“ダメージはゼロだ”追放された最強タンクによる勇者育成記

あけちともあき

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ブリッジスタン攻防戦編

第66話 橋の王国の儀式魔法ってなんだ

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 ディアボラを紐で吊るして、魔法陣を見てもらうことにする。
 彼女が一番小さくて軽いので、吊るすのも楽なんだよな。

 ぶらーんと吊るしたら、くるくる回っている。

「こりゃー! 回っておるぞー!」

「すまんすまん」

 回転を止めてから、ゆっくりとぶら下げていった。

「ほうほう、ほうほう、お、おーっ、なるほどなのじゃー!!」

 ディアボラの声が聞こえてくる。
 楽しそうだな。

「壁をぺたぺたやってますね」

「あれをやっても儀式魔法は発動しないもんなのかね」

「なんか、魔力を込めたりしないといけないのかもですねー」

 俺とエクセレンでこの光景を覗いている。
 その間に、ジュウザとウインドはまた仕事に出かけてしまった。
 コツコツ旅費を稼ぐのだそうだ。ありがたい。

「おおーい、引き上げてくれなのじゃー」

「ほいほい」

 するすると紐を引っ張る。
 満足げな顔のディアボラが上がってきた。

「よく分かったのじゃ。これは城塞の魔法陣じゃな! 発動すると、この橋ごと外敵から身を守る城塞に変わるのじゃ!」

「へえー、そんなもんが! ってことはもしかしてこの橋は、魔王がいた時代にそっちの軍勢と戦ってたんじゃないのか」

「ありうるのじゃ。わしは引きこもってたから知らんが。そもそもわしがこの橋と敵対してたら、粉々にぶっ壊していると思うのじゃ。儀式魔法の専門家じゃぞ? この魔方陣の弱点も分かるのじゃ」

「そんなもんがあるのか」

「うむ! これ、橋の上にいる人間の魔力を使いながら城塞を維持するタイプなんで、中にいる人間が段々疲れるのじゃ。攻撃しないでずーっと見張ってると勝手に城塞が消えるのじゃ」

「そんな弱点が……」

「ということで、わしはこれをちょいちょいっと改修しようと思うのじゃ。具体的には、食べ残しをざらざらーっと注いだらその力で一日城塞が持つように省エネ化するのじゃ」

「すごい!」

 エクセレンが目をキラキラさせた。

「前から思ってましたけど、ディアボラの魔法って発動しちゃうと維持がすっごく楽なんですよね」

「そりゃそうじゃ。そのために時間を掛けておるのじゃー。儀式魔法なんてものはな、発動した瞬間に勝負がおおよそ決まっておるのじゃ。それくらいの大魔法なんじゃぞ」

「確かに、ディアボラが魔法を発動すると、戦況は決定的に変わるな」

 一度の戦いに、一回か、多くて二回くらしか使えない。
 しかしそれほどの手間がかかり、取り回しが悪い儀式魔法は、そのどれもが強大な力を発揮する。
 そんな魔法の専門家であるディアボラが、魔法陣を改修すると言っているのだ。

「よし、国王に伝えて手伝いをもらうか」

 そういうことになった。
 もちろん、国王はすぐに許可をくれた。

 ただし、常に仕事が発生している橋の上の国のこと。
 どれだけこの国に必要な作業なのかを説明せねばならなかったが。

 こうして、俺とエクセレンは訓練になりそうな仕事を集中して受けつつ、旅費稼ぎ。
 船に乗る仕事をしていると、橋の壁面にぶら下げられたディアボラが、魔法陣に対して何やら作業をしているのが見える。

 端の模様をちょっと削ったり、新しく書き足したり、たまにお弁当の残りを魔法陣に押し付けてちょっと発動させたり。
 何をやってるのかさっぱり分からないが、知っている人間が見ると驚くような光景なのかもしれない。

 こうして何日か過ぎ……。
 ディアボラが改修した魔法陣が、活躍する時がやって来たのだ。

 その日の夕方。
 空に緑と黄色の星が瞬いた。

「あ、魔将星じゃ」

 ディアボラがそれを指差す。

「魔将が二人まとめてくるのじゃ。魔王め、前回一匹で暴走したアホがいたから二人一組で確実な攻めをしに来たのじゃ」

「ちゃんと考えてるんだな」

「ありゃ慌てて考えた感じなのじゃ。よっぽどわしらが目障りなのじゃー」

 緑の星と黄色の星は、ブリッジスタン上空でその姿を変えた。
 一つは巨人にも似た樹木の集まり。その中心に顔が浮き出ている。

『わしは魔将エントレット』

「こりゃ! わしと一人称が被るのじゃ! やめい!」

 ディアボラがぷりぷりと怒った。

 もう一つの黄色い星は、全身が鉱物でできた巨人に変わる。

『ワタクシはストーンジャイアント。橋の王国ブリッジスタンを滅ぼしに参りました』

「ご丁寧に自己紹介して来たぞ」

「あれは拙者らに気付いてないのではないか? 今なら不意打ちできそうだ」

「いや、お前たちの言う魔王がバカではないのなら、我々がいることを常に想定して行動するよう命令しているだろう。獲物の愚かさを期待する狩りは何も獲れぬ、と言う通りだ」

 出たな、ナゾマーことわざ。
 だが分かりやすいし、実際その通りだと思う。

「さて……あいつらが攻撃をしてくるとして、俺のガードで食い止められるとは思うんだが……」

「そうするとマイティがここを動けなくなっちゃいますよね。だったら……」

 エクセレンがじっとディアボラを見た。
 我がパーティーの魔将は、ふふーんと胸を張る。

「任せるのじゃー!! 今こそ発動、城塞の儀式魔法なのじゃー!! あ、ちょっと厨房から今夜のおかずをもらってくるのじゃ。それが代償になるのじゃ」

 橋の王国一つを守るための、巨大な儀式魔法。
 それが今夜のおかずを消費することで発動するのだ。

 ブリッジスタンの民は呆然として、魔将たちを見上げている。
 二人の魔将は得意げに笑うと、攻撃に移った。
 蛇のようにのたくる巨大な枝や根と、打ち出される岩石の塊が手近な家々に迫る。

「なんの、ガードだ!!」

 俺は攻撃が放たれる方向へ走り、家を守った。
 盾の表で、枝や根が弾かれる。
 岩石の塊は俺に引き寄せられ、やはり弾かれて海に落ちた。

『勇者パーティーのタンクか。噂のバグっている男はお主か!』

『この場で抹殺する。魔王様からのご命令だ』

 二人は俺に標的を変えた。
 これは好都合なんだが……。

「よーし、おかずが来たのじゃー!!」

 向こうで、厨房から走り出てきたコックから鍋を受け取ったディアボラの姿がある。
 彼女は地面に向けて、鍋の中身をこぼした。
 シチューか。

 すると、シチューを受け止めた地面が輝き始める。

「行くぞ、発動なのじゃ! これぞ空にそびえるくろがねの城塞、儀式魔法最終不沈要塞ゼットマージーンなのじゃー!!」

 橋が輝き、鈍色に輝く城壁がその周囲を、天井を覆い始める。
 不思議と、城壁を透かして外の光景が見えるのだが……。

 魔将二人が露骨に慌てた姿を見せた。

『なっ、なんなのだこれは! こんなものがどうしてここに!』

『情報にない。敵は勇者とタンクばかりではなかったということか』

 また情報不足じゃないかお前ら。
 俺たちは常に先に進み続けているんだぞ。
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