“ダメージはゼロだ”追放された最強タンクによる勇者育成記

あけちともあき

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ナゾマー大森林編

第60話 魔王、今後の方針を考える

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『どうして魔将星が一つ減った上、ドラゴニアンの反応が消えたわけ?』

『あいつ勝手に突っ込んで死んだんでしょうな』

『バカなの?』

 魔王ミルグレーブが天を仰ぐ。
 どうやら彼が呼び寄せた部下は、思った以上におバカだったようである。

 魔王が征服してきた他の星と同じ勢いで、勇者パーティーに勝負を仕掛けたのだろう。
 だが、この星の勇者は明らかにおかしい。

『伝え忘れていた。これはいけない。他の魔将星はもったいぶらずに一気にこちらに呼び寄せよう。せっかく私が育てた魔将が無駄死にするのはなんかイライラする』

『ですなあ』

『ティターン、お前は本当に運が良かったんだな』

『まるで俺が勇者パーティーに負けるみたいな言い方しますな』

『勝てるの?』

『勝負する前から負けた時の事を考えるやつはいませんぜ』

 このやり取りを横で聞いていた黒騎士が、『脳筋ですな』と呟いた。

『魔王様。ひとまず、魔将をチームにして奴らに当てるのはいかがでしょう。もっとも若輩者なわたくしですが、戦争のやり方だったらよく心得ています』

 黒騎士の進言に、魔王は頷いた。

『よし、そうしよう。魔将たちに連絡だ。寄り道をせず、魔王城へ直接降り来たれ』

 魔王が空中を叩くと、そこに無数のボタンが出現する。
 指先がボタンをなぞると、文字が産まれた。
 それが城を突き抜け、空の魔将星に向けて放たれていく。

『なんですか今のは』

『あれはな、エーテル通信だ。魔王様はエーテルをコントロールする力をお持ちだ。これを応用して、メッセージだけを同じエーテル流の中にいる相手に届けるんだ』

『ははあ……。凄まじい技術を行使なさる』

 魔王が送ったメッセージには、彼の怒りが込められていた。
 それは、『ドラゴニアンが死んだが、あの馬鹿者の真似をして寄り道をし、我が軍勢に損害を与えるようならば私が直々に消滅させるぞ。真っ直ぐに魔王城へ来い』というような内容である。

 空の魔将星が、慌てたように向きを変えた。
 一斉に、ナンポー帝国を目指して落下していく。

 この日、世界のあちこちで、七つ七色の流星が、絡み合うように落ちていくのが目撃されたという。




「完成したぞ。ウェポンラックだ」

「おおー!」

 ウインドが掲げたものを見て、俺たちは歓声をあげる。
 一見すると、ドラゴニアンの皮をなめして作られた、紫色のリュックサック。
 だが、あちこちが展開して武器を装着できるのだ。

 幾つものボタンがあり、これでパーツを固定することでリュックの形を保っている。
 それを解放すると、一枚の大きな革になるというわけだ。

「使い方を解説しよう。ここをこうして、こうして、こうして」

「おおーっ! ボクの武器がどんどん装着されていきます!」

「取り出す時は抜くだけでいいし、位置を定めたら収めるのも簡単になる。武器が増えても大丈夫なように、スペースには余裕をもたせてあるから」

 こう言うのを作るのも上手いんだな、錬金術師というのは。
 エクセレンの体格からすると大きめのリュックなのだが、以前のようにむき出しで武器を持ち歩くよりは、随分見た目が穏当になる。
 それに見た目よりはかなり軽いようだ。

「うわー、やったー! どうです? どうですマイティ?」

「おう、似合ってるな! それにこれなら、武器が収納されているから訝しげな視線で見られることは減るだろう」

 正確には、リュックのあちこちから武器の取っ手が顔を出している。
 そして長すぎるハルバードは、ここでお別れということになった。
 今までほとんど使ってなかったしな。

 ナゾマーの集落は、勇者からの贈り物ということでハルバードを大変喜びながら受け取った。

「塚を作ります」

「ハルバード塚を?」

「はい! 勇者様がこれを下さった記念です」

 思わぬ観光名所みたいなのができてしまったな。

「どうやら外の世界ではもう人食いはしてないらしいし、集落同士の争いもしてる場合じゃないから、やめるか」

「やめるべ。俺たちは勇者様をお迎えした神聖な集落だしな」

 また不穏な話題で盛り上がっている。
 ナゾマーの集落は、他の集落に向けて団結を呼びかけるつもりだという。

 森に魔将が降りてきたことは誰もが知っており、森を守っていた魔除けの結界みたいなものが破壊されたことで、誰もが動揺しているというのだ。
 このハルバードを旗印に、今こそ集落同士は団結するべき、ということだろう。

 もしかすると、本当に森の王国ができあがってしまうかもしれないな。

 そして俺たちは旅立つことになった。
 長いようで短い、ナゾマーの集落への滞在だった。
 
 虫よけの樹液のにおいにもすっかり慣れた。
 森の虫は病気を運んでくるそうで、通過するまでは樹液を塗っておいた方がいいという話だった。

「森を抜ければ、橋の王国がある。ブリッジスタンという国でな。北の大陸の人間がここを通って、ナゾマーを迂回してお前たちの国にやって来ているわけだ」

「森を突っ切ったりはしてなかったのか」

「獣道しか無かっただろう? 危険過ぎるんだ。どうしてエクセレントマイティが、当たり前みたな顔して森に突っ込んできたのか、我々は理解できなかったんだぞ」

 ウインドの言葉を聞いて、彼らとの出会いを思い出す。
 そうか、森を突っ切るのはちょっとおかしかったのか。

 いやはや、世の中の常識というものは難しいものだ。
 やがて俺たちは森を抜ける。

 ウインドは森を出るのが初めてだという。
 そして、ジュウザもディアボラも、この先に行ったことはない。

 田舎者である俺とエクセレンなど言わずもがなだ。

「おお! でっかい橋があるのじゃー! あれが橋の王国ブリッジスタンなのじゃ? うほー!」

 ディアボラがぴょんぴょん飛び跳ねながら興奮している。
 なるほど、でかい!

 どこまで続くのかよく分からない規模の、とんでもない幅の橋があり、その上に建物が並んでいる。
 橋の王国ブリッジスタン。

 平和的に通過して行きたいものだ。

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