若者たちはついてきたので、俺とジュウザで訓練をつけてやることにした。

「どこ行くんですか? ボクも行きます!」

「勇者様! 勝手に出ていかれては困りますー!!」

「うーあー、マイティ~!」

「頑張れよー」

 こっちに来ようとしたエクセレンが、教会の人々に連れられていく。
 古の教会の話とか、今後の旅路についてとか、ナラティブにはたくさんの伝承が存在するんだそうだ。
 これらを調べるためにエクセレンが必要らしい。

 しばらくは遊びに行けないな。

 俺たちは広場にて、若者たちに技を教えたりする。

「いいか、ガードは基本だ。誰か一人がガードに徹して、相手を三人以上引き付ければ、こちらはその分だけ攻撃に専念できるようになる。人間が持っている力は限られているからな。攻撃も防御もと気を使うよりは、攻撃のみ、防御のみと専門化した方が効果が大きくなるわけだ」

「はあ」

「難しいこと言っても分からんな。かかってこい」

「そっちは分かりやすいっす! うおりゃー!!」

 群がる若者をまとめて食い止めて、ポイッと押し返した。

「ウグワーッ!!」

 総崩れになる若者たち。
 うーむ、元気があってよろしい。

「なんでこれだけの人数を一人で押し返せるんだ!?」

「この人もおかしい」

「おかしくはない。きちんと体を鍛えて、ガードの技を磨いただけだ。これで俺は地すべりや、ダンジョンから溢れてくるスタンピードだって防いだのだ」

 後半の話は、若者たちには冗談に聞こえたらしい。
 ちょっと笑っている。
 まあそれでいいか。

「マイティのガードは、目の前で見ていてもちょっと信じられぬ時があるからな」

「ジュウザのクリティカルだってそうだろう」

「うむ。技というものは磨き抜いていくと、物理法則を越える事がよくあるな」

「あるある」

 二人で分かり合うのである。
 このように、ナラティブでの日々は俺たち戦闘班にとっては、ゆったりと過ぎていくものだった。
 だがこの日、俺たちは忙しい状況に巻き込まれることになった。

「た、大変だ!!」

 家々が立ち並ぶ地区に駆け込んでくる男。
 馬上で叫ぶ彼は伝令であろう。

「タクサスの襲撃だ!!」

 この言葉だけでは、ナラティブの人々は驚きもしない。

「いつものことじゃないか」

「夕方までやり過ごせば退いていくだろう」

 タクサス共和国のスタンスのせいで、緊張感が薄い戦争が日々行われていたせいだろう。
 だが、どうも伝令の様子がおかしい。
 怯えているようではないか。

「どうした? いつものタクサス共和国と違うのか?」

「そ、その通りだ! あいつら、とんでもない数の軍勢で攻めて来やがった! まるで、ナラティブを滅ぼそうとするみたいに!」

 これを聞いて、ジュウザが飛び出していった。
 迫るタクサスの軍勢を偵察に行ったのだろう。

 どうやらこれは、きなくさくなってきたな。
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